10年も前の映画なのですが、「ぼくのエリ 200歳の少女」(2008)原題「Let the Right One In」を見て打ちのめされました。
始まりからしてとてもとても静かに静かに始まり、降る雪だけのシーン、説明もセリフもないままゆっくりゆっくりと進行するのですが、これが昨今の「スピード感」とか「テンポの良さ」とは無縁で、しかしながらずっと飽きずに見ていられるのです。
主人公のオスカーは綺麗な少年ですが、同級生の中では純で子供っぽいのかイジメにあっています。
12歳という大人に成長する直前の、彼のとびきり美しい時がフィルムに刻まれているのが奇跡のようです。プラチナブロンドのおかっぱ頭、北欧らしい白い肌に控えめな顔立ちに、出てきた全ての衣装が映えていました。ブルーのセーターに茶色や濃紺(黒か?)のズボン、ベージュのライン入りのチルデンセーター、パパの赤いフリースジャケットetc. いじめられてズボンをトイレで汚された時に雪の中はいてたブルーのショーツ。体育やプールの時に見えるまだ丸い肩のライン、でもこれから成長するだろう男の子の華奢でもしっかりとした骨格、細すぎないまっすぐな脚。
時は1982年の設定(これは後から調べて知りましたが、現代のように思えてPCやスマホのない時代、もしや50年代位?と思うとスニーカーのデザインがそこまで古くない。あとオスカーのパンツが白というのが現代と違う。パンツはいつから色や柄が普通になったんだろう?ちょっと70年代の残ったファッションや家具、小道具がもう、シーンに映ってるだけで見飽きません。セーターの色や柄や形、ストックホルム郊外という設定なのですが、体育の授業で池にスケートをしに行けるとか、もっともっと田舎の村のような雰囲気です。オスカーの住む住宅はロンドンにもあるシンプルでモダンな公営住宅という感じ。
要するにパッとしない退屈な街をチャーミングに見せています。そこにエリを連れたおじさんが越してきて、オスカーや住人の関心を引きます。あ、やっぱり村社会ですね。首都ストックホルムといえども、なんて長閑かなのスウェーデン。
そのエリの方は黒髪で最初の頃は南ヨーロッパから来た子なのか、とかジプシーの子供なのかとも思える容姿だったのですが、アップだと瞳の色が複雑な緑だったり、光の当たり具合や映る角度でやっぱり普通のスウェーデン人かな?と思い直す微妙な顔でした。でもこの異様さはヘアメイクなどの演出でもありますが。
そして実は私、エリが女の子なのか男の子なのか知らずに見たので、最初男の子かと思っていたのです。顔つきで。服装も最初のうちどっちかわからない微妙な感じでしたが、セリフとピンクの透かし編みのセーターを着ているあたりでやっぱり女の子という設定か、と思い、ストーリー上は日本版だと最後までわからず、キャスティングを見て女の子が演じたと知りすっごいびっくりしました。だって少年が演じたようにも見えましたから。
私は最初は日本語吹き替えで、2回目を字幕で見ました。それで不思議なことに引っ越してきた時にエリと一緒にいたおじさんもヴァンパイアかと思い込んでいたのですね。大人と子供の二人連れヴァンパイアだと。牛乳飲んだりリンゴ齧ったりしてるのが2度目の時には人間である証明かとわかりました。
そうと分かってみたら、人間であるおじさんがエリのために生きてたことがわかり、急に悲壮な話とわかりました。
ヴァンパイア映画なので、かなり血が飛び散り、エリは血まみれになる(もっとうまく血を飲めないのか?長い間血を飲んで生きているのに?)のですが、これ不思議なことにグロいけど怖くないのですね。おじさん硫酸かぶって顔半ぶん溶けてるけどそれも見ちゃうのが不思議です。逆に「レッド・スパロー」は直視できないシーン多いというのに。
やっぱりそれはファンタジーというか、童話のような、いやはっきり本音を言うと少女マンガの空気感に近いからかな。「ポーの一族」ですよ。そういうマンガの世界だとグロが許せるのは「キングスマン」もそうでした。お伽噺だと「怖い」という記号としてはわかるけど心底怖くはないです。
ところでわからないのは、邦題の「200歳」はどこから来たのか?エリは「長い間12歳のまま生きてる」とは言ってたけど具体的な年齢は言ってなかったと思うのですが・・・
それと日本のぼかしではわからないとされているエリが去勢された少年という意味。いい意味でエロチックなのだけど、なぜ去勢されたのか。(ぼかされた理由もわからないけど)
主役の2人は撮影当時11〜2歳くらいでしたが、映画祭での2人を見たらオスカー役の子はずいぶん身長が伸びてたし、エリ役の方は本当に女の子で胸が大きく成長してそれを強調する開いたドレスを着ていてびっくりしました。でも2人のバイオを見たら近年の作品が出てないので、子役で終わってしまったのかと残念に思います。特にオスカーは時々ビョルン・アンデレセンを彷彿とさせる美しさでしたもの。
私は2人がハグするシーンとても好きで「付き合う」とは「好きで一緒にいること」というのがまたキュンとして、「マイ・ライフ・アズ・ア・ドッグ」も思い出したりして、こういう不器用なふれあいってスウェーデンぽいのかな。最後の頃に血まみれの唇でエリはオスカーにキスしていたけど、お互いの胸に引き寄せあったり、ベッドに潜り込んだ時オスカーの背中側に入って腕に触れたり、という距離感がものすごくドキドキしました。
クラシックぽい曲はマーラーのようにも聞こえ、そこでも「ベニスに死す」と同じ空気が流れました。音楽は全体に良かった。レコードでポップスが流れたりもしたけどそっちも良かった。
そうそう、家を出たオスカーのパパは同性愛者なのでしょうか。はっきりとは描写されてなかったけれど、家に訪ねてきた男性のことを時々しか会えない息子よりも優先するとは特別な関係に思えました。パパ、息子と友人をちゃんと紹介してなかったのも2人の関係が特別だからかなと。もしそうだとオスカーが元少年のエリとこれから生きて行く暗示にもなりますね。