HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

実践を学ばないと、仕事はできない。

2013-03-15 16:40:17 | Weblog
 業界で有名な杉野ドレメの系列校、杉野服飾大学はジャパンイマジネーションとコラボレーションし 、13~14年秋冬向けの商品を開発。学生が製作したサンプルをジャイマ社が検討し、8月中旬からショップで販売する予定という。
 ここまでの流れを見ると、よくあるファッション専門学校とアパレルを手がける企業とのコラボ・プロジェクトにように思える。しかし、従来のものと根本的に違うのは、学校側で商品開発に携わるのが「ビジネス学科の学生」であることだ。

 かつてこうしたプロジェクトは、デザイン学科で学び、デザイナーを目指す学生が、アパレルメーカーにおける商品企画からMD、縫製までのプロセスを学ぶために参画していた。
 メーカー側にとっても、商品企画の実作業を知って将来的に就職してもらう、また若者の柔軟な発想を企画に生かす上でも、必要不可欠な施策であった。
 平たく言えば、ファッションの世界に夢を抱く学生と、彼らを受け入れる企業とのギャップを埋め、商品作りをすり寄せるための共同プロジェクトであったのだ。

 ところが、ファッション業界は過去20年で激的に変化した。アパレルには欧米メゾンブランドに見る年2回のコレクション型企画の他に、企画製造と販売を一貫して行うSPA、さらに販売動向対応クイックレスポンスを組み合わせる進化型アパレルまでが出現している。
 小売り側も、AMS(Apparel Manufacturing Service)という企画・開発の機能を持ったアパレルを活用して、堂々とオリジナル商品を作れるようになってきた。もはや、商品づくりでアパレルと小売りとの区別はつかなくなっているのだ。

 つまり、ファッション専門学校のデザイン学科が旨としてきた「スタイル画を描かせて、パターンを引いてシーチングでトワルを製作し、デザインイメージを完成させる。それを生地に写して服に仕上げ、卒業のショーイベントでお披露目する」という学習プロセスが、欧米のコレクション型アパレルを除いて、通用しなくなったのである。
 言い換えれば、今のファッション業界では、デザイン学科出身=企画する人間、ビジネス学科出身=販売する人間という職種区別は、全く意味をなさなくなったようだ。マーケケティングがわかり、企画からデザイン、サンプル製作までの流れを理解すれば、ビジネス学科出身でも自分で考えた服を「オリジナル作品」として披露できるのである。

 杉野服飾大学の取り組みは、まさに今のファッション業界に合わせ、現場の仕事、就職を意識したものと言えるだろう。ビジネス学科に学生にも、服づくりに参画できるという選択肢を広げた点で、非常に大きな意義を持つと言える。
 しかし、悲しいかな未だに多くの専門学校が旧態依然とした授業を行っている。デザイン学科ではスタイル画を描く、パターンを引く、ソーイングする、授業がそれぞれ別個に分かれており、講師もそれぞれの専門分野しか教えられない。商品企画といっても、単なる製作作業に過ぎないのである。
 ビジネス学科になると、「企画」という授業が雑誌の切り抜きでマップを制作したり、手芸店で買ってきた材料で小物を作ったりの程度。挙げ句のはてが「借りて来た商品」でショーイベントを平気でやらせる講師もいると聞く。これで講師料を取っているのだから、全く酷い話である。

 もちろん、スタイル画もパターンもトワル製作も、学習として不必要なことはない。しかし、街の生地屋で買って来た生地レベルで、クリエーションと言われても、あまりに不釣り合いだ。何よりデザイナーを目指す学生の方が物足りなさを感じているだろう。
 せっかく海外研修と銘打ってヨーロッパまで行きながら、メーカーの展示会視察も、ファクトリーや工房の見学も、しない。ましてテキスタイル見本市で、市販されていないような生地を入手するなど皆無だから、やる気を疑われてしまう。
 せっかくスタイル画を描いても、パターンの技術を見つけても、それがクリエーションとして昇華しないのであれば、プロの世界には踏み込めない。それが就職状況にも表れているのだ。

 折しも先日、ファッションライターの南充浩さんがご自身のブログで以下のようなことを書かれていた。
 「ファッション専門学校の花形はデザイン関係の学科である。授業内容はいまだにオートクチュールを基本に据えている学校もかなり多い。けれどもパリコレクションですら1点物のオートクチュールよりもプレタポルテの方がメインになって久しい。これだけでも現状と授業内容にミスマッチがあると言わねばならない。オートクチュールの技術伝承を否定するわけではないが、それがメインとなる教育内容がいまだに続いているのはいかがなものかと思う」

 また「専門学校の教員陣は、学校を卒業して外部で働かずに教員になった生え抜き組と、外部企業で功成り名を遂げたリタイア組の年配者であることが多い。(中略)となると、その教員陣で現状に即したビジネス論を教えられるかというと、首を傾げなくてはならないだろう」とも。
 さらに「現状のアパレル企業の体質に何から何までフィットさせる必要はないと思うが、 旧態以前としたオートクチュール偏重のクリエイト重視と、現状と離れたビジネス論という授業内容では卒業生の就職率が高まることはない」と書かれていらっしゃる。

 まさにその通りである。その意味で杉野服飾大学は、ファッション専門教育において新たな道を開いたと言えるだろうし、ジャパンイマジネーションはそうした教育を受けてきた学生に入社してほしいのだ。服を作るには、必ずしもデザイン学科で学んでなくてもいいのである。
 筆者もアパレルの業界で働き、専門学校出身の若者に接して、数々の浮世離れした学習状況を聞いてきた。それゆえ、ずいぶん前からファッション教育の現場こそ、改革が必要だと思っていたし、機会あるごとに唱えてきた。

 昔なら中学を卒業して、アパレル問屋で丁稚奉公したり、縫製工場の縫子さんとして、働きながら学ぶことは多かった。しかし、今ではほとんどの若者が高校を卒業するようになり、メディアの影響で一廉の情報を得、客観的にファッション業界を見るようになっている。
 何より業界自身が時代のうねりの中で大きく変わり、仕事内容はシステム・分業化され、煩雑かつ多岐にわたっている。「いたってアナログな世界、作る人、売る人といったアバウトな表現」は、すでに過去のものと言えるだろう。

 ファッションビジネスは高度な科学に裏打ちされた世界である。それゆえ、現場レベルに即した実践教育を行わないと、仕事に就ける若者は育成できないと思うのである。
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