HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

立地を知らないジャパン社の無謀さ。

2015-05-13 13:35:25 | Weblog
 ショップの出退店が相次ぐ福岡・大名で、久々にラグジュアリーブランドがオープンする。コムデギャルソン福岡店跡に、約1年半ぶりに4フロアを丸ごと借り切って登場する「CoSTUME NATIONAL」(コスチュームナショナル)の福岡店だ。

 デザイナーのエンニョ・カバサは、ヨウジヤマモトでアシスタントを務めた後、1986年からブランドをスタート。今ではすっかりミラノコレクションの常連となっている。

 作風はイタリア伝統の色使いやグラマラスラインとは一線を画し、直線的なカッティングが際立つシャープなフォルムが特徴。ミニマルでありつつ、ディテールでアバンギャルドを主張するところは、師匠である山本耀司の影響を受けているように思う。

 ただ、ジャケットにしても、ドレスにしても、ほとんどがタイトなため、体型をシェイプしていなければ、着こなすのは難しい。それだけ、着る人間を選ぶブランドであるのは間違いない。

 ファッションジャーナリスト的に表現すれば、“ラグジュアリーなロック”という形容詞が合うだろうか。ローリングストーンズのキース・リチャーズがステージ衣装にしていたところを見ても、何となく好む理由がわかる。

 日本人では一時、郷ひろみが好んで着ていた。カネがあって贅肉がないセレブリティにとっては、まさに肉体を売る格好のブランドだったのかもしれない。

 まあ、ブランドの知名度を上げるには店舗展開が欠かせないから、 コレクションに出展する一方で、 90年代半ばからはフラッグシップショップをローマ、ロサンゼルスと出店。日本でも東京・南青山に店舗をオープンした。

 こうした世界戦略が有名人を中心に、ファンを増やしたことは確かだろう。数年前、同じ南青山にオープンしたフラッグシップショップを訪れたが、インテンスが香るスペースでアートの展示も行われていた。

 ファッションだけでなく、クリエーション全般に切り込み、インターナショナルブランドとしての主張を全面に出す戦略もとっているようである。

 今回の福岡店は、そうした東京での手応えを九州、アジアに広げる狙いだろうが、果たして思惑通りに行くのか。これまで大名のストリートに出店してきたブランドと対比しながら、福岡の市場性や大名の立地特性と併せて考えてみたい。

 そもそも、コスチュームナショナルの以前に店舗を展開していたコムデギャルソンは、天神西通り近くにあった店舗をわざわざ大名のストリートまでリロケートしたのである。筆者の記憶では2001年だったと思う。

 筆者は先に事務所を出していたので、ベランダから見下ろす福岡店の印象について、オリジナルデザインの店舗づくり=ハコにまでこだわりを持って、ブランドをじっくり売って行きたいという意図を感じた。

 もちろん、ビジネスだからお客を呼べなければ話にならない。その点ではシーズン3回の商品入荷時に、必ずファン客が駆け付けていたところを見ると、コムデ・ギャルソン福岡店が大名の奥まで引っ込んでも、集客に影響はなかったと言える。

 むしろ、川久保玲氏がブランドが玉石混合する天神西通り付近を避ける、周到に計算した上での店舗戦略だったのではないかと思う。一応、その目標が達成されたので、今度は他でも勝負できると判断し、博多区に移転したということだろう。

 地方店レベルでは、店舗がずっと同じ場所に居続けることは、ブランドの陳腐化を招く。川久保氏自ら「売場もデザインする」と公言している以上、ショップも変わって行くのはなおさらだ。リロケートは当然の選択なのである。

 一方、店舗のオーナー側からすれば、コムデギャルソンほどのブランドに去られてしまうと、後続のテナントをリーシングすることは容易ではない。結果、空き状態が1年半も続くことになった。

 コムデギャルソンが移転した2013年の秋、オーナー側は空き店舗はすぐに埋まると踏んだのだろう。ところが、借りる側にしてみると、スケルトンになっていたとは言え、中階段をもつ構造上、フロア切りでは賃借しにくく、1棟まるごとでないと使いづらいという印象を持っていたのではないか。これはオーナーにとっては、誤算だったはずである。

 だからだろうか、半年を経過しても出店するテナントが見つからず、昨年夏前からようやく家賃、敷金などを告知するようになった。

 ウィンドウの張り紙に書かれた条件によると、家賃はフロア当たり約45万円~17万円。これにフロア共通の共益費が坪当たり1000円。1棟4フロアを借りるとなると、家賃だけで800万円以上の初期投資がかかる。

 用途は店舗で、物販、美容、飲食という条件だったが、仮に1フロアだけを借りるにしても1階で月に40万円以上の家賃を払うとなると、 個人経営では厳しいだろうし、チープな商品を扱っていたのは成り立たない。

 結果として、オーナー側が条件を緩和したかはさておき、コスチュームナショナルのようなラグジュアリーブランドに行きついたということである。

 そこで、今後の店舗運営がどうなるか。果たしてどれほどの集客力を持ち、数字を上げることができるか、である。

 このコラムでも何度か取り上げてきたが、福岡・大名の立地特性は年を追うごとに変わってきている。ピークはストリートファッション全盛の2000年頃だろうか。それを境にファッションエリアとしてのポテンシャルは、確実に落ちている。

 この頃に建てられたビルは家賃が高く、個人経営ではとてもペイしないことから、新規出店したいショップオーナーは大名を避け、今泉や警固、薬院など南に出店したり、既存店舗も家賃の高騰で、移転するところが相次いだ。

 しかし、福岡ほどの市場規模では、中心部の天神から離れるほどに集客は面から線、さらに点と先細りは否めない。

 そのような傾向は、コムデギャルソンのようにコアなファンをもつブランドではさほど関係はないが、「流れの一見客」で売上げを取り、それを梃にリピーターにつなげていくようなショップはもろに影響を受ける。

 つまり、流れのお客を捉まえきれず、どうしても顧客化できないショップは経営が立ち行かなくなるのだ。 それがショップオーナーの思いとは裏腹に、大名から退店を余儀なくさせていった理由の一つでもあると言える。

 今日、 福岡・大名が「福岡におけるストリートファッションの発信基地」なんていうのは、専門学校の学生ですら、いないはずだ。それほど、立地としてのポテンシャルは落ちているのである。

 そこに国際的に知名度のあるコスチュームナショナルが進出したからとは言え、天神、さらに天神西通りからかなり離れた立地で、ファンにするための流れ客を呼び込むのはかなり難しいと言わざるを得ない。

 そもそもアイテムを見れば、「週末に家族でストリートを歩き、ふらッとショップを訪れ、気に入ったので何なく買ってしまった」というデザインでも、テイストでもない。

 メーンターゲットはこの手のインポートが好きで、イタリア旅行に行った時、あるいは東京を訪れたついでに購入してきた顧客の中で、九州、アジアに在住する客層になると思われる。

 それがどれほどにボリュームになるのかはわからないが、月に100万円以上の家賃を払っても、一見客はほとんど期待できないとなると、店舗運営は相当に厳しいのかもしれない。

 バルブ期、ブランドショップ展開で言われたフレーズに、「銀座に出店するより、家賃は安い」「広告宣伝費と見ればいい」というのがあった。

 これを経営者が本当に口走ったのかどうかはわからないし、当時は胡散臭いコンサルタントや融資したい銀行なら言いかねないとも、思っていた。

 でも、今は時代が違う。投資対効果がなければ、ブランドビジネスは成り立たない。それはラグジュアリーブランドほど、わかっているはずである。だとすれば、コスチュームナショナルの日本法人、cn Japanが市場調査や店舗開発に慎重を期したとは思えない。

 10年ほど前、シアタープロダクツにいた同郷の友人が話していたことを思い出した。デザイナーの両名が福岡に路面の直営店を出すことを計画し、ロケーションが良い「警固」界隈を候補に上げたという。

 ところが、立地を良く知る友人は、「あんなところに出しても、シアタープロダクツくらいのブランド力では集客は難しい」と、社内会議で助言したという。

 結果的に直営店の出店は実現しなかったが、街の雰囲気だけで判断し、立地特性の現状を考えないで出店するのは、無謀以外の何ものでもない。これは地方を知らないジャパン社、ファッション業界の恥部や悪癖とも言えるだろう。

 A.P.Cの福岡店は当初、岩田屋の1階で展開していたが、メジャーになると大名のストリートにブランドショップを構えた。しかし、ブランド人気に翳りが出始めるとともに流れ客が呼び込める西通り近くにまた舞い戻っている。

 ファン、顧客で勝負するといえば、聞こえがいい。また、アジアからの富裕層を捉まえると言えば、今流の経営手法と見なされる。でも、福岡ほどの市場規模では「流れ客」まで捉まえなければ、数字は上がらないということも事実だ。

 その意味で、コスチュームナショナルのストア展開は、東京目線でしか考えないジャパン社の悪い癖がまた出てしまったように思う。
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