Sofia and Freya @goo

イギリス映画&ドラマ、英語と異文化(国際結婚の家族の話)、昔いたファッション業界のことなど雑多なほぼ日記

世界で一番美しい少年 感想

2022-07-27 00:00:00 | その他の映画・ドラマ・舞台

映画館で観たかったけど叶わなかった「ベニスに死す」のタジオ、ビョルン・アンドレセンのドキュメンタリー映画が密林プライムでレンタル/販売されています。

1番の感想は、少年少女が大人の性的欲望のターゲットにされる事がなぜ犯罪か、こういうことだ、です。未成年は自分の行動の決定権を大人に握られ、嫌でも発言の仕方もわからなく、そもそも何が起こっているのかもわからないまま性欲物欲に搾取されてしまうことがよくわかります。

ビョルンが祖母の強い勧めでヴィスコンティ作品のオーディションを受けたのは15歳。1971年の映画ですので50年前で情報も今のようにはなかった時代の15歳は子供だし、彼には守ってくれる大人がいなかったことがこのドキュメンタリーで明かされました。

お母さんはマルチタレントを持つアーティスト兼キャリアウーマンで、父親の違う子供を2人、同じ年の1月と12月に出産していました。なんつータフなお母さん!と思ったらライフスタイルと同じで人生観も人並み外れ、「死ぬのではなく消える」と書き残して2人の子供を残して失踪、遺体で発見されました。

ビョルンの父は母が秘密にしていたので現在でも不明らしく、つまりもとからシングルマザー家庭で年子の妹と母に残され、祖母の家で育っているので、お婆さんの「ビョルンを有名にして金儲けしたい」野望に逆らえなかったのでした。

50年後の今でもよく口から出てくる「オーケー」という言葉。物心ついた時には諦めが身についていて、いちいち感情的にもならない。生い立ちを知ると、自分の親たちに何が起きて自分になぜ両親がいないのかわからないままわがままを言う大人不在で育ったのだと思えます。

この環境では自己肯定感の育ちようもなく、さらにヴィスコンティとの出会いでマスコットのように大人に連れ回され、訳わからない遠い国日本にまで仕事に来させられて日本語の歌を歌ってアイドル活動・・・

この日本パートは映像が残っているためかなり活用されていて、当時の関係者も健在なので詳しく知ることができます。オスカルのモデルがビョルンだったという漫画家も池田理代子さんの「この世にこんな美しい人がいるんだと思った」という無邪気な笑顔が、感情入らない登場人物たちの中で大変印象的で、芸術に昇華したという意味ではヴィスコンティと同じだけど、そして他でもない私も「ベニスに死す」も「ベルサイユのばら」も好きだけれど、当の本人がやりたくやったわけではなかったことで精神的に深い傷となったと知った日にはなんだか犯罪に加担してしまったような後味の悪さです。

50年前ということでまだ弱者の人権保護意識もなかったのでしょう、「ベニス」の記者会見では「もう16歳だから歳を取りすぎて美しくない」なんて公の場で言ったヴィスコンティ、ブッブ〜〜〜ッ!

しかし日本では現在でさえも、当時ビョルンマネージャーをしたらしいセキさん、英語も話すのに、彼が「ベニス」のスターとして来日した時の熱狂を「白人だからねえ」と属性を理由に一言、ブッブ〜〜〜!!チョコレートのCMに出したりレコーディングと、薬まで飲ませてジャニーズやK-POP並みのスケジュールで使い倒したとは。その話を聞いて「子供の虐待」と泣いた女性に大いに同意。

もしビョルンが芸能人になりたい野心の少年だったら・・・きっとあの冷めた諦めの表情はなく同じ素材でも別の顔になっていてキャスティングはなかったのではないか。運悪く若い時に利用されても現在だったら・・・男性の#MeToo告発者もいる。いろいろなビョルンの他のバースでの人生の可能性が頭に浮かんだが、「世界一美しい少年」として世界中の人を幸せにして本人も幸せになるという道はなかったのだろうか。

50年経ってもビョルンは細身の少年体型で顔も四肢も長いままで優雅だが、あの超長髪と髭の伸ばしっぱなしは大人にならないことで母親に抗議をしているように思えてしまった。