HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

40upを攻略する。

2019-08-21 04:14:56 | Weblog
 グローバルワークやローリーズファーム、ニコアンドなどを展開するアダストリア。同社は40代半ば~50代の女性向けにブランドを企画開発する。

 今半期の決算発表はまだだが、昨年は上期(18年3月〜19年8月)が純損益5億5400万円の赤字に転落したものの、下期は下期(18年9月〜19年2月)は商品企画や生産のあり方を見直し、適時、適価、適量を徹底したことで、業績は3%アップ。通期では、連結売上高2226億6400万円(対前年比0.1%減)、営業利益は71億9000万円(同43.7%増)と回復。修正の早さ、学習能力の高さを見せつけた。

 ただ、構造的な問題は残ったままだ。それは福田社長が以前から語っている「既存顧客の高齢化」。例えば、ローリーズファームは、1992年に20代前半をターゲットにスタートしたが、25年以上を経過し顧客の中心年齢が上昇。昨今はそれに企画を合わせるあまり、売場にはヤングからOLや主婦層まで着られる商品が並び、ブランドの焦点がボケていた。そのため、昨秋からメーンターゲットを25歳上に設定して、リブランディングを図っている。

 しかし、顧客の高齢化は他のブランドにもそのままスライドする。本来、ローリーズファームの上の層には「リプシム」(アパートバイローリーズやアンデミュウは駅ビル、ファッションビル立地でターゲットは異質)が対応していたが、こちらを卒業した40代半ば~50代には、受け皿となるブランドがアダストリアにはない。顧客がエージアップしているのに囲い込めていないのだ。


 
 こうした状況をとらえ、アダストリアがグループとして初めて40代半ば~50代の女性向けに開発したのが新ブランド「 Elura(エルーラ)」である。プレスリリースによると、

 「近年の人口分布の変化に伴い、日本の成人人口の70%以上を40代以上が占める状況の中、アラフィー世代の女性に向けたアパレルブランドはそれ以外の世代と比較するとまだ少ないのが現状」

 「体型や肌質、髪のボリュームなど、年齢を重ねたことによる変化や大人の女性特有の悩みに「効く」服を提案いたします。年齢によるお洒落の悩みを解決するだけでなく、ターゲット世代が「自分の好きな自分でいられる」というポジティブな価値を提供する」
のだそうだ。

 価格帯はアウター:9,900円~12,900円、シャツ・ブラウス:4,900円~6,900円、カットソー:2,900円~4,900円、ニット:3,900円~5,900円、ワンピース:6,900円~8,900円、パンツ:4,900円~6900円、スカート:4,900円~6,900円(税抜)と、なっている。

 40代になると、独身で仕事をしている女性は少数派だし、大半は結婚、出産を経て家事中心の生活を送っている。それに合わせて体型も変わっていく。ただ、子育てを終えると、また仕事に就く人々は少なくない。だから、ターゲットのライフスタイル変化に合わせ、サイズやデザインを一から考え、主婦層でも購入できる価格帯に設定すれば、埋もれた市場を発掘できる可能性は高い。

 本来なら百貨店が狙うべきマーケットなのだが、「プレタ」の栄光を未だに引きずっているのか。都心店ではラグジュアリーが好調だからか。裏を返せば、新しい客層を全く取り込めていないとも言えるわけで、それが不振の原因の一つでもあるのだ。この層をターゲットにした百貨店ブランドを見ても、オンワード樫山の「自由区」、レナウンの「エンスイート」は感度的に時代を外れており、「プランテーション」「プレインピープル」は、購入できる層に合わせた着心地重視で、デイリーカジュアルに寄り過ぎている。

 インショップ展開するワールドの「リザ」やレナウン(現在は伊藤忠)の「レリアン」には、仕事着になるデザインもあるにはあるが、正直感覚がコンサバ過ぎて、おばさん臭い。というか、メーンの購入客はすでに60代に入っているだろう。なおさら価格が高いので、これ以上マーケットが拡大することはないと思う。

 独立系や路面では、「ハグ オ ワー」がモード感覚をもち、今の時代にフィットしているが、こちらも価格が高くメジャーにはなりにくい。逆に「ドゥクラッセ」は値ごろだが、コンサバテイストで対象客が限定されている。他にも40代以上をターゲットにする「コカ」「ピエロ」「マーコート」があるが、販路が限定され全国区ではない。一般大衆からすれば、最寄りに店舗があるユニクロで妥協するしかないのだ。

 やはり、本格的にこのマーケットを攻略するには、素材、デザインからサイジングや着心地、オケージョン、価格までをトータルで考え、企画を詰めていかなければ、量販にはつながらない。それには製造から販売までのノウハウをもつSPAが適任で、アダストリアが参入するのは妥当だと思う。他にはストライプインターナショナルがあるが、「イエッカヴェッカ」止りで、攻略には乗り出していない。

 特に郊外SCがいちばん求めているコンテンツだろうし、デベロッパーから開発要請や引き合いがあったとしてもおかしくない。今の40代〜50代の女性は若々しいし、アクティブだ。以前なら「人生の折り返しを過ぎて」なんて悲観的に語られる面もあったが、今や「人生100年時代」と言われ始めた。まだまだ老け込んではいられない。そのためにも上辺から若々しくなれるファッションが重要なのだ。

 20代、30代のトレンドはルーミーなシルエットに回帰しているが、それをそのまま踏襲したのでは、「太って見える」と逆効果になる。デザインやパターンの線引きが非常に難しい。デイリーカジュアルだけでなく、カチっとした街着、ビジカジでもいけるコストパフォーマンスのいい服。それがメジャーになる条件だろうか。アダストリアの企画サイドがこの相反する条件にどう向き合い、答えを出したのか。10月のブランドデビューが待ち遠しい限りである。


顧客と等身大のキャラは豊富

 ここからはあくまで私見だが、ブランドとして大きく育てるには、同年代のイメージキャラクターも重要だと思う。アダストリアは、これまでローリーズファームで新進女優の有村架純(26)や波瑠(28)、そのリブランディングでは長澤まさみ(32、過去にはグローバルワークにも)や夏帆(28)を起用している。みな尖らず、ナチュラルで、等身大の役柄をこなす女優陣だから、ブランドイメージに合った人選だったと思う。

 エルーラが対象とするフォーティアップからアラフィフの女優は、さらに人材が豊富である。言い換えれば、芸能界では群雄割拠の世代とも言え、ファッションブランドのキャラとしては、甲乙付け難い。まあ、アダストリアには美魔女キャラは不要だと思うが。

 まず40代から。 菅野美穂(42)、松たか子(42)、瀬戸朝香(42)、小雪(42)、内田有紀(43)、中谷美紀(43)、木村佳乃(43)、井川遥(43)、 吉瀬美智子(44)、米倉涼子(44)、吉田羊(不詳) と、ほとんどが20代から活躍し、歳をとっても安定した人気を誇る。(数字は2019年8月21日現在の年齢、敬称略)

 50歳過ぎは大塚寧々(51)、鈴木京香(51)、夏川結衣(51)、原田知世(51)、天海祐希(52)と豊富とは言えないが、次席には日本一可愛いとアラフィフと言われる石田ゆり子(49)が控える。あえて失礼な設定で四捨五入すると松嶋菜々子(45)、水野美紀(45)、篠原涼子(46)、宮沢りえ(46)、鈴木砂羽(46)、りょう(46)、松雪泰子(46)、深津絵里(46)、常磐貴子(47)、稲森いずみ(47)、永作博美(48)、木村多江(48)、檀れい(48)、藤原紀香(48)、中山美穂(49)と、アラフィフ予備軍は錚々たる顔ぶれだ。

 スタイリング提案まで考えると、着映えがするのはモデル出身の吉瀬美智子や小雪、松嶋菜々子、稲森いずみか。他には黒谷由香(43)、宝塚で男役を務め最近結婚した遼河はるひ(43)がいる。でも、客層との距離感は否めないし、彼女たちは同姓よりも男性ウケするタイプだ。りょうは個性が強いので、モードテイストならはまると思う。宮沢りえ、米倉涼子、檀れい、藤原紀香、天海祐希は格が違い過ぎる。年齢不詳の吉田洋はCMでは母親役を演じているが、やはりキャリアを重ねた管理職イメージが強い。

 同世代の客層に好かれ、若々しさを発揮できると言えば、菅野美穂、深津絵里、松たか子、内田有紀、木村佳乃、木村多江、大塚寧々、石田ゆり子だろうか。 最近は露出が減ったが、本上まなみ(44) もいけるかもしれない。名前を見ると、表紙を飾りそうな雑誌名も自ずと浮かんで来る。

 彼女たちも20代の頃は個性を発揮していた。清純や汚れという定義を超え、タブーに挑戦したもの。梨園という閉鎖環境に生まれながらも、自由に演技の道を切り開いていったもの。ボーイッシュというか、アンドロジーナスというか、健康的な中性性を醸し出したもの。アンニュイで無美貌な表情が「癒し系」というジャンルを生んだもの等々。

 あれから20年以上を経過し、人生の艱難辛苦を経験したことで殻を破り、逆に大人の女優として新境地を切り開こうとしている。それはそのままエルーラが狙う客層の人生を投影していると言っても過言ではないだろう。ゴシップ記事になるほど紆余曲折、波瀾万丈ではないにしても、40代以上の一般女性も勉強やスポーツで競争し、受験や就職を体験して社会の理不尽さにぶち当たるも、人並みに恋愛や結婚、出産を経験し、新たな壁を乗り越えなければならない時期に差し掛かっている。

 人生の折り返しを迎えてホッとひと息つけるかと思っていたら、今度は人生100年なんて言われ始めるのだから、「つくづく苦労する国の下に生まれてきたのかな」と思っている人は少なくないはず。そんな女性たちがほんの少しの間でも、女性としての気分が高揚し幸せや心の豊かさを感じられるのは、新しい服を着た時ではないだろうか。ファッションほど大人の女性を活き活きさせる上で、ますます重要になるのだ。

 40代の女優陣には、そんな客層と等身大のキャラクターが多いことが、誰がなっても好感を持たれ、共感を得やすいと思う。彼女たちはドラマ、CMの記者発表や映画の舞台挨拶では、専属のスタイリストが借りてきたブランドを着用している。また、セレクトショップがあると言っても、店頭に並ぶアイテムはメーカー仕入れでテイストは限られ、バリエーションも少ないから選択の幅が狭い。日常で気軽に着られるブランドが市場に少ないことを考えると、私服ではお客と同様に苦労しているのかもしれない。

 長年芸能界にいれば目が肥えているだろうし、実際に買うかどうかは別にしても、合理的な視点からそんな服は欲しているはずだ。キャラに起用すれば、かなりのプロモーション効果が発揮できるだろうし、感想や意見は今後の企画にも生かせるかもしれない。

 かつてレディスを手がけた人間としては、ファッションなんて所詮、上辺のものだと思っている。だからこそ、大人の女性が肩肘張らずに着こなせて、お洒落に見える服。家族からも「ママ、お洒落」と言われ、心にゆとりが生まれる服。それで十分なのだ。エルーラがそんなブランドになることを願うばかりである。

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