HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

旬を過ぎたブランドでは中高年攻略も難しい。

2013-03-21 15:24:56 | Weblog
 仕事柄、日経新聞のサイトを頻繁に閲覧する。そのため、スポンサーの広告や通販サイトなどのメルマガが数多く配信されてくる。先日も日経新聞デジタルビジネス局の「NIKKEI」から下記が送られてきた。「オン・オフのワードローブ選びの即戦力になる〈ck カルバン・クライン〉の最新作」というタイトルの通販サイトだった。

 日経のデジタルコンテンツは、男性を中心に下は30代から上は60代まで幅広い年代が閲覧していると聞く。大半が企業のビジネス戦士で日常はスーツだが、休日のウエア選びには腐心しているからか、「〈ck カルバン・クライン〉がオン・オフの両方に対応します」ということだろう。
 スーツ姿は様になっても普段着になった途端、野暮ったく見えるお父さん方に、「これを着てオシャレになってください」との、ブランド側からのメッセージが伝わってくる。

 そこで、ふと思ったのが、「カルバン・クライン」というブランドである。名前になっているデザイナー、カルバン・クラインは1942年にハンガリー系移民の子として、米国NYのブロンクスで生まれた。
 FIT(ニューヨーク州立ファッション工科大学)の短大を卒業後、68年から友人のバリー・シュワルツとレディスのプレタポルテを手がけ、NYファッションの世界に足を踏み入れた。そのチャンスは「偶然手に入れた成功のワンステップから始まる」と、リサ・マーシュ著の「THE HOUSE OF Klein」には書かれているが、ここで詳細の説明は省くことにする。

  NYコレクションでキャリアウーマン向けのファッションを次々と創作する一方、 70年代後半には細身のストレートでディナージーンズの異名をもつ「カルバン・クライン・ジーンズ」やウエストにゴムテープを使ったスポーティな「カルバン・クライン・アンダーウエア」を発表した。
 ハリウッド女優のブルック・シールズなどを起用した広告展開は、倫理規制が厳しい米国で物議を醸すほど過激なものだったが、こうしたプロモーション効果も手伝って両アイテムは大ヒットし、同ブランドを一躍世界的なスターダムに押し上げた。
 ところが、90年代に入ると、NYファッションはヒップホップカルチャー全盛となり、お堅いカジュアルは受けなくなる。それでもコレクション向けのファーストラインはマディソンアベニューにオープンした旗艦店で販売できたが、カジュアルラインはディスカウントストアの店頭を飾るほど凋落し、01年にはセカンドラインの〈ck カルバン・クライン〉が米本国から撤退。
 さらに02年にはブランドそのものがフィリップ・バン・ヒューゼンに売却され、クライン自身はデザイナーを引退した。

 日本では、79年からオンワード樫山がウエア、グンゼがアンターウエアをライセンスで生産・販売してきたが、ブランドの身売り以降、ファーストラインの「Calvin Klein」は終了。現在はオンワード樫山が〈ck カルバン・クライン〉で生産するだけだ。

 現在、多くのコレクションブランドが本国で一括に管理されるようになっている。そのため、ファーストラインは世界の大都市で展開される旗艦店でしか、お目にかかることはできない。セカンドラインを設けているブランドでも、ドルチェ&ガッバーナのように日本市場からは撤退するところもあるくらいだ。
 〈ck カルバン・クライン〉は、ヨーロッパでは量販のサイトで販売されているケースが多く、一介のカジュアルブランドに過ぎない。日本ではずっと伊勢丹系の百貨店が扱い、現在でも〈ck カルバン・クライン〉はメンズ、レディスでスーツまでもつMDだが、往年のブランド力、デザイン感性は、ほとんど見られないだけに苦戦は免れないようだ。

 そこで、オンワード樫山は日経のデジタルコンテンツを活用し、ネット通販という新たな販路の開拓に打って出たのだろう。だが、ここでも売れるとはとても思えないのである。なぜなら、 往年のカルバン・クラインを知っている50代以上の元ファンからすれば、デザインテイスト、カッティング、素材感などが、似て非なりだからである。
 一方、40代以下のからすれは「カルバン・クラインって、どんなブランド?」だろうし、個々のアイテムを見ても何とないデザインで、その割に価格が高い。
  セレクトショップやグローバルSPAなど、はるかに値ごろで今の流行にマッチしたブランドがいくらもあるわけで、 百貨店にある10坪程度のハコブランドに、それほどの価値を見いだすとは思えない。
 
 日経のサイトに広告&通販サイトを掲載したということは、中高年のビジネスマンで〈ck カルバン・クライン〉の市場を掘り起こそうという狙いだ。しかし、そのマーケットに存在する往年のファン層からすればすでにロイヤリティを感じ得なくなっているし、逆に初めて目にする層には「買ってみよう」と需要を喚起させるまでいかないだろう。 
 メンズマーケットの規模はレディスに比べると、3分の1~4分の1である。ただでさえ、アイテム数は少なく、購買動機も限られる。それだけに中途半端なブランド戦略&マーケティングでは、とても市場開拓などできるはずがない。
 こうした〈ck カルバン・クライン〉の姿を見るにつけ、百貨店を主な販路とするNBアパレルの販売戦略はブランド頼みでしかないようだ。それではますます袋小路に入ってしまい、抜け出すことは容易ではないと、感じるのである。
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