いい映画を見ました!「おみおくりの作法」です。
主演のエディ・マーサンは、実は「ワールズ・エンド/酔っぱらいが地球を救う!」「戦火の馬」「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」など私も見たはずの映画に出ていたというのに、予告編を見てもまったく思い出せませんでした。
『ダウントン・アビーにでも出てきそうな変わった顔だなあ』と思ったけど見当違いも甚だしく(カーソンさんかベイツさんの弟役でもあったらピッタリだと思うのですが)ダウントンに出てたのはアンナことジョアンヌ・フロガットの方でした。
失礼にも記憶に残らない役者さんだったのに、この映画の予告編を見たら気になって仕方なくなってしまい、見てきましたよ!
東京ではシネスイッチ銀座のみ。今時ネットでチケットも買えなければ座席もとれないという不便さにふさわしい、手作りのディスプレイがかわいらしいです。この墓石もスタッフさんの工作なのでは?
大ヒット上映中とのことで、30分前に着いたら50人くらいの列が。おかげで席は前から2列目の、しかし真ん中を買いました。
実はこれがよかったのです!
オリジナルのタイトルは「STILL LIFE」、パンフレットの監督の言葉によると「静かな映画を作りたかった。小津安二郎を意識した。」とのこと。主役のジョン・メイは几帳面な性格、彼の生活自体が静かであり、英語ではStill Lifeは「静物画」の意味なので動きの少ないスクリーンから観客に何かを読み取ってもらいたかったんじゃないだろうか。
私が映画館の前の席で何が嫌かって、カメラがぶんっっと早く動いた時に流れる映像で、乗り物酔いのように気持ち悪くなってしまうのです。しかし、この映画は動きがゆっくりなのでそんなことも起こらず、視界いっぱいの画面をじっと見つめる楽しさがありました。
主人公のお片づけの大好きな几帳面な生活がデザインのように美しいのは、「シングルマン」を思い出しました。(あの映画では主人公が自殺する前に死んだ自分が葬儀に着る服と小物一式をきちっと並べていたのが印象深かった)
さてお話は、ロンドンの地方公務員ジョン・メイ(44歳・独身)の仕事、独りで亡くなった人の親族や知人を探す旅が中心です。イングランド内を電車や長距離バスで移動しても、行き先の地名を知らなかったので、私はロンドン周辺の南東イングランドだろうと勝手に思ってました。買ったパンフレットを開けたら地図が載っていて、北はブリテン島の真ん中あたり、西はなんとイングランドの西の先端まで行ってました。その景色の奇麗なこと!
でも短い旅なのですぐジョンはロンドン/ケニントンに帰って来て生活と仕事をします。ケニントンはロンドン南部の町で地下鉄も通ってるしゾーン2で便利です。しかしそれほど積極的に住みたい町でないのは、治安の悪いことで有名なエレファント&キャッスルとブリクストンに挟まれた位置かと思います。映画でもジョンが同じ道を歩く場面が繰り返され、移民の住人や彼の住まいでもある公営住宅が映し出されます。つまりロンドンと言っても私達日本人が憧れる世界でもなんでもない「貧乏でつまらない町」です。夏目漱石もこの町で鬱になってます。
でもね、この映画を見たら、変な顔のエディも、汚い住宅地も、毎日同じメニューの「ツナ缶とトースト1枚とリンゴとお茶」のディナーも愛おしくてたまらなくなりました。
質素な生活も、ここまで整然としていると美しく、物にあふれたわが家を振り返えると「私が明日死んだら私物を人に見られてなんと恥ずかしいことか」と思います。家の片付けをしたい人にもぜひお見せしたい。(笑)
1990年代の終わりくらいからロンドンはバブルになり労働者階級も衣食にお金とエネルギーをかけるようになってくるんですが、その前の、物がないなりの美しさがあったのが私の好きなロンドンでした。もうあれは過去のものと思っていたけど、またそれを見られるとは、やはり普通の人の普通の生活を描いたようでいて一種のおとぎ話なんですね。
監督によると「物語が進行してジョンが人に出会い、それまでの単調な生活(彼はそれが好きだった)が変わり始めると画面に色が増えて行く」とあります。それで思い出すのは「ベルリン/天使の歌」で、あれも感覚のない天使の世界はモノトーンで、肉体の感覚を持つ人間の世界はカラーで描かれていました。
後半、ジョンがよく買い物に行く地元の雑貨屋さんでさえカラフルに見え、よくある犬の絵がついたマグカップもかわいく見えました。あのマグを劇場のショップで売ればいいのに!と思ったくらいです。
静かな前半からスクリーンに見入ってしまいましたが、脚本がよくできているので結末をふまえてもう1度見たいです。東京の場合、劇場のお知らせには2/15,2/21とトークショーが予定されているとあるので、もう1回行けるかなあ。
追記:あまりに気に入ったので珍しくパンフレットを買ったのですが、公式サイトの「作品情報」でもほぼ同じ内容が見られます。
追記2(2/13):1週間後の今リピートして来ました。結末を知った上で見たら、初回で目に入らなかった小さいもの=道の名前、ジョンの鞄の仕様、出て来る色々な人の部屋のデティール、ジョンが立ち会った人々の個性と教会のスタイルのデティールなどを見ることができました。
が、大切なことは初回でちゃんと見ていた。1番感動したのはエディ演ずるジョンの表情で、ほぼポーカーフェイスを通すのだけど、幸せな気持ちの時は顔が紅潮して、ただでさえ丸顔なのだけどパンパンに頬がふくらんでいい顔をしているのです。若い女性や子供相手に見せる社交の笑顔とはまた違う、ひとりでいる時の笑顔は顔が輝いていました。
ところで、公式サイトのコメントにも出ている「衝撃のラストシーン」なしにはこの映画の感想は本当は書けないんです。・・・でもこれから上映予定の映画館も多いので、やはりまだ今日も書かないでおきます。ああ辛い。
この海外ポスター、シュルレアリズムみたいですよね
主演のエディ・マーサンは、実は「ワールズ・エンド/酔っぱらいが地球を救う!」「戦火の馬」「シャーロック・ホームズ シャドウゲーム」など私も見たはずの映画に出ていたというのに、予告編を見てもまったく思い出せませんでした。
『ダウントン・アビーにでも出てきそうな変わった顔だなあ』と思ったけど見当違いも甚だしく(カーソンさんかベイツさんの弟役でもあったらピッタリだと思うのですが)ダウントンに出てたのはアンナことジョアンヌ・フロガットの方でした。
失礼にも記憶に残らない役者さんだったのに、この映画の予告編を見たら気になって仕方なくなってしまい、見てきましたよ!
東京ではシネスイッチ銀座のみ。今時ネットでチケットも買えなければ座席もとれないという不便さにふさわしい、手作りのディスプレイがかわいらしいです。この墓石もスタッフさんの工作なのでは?
大ヒット上映中とのことで、30分前に着いたら50人くらいの列が。おかげで席は前から2列目の、しかし真ん中を買いました。
実はこれがよかったのです!
オリジナルのタイトルは「STILL LIFE」、パンフレットの監督の言葉によると「静かな映画を作りたかった。小津安二郎を意識した。」とのこと。主役のジョン・メイは几帳面な性格、彼の生活自体が静かであり、英語ではStill Lifeは「静物画」の意味なので動きの少ないスクリーンから観客に何かを読み取ってもらいたかったんじゃないだろうか。
私が映画館の前の席で何が嫌かって、カメラがぶんっっと早く動いた時に流れる映像で、乗り物酔いのように気持ち悪くなってしまうのです。しかし、この映画は動きがゆっくりなのでそんなことも起こらず、視界いっぱいの画面をじっと見つめる楽しさがありました。
主人公のお片づけの大好きな几帳面な生活がデザインのように美しいのは、「シングルマン」を思い出しました。(あの映画では主人公が自殺する前に死んだ自分が葬儀に着る服と小物一式をきちっと並べていたのが印象深かった)
さてお話は、ロンドンの地方公務員ジョン・メイ(44歳・独身)の仕事、独りで亡くなった人の親族や知人を探す旅が中心です。イングランド内を電車や長距離バスで移動しても、行き先の地名を知らなかったので、私はロンドン周辺の南東イングランドだろうと勝手に思ってました。買ったパンフレットを開けたら地図が載っていて、北はブリテン島の真ん中あたり、西はなんとイングランドの西の先端まで行ってました。その景色の奇麗なこと!
でも短い旅なのですぐジョンはロンドン/ケニントンに帰って来て生活と仕事をします。ケニントンはロンドン南部の町で地下鉄も通ってるしゾーン2で便利です。しかしそれほど積極的に住みたい町でないのは、治安の悪いことで有名なエレファント&キャッスルとブリクストンに挟まれた位置かと思います。映画でもジョンが同じ道を歩く場面が繰り返され、移民の住人や彼の住まいでもある公営住宅が映し出されます。つまりロンドンと言っても私達日本人が憧れる世界でもなんでもない「貧乏でつまらない町」です。夏目漱石もこの町で鬱になってます。
でもね、この映画を見たら、変な顔のエディも、汚い住宅地も、毎日同じメニューの「ツナ缶とトースト1枚とリンゴとお茶」のディナーも愛おしくてたまらなくなりました。
質素な生活も、ここまで整然としていると美しく、物にあふれたわが家を振り返えると「私が明日死んだら私物を人に見られてなんと恥ずかしいことか」と思います。家の片付けをしたい人にもぜひお見せしたい。(笑)
1990年代の終わりくらいからロンドンはバブルになり労働者階級も衣食にお金とエネルギーをかけるようになってくるんですが、その前の、物がないなりの美しさがあったのが私の好きなロンドンでした。もうあれは過去のものと思っていたけど、またそれを見られるとは、やはり普通の人の普通の生活を描いたようでいて一種のおとぎ話なんですね。
監督によると「物語が進行してジョンが人に出会い、それまでの単調な生活(彼はそれが好きだった)が変わり始めると画面に色が増えて行く」とあります。それで思い出すのは「ベルリン/天使の歌」で、あれも感覚のない天使の世界はモノトーンで、肉体の感覚を持つ人間の世界はカラーで描かれていました。
後半、ジョンがよく買い物に行く地元の雑貨屋さんでさえカラフルに見え、よくある犬の絵がついたマグカップもかわいく見えました。あのマグを劇場のショップで売ればいいのに!と思ったくらいです。
静かな前半からスクリーンに見入ってしまいましたが、脚本がよくできているので結末をふまえてもう1度見たいです。東京の場合、劇場のお知らせには2/15,2/21とトークショーが予定されているとあるので、もう1回行けるかなあ。
追記:あまりに気に入ったので珍しくパンフレットを買ったのですが、公式サイトの「作品情報」でもほぼ同じ内容が見られます。
追記2(2/13):1週間後の今リピートして来ました。結末を知った上で見たら、初回で目に入らなかった小さいもの=道の名前、ジョンの鞄の仕様、出て来る色々な人の部屋のデティール、ジョンが立ち会った人々の個性と教会のスタイルのデティールなどを見ることができました。
が、大切なことは初回でちゃんと見ていた。1番感動したのはエディ演ずるジョンの表情で、ほぼポーカーフェイスを通すのだけど、幸せな気持ちの時は顔が紅潮して、ただでさえ丸顔なのだけどパンパンに頬がふくらんでいい顔をしているのです。若い女性や子供相手に見せる社交の笑顔とはまた違う、ひとりでいる時の笑顔は顔が輝いていました。
ところで、公式サイトのコメントにも出ている「衝撃のラストシーン」なしにはこの映画の感想は本当は書けないんです。・・・でもこれから上映予定の映画館も多いので、やはりまだ今日も書かないでおきます。ああ辛い。
この海外ポスター、シュルレアリズムみたいですよね