HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

浸水リスクを再考。

2020-07-15 06:29:11 | Weblog
 7月4日から6日にかけての九州豪雨は、各地に多大な被害をもたらした。犠牲者は13日現在、熊本県が死者64名。福岡県が死者2名、大分県、長崎県が同それぞれ1名。他に行方不明が鹿児島県など3県で15名となっている。大半は65歳以上の高齢者だ。豪雨災害は3年前の北部九州、2年前の西日本、昨年の千葉県と、毎年のように発生している。被害を免れたにしても、今度はいつ地震に見舞われるとも限らない。つくづく日本は災害列島と言うしかない。

 では、都市機能が整備された都会なら安全かと言えば、決してそうではない。住みたい街の全国トップに輝いた福岡市も1999年6月の豪雨では、博多駅コンコースや地下鉄構内、周辺道路、筑紫口(筑豊口ではない)の商業フロア「デイトス」などが浸水。駅南のビル地下にあった喫茶店には雨水が流れ込んで、オーナーが溺死している。天神地区でも、地下街の一部が雨漏りして浸水した。



 その日は、忘れもしない。JR九州の子会社がコンビニ「ampm」のエリアFCとして、駅の博多口に新店舗をオープンする日だった。仕事で撮影に行くことになっていたが、床上浸水で入荷商品はずぶ濡れ、しかも停電で冷蔵庫が機能せず、チルド商品やアイスクリームは破棄となった。もちろん、開店の賑わいや店長の仕事ぶりをカメラに収めるはずがずべてキャンセル。後片付けに精を出されるスタッフの姿を見て、お見舞いの言葉をかけるのが精一杯だった。

 この時思ったのが、日本中どこに居ても水害のリスクがあるということ。現にその後も毎年のように集中豪雨が発生している。福岡市は水害に備えて市民向けのハザードマップを公開している。だが、それだけでは自分が住む街の災害対応には十分と言えない。

 筆者が生活する福岡市中央区は、東側に那珂川、西側に樋井川が流れる。市の中心部で集中豪雨が発生すると、これらの川の水が溢れて街が浸水するというより、下水道が排水処理能力を超えて氾濫(内水氾濫)が起こる確率の方が高いと考えられる。過去には何度か水害に見舞われ対策がなされてはいるが、年ごとに降雨量が増していることを考えると、完全に対処することは不可能だ。


福岡市の下水道は60ミリ/時の大雨で氾濫

 こうした課題をファッション業界に置き換えると、ビルインなら水害を免れられても、路面店はそうはいかない。天神界隈の下水道から雨水が氾濫すれば、大名、今泉、警固などの店舗1階はほとんど浸水するだろう。ただ、自分自身もそうだが、店のオーナーがハザードマップを見ても、実際に水害が起こった時にどう行動していいかは、わからないと思う。やはり、本当の意味で役立てるガイドブックが必要ではないだろうか。筆者なりにそのフローを考えてみたい。

 1.天神、大名、今泉、警固と地域ごとにショップオーナーで防災コミュニティを組織
 2.各自治会を中心に地区の公民館などで防災についての啓蒙と意識を統一

 3.区を通じて知見を持つ地域防災の専門家(大学の研究チームなど)に防災対策調査を依頼
 4.住民やショップオーナーが専門家に水害などで不安に感じていることを伝える
 
 5.調査結果をもとに各自が水害発生時の危険度と避難行動を考えておく
 6.自店の水害対策(商品移動など)にも生かす


 ざっとこの程度のことには取り組んでおかなければならないと思う。さらにこれらをマニュアル化したガイドブックやサイトがあれば、防災対策に役立つし、できれば定期的な訓練なども必要と思う。これには地震についても、応用できる部分があるのではないか。

 福岡市は下水道について従来、5年に1回程度発生する降雨(52.2ミリ/時間)に対処する能力を現在、10年に1回程度発生する降雨の59.1ミリ/時間まで引き上げていく整備を進めている。(https://www.city.fukuoka.lg.jp/data/open/cnt/3/34929/1/fukuokashi-gesuidou-R01-2.pdf?20191001142601)

 だが、この数値にどれほどの対応能力があるのだろうか。最近の雨は10年の1回程度の降雨どころか、1年分に当たる数百ミリが1日の間に局地的に降ることがある。今回の豪雨でも、7月4日午前3時半までの1時間に熊本県の芦北町付近で120ミリ以上、八代市坂本町付近と同県の球磨村付近や津奈木町付近で、いすれもおよそ110ミリの猛烈な雨を記録し、甚大な被害をもたらした。もはや想定を超える水害が恒常的に発生していると言ってもいい。

 都市部ということでは、東京も昨年には台風の影響で世田谷の住宅地が浸水した。多摩川が氾濫したからだけでなく、内水氾濫対策が十分にできていないこともあると思う。ある大学の先生は、「治水用の地下ダムも建設されてはいるが、都心部で1時間に100ミリ以上の大雨が降れば、とても持たない」と話す。小池都政2期目も行政課題と言えるだろう。



 福岡は2005年3月に福岡西方沖地震を経験したが、地勢的には台風が襲来したり、線状降水帯が発生するケースが多いので、水害による被害の方が甚大だと考えられる。下水道の排水処理能力には限界があり、天神地下街や駐車場が地下ダムの肩代わりをするにしてもキャパはたかが知れている。博多駅地区でも1999年の水害を教訓に2006年に駅南の山王公園地下に雨水調整池が整備されたが、今回のような豪雨が中心部に降った時に対応できるかは不安だ。

 つまり、行政や企業の防災対策だけに頼れないわけで、地域住民と店舗オーナーなどが防災対する知見を深め、自ら判断してスタッフの身や自店を守る意識をもつことが必要と考える。


イオン小郡は水没SCの汚名

 一方、郊外はどうだろうか。特にショッピングセンター(SC)のケースだ。過去の浸水被害では、「イオン小郡」がある。2017年の北部九州豪雨では被害を受けなかったが、18年の西日本豪雨では施設全体が浸水し、臨時休業を余儀なくされた。施設は13年4月に大規模小売店舗立地法に基づく新設の届け出を行ったかと思うと、その年の11月には開業。だからではないだろうが、宝満川西側のクリークに囲まれた元農地といった立地環境からすれば、洪水発生などの調査を十分に行ったのかどうか。




 昨年の大雨でも浸水し、休業している。今回の九州豪雨でも浸水を心配してか。ネットには「イオン小郡3度沈む」との書き込みや画像がたくさんアップされた。自治体も域内の大型商業施設が過去2回の水害にあったため、今回は福岡県警に要請して施設前の道路を封鎖するなど最善の対策をとった模様だ。イオン側もハード面で駐車場と施設の入口の両方に止水壁を設置しているが、1時間あたりに100ミリを超える大雨が降る場合にどこまでの有効なのか。ここまで浸水が続くのは、やはり土地自体が低く、嵩上げが必要だったのかもしれない。

 同じ筑後地区でも、「ゆめタウン久留米」は久留米市の中心部、西鉄久留米駅から車で10分程度の筑後川河畔の合川地区に立地する。この一帯はもともと農地だったが、低地で水捌けが悪くたびたび水害を起こしていた。だが、開業後は一度も水害には見舞われていない。イオン小郡との差は歴然だ。

 郊外型SCは端から初期投資の建設コストを抑える目的で、2層構造(3層以上は駐車場の場合も)になっているところがほとんど。想定外の降雨による水害リスクを考えると、止水版程度では心許ない。防災訓練を行なって人命は救われても、1階部分の店舗が水没すれば、経済的な被害は甚大となる。それがテナントの経営に与える影響は少なくないはずだ。

 もっとも、店舗やオフィスが2階以上にあれば問題ないかと言えば、そう言うわけでもない。神奈川・武蔵小杉のタワーマンションが大雨による停電で水道やトイレまでが、長期にわたり機能不全に陥ったのは昨年のこと。マンション建設では分譲戸数を減らさないために、重量がある設備は1階や地下に配置される。つまり、商業施設をもつ高層ビルでも、ここが浸水すると電力を供給できなくなり、排水だけでなく、給水ポンプやエレベーターまで動かなくなるリスクがある。

 郊外にしても都市部にしても、いろんな開発を進めるならば、並行して災害リスクにも向き合っていかなければならないことが現実味を帯びている。しかし、想定外を超える災害が発生しているのを考えると、人間の英知で使ってできる対策など、もはや無力に近いのかもしれない。今回の豪雨で被災した高齢者施設は地価が安い地域に建設されるため、土砂、浸水の被害を受けやすい。災害の度に法改正がなされて砂防工事などが行われるところもあるが、自然の猛威にはとても追いついていかないというのが正直なところだ。

 行政やデベロッパー任せにはできない。むしろ、ショップ経営者などが自らの街やコミュニティ、店舗や資産を守るために行動することが重要ではないか。それぞれの地域に即した防災対策を考えること。10年に一度ではなく、過去20年に災害を受けたところは、自治体発行のハザードマップに記載されている。それを確認しながら、豪雨災害は過去を超えたものが発生することを前提に、防災意識を持ちながら日々の仕事をこなすことが不可欠だと感じる。

 末尾ながら、今回の豪雨でお亡くなりになられた方には心からお悔やみ申しげるとともに、避難生活を余儀なくされている方々が1日も早く通常の暮らしを取り戻せるよう願って止まない。
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