HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

7月にどれほど利益が残るのか。

2014-07-02 14:07:09 | Weblog
 先週末から、業界は「夏のバーゲン」に突入した。駅ビルやショッピングセンターに店舗展開をするショップやブランドでは、まずネット通販でバーゲンを先行させ、リアル店舗が追随するというスライド制をとっているところもある。

 百貨店では大丸が全国の店舗で6月27日から、阪急も同じく7月1日から「夏のクリアランス」と銘打ったバーゲンに突入している。三越伊勢丹は「セールの後倒し」を表明しているため、7月2日時点でまだ入っていない。

 ただ、業界でも言われているように夏のバーゲンは、年々早期化&長期化している。ビルイン、路面を問わずショップは、6月から「プライスダウン」「Thank you Sale」など、いろんなネーミングでバーゲンを前倒ししている。

 プライスもいきなり「50%~70%OFF」のところがある。6月にこの価格帯というのは、もうマークダウンのレベルではない。ここまで来ると、いかに春物、初夏もののプロパー消化が厳しいかということだ。

 まあ、理由はいろいろあるだろう。中心顧客であるターゲットに商品があっていない。グレードやシーンを読み間違えた。自店のテイストが微妙にブレてきた。販売力が低下した。トレンド不在。メーカーやアイテムの広げ過ぎ。品質の低下。適品、適量の調達ができていない。他店との同質化etc.あげれば切りがない。

 「そんなことは、言われるまでもなくわかっている」「資金繰りやキャッシュフローのためには致し方ない」という反論も、十分に理解できる。

 しかし、商品のMDを決め、販売計画を立てる人間、また、個店で商品を仕入れるバイヤーのやるべきことは、お客さんが欲しがる商品を「欲しがる時期」に「必要な量だけ」「納得する価格」で、提供することだ。そして、結果的に企業や店舗にとって必要な「荒利益」を稼ぐことである。

 マンションアパレル時代、あるチェーン専門店の販売部長が夏のバーゲン期間中にこんなことを話してくれた。「今朝、旗艦店の朝礼でスタッフに言ったんだよ。7月はバーゲンで売上げが予想以上に伸びた。ところが、実際に棚卸しをしてみると、最終利益は予定していたものとは違った結果になった。わずか7万円だったんだよとね」

 この部長がバイヤー含め、スタッフに何を言いたかったのか。つまり、バーゲン商品やバーゲン用に仕入れた値入れの低い商品しか売れないため、荒利益は低くなり、そこから家賃、店長やスタッフの人件費などの経費を引けば、驚くほどの最終利益しか残らないということである。

 今に比べて、商品単価は2~3倍だったから、荒利益額も高かったはずだ。でも、当時でさえ、わずかな利益しか残らなかったことを考えると、価格が下がった現在、各店舗がいくらの最終利益を残してるのか。考えただけでゾッとする。大手各社が無店舗販売のネット通販に乗り出すのは、そうした理由もあるからだろう。

 また、駅ビルやショッピングセンターを運営するデベロッパーは、テナントに対し「売上げ歩率家賃」を設定しているから、バーゲンで売上げが上がれば家賃収入もアップするという考え。だから、バーゲンをイベント化し、集客増をめざすためにプロモーションに力をいれる。この夏のCMやチラシなどを見ても、一目瞭然だ。

 しかし、テナント側にとっては、バーゲンは荒利益を減らすことであり、自店の首を締めることにもなる。さらにデベロッパーがセール前倒しに傾いてからというものの、それは路面店のバーゲンをさらに前倒しさせる状況に陥っている。それが6月中からバーゲン突入だ。駅ビルやSCに持っていかれる前に、売っておこうという心理が働くからだろう。

 夏のバーゲンを取り巻く構造がこうした状況だから、百貨店の三越伊勢丹がセール後倒しに舵を切ったことは賛否はあるものの、できるだけ荒利益を稼ごうという意味では理解できる。ただ、プロパーで消化できる商品、また、正価販売で投入する商品がどれほどあるかという課題も残す。

 とどのつまり、バーゲンは「値下げロス」を生むことで、これはファッションビジネスの経営を揺るがすことになる。まずは、値下げの前にやらなければならないことがあるはずだ。「売れないからバーゲンする」では、あまりに短絡過ぎ、MDやバイヤーとしての能力があるとは思えない。

 業界でよく言われることだが、バーゲンは同じ商品をプロパーで買ったお客さんの不信感を生み、セールPOPが乱発される売場では、販売スタッフのモチベーションは上がらない。だからこそ、何らかの対策が急務なのである。

 例えば、しまむらは、商品を店間移動させて、できる限りプロパー消化を進めている。それが同社の高収益を生んでいる。日本は四季があるから、北海道から沖縄まで一律同じ日にバーゲン突入は必要なのか。異常気象で四季がなくなっているが、チェーン店ならできなくはない対策でもある。

 ただ、ここに来て大手セレクトショップも、バーゲンによる収益や荒利益の低下を危惧し、「7月はプロパー販売を強化したり、首都圏でセール時期を分散する」と表明し始めている。これはいい傾向だと思う。

 それでも、デベロッパーが「他店がバーゲンしているから、もっとバーゲン商品を増やしてください」というのなら、これは明らかにテナントいじめ以外にない。

 確かにテナントの売上げに連動して、デベロッパーも歩率家賃が上がるというシステムは、かつてのようにバーゲン売上げの比率が低い時代には有効だった。また、デベロッパーの中には、バーゲンではプロパーより低い歩率家賃をとっているところもあるかもしれない。

 でも、ネット販売がどんどん浸透し、店舗販売が食われている時代だからこそ、バーゲンではなく、プロパーで勝負できるような仕掛けが必要なのである。しかも、駅ビルやショッピングセンター同士の競合が激化しているのだから、なおさらだ。

 それは何も客寄せイベントとは限らない。ファッションビジネスとはどういうことかの根本に立ち帰らないと、店舗販売の意義は無くなってしまう。その意味では、大手ショップやナショナルブランドだけでは、厳しいということだ。

 もう大都市のショップの顔ぶれを見ると、「個店」をほとんど見かけない。だから、売場を見ても面白くないし、いくらバーゲンでも買う気がしない。先日、地元セレクトショップの社長も同じことを仰っていた。大手やNBばかりだと、それは同質化競合を生み、結局、バーゲンもエスカレートしていかざるをえないのだ。

 結局、どこのビルインも全国ブランドによる同じような顔ぶれ。ただ、ファッション音痴のメディアが「初進出」だの、「初上陸」だのと煽るだけで、「テイストは何ら変わらない」と、お客さんも気づき始めている。

 個店は開発コスト応分の高額な保証金など、初期投資を負担できない。だから、大手中心のリーシングはわからなくもない。でも、その辺のビジネスから変えていかないと、大手とてバーゲンとカードポイント還元くらいでは、いずれ壁にぶち当たってしまうだろう。

 ステレオタイプになったファッションビジネスを活性化するのは何か。あるいはバーゲンの規模を縮小し、プロパー消化率をアップさせるのは何か。それは決してマスにはならず価格にも左右されない個性的な商品、またバーゲンをしない個店の登場だと思う。

 また、それにはデベロッパーがテナントに対し設定する売上げ歩率家賃を再考することも、カギになるのではないか。すでに大手によるネット通販、ショールーミング、本部一括主導の販売が強化され、店舗販売力が落ちていることを考えると、なおさらそう思う。
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