HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

投資はショーの原資で終わってはならない。

2012-08-15 15:15:59 | Weblog
 パルコが昨年スタートした若手デザイナー支援のためのファンド、「ファイト・ファッション・ファンド」の第1号として、2名のデザイナーが支援を受けることになった。
 マイパンダの中村裕子とジュンオカモトの岡本順だ。両氏は2月に出資者の募集し、3ヵ月で計700万円を集めたという。半年の募集期間内にどこまで出資が募れるかが楽しみである。

 実力があっても資金力に乏しい若手デザイナーにとって、投資家が資金を出してくれるのはブランド発展にとって実にありがたい。一般にこの種の支援は、欧米ではユダヤ人の実業家やアラブの王族がご贔屓筋となって資金を出してくれる。
 だが、日本ではJFW(日本ファッションウィーク)の「新米プロジェクト」ように行政やスポンサーが資金を拠出するものの、出資倒れになるケースが多く責任の明確化がされにくいという難点があった。
 また、福岡のように行政が作成した事業企画書には堂々「人材育成」と書かれていながら、ふたを開けると愚にもつかない三文イベントにほとんどの資金が費やされるというもっと酷いケースも見られる。
 その点で、ファンドならマネジメントをきちんと行わなければならず、投資収益を最大にする努力が求められる点で大賛成である。デザイナー側にとっても、コレクションデビューやブランドプロモーションでは終われない、その先の卸、小売りビジネスまできちんと見据えた「被投資計画」が重要な点で、勉強になるだろう。

 ただ、一つだけ懸念がある。それはファンドのバックにいるパルコの存在だ。パルコがファンド設立に踏み出した背景には、他デベロッパーとの差別化があるはず。そのためにはでき上がったブランドの誘致競争に勝つだけでは限界がある。積極的にブランドをインキュベートして、テナントリーシングの保険にしておこうという狙いもあるだろう。
 言葉は悪いが、将来が有望な若手デザイナーに恩を売っておけば、彼らがインキュベートしサクセスした後、「当然、うちの館に入ってくれるよね」と暗黙のプレッシャーにもなるからである。

 また、とかくお客にテナントの顔ぶれで判断されるファッションビルにあって、パルコは国内事業での生き残りを賭け、イベント事業に力を入れている。
 そのコンテンツには単なる既存テナントではインパクトに欠ける。イベントの冠に「初」や「デビュー」を付けた方が観客を呼び易いし、新人デザイナーにとってもイベントがあるからこそ、作品づくりへのモチベーションが上がるのである。

 しかし、そうしたクリエーターとしての「滾る血」をパルコに利用されるだけでは、投資効果や投資家へのリターンは進まない。やはり、企画デザインから仕様開発、素資材の開発・調達、工場選び、工程&仕上げ管理、物流、卸、小売り展開まで一貫して行うビジネスモデルを作り上げることが、ブランドファッションにおける投資効果になる。
 デベロッパーもせっかくデザイナーがデビューし、店舗をパルコに構えたのなら、 売場の声やお客の反応をチェックすることが不可欠だ。また、そうした情報を整理分析して、ブランド側にフィードバックしマーチャンダイジングに反映させることが望まれる。そこまでが被投資計画なのである。

 デザイナーのセンスでパルコは成長できる。その考えは間違えではない。反面、デザイナーが思い通りに商品を作ったところで、売れるわけがない。それがファッション業界の原理原則でもある。 
 ファイト・ファッション・ファンドが欧米のような「谷町」で終わらないためにも、ファンドマネージャーの役割は重要だ。それ以上に出資を受けたデザイナーにはブランドの孵化とビジネス発展という厳しい条件が突きつけられている。
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