HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

ファッションと思えないプリントT。

2014-05-21 13:41:55 | Weblog
 ユニクロが「UTme!」と銘打ってスマートフォンやタブレットから、自分だけのオリジナルTシャツを作れるサービスを始めた。専用に開発されたアプリを使えば、指先で自由に絵を描くペイント、規定のフォントが使えるタイポグラフィー、撮影した写真をレイアウトするフォトの方法で、自由にデザインができる。

 ここまでなら、すでに街のプリントTシャツ屋でも行っている。ユニクロもそれは先刻ご承知のようで、さらにインクを飛び散らせるスプラッシュ、あえてエラー効果を加えるグリッチ、そしてモザイクと3つのフィルターをかけられ、スマホを振る“シェイク”でエフェクトの強さが変わるという、Photoshop並みのデザインテクまでプラスしている。

 デジタル技術が進化し、さらにインターネットの浸透とアプリケーションのローコスト開発がこのようなサービスを可能にしたわけだ。上場企業のユニクロだから、大々的に報道されるが、サービスやシステムそのものは、別に珍しくも何ともない。

 実際にでき上がったTシャツを見ていないので、出来映えがどの程度のものかはわからない。ただ、プレスリリースの写真を見る限りでは、ブラザーの「ガーメントプリンター」を使用しているので、印刷レベルは店頭で販売するUTと遜色ないか、プリントショップの熱転写を凌ぐレベルだと思う。

 ただ、プリント技術はすでにあるものだし、いくらオリジナルだからといって、それほど興味をそそるものでもない。また、専用のアプリケーションや衣料用のインクジェットプリンターを使うのだから、あらかじめプリントの画質を平準化させる狙いがあるのはわかる。

 写真や素材をフリー使用させると、仕上がりにバラツキが出てクレームになりかねない。そうした対策も考えた上での技術サービスということだろう。

 では、実際にプリントの仕上がりはどうなのだろか。これはファッションというより、グラフィックの見地から考えてみたい。まず、サービス内容でペイント、グラフィック、写真の3つを用意したところがミソだ。

 今のデジタルプリントでは、画像は小さなドット(点)の集まり=画素で表現される。だから、1色のイラストや文字なら画素数は少なくて済む。データも重くないので、ネット送付でのサ-ビスも可能になる。UTme!でいうところのペイントやグラフィックがこれに当たる。

 アプリに用意されたいろんな筆使いのタッチやロゴフォントくらいのデータなら、デザインレベルは別にして、そこそこの=販売用に足る再現性は確保できるということだ。

 ブラザーのガーメントプリンターは、Tシャツのプリント専用に対応する。仕様はデジタルソフトのIllustratorやPhotoshopにも対応できる。カラーはCMYKの4色で、解像度は600dpi~1200dpiと、一般印刷物の2~4倍の高画質まで再現する。記録手法はインクジェット方式による直接吹き付けで、インクは水性の顔料だ。

 Tシャツだからカラーの上に「白」の上刷りも想定し、インクはシアン、マゼンタ、イエロー、ブラックの他に「ホワイト」もオプションで追加できるようになっている。カラーTシャツには、白色でプリントが可能なのである。

 つまり、ボールドのロゴはもちろん、ベタっとしたタッチの筆使いなら難なく再現できる。さらに「かすれ」のあるカリグラフィー(筆文字)までも、5色カラーのどの色でも十分に対応できるということだ。

 問題は、写真の画質である。スマートフォンカメラの画素数は500万画素~800万画素。デジタル一眼レフの半分以下である。だから、Webサイトの画像やサービスサイズの紙焼き写真なら、素人目には問題ない。画質は十分許容できる範囲だろう。

 ところが、B1サイズのポスターになると、この画素数では画質が荒れてくる。では、Tシャツくらいのサイズではどうか。だいたい縦横30cm~50cmのスペースで、再現される写真の画像は、微妙だ。モノクロ写真なら陰影が際立ってカッコいいだろうが、カラー写真は厳しいのではないかと思う。

 いくらプリンターの解像度が高度でも、元データの画素数が低いと再現性は落ちる。ただ、お客の中にはそれで十分良いという人もいるだろうし、今イチという人もいるかもしれない。ユニクロはPCにも対応しているというが、あまりに高画質にすると、今度はネットで送付するデータを圧縮しなければならないなど、別の手間が生じてくる。

 そこで、ユニクロ側はプリントの表現技術にグリッチやモザイクを加えた。この意図を表向きに考えると、「オリジナルデザインにさらなるエフェクトを加えて、お客さんのクリエイティビティが高められますよ」という理由付けになる。

 裏を返せば、写真をメリヤス生地のTシャツにプリントすれば、「写真があまりきれいじゃない」と言われかねない。だから、万一のクレームに備えた「逃げ道」を用意したと言えなくもない。クリエイティビティとは、使う人間にとって都合の良い考え方だからである。

 クリエーターとしてプリントTシャツを見た時、デジタル技術の発達でここまで来たかという印象だ。しかし、グラフィックデザイン、プリント=印刷物では、光彩やシャドウなど表現方法はまだまだいろいろある。まあ、たかだかTシャツのプリントに高度なデザイン処理は求められないだろうが。

 でも、ファッションとして考えると、言いたいことはある。そもそもプリントTシャツがファッションかということだ。筆者はグラフィックデザインの領域だと思う。既成の無地Tにプリントするだけだからだ。

 ファッションとしてのTシャツは、オープンエンド糸やコーマ糸といった糸から選び、それらで織った天竺、綿麻混など素材に、いろんなパターンやデザインを施して、縫い上げた「Cut&Sew(カットソー)」に他ならない。

 ここではまず、生地を先染めして微妙な色や風合いを出すこともあるし、縫った後に絞りやろう纈(バチック)といった染め加工を施す場合もある。さらに図柄を刺しゅうで表現することもある。

 かつての裏原ブランドでは、タイプフェイスに凝ったロゴをフロントやバックにプリントしていた。ここまでならグラフィックデザインの領域を出ないが、自称デザイナーの彼らはそれをブラックやネイビーといった色無地に「染め抜き」することで、ブランドロイヤルティを上げいったのである。

 また、10数年前に登場した「ちびT」は、Tシャツのパターンそのものを変え、女の子の体型にフィットさせメリハリのあるボディを見せることでヒットした。それがTシャツブラという副次的にアイテムの登場も促した。これがファッションとしてのTシャツだと思う。

 ユニクロは既成のTシャツ、しかも5オンス程度のものにオーバープリントするだけだ。色無地のプリントでは白のインクを使えるから、結果として染め抜きと同じ配色になる。もちろん、白無地なら普通に「書き上げ」状態だ。

 でも、インクジェットプリンターによる「顔料」印刷だから、表面がテカって素材との一体感は感じられない。まして、染め抜きのような独特な風合いなど全くない。どうしても工業製品的な産物の域を出ないのである。

 柳井正社長は「服ではなく、着る人間が個性を出す」が持論だ。だから、今回の UTme!はお客がオリジナルデザインする意味で、これ以上の個性や表現力はないと考えているのかもしれない。

 でも、企画デザイン、パターン、糸、織り、染め、縫製、後加工をはしょって、ITとデジタルプリントで簡素化すれば、それはファッションではなく、大量生産の工業製品に過ぎない。

 アルマーニがコレクションの最後、ランウエイに登場する時、決まって着ているTシャツがある。これはカシミア製と言われている。ユニクロだってカシミアのセーターは企画しているが、Tシャツにまで向かうことはない。

 その差は何か。やはりアルマーニがファッションという世界観の中でTシャツを作るのに対し、ユニクロはコストや効率を優先する工業製品的なアイテムとしてのTシャツを見ているということだ。だから、価格は2000円以下で、ワンシーズン着れれば十分というベクトルになる。

 ユニクロがこのサービスを発表した時、お客に同意させる規約には「投稿したデザインの著作権をすべて同社に無償で譲渡し、著作人格権も行使しないとしていた」と、取り決めていた。

 ところが、ユーザーから「オリジナルデザインを、無断で量産して販売できてしまう」「自分のデザインを勝手に改変して販売することを許す内容になっている」などの反発を受け、「著作権はユーザーのもの」とする内容に変更した。

 ユニクロが変更前のような規約を設けた点を見ると、UTというブランドが限界に来ていることが窺い知れる。キャラクターやデザインアーカイブのTシャツにおいて、その資金力にものを言わせて版権を購入し、広告費をかけてブランド化したまでは良かった。でも、その手法も販売面では限界に来ているということだろう。

 ならば、行きつく先はオリジナルしかないわけで、そのデザイナーを素人のお客にまで広げ、その中からヒットアイテムになる掘り出し物を探そうというのは、誰でも考えつくことだ。ユニクロビジネスの軸、「効率」や「ローコスト」を考えれば、なおさらである。

 昔、表参道を歩く若者の間でヒットしたTシャツに「ラ・エスト」の“チャリンコ”デザインがあった。まさにファッションアイテムの代表格だ。また、DCやマンション系アパレルは、肉厚でコシがある生地を使い、カッコいいシルエットの「カットソー」を企画していた。

 われわれ専門店系アパレル出身者は、 カットソーと聞くだけで、上質なメリヤス生地を使い、ガンガン洗濯しても伸びないアイテムを想像する。たかがTシャツではないか。確かにそうだ。でも、されどカットソーなのである。

 ファッションならば、Tシャツでも作り手の技やこだわり、クリエイティビティへの熱い思いが欠かせないと言うことである。
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