HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

反アマゾンの功罪。

2020-12-09 06:50:03 | Weblog
 ブラックフライデーが終了して10日ほど経った。各店の今年の売れ行きはどうだったのか。おそらく世界的なコロナ禍の影響で、ECのみが活況を呈したのではないだろうか。

 実店舗はその煽りを一気に受けたようで、倒産に追い込まれたところも少なくない。未曾有の感染症拡大で、小売業の優勝劣敗が鮮明になった状況だ。そんな中、フランスでは政治家や経済学者、環境保護団体、書店や出版社などの代表や文化人ら100人以上が「STOP AMAZON」運動をスタートさせている。(https://theconversation.com/le-mouvement-anti-amazon-de-retour-avec-la-crise-de-la-covid-19-150000)

 これには、フランスが5月と11月に発令した外出禁止令が関わっている。この間、スーパーマーケットなどの小売店舗の閉鎖を余儀なくされた一方、アマゾンは期間中には倉庫を閉鎖することもなく、感染拡大でも従業員の保護を十分に行なわなかったという。なのに禁止令の最大の受益者となり、莫大な利益を上げたことが槍玉に挙げられているのだ。

 しかも、アマゾンはオンライン広告やマーケットプレイスなどが総売上げの50%を占めているにも関わらず、課税を免れている。他のディスカウントストアなどとは異なり、税制上で優遇され、フランス経済に何ら貢献していないというのも理由のようだ。そのため、反アマゾン運動の主宰者は「特別税を課税する法律」の制定を要求し、メディアに公開した書状の中で、以下のような問題点を指摘した。

 「新型コロナウイルス禍では、アマゾンが増収を果たす一方、個人経営の店舗の倒産や失業を増加させている」「コロナ禍は消費スタイルと社会生活を根本的に考え直す機会となった。(アマゾン)消費をさらに促進させてはいけない

 フランスにおけるECでアマゾンのシェアはわずか20%。EC事業者は他にもいるのに、なぜアマゾンだけが攻撃されるのか。一つは、弱者である個人商店を保護すること。もう一つは外出禁止令による個店の売上げ減少に対する州ごとの支援が低すぎること。それらへの反発の矛先がお上にではなく、アマゾンに向けられたのだ。しかし、反アマゾン運動で市場を社会的に規制しようとしたところで、アマゾンが売上げを伸ばしているのは紛れもない事実だ。 

 弱者と言っても、既得権益を守りたい連中もいるわけで、お上に対して法規制を望むのは、日本の〇〇団体も同じ。洋の東西を問わず、権益団体のやることは似たようなものだ。今回、運動に参加した「書店」もそうだろう。個人経営の書店は外出禁止による来店客の激減でモロにあおりを食った。しかし、規制強化で本当に競争力を持てるかは甚だ疑問だ。現にフランスのメディアも、アマゾンが提供する商品の選択肢、実用性、有利な価格、配達のスピードは、消費者にとっては利益になっていると、「アマゾンパラドクス」という言葉で反論する。

 ならば、小さな書店はそれにどう対抗していくか。待っていてもお客は来ないのなら、書店側も動き出すしかない。これは日本の書店にも言えることだ。法規制が必要かは別にして、小規模な書店はコロナ禍を契機に古い商慣習を打ち破り、経営改革に踏み出すべきなのだ。


生き残りには取次や返本の見直しが必須

 では、書店はどう変わるべきか。筆者が長年にわたり懇意にする出版社の関係者から聞いた話では、日本の書店は雑誌の収益で成り立つ「取次システム」に支えられている。つまり、そのスタイルを変えなければならないのだ。米国はアマゾンのお膝元でありながら、独立系=個店の書店が急増している。街の小さな本屋がカフェなどを併設してお客を集める一方、スタッフが独自の品揃えを生み出し読書会などのイベントを展開して、地域住民を引き寄せている。それができるのも書籍の価格と荒利益の高さに他ならない。



 例えば、筆者も知るニューヨークの「Greenlight Bookstore」は、客単価が約30ドル、荒利益は40%以上と日本の2倍におよぶ。年商は約2億円で、約1億円もの荒利益を稼ぎ出している。好調な背景には米国の本屋が雑誌を扱っておらず、書籍だけで経営が成り立つ構造にある。大手書店チェーンがアマゾンとの競争で店舗を減らしている一方、街の小さな本屋が新たに開業し、成長できるのはこうした理由があるのだ。

 日本がいきなり米国と同じ流通構造になるのは難しいが、小売業界の問屋介在と同じで少しでも収益を上げるには取次を介さない=出版社直の取引に踏み出すことは重要。奇しくもアマゾンジャパンは、2017年に取次へのバックオーダーを取りやめ、出版社との直接取引を拡大している。その条件は出版社の卸値6割、アマゾンの荒利4割と言うから、何とも強気だ。

 また、アマゾンジャパンは今年2月、自社が仕入れた本を小規模書店に卸す仲間卸を開始すると発表した。バイイング力で限界がある小規模書店にベストセラーなどを卸すことで、読者のニーズに幅広く応えていこうというもの。アマゾンが日本の書籍流通に風穴を空けようとしている点は評価されるべきで、小規模書店としても自店にメリットがあると判断できれば乗っかってもいいのではないか。

 もちろん、それらを可能にするのは、書籍を返品せずに買い取ること。出版社としても買い取ってくれれば、6掛けで卸してくれる。日本には「配本制度」という長年の商慣習があり、それが書店の自由で個性的な品揃えを奪い、30%という高い返本率を生んでいた。言い換えれば、この返本率を引き下げることができれば、本屋独自の仕入れが可能となる。さしずめセレクトブックストアとでも言おうか。個性があって魅力的な本屋が経営できるのだ。

 ビジネス界にあまたある「規制」は、弱者保護のためのものが多い。大規模小売店法は最たるもので、大型店の進出を規制することで中小零細の小売店を保護してきたのだ。ところが、商店主はそれを自分たちの経営力によるものと勘違いして、メーカー接待のゴルフに興じ、研修という海外旅行に明け暮れ、次第に競争力を失って行った。商店街がシャッター通りになったのは、まさに経営努力を怠った結果なのだ。

 方や、フランスも書店や出版社などの代表がストップアマゾンの示威運動に出て、弱者保護の目的で法規制を望む。果たしてそれが小規模書店の救済につながるのか。少なくとも規制で保護されるだけでは競争力を生まないし、何より消費者にとって本当に必要とする書店になれるかは疑問だ。アマゾンが量と規模を追うのなら、小さな書店は質と個性を追求するのが本来の姿ではないのか。ネットはあくまで手段にすぎない。



 このコラムをアップする3日前の12月6日は、筆者が住む福岡で「福岡国際マラソン」が開催された。レースは福岡の中心部で展開されるが、選手が17km過ぎのけやき通りを走るシーンでは、テレビ映像に一瞬だが書店の「BOOKS KUBRICK」が映し出された。設立は2001年、わずか15坪の小さな店舗だが、スタイリッシュなロゴマーク、木の床に白熱灯というインテリアが高級マンションが立ち並ぶ瀟酒な通りとシンクロする。

 近隣の菓子工房が製造する「BOOK COOKIE」も併せて販売するなど、独立独歩のスタイルで読書ファンを惹きつけて止まない。筆者も大濠公園に行った帰りには必ず覗き、気に入った新刊本や雑誌を購入している。目的買いというよりは、フラッと立ち寄ってみたくなる本屋だから、20年もの長きに渡って存続できているのではないか。

 書店1店でできることはたかが知れている。でも、多くの書店が結集することで、取引条件の改善を訴えていくことはできるだろう。それは示威運動なんかではなく、多くの読者にも共感を呼ぶ活動にする。シュプレヒコールで社会を扇動するより、英知を注いでビジネスモデルを構築する方が重要。現状を打破するエネルギーこそが改革の道筋を広げるのである。

 出版社の新刊本や書評を紹介したいろんなポータルサイトも出現するだろう。それをもとに気に止まった書籍をネットで取り寄せ、街の書店で受け取って店主とお茶でも飲みながら、会話する。昔の銀座にあったよう風景を取り戻し、書店文化の新しい形を創造すること。フランスのメディアも、店舗スタッフとの親密さやまめなアドバイス、本を通じたコミュニケーションづくりがお客に身近なお店の利点と強調する。

 法規制で個店の倒産や失業者増が防げても、競争力を無くせば生き残ることは難しい。小さな書店がやることはまだまだあるはずである。



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