HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

発想転換で勝負せよ。

2019-08-28 06:34:26 | Weblog
 1年半ほど前だったか。経済・金融情報の配信する米国のブルームバーグが、「家具インテリアのニトリHDがアパレルチェーンの展開を検討している」と伝えた。このニュースはアパレル業界で一時は話題となったが、その後は同社から具体的な内容が発表されることは無く、いつの間にか立ち消えになったのかと思っていた。

 ところが、社内では着々と計画が進んでいたようで、今年3月に「N+」という名称で実店舗が埼玉県の「ららぽーと富士見」と「越谷レイクタウン」にオープン。さらに10月に開業する千葉県の「テラスモール松戸」にも出店するという。詳細が大々的に発表されていないのに、ニトリ運営のショップと判明したのは、アパレル業界の諜報力というよりは、とにかく他社の動向が気になってしかたない性ゆえのこと。

 業界系メディアが覆面調査(http://shogyokai.jp/articles/-/1946)する中で、商品タグに記されたN+というブランド名、企業所在地がニトリの東京本部と同じだったことから、メディアは間違いないと判断したようだ。まあ、ブランド名もユニクロがジルサンダーと協業した「+J」をもろにパクったように見え、業界特有の拘ったネーミング発想などは微塵も感じられない。



 一応、公式サイト( https://www.nplus.style/ )が開設されてはいるが、現段階では商品コンセプトの説明程度に止まり、商品のラインナップやオンライン販売もない。ニトリは家具インテリアの業界に製造小売りというビジネスモデルを持ち込んで成長したが、アパレルについては後発でゼロからのスタートだけに、まだまだ試行錯誤の段階と推察される。肝心な商品内容はと言うと、「レディスのミセス向け」のようだ。

 公式サイトには、

 「N+(エヌプラス)は、年齢を重ねながらも若々しさや感性を失わない『大人の女性』が毎日着たいと思うファッションを提案していきます

 「いつまでも自然体でいたいそんな想いに寄りそう新ブランドです

との説明がある。また、カテゴリーは、

 「友人との食事や子供とのお出かけ。職場への通勤着。自宅でくつろぐ時のルームウェア。N+は、大人の女性の様々なシーンに合うファッションをカラーコーディネートで提案していきます

 とされている。

 前回、アダストリアが開発した40代半ば〜50代向けの新ブランド「エルーラ」について書いたが、N+が想定する客層のライフスタイル、志向も筆者がエルーラで解釈したそれとほぼ一致する。ニトリとしても、ある程度のマーケティングリサーチを行った結果、狙うなら新規開拓の余地があるターゲット、今のマーケットでいちばんブランドが不足しているゾーンと判断したのではないか。

 では、実際の商品はどうか。公式サイトのモデル写真を見る限りでは、ミセス向けなので淡いカラーでディテールに多少のデザインを施した程度。カテゴリーに記されている通り、「デイリーや仕事で着られる」ことを意識したと見られる。価格帯は1990円、2990円、3990円の3プライスで、買いやすさを追求したようだ。

 まあ、パット見でその色合いや価格から、かつてのダイエーや今のイオンといった量販店が企画しそうなPBに見えなくもない。というか、ニトリにはアパレルのノウハウはないのだから、OEMやODMの業者に丸投げしたというより、家具製造でネットワークをもつ商社のアパレル部門に企画から生産まで委託したのでないかとも考えられる。

 覆面調査員は実際に商品を購入し、チェックしている。商品ついての総括では、ニトリがスローガンにする「お、ねだん以上」の意味、「競合商品よりも3~5割値段が安いか3割以上は品質、機能性が優れていることが大前提」にからすると、競合が想定される「ユニクロや無印良品と比較すれば、優位性は感じられない」と記している。筆者が大手量販店のPBレベルと感じるのも、同程度の価格では二社の方がはるかに上質な商品を売り出しているからだ。

 また、調査員が購入した「ショート丈シアーニットカーディガン(2990円)」は、 甘編みによる透明さから清涼感があり、素材組成はアクリル95%、ポリエステル5%。同レベルの商品は、無印良品やユニクロではコットン素材で、UVカットという付加価値がつく。調査員は「肌触りや素材そのものの質感という点では、アクリルがコットンに勝るとは限らない」と述べているが、筆者も冷房の効いた室内着といっても夏のカーディガンに合繊オンリーは厳しいのではないかという印象だ。

 縫製については、「カーディガン前合わせのボタンホール部分が波打ってしまっている、ボタンホール部分の糸始末も汚い」と、お、ねだん以上にはほど遠いと評価している。ここら辺も仮に家具インテリアで生産管理に当たっているスタッフがN+でも携わったとすれば、あまりにお粗末である。それとも、商社側に丸投げしたのだろうか。詳細はわからないが、お客はこうした点を鋭く見ているので、改善しないと商品としては致命傷になる。

 ただ、あのユニクロでさえ改良に改良を重ねて、お客の信頼を得るまでに5年、10年の歳月を費やしている。でも、ニトリがアパレル事業で既存ブランドと対峙し戦っていくのなら、そんな悠長なことは言ってられない。おまけにお、ねだん以上は顧客に摺り込まれている。お客が現状の商品を見た時に、「ニトリにしてはお、ねだん以下ね」と、笑えないオチがつかないとも限らないのだ。

 販売スタイルについては、調査員の評価は「ベーシックな商品の中にデザインものを一緒にして、しかもハンギング展開」というから、これもアパレル素人を露呈する。競合ひしめくレディスアパレルで勝負していきたいのなら、店づくりも根本から研究しなければ、ならないということである。

 筆者は、ニトリがアパレルを手がける上では、商品づくりから販売スタイル、店づくりまでもっと企画を詰めてからデビューしても良かったのではないかと思う。要は見切り発車すぎたのだ。餅屋は餅屋である。レッドオーシャンのレディスアパレルに挑むのなら、やはりそこから有能なスタッフをヘッドハンティングしなければならない。しかも、スタッフには当面の売上目標や短期計画の期間のみを提示し、あとは自由にやらせるくらいの覚悟が必要だ。でないと、商品も売り方も店も画期的なものは仕上がらない。

 あのワークマンがそれまで作業服オンリーから、アウトドアやスポーツ系衣料に参入し、デザインやカラリングで新しい顧客を捕まえたのは、アパレル人材を登用し企画に専念させたからである。異業種にとって、これほど模範となる成功例はないはずだ。

 チェーン化については、既存の2店をみると郊外SC中心の展開になっている。これがベストなスタイルなのかと言えば?がつく。いくら現状のマーケットにミセス系ブランドが少ないと言っても、商品に魅力がなければ販売には結びつかない。商品のレベルを上げるには生産量のアップという後ろ盾も必要だから、出店数が少ない状態ではとても上がるとは思えないのである。

 だったら、ニトリは多くの店舗を持っているだから、例えば既存店の家具売場を30〜40坪ほど割いてN+のショップにするとか、 ニトリEXPRESSやホームデコの店内にコーナーを設けて、ACTUS風の展開にするとか。既存店を生かしてもいいのではないか。

 ニトリレベルの家具なら現物を見て、質感を確かめて買うというのは少数派だ。売場ではタブレットやPCを活用して、お客の商品選びやコーディネート提案、据え付け確認を行い、あとはネットで注文を受けるという時期に来ていると思う。

 大塚家具が経営に腐心しているのは、スペースコストがかかっている割に売上げが上がらない点がある。これはローコスト展開のニトリとて、今以上に利益を稼ぐには生産性を上げる必要がある点で共通する。そのためのアパレルなら意味があるはずだ。

 既存店でのショップやコーナー展開なら、家具インテリアで集客したお客についで買いを誘発することできると思う。うちの女性陣にこの話をすると、「ニトリに行った時にミセス服があれば、買うかもしれない」と、即答した。少なくともそこで売上げ動向や顧客のニーズを収集し、企画にフィードバックし商品づくりのレベルを上げてから、ビルインやフリースタンディング展開を考えても遅くはないと思う。

 ブルームバーグが「アパレルチェーンの展開を検討している」と配信した直後、お世話になっている繊維流通研究会のO氏は、「部外者はアパレルが簡単に作れると考えているようだが、実際にやってみるとそうじゃないと気づくと思う」と、SNSで呟かれていた。まさに現状のN+を見る限りでは、O氏の言葉は核心を突いている。

 せっかく異業種から参入するのだから、在り来たりの展開をやっても面白くないし、ニトリがアパレルに参入する意味は無い。従来とは違う、既存業者にはない発想の転換に期待したい。

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