きのうの記事「criminal justice 感想」の続き、ドラマに使用された曲「悪意という名の街/Town Called Malice」について書きます。ドラマの始まりと終わりがこの曲ですので、テーマ曲と言ってもいいでしょう。
ドラマは、まだ事件に巻き込まれる前のベンがサッカーでゴールを決めて盛り上がるところから始まります。その夜出かけるのに、シャワーからタオル巻いて出て来てパンツをはくところからなぜ見せるのか(ドラマ制作陣がやたらとウィショ君を脱がせたがる疑惑強まる・・・)謎ですが、とにかく部屋で鏡を見ながら高揚感に包まれつつ支度をするシーンにこの曲がかぶります。この時に、曲の一節が耳に入りましてね、
♪ stop apologising for the things you've never done,
(自分がしてないことで謝るのはやめろ)
ドラマの大まかな内容は大方の視聴者は知ってて見ると思うので、ここで「おおお???」とひっかかるわけです。私もここは聴こえたんだけれど、何て歌ってるのかわからない部分がもちろん多くて、1982年リリースのザ・ジャムの曲、ドラマになぜ選ばれたのかよく知りたくて訳してみました。
TOWN CALLED MALICE - Paul Weller
悪意という名の町 ー ポール・ウェラー
Better stop dreaming of the quiet life -
やめたほうがいい、平穏な人生を夢みるなんて ー
cos it's the one we'll never know
僕らには絶対来ないものだから
And quit running for that runaway bus -
走り去るバスを追うのもやめろ ー
cos those rosey days are few
そんなバラ色の日なんてほとんどないから
And - stop apologising for the things you've never done,
それに ー 覚えもないことで謝るのもやめろよ
Cos time is short and life is cruel -
時間は限られ 人生は無惨なんだから ー
but it's up to us to change
でも自分次第で変えられる
This town called malice.
この悪意という名の町を。
Rows and rows of disused milk floats
ずらっと並ぶ要なしの牛乳配達車
stand dying in the dairy yard
牛乳屋の庭で死を待ってる
And a hundred lonely housewives clutch empty milk
そしてさびしい主婦達が大勢 空っぽの
bottles to their hearts
牛乳瓶を胸に抱えて
Hanging out their old love letters on the line to dry
昔のラブレターを出してヒモに吊るして並べてる
It's enough to make you stop believing when tears come
いいかげん信じるのはやめていい
fast and furious
涙が溢れてとまらない時は
In a town called malice.
ここは悪意という名の町。
Struggle after struggle - year after year
もがいてもがいて ー ずっとずっと
The atmosphere's a fine blend of ice -
その空気は高級な氷に満ち ー
I'm almost stone cold dead
僕は冷え固まって死にそうだ
In a town called malice.
悪意という名の町で。
A whole street's belief in Sunday's roast beef
町中が日曜のローストビーフこそ幸福と信じ
gets dashed against the Co-op
生協に詰めかける
To either cut down on beer or the kids new gear
ビールか新しい子供服 どっちをケチるか
It's a big decision in a town called malice.
一大決心だよな、悪意という名の町では。
The ghost of a steam train -
機関車の亡霊が ー
echoes down my track
僕の歩く足元で木霊する
It's at the moment bound for nowhere -
あれは今や行き先をなくして ー
just going round and round
ただグルグルと同じところを走り続ける
Playground kids and creaking swings -
公園の子供やキコキコいうブランコ ー
lost laughter in the breeze
風の中に楽しい声は聞こえなくなった
I could go on for hours and I probably will -
あと数時間はこのままでいられるかな たぶんそう ー
but I'd sooner put some joy back
だけどそれよりもいっそ光を取り戻したい
In this town called malice.
この悪意という名の町に。
英詩はコチラから
こうして全体を読むと、ドラマに出て来る「法廷」と「刑務所」=それぞれでき上がった秩序のある閉ざされた世界を、この「悪意という名の街」と考えることができるんだな、と思います。そして「ここから出たい、自分の置かれた状況を変えたい」というテーマがドラマと曲に共通するのですね。
訳の補足
この曲を演奏したザ・ジャムというバンドは1977年にデビューしました。その時ロンドンの音楽シーンはパンク。つまり労働者階級の若者の声なので、一人称をどうするか迷ったのですが、鋲打ち革ジャンと安全ピンのピストルズやクラッシュと違い、ザ・ジャムはスマートな細身のスーツを着たモッズなのです。モッズは映画「さらば青春の光」でも見られましたが、ヘビーなロックンロールの暴走族とは違い、お洒落なヴェスパやランブレッタを選ぶ気取った不良なので、一人称を「僕」とし、それらしい言葉を選びました。「オレ」と言ったかもしれないけど、日本のモッズバンドの歌詞は「僕」って言ってたもんね。。。。
The Jam
語句:
milk float ; 牛乳配達車ですが、曲の書かれた1982年にロンドン郊外でも絶滅しつつあったのですね。私、2001年にロンドンで見てます。しかしやはり車の使用台数はかつてに比べ減っているので、牛乳屋の裏庭にこの車がたくさん駐車していた風景も見ました。ロンドンでもRichmond近くの町だったからで、中心部にはさすがに裏庭のある牛乳屋じたいがないです。むむむ、貴重な光景だったのか。
milk float
牛乳配達は冷蔵庫の普及に伴い時代とともに廃れたわけですが、では牛乳屋が来ないとなぜ主婦がさびしいのか?それは、牛乳配達が一般的だった時代、主に家庭では男性のみが外で働き、女性は家で家事&育児をしていたので、夫の留守中に毎日来る牛乳屋はよくある主婦の浮気相手とされるジョークが西洋には多いのだそうです。牛乳屋以外にも、日中家庭に来る男として郵便屋や水道屋などもバリエーションとしてあるとのこと。Milkman joke
Sunday's roast beef;イギリス人の習慣で、週末は家族や親しい友人が集まって主人がローストビーフを焼き、庭でダラダラとごちそうを食べビールを飲み子供が遊ぶ、という光景が典型的な幸せの風景とされております。こういう一家団欒って、若者には偽善や虚構に見えることが多いものです。
悪意という名の街とはどこか:
作者のポール・ウェラーは、ロンドンの南西部Woking出身で、そこをモデルにこの曲を作りました。実はまだ私の研究不足でこの街のどこが当時ポールをして「悪意」と言わせたのかはっきりとわかりません。
Wikiによると、ロンドンの主要駅から電車で30分ほどの通勤ベッドタウン、兼、車製造業を街の産業としています。(東京に無理矢理当てはめると「川崎」のような存在?)人種の構成は、UK全国平均よりもパキスタン人だけ多く、黒人やそれ以外の有色人種も少ない。2004年の統計で白人が89、5%、1980年前後はもっと高かったかも。つまり、白人労働者階級が多くて、仕事はないことはないが、裕福でもなければ面白くもない街、ということでしょうか。
この曲のことも記載されています。「Wokingについてである」と。いいのか?悪意と言われて?
さらに、「Rich Tea Biscuitを求めて」で抜粋をご紹介した「さようなら、魚を今までありがとう」の著者ダグラス・アダムズも、The Meaning of Liff (1983)でWokingを
Standing in the kitchen wondering what you came in here for.
と言及している、とのことです。
意味は「キッチンに立ちどまり、はて何しに来たんだったかなと思案している」(邦訳ないみたいなので未確認につき異議受付中)
この曲は、criminal justiceだけでなく映画「リトル・ダンサー」でも使われています。炭鉱閉鎖をめぐってイライラする大人に八つ当たりされ、行き場を失ったビリーが怒りをダンスにぶつけています。
ドラマは、まだ事件に巻き込まれる前のベンがサッカーでゴールを決めて盛り上がるところから始まります。その夜出かけるのに、シャワーからタオル巻いて出て来てパンツをはくところからなぜ見せるのか(ドラマ制作陣がやたらとウィショ君を脱がせたがる疑惑強まる・・・)謎ですが、とにかく部屋で鏡を見ながら高揚感に包まれつつ支度をするシーンにこの曲がかぶります。この時に、曲の一節が耳に入りましてね、
♪ stop apologising for the things you've never done,
(自分がしてないことで謝るのはやめろ)
ドラマの大まかな内容は大方の視聴者は知ってて見ると思うので、ここで「おおお???」とひっかかるわけです。私もここは聴こえたんだけれど、何て歌ってるのかわからない部分がもちろん多くて、1982年リリースのザ・ジャムの曲、ドラマになぜ選ばれたのかよく知りたくて訳してみました。
TOWN CALLED MALICE - Paul Weller
悪意という名の町 ー ポール・ウェラー
Better stop dreaming of the quiet life -
やめたほうがいい、平穏な人生を夢みるなんて ー
cos it's the one we'll never know
僕らには絶対来ないものだから
And quit running for that runaway bus -
走り去るバスを追うのもやめろ ー
cos those rosey days are few
そんなバラ色の日なんてほとんどないから
And - stop apologising for the things you've never done,
それに ー 覚えもないことで謝るのもやめろよ
Cos time is short and life is cruel -
時間は限られ 人生は無惨なんだから ー
but it's up to us to change
でも自分次第で変えられる
This town called malice.
この悪意という名の町を。
Rows and rows of disused milk floats
ずらっと並ぶ要なしの牛乳配達車
stand dying in the dairy yard
牛乳屋の庭で死を待ってる
And a hundred lonely housewives clutch empty milk
そしてさびしい主婦達が大勢 空っぽの
bottles to their hearts
牛乳瓶を胸に抱えて
Hanging out their old love letters on the line to dry
昔のラブレターを出してヒモに吊るして並べてる
It's enough to make you stop believing when tears come
いいかげん信じるのはやめていい
fast and furious
涙が溢れてとまらない時は
In a town called malice.
ここは悪意という名の町。
Struggle after struggle - year after year
もがいてもがいて ー ずっとずっと
The atmosphere's a fine blend of ice -
その空気は高級な氷に満ち ー
I'm almost stone cold dead
僕は冷え固まって死にそうだ
In a town called malice.
悪意という名の町で。
A whole street's belief in Sunday's roast beef
町中が日曜のローストビーフこそ幸福と信じ
gets dashed against the Co-op
生協に詰めかける
To either cut down on beer or the kids new gear
ビールか新しい子供服 どっちをケチるか
It's a big decision in a town called malice.
一大決心だよな、悪意という名の町では。
The ghost of a steam train -
機関車の亡霊が ー
echoes down my track
僕の歩く足元で木霊する
It's at the moment bound for nowhere -
あれは今や行き先をなくして ー
just going round and round
ただグルグルと同じところを走り続ける
Playground kids and creaking swings -
公園の子供やキコキコいうブランコ ー
lost laughter in the breeze
風の中に楽しい声は聞こえなくなった
I could go on for hours and I probably will -
あと数時間はこのままでいられるかな たぶんそう ー
but I'd sooner put some joy back
だけどそれよりもいっそ光を取り戻したい
In this town called malice.
この悪意という名の町に。
英詩はコチラから
こうして全体を読むと、ドラマに出て来る「法廷」と「刑務所」=それぞれでき上がった秩序のある閉ざされた世界を、この「悪意という名の街」と考えることができるんだな、と思います。そして「ここから出たい、自分の置かれた状況を変えたい」というテーマがドラマと曲に共通するのですね。
訳の補足
この曲を演奏したザ・ジャムというバンドは1977年にデビューしました。その時ロンドンの音楽シーンはパンク。つまり労働者階級の若者の声なので、一人称をどうするか迷ったのですが、鋲打ち革ジャンと安全ピンのピストルズやクラッシュと違い、ザ・ジャムはスマートな細身のスーツを着たモッズなのです。モッズは映画「さらば青春の光」でも見られましたが、ヘビーなロックンロールの暴走族とは違い、お洒落なヴェスパやランブレッタを選ぶ気取った不良なので、一人称を「僕」とし、それらしい言葉を選びました。「オレ」と言ったかもしれないけど、日本のモッズバンドの歌詞は「僕」って言ってたもんね。。。。
The Jam
語句:
milk float ; 牛乳配達車ですが、曲の書かれた1982年にロンドン郊外でも絶滅しつつあったのですね。私、2001年にロンドンで見てます。しかしやはり車の使用台数はかつてに比べ減っているので、牛乳屋の裏庭にこの車がたくさん駐車していた風景も見ました。ロンドンでもRichmond近くの町だったからで、中心部にはさすがに裏庭のある牛乳屋じたいがないです。むむむ、貴重な光景だったのか。
milk float
牛乳配達は冷蔵庫の普及に伴い時代とともに廃れたわけですが、では牛乳屋が来ないとなぜ主婦がさびしいのか?それは、牛乳配達が一般的だった時代、主に家庭では男性のみが外で働き、女性は家で家事&育児をしていたので、夫の留守中に毎日来る牛乳屋はよくある主婦の浮気相手とされるジョークが西洋には多いのだそうです。牛乳屋以外にも、日中家庭に来る男として郵便屋や水道屋などもバリエーションとしてあるとのこと。Milkman joke
Sunday's roast beef;イギリス人の習慣で、週末は家族や親しい友人が集まって主人がローストビーフを焼き、庭でダラダラとごちそうを食べビールを飲み子供が遊ぶ、という光景が典型的な幸せの風景とされております。こういう一家団欒って、若者には偽善や虚構に見えることが多いものです。
悪意という名の街とはどこか:
作者のポール・ウェラーは、ロンドンの南西部Woking出身で、そこをモデルにこの曲を作りました。実はまだ私の研究不足でこの街のどこが当時ポールをして「悪意」と言わせたのかはっきりとわかりません。
Wikiによると、ロンドンの主要駅から電車で30分ほどの通勤ベッドタウン、兼、車製造業を街の産業としています。(東京に無理矢理当てはめると「川崎」のような存在?)人種の構成は、UK全国平均よりもパキスタン人だけ多く、黒人やそれ以外の有色人種も少ない。2004年の統計で白人が89、5%、1980年前後はもっと高かったかも。つまり、白人労働者階級が多くて、仕事はないことはないが、裕福でもなければ面白くもない街、ということでしょうか。
この曲のことも記載されています。「Wokingについてである」と。いいのか?悪意と言われて?
さらに、「Rich Tea Biscuitを求めて」で抜粋をご紹介した「さようなら、魚を今までありがとう」の著者ダグラス・アダムズも、The Meaning of Liff (1983)でWokingを
Standing in the kitchen wondering what you came in here for.
と言及している、とのことです。
意味は「キッチンに立ちどまり、はて何しに来たんだったかなと思案している」(邦訳ないみたいなので未確認につき異議受付中)
この曲は、criminal justiceだけでなく映画「リトル・ダンサー」でも使われています。炭鉱閉鎖をめぐってイライラする大人に八つ当たりされ、行き場を失ったビリーが怒りをダンスにぶつけています。