Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

コマンダーの息子の詩

2013-06-23 14:47:00 | Cabin Pressure
キャビンプレッシャーのFittonを訳してて気になったけど、全文を終えるのに保留していた箇所があります。それは、ダグラスが引用してキャロリンが続きを替え歌のように返して大笑いした詩です。

CASABIANCA by: Felicia Dorothea Hemans



“The boy stood on the burning deck / Whence all but he had fled.” 
「全員が退避した燃える甲板に少年は立っていた。」

この続きは本物では、

The flame that lit the battle's wreck / Shone round him o'er the dead.
「艦の残骸を燃やす炎が あたりの死体を照らしだしていた。」全文と訳はこちら

キャロリンの替え歌は、

“His heart was in his mouth but, lo! / His cap was on his head”! 
「少年は落ち着かなかったが、見よ!彼は帽子を着用している!」

原文のdeadとキャロリンのheadが韻を踏んで、客席から拍手が出て、この後のダグラスとキャロリンの盛り上がり方はすごかったですね。マーティンはすっかりヘソ曲げて怒っちゃうし。

この詩、どこかで聞いた気がすると思ったら、「裏切りのサーカス」でギラムがウィッチクラフト作戦の隠れ家にマイクを仕込む時に音声テストで暗唱した詩と同じでした。


「ピーターなんか言って」「アイアイサー!・・・少年は・・・」
(とは言ってない。実際はスマイリーの壁をトントンと叩く合図だけ)



いや~、びっくりしました。ベネディクトさん半径1mくらいしか映画・ドラマを見てないのにかぶるなんて。最も、TTSSの詩を調べた時に、ギラム君が暗唱したようにイギリスの小学校で国語の時間に覚えさせられる有名な詩、とは覚えたのですけど、本当だったのですね。疑ってはいなかったですけども。誰もが知っている古典。日本で言ったら何でしょう?「平家物語」?

この詩はどういう詩か。文学に素養のない私にも解りやすい解説を見つけたので加筆・省略はしましたがご紹介します。(もっとご存知の方はぜひコメント欄にて教えてください。またはご訂正ください。)

この「少年」とは、ブリュイ・デガリエ François-Paul Brueys d'Aigalliers:ナイルの海戦のときのフランス艦隊司令官の10歳の息子のことだと言われています。司令官=コマンダーです。ナイルの海戦とは、当時、飛ぶ鳥を落とす勢いだったナポレオンのエジプト遠征を失敗に終わらせた戦いです。イギリス軍にとってはここで苦戦の末に地中海の制海権を得、後のトラファルガー海戦にて輝かしい勝利を得るのです。このふたつの闘いでの海軍提督がネルソンで、今でもロンドンのトラファルガー広場の柱の上で像が世界中からの観光客に勝利を誇っているのです。

そのナイルの海戦で、フランス海軍が追いつめられブリュイ本人も重傷を追い、夜の海で戦火に燃える船から彼は将校と乗組員を逃がし、自分は残った。彼の息子カサビアンカだけは、「父上は以前、司令官は船を離れるものではないとおっしゃいました」と退却命令に従わず、燃え盛る炎からイギリス軍もボートでからがら逃れた直後、船は爆発。炎上した・・・・

イギリス人にとっては、敵ながらあっぱれな最後であったと、勝利に酔いながらこの詩を愛したのでしょうか。この闘いを想像しながら、STIDでエンタープライズ号から離れるキャプテン・カークに何か言ってたジョン・ハリソンを思い出した私は狭い知識の中で堂々めぐりをするハツカネズミのようです。

あっと、話がそれまくりましたが、この詩の持つこういう背景を知ると、「業務処理要項・・・客室での煙・火災の場合の避難」を指示するマーティンを笑うダグラスとキャロリンの大笑いを理解する助けになりますね。

そして「裏切りのサーカス/TTSS」では、たった1人で息子と船に残る司令官の姿が、スマイリーとギラムの組織での位置の暗喩になっていると思うのは考え過ぎかなあ。





*余談 

ネルソン提督が勝利したナポレオンとの戦いの中に、1801年の「コペンハーゲンの海戦」というのがある。これはイギリス軍の大勝だったから、後、1815年ワーテルローの戦いで勝利したウェリントンの馬の名前はそれに肖っていたのかな?!逆にナポレオンがヨーロッパでの地位を確立したのは1800年のマレンゴの戦いでのフランスの大勝。
ああ、hedgehogさんに教えてもらった「Warhorses of Letters」がまた聞きたくなってきました。