HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

東京初にシンクロ。

2020-07-08 06:35:46 | Weblog
 消費はウイズコロナの段階に入った。政府の緊急事態宣言が5月25日に解除され、6月に入ると営業を全面再開した百貨店の売上げが回復。反動でECは伸び率が鈍化したが、感染リスクとは付き合いは今後も続く。そう考えると、利用に二の足を踏んでいた中高年層にも、デジタル消費は確実に浸透していくと思われる。

 一方で、巣ごもり消費ではEC詐欺などの犯罪を誘発している。特にオンラインのショッピングモールやフリマサイトでは、出品者が架空の連絡先を届け出て、偽ブランドを販売する例が急増した。そのため、売場を提供する「運営者」には、出品者の本人確認やトラブルが発生した時の責任を明示するように法改正がなされることになった。

 ただ、消費者にダイレクトに販売するアパレルでは、注文した商品が粗悪だったとのトラブルも発生している。おそらく海外で生産したのだろうか、裾の始末がいい加減だったり、ウエストのつなぎ目に段差があったり、店舗販売では考えられない「紛い物」が送られてきている。さらに注文した商品が届かないとか、画像とは明らかに違う商品だったとか。連絡しようにも事業者には電話もメールもつながらないと言うから、どうしようもない。

 被害に遭うのは、購入者だけでなく、出品者もだ。海外発送を許諾した事業者が偽造クレジットカードで、日本製商品を大量に騙し取られたり、返品期限を1ヶ月としたケースではさんざん着用した末に返されたりとか。顔を見ない相手と取引すれば、当然起こりうることだろう。ただ、このような事例がECには付き物だから、気が進まなければ買わなければいいと言うのでは、業界の信用なんて醸成されるはずもない。

 どんな取引でも、双方が自己防衛するのが原則。また、ECが生活に不可欠であることも周知の事実だ。ただ、ウィズコロナでは、多くの消費者がECの利便性を享受できるのに、並行して犯罪が増えると、せっかくのデジタルシフトにブレーキがかかる。現物を見ないことが犯罪を誘発するのであれば、それを補うサービスの充実も必要ではないか。店舗受け取りや試着サービスなどがそれに当たるが、実店舗の対応が見直される面もあるだろう。

 行き着く先の消費者心理は、EC購入でも「現物を確かめられるところで買いたい」ではないか。つまり、外出自粛中にいろんなショップが取り組んだSNSによるスタイリング提案やインタラクティブな接客は、デジタルシフトの中でリアルさと信頼性を感じさせる。そうした取り組みを行うところがウィズコロナでは一歩抜け出していくのではないか。お客をつなぎ止めるには、もう店舗だけでも、ネットだけでもだめなのである。


「初」がついても興味をそそらない

 そこで思うのは、やはり「ブランド」や「商品」そのものだ。地方に住んでいると、実感するのだが、新しい商業施設がオープンする時に必ず報道される「九州初上陸」とか「福岡初出店」とかの冠。しかし、最近ではそれが付いたところで、すでにあるテイストばかりで、期待外れがほとんど。ECでのグローバルな買い物に慣れた消費者ほど、新店がオープンしても、「名ばかりの初もの」には、それほど新鮮味を感じなくなっている。

 これは仕方ないことだが、アパレルに限らず海外から新参物は、まず「東京」に上陸する。国内ブランドの新店も東京がスタートだ。だが、ニュース報道は全国一律なので、新しいブランドや商品が並べば、やはり現物を見たくなる。ファッションはローカルなものと言っても、どこでもマスプロのブランドはあるのだから、東京初に惹かれるのは当然だろう。昨年秋にオープンした渋谷パルコとリーシングされた新業態は、何よりそうではないか。ECの時代であっても、皆が行って見たくなるわけだから、入場制限されるほど賑わいなのだ。




 かたや「ウイズ原宿」にオープンしたユニクロは、音楽や映画、アートなどと協業するUTで、世界最大級の売場を設けた。でも、所詮、既存Tシャツの販売に過ぎない。マロニエゲートの新店にしても、横浜のユニクロパーク(生花はロスが出るから、SKIPの二の舞いにならないとも)にしても同じ考え方に映る。デベロッパーからリーシングされるテナントが他にないため、自らが器を大きくして今ある商品を並べ直し、見せ替えたに過ぎない。

 エアリズムマスクも行列ができたが、雑貨の域を出ないわけだし、衛生商品としての効能は未知数だ。ファーストリテイリング社として、世界的にユニクロ事業が好調だから、大々的に新商品を開発しなくても、売り方を新しくすればいいとの算段なのだろう。若者を中心に集客できる原宿という立地で、ウィズコロナでも観光客を含めて呼び込み、中国事業における新業態展開の試金石にする狙いではないのか。




 6月19日からは、セオリー事業とユニクロが協業した商品が店舗と公式サイトで販売されている。これについてもセオリーのコンサバテイストをユニクロ価格で焼き直したもので、従来のデザイナーコラボの域を出ていない。ワンピースでは赤のノースリーブを見てみたが、生地は違うものの、トーンは4年前に協業した「アンド・ルメール」に近いレベルだ。

 その時は、このコラムでも取り上げた(https://blog.goo.ne.jp/souhaits225/e/a9640c4ac389b8388267bc051d8ccb89)。今回もアンド・ルメールと同じようなコメントになりそうなので、書くのを控える。

 因みに、ユニクロ公式サイトで購入者のレビューを見ると、「生地の薄っぺらさと丈感がモデルの着ている感じと違う」「生地もペラペラで安っぽいです「多分実店舗でちゃんと手に取って見れたら買いませんでした」「通販のみじゃなく、実店舗に商品を置ける様にしてください」等々。筆者と同じ印象を受けた人が少なくない。売価(5000円以下)対コストの面からすれば、アンド・ルメール時と比べても、進化はしづらいようである。

 まあ、セオリーはファストリ傘下だから、コラボによってお客を「やはりセオリーの方がいい」と思わせたら儲けものくらいの感覚だろうか。消費者がユニクロ以外に期待しても、それに応える姿勢が見えない。企業戦略の常道からすれば、ユニクロで稼いだ資金を他ブランドへのテコ入れに活用すべきなのだが、そちらの方はなかなか進んでいない。プラステ事業やプリンセスタムタム事業、コントワー・デ・コトニエ事業と、経営効率の追求の陰で燻るブランドばかり。ウィズコロナ下のビジネス展望はあるのだろうか。


初物はECフォローを必須に

 話題を地元に移すと、JR九州がこの秋に「アミュプラザみやざき」、来春に「アミュプラザくまもと」の両駅ビルを開業する。九州では、久々の大型商業施設だ。しかし、熊本ではアパレルの大型業態は「ユニクロ」と「ジーユー」が出店する。他のテナントについては発表されていないが、これならわざわざ買い物に行く必要もないと感じる消費者も多いのではないか。デベロッパーと化したJR九州と言えど、テナントリーシングが頭打ちのようだ。前出と同じく、スペースを埋め切れるテナントが他にないのだ。(https://www.jrkyushu.co.jp/news/__icsFiles/afieldfile/2020/06/30/200630kumamotoamyutenanto.pdf#search=%27アミュプラザくまもと%27)



 そう考えると、ウィズコロナ下では東京初の新ブランド、東京スタートの新業態についても、実店舗とシンクロさせてEC整備が求められると思う。全国どこからでも購入できることで顧客化できれば、上京時など実店舗への誘客もできるわけだ。また、ランニングコストや売り上げ効率を考えても、+αの販路をもつ方がオープン後の起爆剤になる。それが難しいのなら、以前に書いた「モバイルブティック」(移動販売)もありか。キャラバンで全国を訪れるとローリングビルボード効果も上がり、ブランドバリュのアップにもつながると思う。

 コロナ禍の只中、H&Mは第2四半期(2020年3月1日〜5月31日)のオンライン売上げが前年同期比で32%増と好調だったことで、年内に世界全体で170店を閉店する。また、ZARAを展開するインディテックス社も、20年2~4月期の決算で、売上高は前年同期比で44%減となる33億300万ユーロ(約4,000億円)まで減収。4月末時点の約7,400店舗のうち、1,000店舗以上を閉店する。同社もEC部門をさらに強化し、22年にはEC売上げ比率を全体の4分の1程度にまで引き上げるという。

 グローバルアパレルがデジタル化を推進するのはわからないでもないが、日本ではあの価格のファストファッションを「高い送料」をかけてまで購入するお客がどれほど増えるだろうか。むしろ、ウィズコロナ下では、「安い商品はお店でできるだけ安く買う」「高くても欲しいブランドは、現物を確かめてから」「高度な接客サービスがお客の背中を押す」が、趨勢になっていくように思う。これこそ、ローカルの特性と思うのだが。

 実店舗とECとサービスをどうシンクロさせ、ウィズコロナ下のアパレルビジネスが進化するか。不振の中での一筋の光明を見出していきたい。

コメント
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