HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

表彰台ジャージにイタリアスポーツ界の美意識を見た。

2012-08-08 17:28:59 | Weblog
 ロンドン五輪のフェンシング男子フルーレ団体で、日本チームは銀メダルを獲得した。その表彰式を見ていて感じたのが、日本チームと金メダルを獲得したイタリアチームのジャージの「違い」である。
 日本選手はJOCの公式スポンサーであるミズノの「表彰台ウエア」を着る取り決めのようで、みな上着の衿と袖口、裾に白と赤の三本ラインが入った上下「華紺」のジャージ姿である。
 ミズノは五輪に対し北京からロンドンまでの4年間で30億円(1年間で7億5000万円)を投資。現地で過去最大規模のミズノパフォーマンスセンターを展開し、ブランド発信に力を入れている。
 当然、今回の表彰台ジャージは、一般向けにレプリカが販売される計画になっており、日本人選手のメダルラッシュでメディア露出も増え、問い合わせが殺到していると聞く。やはり五輪効果は絶大で、ミズノのマーケティング戦略は奏功したと言えそうだ。
 
 一方、イタリア人選手は、上着の胸元とボトムの腿にロゴマークが入ったシンプルな「鉄紺」のジャージを着ている。こちらはミラノコレクションの帝王、ジョルジオ・アルマーニのデザインによるエンポリオ・アルマーニ。表彰台ジャージは、「オリンピックキット」として代表選手に支給された50アイテムのうちの一つになる。
 ただ、スポーツウエアでありながら、クラシックなイタリアンエレガンスを打ち出すために、70年代まで用いられた白とミッドナイトブルーのカラリングが全アイテムに採用されている。筆者が呼ぶ鉄紺は、古き良きイタリアのスポーツカラー、ミッドナイトブルーのことである。アルマーニは今回のオリンピックキットで、その伝統との連続性を見事にリクリエイトしたと言える。

 では、両者の違いは何か。まず日本の一スポーツメーカーと、世界的なファッションブランドが上げられる。また、スポーツウエアの延長線で企画した製品と、スポーツアイテムでもファッション性を重視したこともあるだろう。ここまで書くと、日本がダ◯くて、イタリアが◯ッコ良いと言っているように思われがちだが、決してそうではない。
 日本の表彰台ジャージも、1998年の長野冬季五輪くらいからクローズアップされるようになり、五輪を重ねるごとに進化、向上している。式だけの着用なら動きやすさや発汗性などスポーツウエア特有の機能性は必要ない。今回は細身の日本人選手に合わせてパターンも改造されたようで、上背があって手足が長い水泳選手陣はとても似合っていた。

 ただ、根本的な差は、やはり「色」とそれを打ち出す「素材」だろう。写真を見る限り両ウエアとも平編みで裏毛のジャージのようだ。ただ、色は日本が明るい華紺であるのに対し、イタリアはシックな鉄紺。同じ素材や編み立てでも重厚さがまるで違う。
 ミズノの場合、機能性ウエアではないことから、おそらく素材は出来合いのものを使用したと思われる。長野五輪のウエアと色のトーンが大きく変わったとは思えないからだ。
 しかし、アルマーニは今回、伝統色のミッドナイトブルーを再現するために、素材探しには相当こだわったのではないか。同社のカラーチャートに同じ色があれば調達は簡単だっただろうが、もし微妙に違えば、「染め」から行なったはずである。
 まさにミッドナイトブルーのジャージは、CMYKによるデジタル配色では表現できないナチュラルカラーの溶け合いで、スポーツウエアをファッションアイテムに昇華させた。筆者が「鉄紺」と呼ぶ理由はそこにある。

 たかがジャージである。そして、ミズノの戦略も十分に評価される。しかし、日本の華紺とイタリアの鉄紺の微妙な色合いにファッションに対する造詣、それ以上に色や素材に対する飽くなき追求心の違いがあるのも確かだ。
 イタリアでは世界に発信するオリンピックのメダル授賞式=公式の場に着るのは、「されどジャージ」なのである。クリエーターのアルマーニがデザインする所以もそこにある。イタリアスポーツ界の美意識は、日本よりはるか上のところにあるように思えてならない。
コメント
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