HAKATA PARIS NEWYORK

いまのファッションを斬りまくる辛口コラム

お得意様はエトランゼ。

2025-01-29 06:53:29 | Weblog
 1月20日、米国でトランプ大統領が就任し、第二次政権がスタートした。就任前から米国第一主義を唱える政権が世界、そして日本にとってはどんな影響を及ぼすのか。業界各界では識者諸氏が様々な持論を展開している。その中で、アパレル&小売業にとっては日米の金利差が縮まらない限りは円安基調が維持され、インバウンド効果が持続するとの見方が主流だ。

 2024年、訪日客数は3686万9900人と、前年を47%上回り過去最高となった。全国百貨店(70社、178店)の24年1~12月売上高は、前年比6.8%増の5兆7722億円。コロナ禍前の19年比では3.6%増で4年連続のプラス。国内客売り上げは1.4%増の5兆1234億円と、19年比では2%減となったが、札幌、京都、大阪、福岡が2ケタ増を確保した。インバウンドは売上高、買い上げ客数ともに過去最高となった。東京や大阪など大都市の百貨店で、ラグジュアリーブランドや化粧品などの高額品が好調だったことによるものだ。客層はコロナウィルスが感染拡大する19年までは中国の富裕層が8割を占めたが、コロナ禍明けの23年からは台湾、香港、欧米が増加している。

 福岡のインバウンドは韓国からが主流で、中国、台湾、香港が続く。博多と釜山を結ぶ高速船のクイーンビートルが運航休止に追い込まれたものの、LCCがその穴を埋めている。彼らは若者を中心に急速に成熟しているようで、高額なブランドにはほとんど目もくれない。買い物のメーンは地元セレクトショップや古着、雑貨などで日本、福岡ならではのアイテムを購入する。ショップの中には、品揃えを韓国人の好みに合わせるより、日本人向けの商品をいかに韓国人にアピールするかに主眼を置くところが目立つ。地理的な利点を生かしてリピーターや顧客化に力を入れる狙いだ。また、福岡では半導体産業の隆盛から台湾人の訪日客も増えてはいるが、円安基調が続く当面は、韓国人が主力のお客になりそうだ。



 東京や大阪の百貨店で高額品の人気が高いのは、免税売上げを見てもわかる。2024年度は2年連続で過去最高を上回る見通しだ。免税売上高は三越伊勢丹が1800億円に迫る勢いで、大丸松坂屋も1300億円を超える見込み。阪急阪神は目標の1000億円から1200億円超に上方修正した。中でも、高島屋は24年9月~11月期は最高益を更新した。ただ、すでにインバウンドの売上げは高止まりしており、今後の伸びは限定的との見方もある。そのため、百貨店全体ではインバウンド効果を俄景気で終わらせてはダメとの意識が醸成されつつある。外国人客も日本人と同じく顧客管理をしっかりしていかなければならないのは確かなようだ。

 懸念される点はトランプ新政権がとる経済政策が為替変動にどう影響するかである。米国はドル高基調が続けばいいが、トランプ大統領には米国の輸出を促進したい思惑もある。ドル安を進めて円が10円、20円と高騰すればインバウンドも左右されかねない。為替は変動するものという前提で捉えれば、それでも外国人の富裕層にもっと買い物してもらえるように各業態がどう魅力を打ち出すか。要は日本人のお客と同様に「買い物するならあの店、接客してもらうならあのスタッフ」という感じで、リピートしてもらうことが重要になる。滞在中または再来日のたびに何度も買い物してもらえるようにいかに顧客化していくか。各社の戦略が訪日外国人の購買拡大には欠かせないと言える。



 百貨店のトップが述べた2025年の年頭所感で目立ったのは、外国人向けのアプリとスマートフォンによる決済サービス。アプリは店舗での利用客を識別できるため、購入者に商品やサービスの情報を提供することで顧客化につなげることができる。スマートフォン決済もいろんなブランドが登場しているため、バリエーションを揃えることが顧客の利便性向上や顧客満足度のアップに貢献する。さらに大手百貨店では海外のVIP客に対応するために外国語が話せるアテンドスタッフを配置するようになった。地方百貨店でも主力の中国や台湾、香港からの旅行者に対応するために、北京語や広東語が喋れる社員の採用が始まっている。



 ただ、外国人を顧客化するカギは、商品(ブランド)やデジタル(アプリや決済手段)の次の段階に移行していると思う。例えば、各地の名産品をブランド化したよりプレミア感を持つ商品の開発である。商品そのもののレベルアップを図ることはもちろんだが、日本では失われつつあるパッケージや包装紙などをグレードをアップすること。各地の名店と百貨店がコラボすれば、不可能ではないだろう。外国人に対しても自ら購入するだけでなく、ギフトにした時のホスピタリティまで意識したモノづくりが不可欠になる。心から歓待されることを自らのステイタスと位置付けるのは、万国共通のはずだからだ。


お客が求める商品は1点から取り寄せるか!?

 資本力のある大手百貨店は、日本人客もインバウンドも多面的な施策で捕捉することができる。だが、地方百貨店は足元の市場が少子高齢化で縮小し、インバウンドも大都市の百貨店ほど恩恵はない。テナントビルに業態転換して生き残りを図れるところは少数派で、八方手詰まりの店舗は営業終了や閉店せざるを得ないのが実情だ。熊本のようにTSMC(台湾積体電路製造)の工場進出で旅行から居住へ切り替える訪日外国人が増え、地元の百貨店がタナボタ需要に恵まれているところもある。地方百貨店としてはこれを追い風にMDを充実させ、サービスも拡充して一気呵成に出たいところだろう。

 ただ、熊本に台湾の富裕層が居住しているなら、むしろ福岡の百貨店にとって顧客化のチャンスではないか。優しい言い方をすれば、熊本の百貨店は地方型の品揃えに過ぎないから、それに富裕層が満足するとは限らないからだ。厳しく言えば、小売業界は弱肉強食。富裕層のマーケットが隣県にあるのに、上級百貨店が指を咥えて眺める必要はないことになる。関東圏に例えるなら、千葉に住む外国人の富裕層が欲しい商品を求めて東京・新宿の伊勢丹まで買い物に行くことはあり得る。福岡と熊本の距離もこれとほぼ同じだから、買い物に出かけるケースはあるだろう。ならば、掴まえない手はない。



 福岡・天神には三越伊勢丹系列の岩田屋、Jフロントリテイリング系列の福岡大丸がある。これらの品揃えは県境を超えた富裕層の争奪にも有利なはずだから、積極的に開拓してもいいのだ。福岡の百貨店にも外国人の富裕層を呼び込む戦略があって当たり前だ。

 では、ハンディがある地方百貨店はどうすればいいか。三越伊勢丹、高島屋、大丸松坂屋などの系列ではあっても、リーシングできるブランドは限られる。外国人の富裕層を顧客化する上で、そうした問題にどう対応していくのか。例えば、こういうケースが考えられる。外国人の顧客がネットでは販売されていない「あのブランドが欲しいんだけど」とのウォンツを示した時。外商スタッフは「あいすいません。そのブランドは当店では扱いがないんですよ」と答えるのか。それとも「扱いはないのですが、入手できるように手を尽くしてみます」と答えるのとは外国人の印象も違ってくるだろう。

 ブランドの入手ができる、できないは別にして、日本の流通事情を知らない外国人を顧客化していくには、そういう姿勢を示すことも必要ではないか。もちろん、購入額など顧客のレベルで、対応できる内容も変わってくると思うが、お客のわがままに真摯に応える姿勢を見せるのも、顧客化の第一歩になる。単なるブランド販売ならテナントビルでも可能だが、百貨店の独自性は顧客の思いに寄り添うところにもある。海外店舗などの相互送客に乗り出すところも出てきているが、究極は利益が折半になっても、系列を超えてブランド(商品)を融通し合えること。もう百貨店の敵は百貨店ではなく、ネットなど他のチャンネルなのだ。地方百貨店にとっても生き残るヒントの一つになるかもしれない。



 外国人の富裕層を顧客化するブランドやサービス。だが、その先にどんな施策があるのか。局面は大手百貨店と同じ過程に移行しつつあると思う。日本人と同じで外国人もブランドだろうが高級食材だろうが、メジャーなものが手に入るようになると、やがては飽きてくる。そう考えると、日本の埋もれた名品を知ってもらうのはもちろん、そこでしか体験できない「コト消費」にも目を向ける。さらにモノやコンテンツの新たな運用や組み合わせを行う「トキ消費」も注目される。体験型の消費に外国人も積極的に参加してもらうことだ。別に難しく考え、ハードルを上げることはない。要は「日本でどんなことを楽しみたいですか」と聞けばいいのだ。

 すでに東京などでは、インバウンド向けに日本の伝統芸能や文化を体験したり、自然や四季を満喫したりするなどの活動が行われている。例えば、レンタルした着物での街歩き、茶道や日本舞踊、和菓子作りなどの体験、伝統的な祭事への参加などだ。さらに訪日外国人が日本に定住するようになると、地域とのつながりは欠かせない。当然、コト消費が促進されていく。従来は旅行企画の一部だった娯楽や余暇を日々のライフスタイルに組み込んでいけばいいのだ。日本の各地にはいろんな「コト」がある。日本人には当たり前でもあっても、外国人にとっては未体験。それを掘り起こして消費に結びつけることも顧客化の一つになる。



 一地方百貨店では難しいだろうから、自治体や商工会議所などと組んで実施していくことが必要になる。もちろん、外国人のウォンツを引き出すには、百貨店の外商スタッフが御用聞き的な形で、積極的にコミュニケーションをとっていくことが不可欠だ。これは大都市、地方を問わず、百貨店が外国人の需要を喚起する上では重要なはず。そうして声を集めて精査し、できるかどうかの検討を進める。全てが実現可能ではないと思うが、外国人を顧客化する上では各自に対するマーケティングが不可欠になる。地方百貨店が生き残る上でも重要だ。

 地方百貨店が外国人を顧客化できれば、地域の専門店や個店も続いていけるのではないか。アプリやスマートフォン決済などインフラ整備には限界があるが、QR決済くらいのサービスは地方でも進んでいる。あとは個店レベルで訪日外国人にどうアピールしていくか。韓国人のように自らいろんな店舗や業態を探し歩く外国人もいるが、中国や台湾、香港などの人々はそこまで成熟してはいない。だから、百貨店ほどの知名度がなければ、業種、業態ごとの店舗情報を網羅したアプリの開発が必要だろう。「こんなテイストの商品を扱っているお店は」「このブランドが買いたいけど、どこに行けばいい」「外国人にも気軽に対応してくれるところは」「この街らしいカルチャーは」等などと、検索機能を充実させていく。

 個店レベルでのアプリ制作は厳しいから、自治体や商工会議所などが支援していくことも必要だ。ブランド購入、サービス拡充、モノからコト消費へ。さらにコト消費からトキ消費へ。モノやコンテンツを買って、どうやって生かすか。モノを使っていく背景・過程を楽しむストーリーを消費することに置き換わっている。なんて意見も散見されるが、居住外国人はまだそこまで成熟はしていないだろう。ただ、百貨店を利用してきた日本人と同じ道を外国人が辿るのは想像に難くない。しかも、コトやトキの消費は、思い出や記憶という資産を生む。

 つまり、何を提供すれば、顧客としてキープできるのか。地元の隠れた魅力を掘り起こし、それを外国人にも伝えていくという視点が地方の百貨店、小売業に課されたテーマだと考える。エトランゼをお得様にするためにも。

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冬なのに春が売れる。

2025-01-22 10:20:30 | Weblog
 一昨年、昨年と12月は冬らしくなった。おかげでウールのセーターやパンツを自宅の衣装ケースから引っ張り出した。暖冬で10年ほど身につけなかったので、虫干しにもちょうどいい。その中で、偶然にも見つけたのが40年前に父親へのクリスマスプレゼントで購入したCalvin Kleinの縄あみのカーディガンだ。


 父親は寒がりだったから、冬になるとずっと着ていたようだ。家人がきちんと防虫対策をしていたので、虫食いひとつなく状態はすごく良い。色はニューヨークブランドらしく微妙な色を撚って出したアースカラー。昨今のグローバルSPAには出せない絶妙な色合いだ。手持ちの衣服では、ファッション専門店のマルセルがイタリアのメーカーに別注したジップセーター、ニューヨークで購入したアルマーニAXのセーターを超える最長記録の代物。しばらく自分が着ることにするが、改めてオンワード樫山のハイレベルのものづくりには脱帽である。

 筆者が住む福岡の寒さは1月中は続くだろう。ただ、各ブランドやストアは冬のセールに入っており、ラインナップされているのは売れ残り在庫だ。また、福岡の日差しは日に日に明るくなって、黒や茶、紺といったダークな色合いでは重たく感じる。だから、どうしても購入には二の足を踏む。プロパー、セールを問わず、新規で買うならブライトカラーが良いのだが、多くのお客も同じように思っているようで、ネット通販ではMなどの売れ筋サイズは完売が多いというのが今年の印象だ。

 もちろん、寒冷地の方々は年が明けても防寒衣料は不可欠だ。九州の人間とは感覚が違いのもわかる。そこで、2024年秋冬のメンズアイテムの中で、「売れ筋サイズ」が「完売」もしくは「欠品」しているものの中から、25年1月初旬でもこれは「買いだな」と思うアイテムをピックアップしてみた。その一例が以下である。



◯セーター ウール90%、カシミヤ10%
毛の縮れを伸ばす圧延仕上げで、肌触りを良くした。
気温が上がり始める時、インナーに着やすいラウンドネック。

◯セーター コットン95%、カシミア5%
コットンにカシミアを混紡し、柔らかさ、心地よさに加え、保温性を実現。
ファンネルネックで防寒、ジップで被りやすさを追求。

◯セーター コットン100%
秋の初霜に向けた企画。ジッパーを開けて着用することも可能。
通気性、軽量性に優れるので、春向けにもいい。

 ◯シャツジャケット ウール100%
ドレスシャツとインサレーションジャケットのいいとこ取り。
防寒のために薄手のセーターの上に重ね着できるオーバーシャツ仕様。

 他にもコートやパンツを探したが、冬物の売れ残りがほとんどだ。中でも、コートはダーク系のカラー、ウールが主体なので、この時期には購入を考えてしまう。厚手のコットンギャバを使用したブライトカラーのロングコートがあればプロパーでも買いなのだが、イメージ通りのものは企画されていない。パンツもウールとコットンを半々ぐらいにしたものが理想だが、こちらもブライトカラーは定番のコーディロイか、薄手のチノ、あとはジョガーパンツばかりで、この時期にちょうどいいアイテムが見つからない。



 逆に冬場のブライトカラーは動きが鈍いのかと思いきや、価格次第では12月中にプロパーで完売したものもあった。その一つがZARAの「テクニカルフード付きジャケット」だ。色はオフホワイト。表面は撥水性をもつテクニカルキルティング素材のポリエステル100%。デザインはハイネックで、調節可能なフード付き。サイドストレッチ素材で調節可能な裾、スナップボタン付きプラケットコンシールジップアップフロントで、防寒性をもつ。これだけの機能を持ちながら、価格が2万円もしなかった。完売したのは価格が手頃だったこともあるが、カラーやデザインの面で気候に関係なく欲しいと思わせた点もあるのではないか。

 仮に本家のマッキントッシュが企画するなら、表地は厚手のコットンにゴム引きにするようなところを、ZARAはポリエステルにして価格を抑えた点もファストファッションならではで納得いく。年明けに同系のカラー、デザイン、素材でスピンオフのアイテムが発売されるかもと期待していたら、何とcoming soonの告知でほぼ同じ仕様のジャケットが再販される。昨冬にブライトカラーがプロパーで完売したくらいだから、春先ならもっと売れるだろうと踏んだのか。最速・最短でマーケットに対応し、圧倒的な価値創造をできるインダストリアルSPAのZARAだからこそできることだ。


気候激変で悩まされる冬場のMD

 昨年の末だったか、某テレビ局の情報番組が「年末セールと新春セール、どっちで買うのがお得か」というテーマで、商品カテゴリー別の購入メリットを紹介していた。そこで、衣料品は「新春セールの方がお得」だった。理由はメーカー側が「季節商材は2月中に売り切りたい」、「12月よりも1月をより安く販売するから」だった。動きの悪い商品はまずマークダウンして様子を見ながら、それでも売れなければセールにかけるのだから、当然と言えば当然だ。ただ、セールにかかる商品にはそれなりの理由があることも確かなのだ。

 消費者の立場なら何でも言える。だが、メーカーは生地の手配からデザイン、縫製まで計画しなければならない。大変なことも理解しているつもりだ。ただ、これだけ暖冬が続いているのだから、秋冬物の企画を抜本的に見直さなければならないのではないか。特に2024年の冬は12月の頭でもアウターがいらない好天、高気温の日が続いた。もちろん、秋冬物が全く必要ないというわけではない。素材、色を見直し企画を変えて年末から年明け、梅春までプロパーで引っ張れるものにシフトした方がいいのではないかということである。

 秋冬物は春夏に比べると、単価が高く収益のアップに期待できる。そのため、メーカー側も肉厚のヘビー商材に注力するのはわかる。ただ、こう気候が異常に推移してしまうと、シーズン商品が消化できなければ現金化を優先するあまりマークダウンやセールにかけざるを得ない。だが、それはプロパーでは売れていない商品だということ。お客の側も暖冬で着る機会がないから購入を控えるわけだし、12月に入ると尚更セール待ちになってしまう。それでも、年が明けて日に日に春らしくなるとダーク系の色や厚手のオーバーコートは着る機会は限られるので、プライスダウンでも購入にはなかなか結びつかないと思う。

 12月後半のセールを見ると、各メーカー、各ブランドとも割引されているのは、外した素材、色、企画がほとんどのように見える。業界でも投入時期の見直しが叫ばれ始めている。2024年の夏は猛暑だった。そのため、セール期間を短縮したり、着る期間が長い盛夏向けをプロパーで販売するなど、修正したところもあった。それでも、セール期間中にどんなプロパー企画の商品を投入するか。また、いくらで売るのかなどで、メーカー側にも迷いがあるように感じた。

 夏と違って冬のセールは、ブラックフライデーに始まりクリスマス、初売りとシーズンを通して長丁場で仕掛けが続く。言い換えると、気温が高めに推移する中では買いたくなる商品がなければ、ただダラダラしてシーズンが過ぎていくような感じさえする。1月、2月には中軽衣料の新商品を投入する必要があると言われるが、秋冬物を外したのであればその後に企画する商品はなおさら難しくなるのではないか。「また外したらどうなのか」「本当に鮮度アップできるのか」と、不安がつきまとうからだ。



 ならば、思い切って厳冬素材や冬色の比率を抑えても良いのではないか。大手アパレルで難しいなら、中小は大胆に大手がやらないようなMDにシフトするのどうか。11月から2月末までを冬季とした場合、色(ダーク系)や素材(厚手・ウール100%)のアイテムは2割、ブライト系、中厚、コットンウール混紡、カシミア、コットン100%(厚手)は8割とし、冬季シーズンを引っ張るというものだ。ある意味、ドラスティックなやり方かもしれないが、そのくらい覚悟を決めたMDに見直さなければ、市場は反応しないのではないかと思う。

 2025年1月初旬で完売したものやサイズ切れしているものから判断すると、条件はカラー、素材、アイテムである。カラーは明るめのホフホワイトや生成り、サンドベージュ、ペールブラウンなどだ。素材はウールとコットンの混紡などで、ウールのバランスを抑えたもの。それをカシミア混にするなら保温力とコストを加味して5%混紡くらいでもいい。そして、1月、2月の新商品はコットンの比率を上げていけばいい。アイテムは単品のニットやパンツ。軽めのハーフコートやフード付きのジャケット。レザーなら思い切ってホワイト系やブライトカラーもありだろう。

 アパレル業界はかつて顧客向けに12月に春夏コレクションを開催して受注を取ったり、店頭でもクリスマス明けから「梅春向け」の商材を少しずつ展開していた。ただ、これだけ冬物商戦が不発に終わり、尚且つ短くなっていることを考えると、前倒しというかシーズン一環で堂々と展開してもいいのではないか。そして、純然たる冬物より「春色、暖冬素材を長く着よう」という少し行き過ぎたくらいの売り方の方がお客には響くかもしれない。実際、筆者が見る限りでは、2025年1月初旬の段階で、春色の冬物で完売しているものは意外に多い。かなりの消費者がそう感じているという証左だ。

 夏から続く猛暑、高気温、暖冬を想定したプロパー販売に耐えうる商品企画とMD構築。そのためにはカラー、素材、アイテムがキーになるからから、価格はどんなバランスでどう設定するか。もちろん、デザインはいうまでもないのだが。シーズン商品が完全に変わったと思わせるようなものの登場に期待したい。

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身勝手は盗まれる。

2025-01-15 07:07:43 | Weblog
 ちょうど1年前だったか。政府はネット通販などで注文した商品を「置き配」で受け取る利用者へのポイントを通販事業者に与えると、発表した。トラックドライバーの時間外労働時間が年間960時間を上限に規制する「2024年問題」に備え、運送事業者の負担になる再配達を削減する狙いからだった。このコラムではその課題についても書いた。(http://blog.livedoor.jp/monpagris-hakata/archives/56002153.html



 筆者が懸念したのは置き配に指定した荷物の「盗難」だ。自宅を置き配に指定する場合、戸建住宅では玄関前に荷物が置かれると、無防備なことから盗まれる確率が高くなるからだ。ドライバーがファスナー付きの宅配BOXに収納していても、過去にはBOXごと盗まれたケースもある。オートロックのマンションでも、別の住民が入口ドアを開ける時に、窃盗犯がすれ違いで入ることはできるし、非常階段の塀を乗り越えれば侵入できるマンションもある。このことからすでに置き配の盗難被害が出ていると指摘した。

 筆者は宅配ドライバー風の窃盗犯らしき人物が事務所マンションの非常階段に潜んでいたところに鉢合わせしたことがある。名札は付けず、伝票や業務端末、小型プリンターも一切携行していなかった。窃盗犯であっても、姿形が宅配業者風なら盗んだ荷物を持っていても、すれ違った住民は荷物の受け取りか、不在または誤配かとしか思わない。という実体験をもとに盗難のリスクを取り上げた。

 最近ではマンションからオフィスや店舗、戸建住宅までに防犯カメラが設置されているが、窃盗犯が堂々と犯行に及ぶのはテレビニュースでも枚挙にいとまがない。映像は容疑者が逮捕・起訴されると裁判の証拠になるが、犯罪の抑止力としてはあまり機能していない。率直な感想を書いた。

 ところが、政府の置き配の推進からちょうど1年。筆者の懸念は現実のものになっている。11月のブラックフライデーから年末商戦にかけて、宅配便の置き配が増えるに従って盗難も増加していると、テレビ各局が報道した。その中には筆者が取り上げなかった新たなケースもあった。それが以下である。

◯ガスメーターボックス内への「置き配」を指定
→帰宅後、ガスメーターボックスを開けたが荷物は見当たらない
→宅配業者が提示した配達時の画像には確かに荷物が置かれた様子が写っていた。
→通販サイトに相談しても対応を断られた

◯30代の女性はフリマアプリを利用しネックレスを販売
→荷物を発送し、スマホの画面に配達済みと表示された
→購入者から受け取り評価のメッセージが届かない
→置き配指定で盗難に遭い、商品を受け取っていないと
→受取連絡がないと取引未完了で入金なし

 国民生活センターによると、置き配荷物の盗難相談はコロナ禍の2020年から増え始め、現在では増加傾向にあるという。だが、窃盗犯が検挙され商品が戻ってくることはほぼないとか。すでに2023年度で東京都内で置き配が盗難に遭ったケースの相談は、何と368件。このうち、盗難保険の補償によってトラブルが解決したケースはわずか5件だった。仕方ないと相談しないケースもあるだろうし、全国規模で見ると相当数が盗難に遭っていると考えられる。

 置き配荷物が盗難に遭った場合の保険も万全ではない。ヤマト運輸、佐川急便、日本郵便の宅配大手3社のうちで、盗難保険を用意しているのは日本郵便だけとなっている。ただ、1事故当たりの支払い限度額は1万円(送料、消費税および使用ポイント分を含む)というから、それを超える分は補償されない。しかも、補償を受けるには被害者が盗難の証拠を集めて、警察に被害届を提出することが前提になる。だが、警察でも盗難かどうかを判断しにくいため、被害届を受理しないケースがあるという。



 あるマンションの住人男性は玄関前の置き配が何度も盗難に遭った。そこで犯人を捕まえようと「架空の荷物」を玄関前に置き、位置情報を検索できる器具を貼り付けた。その荷物も盗まれたが、位置情報が同じマンションで、窃盗の容疑者は同じマンションの住人だったのだ。その後、男性は警察に相談し、商品は手元に戻ったそうだ。ただ、警察が窃盗事件として捜査したのか。荷物が戻ってきたのは警察が容疑者を逮捕したからか。このケースを報道したテレビ局は商品が戻った詳しい経緯には触れていない。

 大手宅配事業者が導入した置き配は、指定された場所に荷物を置いた時点で宅配完了となる。ドライバーは荷物の写真を撮って、その添付データと宅配完了の旨を荷物の受取人に送付する。だが、写真を添付しないで配達完了メールだけを送る業者もいるというから、荷物が盗まれたのか、誤配されたのか、わからないケースがある。警察は荷物が確実に配達された証明がなされないと盗難届は受理しないから、荷物の受取人としては厄介なのだ。

ポイント付与よりも法整備を急ぐべき

 そもそも置き配が導入された背景には、ネット通販などで再配達が増える中、ドライバーの残業時間を規制する2024年問題がある。本来なら宅配事業者、ドライバーにとっては救世主となるはずだったが、ここに来て盗難などのトラブルが増えていることは、制度自体に欠陥があると言わざるを得ない。問題を整理してみよう。

荷物受取人:置き配指定
宅配事業者:配達完了(写真添付メールの送付)後
フェーズ1 荷物盗難  置き配後に何者かが盗む→受取人は確認できない
フェーズ2 宅配業者  盗難保険→日本郵便(補償額最高1万円)
フェーズ3 宅配業者  ヤマト運輸・佐川急便→原則補償なし 
フェーズ4 警察    要証拠提出→盗難届→受理
フェーズ5 通販事業者 商品を再配送する場合も(盗難届が条件)

 上記のフェーズ1~5を考えると、置き配の荷物が盗難に遭うと戻ってくるケースは極めて少ないと言える。さらに警察に被害届を出しても受理されなければ捜査はされないし、通販事業者からの再配送もないのだから、利用者は泣き寝入りするしかないのである。そうなると、窃盗犯の思う壺で、置き配荷物の盗難はさらに増えることが予想される。

 また、送り状に書かれた氏名、住所、電話番号といった個人情報が流出する恐れがあり、ストーカーなどの犯罪に発展する可能性があると指摘する専門家もいる。通販事業者や宅配事業者は置き配荷物の盗難は受取人の自己責任だとすることはできても、凶悪犯罪が発生するようなことがあれば、企業としての姿勢が問われるのは間違いない。置き配を推進した政府も、制度を見直して法改正を進めなければならないのは確かだ。

 考えられる対策は盗難団体保険の強制加入である。商法の第三編第十章第三款では「運送保険」が規定されている。ただ、この保険は「運送される運送品の運送中に生じる損害(火災・盗難・破損・水ぬれ等)を補填するもの」で、置き配のように荷受人宅に到着したケースでは適用外となる。そこで、この法律に特例を設けて拡大解釈するか、新たに別の盗難保険を設けるかである。保険の場合、通販サイトの会員で置き配を選択したものを被保険者とし、保険料の支払いを義務付ける。徴収は通販事業者が購入時に商品代金と一緒に行えばいい。

 盗難被害者が位置情報を検索できる器具を貼り付けて自ら捜査し商品を取り戻したケースもあるが、器具の貼り付けを通販事業者に義務付けるのはコスト面から現実的ではない。位置情報の履歴が残るにしても、窃盗犯が器具を取り外すことも考えられる。そもそも警察が位置情報を元に捜査してくれる確証はない。できるとすれば、宅配BOXごと盗まれることを前提に器具を取り付けるくらいだ。ただ、それを義務化するには時間を要するし、どこまでの利用者が取り入れるかは未知数。警察が捜査に乗り出すにしても法改正が不可欠になる。

 2023年の国内の犯罪情勢は、刑法犯認知件数が前年比17%増の70万3351件に上り、2年連続で増加した。自転車盗や傷害などの街頭犯罪は24万3987件に上り、前年から2割も増えている。新型コロナウイルスの感染が収束し、人流が戻った影響から治安が悪化したと見られる。そんな中で、置き配荷物の盗難は事件化されないケースがほとんどだから、これらを加えると街頭犯罪は有に30万件を超えるかもしれない。置き配が犯罪を助長していると言っても、決して言い過ぎではないだろう。



 置き配で盗難に遭う荷物の大半は、通販サイトで購入した商品だという。ほとんどが未使用で、転売可能でもあるから、窃盗犯が自ら使用したり、換金目当てで犯行に及んでいると考えられる。また、通販事業者によっては、AmazonやZOZOTOWNといったロゴマークが印刷された宅配段ボールを使用している。これも中身が想像できるため、窃盗犯を犯行に駆り立てやすい。まさに「盗んでください」と言っているようなもので、ブランディングが仇になっているということだ。

 ここからは炎上も覚悟の上で私見を述べる。日本は法治国家だから、物品の売買には法律が適用される。通販も同様で配送が伴うため、運送契約が結ばれる。そこでは運送人(宅配事業者)が運送品(荷物)を移動する約束をし、荷送人(通販事業者や出店者)がこれに対し、報酬(運賃)を支払うことを約束する。運送状(送り状)には、物品の内容到達地荷受人(物品の購入者や受取人)、運送状の作成地、作成年月日を記入する。運送人はこれが運送準備の助けとなり、荷受人は到着品との照合、運賃の確認ができるのだ。



 宅配事業者は荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関し注意を怠っていないことを証明できなければ、荷物の滅失(なくなる)、毀損(傷つき壊れる)又は延着(遅れる)した場合は、損害を賠償しなければならない。言い換えると、宅配事業者は注意を怠っていないと証明できれば、損害を賠償しなくていいのだ。その他、宅配に関する細かな取り決めは、各事業者が定める運送約款に規定されていて、通販事業者や出店者が宅配事業者と運送契約を結んだ時点で、それに従わなければならない。当然、受取人も約款に縛られることになる。

 通販では受取人が置き配を承諾した以上、ドライバーが荷物の写真を撮ってそのデータと宅配完了の旨を荷受人に送付すれば、配達は完了したと看做される。宅配事業者は置き配でも荷物の受け取り、引き渡し、保管及び運送に関して注意を怠っていない=物品を受取人宅まで届けて写真を撮影しメールで送付したのなら、荷物が盗難になってもその責任は問われないと解釈される。それが法的な根拠なのだから、通販事業者は荷物が盗難にあっても運送業者に損害賠償を請求できない。つまり、物品の購入者や受取人も補償してもらえないのである。

 ヤマト運輸は2024年の10月28日から11月11日に公式LINEユーザーを対象にアンケート調査を実施した。それによると置き配を選択する理由は、「ドライバーに何度も来てもらうのは申し訳ない」が9割近くを占める。以下、「家にいなくても荷物を受け取りたい」「荷物が届くまで待たなくていい」「再配達の依頼が面倒」と続く。他にも「仕事が忙しくて、指定した時間に受け取れない」「部屋着で会いたくない」などがある。しかも、置き配利用のうち、4人に1人は在宅しているにも関わらず置き配を利用しているとの結果が出ている。



 ドライバーに何度も来てもらうのは申し訳ないというのは、おそらく建前だろう。仮にそんな気持ちでいるのなら、コンビニや営業所でも受け取ることもできるはずだ。しかし、そこまでしないところに、在宅・対面で受け取るのが面倒という本音が透けて見える。仕事が忙しいとか、部屋着で会いたくないとかも、受け取る側の都合でしかない。運送契約では荷受人が指定した時間に荷物を受け取り、本人確認のサインをすることで契約が履行される。それを自己都合、勝手な理由で行わないのなら、盗難に遭っても自己責任と言わざるを得ない。百歩譲って荷物の盗難を防ぎたいのなら、受取人が保険など応分のコストを負担すべきなのだ。

 法整備、運送約款の見直しということでは、置き配では戸建住宅では厳重な盗難防止策を施した宅配BOXの使用を義務付ける。マンションなどの集合住宅でも複数の荷物が収納できる宅配BOXで受け取ることを条件すべきだ。戸建住宅で置き配指定にも関わらずBOXがない場合、ドライバーは置き配せずに持ち帰る。マンションのBOXがフル収納の場合も同様だ。そして、置き配指定で持ち帰った場合の再配達は行わなず、受取人に営業所(PUDOなど)まで取りに来てもらう。生鮮品は期限まで保管するが、それを越えても受け取られない場合は廃棄する。通常配送における不在も再配達に要望は受けるが、再び不在の場合は同じ仕組みにする。



 運送契約、運送約款という法律を改正し、荷物の受け取りに関しては厳格化する。当然、それに違反した場合は当然ペナルティを受けるのだ。ZOZOTOWNの元社長、前澤友作氏風に言えば、「無防備で無事に届くと思うんじゃねえよ」である。大切なことは、荷物が安全に受取人のところへ届くこと。そして、できる限り効率の悪い再配達などを避けてトラックドライバーの負担を減らすこと。そのためには、通販事業者、宅配事業者、受取人の三方が負担しなければならないことがあるのだ。

 政府も置き配荷物の盗難が増えていることを注視する必要がある。通販事業者に対する上限5円分(1回あたり)の補助よりも、盗難による損失の方がはるかに多いことを考えれば、制度設計の見直しや法改正に取り組まなければならない。身勝手は盗まれるということ。2024年問題は解決していないのだから、対策が急務なのである。

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ふところを掴む戦略。

2025-01-08 07:01:04 | Weblog
 付き合いが長い専門店系のアパレルがある。そこの社長が年末年始の休みを利用して、九州にやってきた。メールではやり取りをしていたが、直にお会いするのは2年ぶりだ。奥さんと二人で初めての九州旅行。かつてJRが国鉄時代に始めたフルムーンのキャンペーンはすでに終了したので、自らネットを利用して交通手段や宿泊先を手配した催行といったところ。お二人とも東京生まれの東京育ちだから、地方に住んだことはない。社長は展示会や商談で地方に出張することはあっても、2、3日で東京に戻ってしまう。お二人とも海外旅行は何度かあるが、国内をゆっくり巡ったことはなかったようだ。

 今回の旅行はまず、大晦日に宮崎に飛び、新年を迎えた。2日目は鹿児島の霧島、3日目は熊本の阿蘇で、それぞれ温泉を満喫。4日目、5日目は「福岡に立ち寄るから、会おう」とのことだった。福岡には美味しい食べ物が多いのは、お二人ともご存じのご様子。それも楽しみにされていたようだが、会うとどうしても仕事の話になってしまう。再開発事業の天神ビッグバンや博多コネクティッドの完成後、「福岡の街がどう変貌し、それに沿ってアパレル事業者はどう動くのか」。それは自分たちメーカーにとってメリットなのか、それとも否なのか、気になっていらっしゃるようだ。



 こちらの答えは、「何とも言えません」である。確かに西日本鉄道の本社でもある旧福岡ビルが取り壊され、隣接する都市型SCの天神コア、天神ビブレも解体された。跡地には今春、大型複合施設「ONE FUKUOKA BLDG.(以下、ワンビル)」が開業する。コアとビブレの延べ床面積は合計で約24万平方メートルだった。それだけの売場が再度登場すれば、出店するところも相当数に及ぶだろうから、アパレル業界の期待も高くなる。ところが、西鉄本社から発表されたワンビルのフロア概要とテナント構成では、都市型SCの機能も持たせ、アパレルを一堂に集める計画は示されていない。だから、こちらとしても何とも言えないとしか答えようがなかったのだ。

 ワンビルの商業&サービスのフロアは以下
 ◯地下2階 b!olala(ビオラ♪ラ♪)イオン九州 オーガニック&ナチュラルストア
 ◯地下1階  iiTo TENJIN /天神のれん街
 ◯1階 CHANEL 福岡天神ブティック(~3階)/THE CONTINENTAL ROYAL&Goh
 ◯2階 NIKE FUKUOKA TENJIN/Maison Kitsuné /Café Kitsuné
 ◯3階 SPIRAL GARDEN /中川正七商店
 ◯4階 福岡天神蔦屋書店 スノーピーク ワン・フクオカ・ビルディング
 ◯5階 天神福食堂

 ワンビルはビジネス都市のランドマークとなるべく、オフィスやコアワーキングスペースなどを充実させホテルを合体するなど、ビジネスマンの利用をメーンとしている。だから、若い女性が好むアパレルなどのテナントは誘致していないのだ。こうした手法は東京の大手町、日本橋界隈の再開発ビルに倣ったとも言えるが、天神ではコアやビブレの解体前からすでにアパレルはオーバーストア気味だったから、オーナーの西鉄としては両館が無くなってもテナントビジネスでは、それほど困らないとの判断だったと思う。



 ワンビルの東南側では目下、天神ビジネスセンター2が整備中だ。こちらは以前にMMTビルがあったが、メーンのテナントは書店や文具、飲食、雑貨でアパレルはなかった。再開発ビル概要の用途は事務所、店舗、駐車場等なっているが、詳細はわからない。同南側のイムズは多数のアパレルテナントを抱えていたため、2026年12月の新生イムズでもアパレルが出店するとは思われる。概要では用途は事務所、ホテル、店舗、駐車場と発表されているだけで、こちらも詳細は不明だ。開業予定まで2年を切ったから、各テナントとの出店交渉が始まっているのではないかと思われる。



 天神ビッグバンでは他にも再開発中のビルが3つある。これらも計画ではオフィスや店舗などのテナントが入るようだが、大々的に商業フロアを確保してアパレルを誘致するような計画はないと思う。天神には百貨店が岩田屋、福岡大丸、福岡三越と3つ、大型専門店のバーニーズもある。都市型SCは3館が解体されてもミーナ天神、福岡パルコ、ソラリアステージ、ヴィオロ、ソラリアプラザが残る。そして商店街が天神地下街と新天町。さらに天神西通りにはファストファッションを含めた海外ブランドが並び、大名や今泉、警固のストリートにも路面のアパレルショップがひしめく。

 店舗単位で出退店、新陳代謝はあるが、再開発ビルに大々的なアパレルのフロアが求められるとは思えない。天神西通りには無印良品の旗艦店ビルがあったが、それも撤退したくらいだ。とすれば、新しいビルが次々とできても、リーシングされるテナントは各ビルを利用するターゲットに即したものになると思う。アパレルが仕掛けるにしても、何が必要とされるのかをじっくりリサーチして、作り込むなり編集するなりしないと難しいだろう。来福した社長には、「東京もヒルズシリーズでは業態も変化しているでしょ。福岡も多分同じようになるのではないですか。ただ、売れるとは限りませんが」と答えた。

テイストやデザインで誘客は難しい。ならば…

 メーカーの社長も熟慮されていらっしゃるようだ。このままアパレルを続けて後任に譲るべきか。別の事業にも進出し多角化すべきか。いっそのこと、無借金のうちに事業を閉じるべきか。アパレルを続けるにしても、マーケットは完全に成熟している。どうやって生き残っていくか、期することもあるようだ。「お客さん(顧客)のニーズに対し、さらなる価値(企画デザイン)を提供する」「バリュ(価値)に対する価格をお客さん(顧客)示す」「企画デザインや営業に注力するための人材(部下)を育成していく」と、今年はこの3つのテーマに取り組みながら、ビジネスを修正していかなければならないと仰った。



 福岡の再開発が進めば、アパレルの市場が広がると期待する反面、市場の成熟は加速度的に進んでいると、社長は感じていらっしゃるようで、当方の何とも言えないとの答えもある程度は予測されていたようである。デジタル面の整備を進める中で、数年前からはデジタルトランスフォーメーションにも取り組み、単に取引先のバイヤーや販売スタッフの声だけでなく、直に服を着るお客さんの要望なども吸い上げるようにしたという。福岡を含めた大都市圏を除き、地方の市場縮小は避けられない。

 既存のお客さん(顧客)に対し、これまで以上の接点を設けて、さらに上のバリュを提供するためには、「お客さん(顧客)が年収の中で消費にどれくらいの金額を費やすのか」「その中で服飾の比率はどのくらいの額になるのか」「その金額が今後も維持されるのか」「縮小していくのかを見極めながらものづくりを進めていかないと」「お客さんもふところ具合を考えながら物を買っていくはずだから、そこに今後も食い込んでいけるかだよ」と、社長はポジティブな考えを示された。心の中ではそれができなくなれば、ビジネスを畳むしかない。話す言葉の端々にそんな覚悟も見え隠れする。



 価格の安いアパレルはいくらでもある。だから、普段着使いの服にはそこまでお金をかけなくてもいいと考える。だが、ある一点だけにはお洒落したいとか。着るとテンションが上がる服が欲しいとか。TPOを考えた時に着る服にはこだわりたいとか。そんなお客さんがいるのも確かで、そこに年齢軸はない。お客さんの気持ちを捉えた服作りをしないと、自社の価値は提供できないというのが同社のスタンス。社長は常々、それを極めていきたいと仰っていた。言い換えれば、お客さんが服を買う時に高揚する気持ちや服を着る楽しさ体験を創造できることを自社の価値にしたいのだ。

 この考え方はオーバーストアが指摘される大都市の小売業にも共通するような気がする。こんなブランド、こんなセレクション、こんな編集で行くから、結果としてこんなお店になった。従来の店舗価値はこうだったが、それはあくまでお店側の理屈でしかない。自分が着たい服を探しているお客さんには店側の論理など通用しない。購入手段がいくら増えようとも、お客さんは着たい服を揃えていそうな店に行き、買いたいものが見つかれば買うし、そうでなければ買わずに店を去る。これはネット通販でも同じだろう。お客さんは急激に成熟し、アパレル、いわゆる服を買うという行動はここまで変化してきているのだ。

 時代とともに変化したお客さんの買い物行動。アパレルにしても、小売りにしてもこれをしっかり捉えておかなければ、生き残っていけない。もちろん、そこには注力するための人材を確保し、育成していかなければならないのだが。そして、都市が拡大したからといって、並行して市場が広がる=店を出せば売れるということはもうないと言える。それよりも、本当にお客さんが買いたいと思えるものをいかに提供するか。お客さんのウォンツに向き合い、お客さんに選んでもらえる服作りがアパレル受難の時代に生き残るカギになるのではないか。

 年始早々にアパレルの社長にお会いしていろんなお話をし、有意義な時間を過ごすことができた。自戒を込めて今年のテーマにしなければならない。

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自由だから、売れる。

2025-01-01 08:05:59 | Weblog
 新年最初のテーマとして良いかもしれない。2019年にリニューアルオープンした渋谷パルコの快進撃とパルコ地方店の課題についてだ。新生渋谷パルコは開業時点で200億円の売上目標を設定したが、新型コロナウィルスの感染拡大による外出自粛で出鼻を挫かれたものの、23年2月期には229億円と対目標値二ケタ増。さらに24年2月期は359億円と対前期比57%の大幅増を達成し、一人勝ちの様相だ。このペースが続けば、来期も対前期比プラス100億円をクリアするかもしれない。

 新生渋谷パルコは商業部分が地上9階(10階は一部)、地下1階。延床面積は約4万2000㎡。テナント数は192店で、2019年11月22日に開業した。令和の時代に相応しい次世代の都市型ショッピングセンター(SC)を標榜し、ファッションからアート&カルチャー、エンターテインメント、フード、テクノロジーまでの5つの要素をミックスして一つの館を作り上げた。中でも新たに加わったテクノロジーとは買い物のスタイルを進化させたもので、それらを活用する戦略は以下の3つを軸とした。



 ◯デジタル技術を活用したオムニチャンネル対応の売場「CUBE」
 ◯売場面積130坪に10坪程度の小型店11店舗を集積
 ◯品揃えは限定商品や戦略アイテムに限り、EC購入に軸足を置く

 快進撃の背景には、CUBEで導入されたショールーミングやクリック&コレクト。ここにしかないブランドやわざわざ見に来てもらう品揃え。尖った商品を扱うショップを集積したがゆえに面を広げるために小ぶりにしたことがある。実店舗を集めたのは、渋谷パルコにしかないからわざわざ来てもらうのと、限定商品や戦略アイテムを揃えるがゆえに「現物」を見て、「商品」に触れてほしいということだ。

 渋谷は国内外から多くのお客が訪れる。だが、遠隔地からの場合はそう何度も訪れることはできない。だから、パルコで見つけた商品が気に入った場合、再度訪れなくてもECで購入できるのはお客にとってのメリットだ。さらに限定や戦略がつく商品は、店で直に見てもらわなければ衝動買いを誘えないし、お客がこうした商品の現物を見てその時は購入しなくてもECで購入できるなら、その後に販売に結びつく可能性は格段に高くなる。こうした手法が渋谷を訪れる外国人にも響いているようで、渋谷パルコの2024年2月期の売上高に占めるインバウンド取扱高は32.1%で、パルコの中ではダントツだ。

 元々、パルコは渋谷という立地で誕生し、先端ファッションの情報発信、斬新なテナントの孵化器という要素が相まって、若者に対する絶大なブランド力を発揮した。2000年代にはその威光に翳りが出た時期もあったが、大きく羽ばたきたいと願うファッションブランドや新業態は、テストケースを含め「出店するならまず渋谷パルコ」というスタンスは揺るがなかったと思う。新生パルコの1階で展開される海外ブランドは別としてCUBE以外の各ショップも、パルコに店を出すからこそバリュをあげられるという思いは強いはずだ。

 もっとも、10数年前には若者マーケットの捕捉を目指すJフロントリテイリングとイオングループの間で、パルコ株の激しい争奪戦が繰り広げられた。結果は前者が2012年3月、株式の33.2%を取得して持分法適用子会社化し、8月にはTOBで株式を追加取得して連結子会社化。19年12月27日から20年2月17日にもTOBを行い、1株1850円で取得して完全子会社化した。パルコに8%を出資していたイオングループも、TOBには賛同している。

 都市型SCのビジネスモデルは土地を確保して器を作り、開発コストはテナントに按分した保証金で賄い、情報を発信して広域から集客し歩率家賃で稼ぐもの。しかし、新規開発には時間を要し、開業しても順調に収益を上げられる保証はない。ならば、既存の企業を手っ取り早く買収すれば良い。Jフロントリテイリングもイオングループも考えたことは同じだ。

 ただ、買収劇から十数年、パルコを取り巻く環境は激変した。JR東日本が運営する駅直結のルミネは24年3月期の全館売上高が過去最高を記録し、同アトレは2024年度上半期の売上高が目標を超える好業績で推移している。JR西日本のルクア大阪も24年度の全館売上高が1000億円台になる見通しだ。大手百貨店は小売り事業を縮小し、不動産活用や都市開発に重点を置くSC化を進める。パルコとしては若者層を捉えることが生き残りのカギになるが、それが順調に進むかは予断を許さない。



 ただ、渋谷パルコに限って言えば、バランスシートの数値では測れない格と文化をもつ。それは新生渋谷パルコにも受け継がれており、売れているテナントやニーズがあるブランドを誘致する他の都市型SCの正攻法とは一線を画する。渋谷パルコは「このブランドが時代を切り拓く」と考えれば、アバンギャルド、マニアック、カルトなどのテイストに関わらずインキュベーションに全力をあげる。

 また、好調の背景には注力する販促が奏功した面もあるようだが、それとシンクロしてニンテンドーやポケモンといった海外でも人気のキャラクターを扱うテナントが、多くの訪日外国人を集客していることもある。つまり、コンテンツにこだわり、売上げはあくまで結果という経営の自由度が渋谷パルコの格と文化を支えている。コロナ禍明けからの快進撃は、他の都市型SCにはない渋谷パルコの本質をまざまざと見せつけている。


老朽店舗は閉店、都内近郊や隣県の店舗は苦戦



 一方、地方のパルコでは開業からかなり経年した店舗で閉店が続く。津田沼店は2023年2月末で営業を終え、46年の歴史に幕を閉じた。新所沢店も24年2月で閉店し、松本店も25年2月末で営業を終える。ともに41年という長きにわたり地元に愛されてきたが、店舗が老朽化していたことでブランドから出店を敬遠され競争力を欠いていた。静岡店は開業から17年と比較的新しいものの、近年は若者を十分に取り込めず苦戦続きで、24年11月に閉店した。



 営業店舗でも、新型コロナウィルスの5類移行で人流が回復したにも関わらず、十分な売上げアップに結びつけられないところがある。Jフロントの2024年2月期業績説明資料によると、ひばりが丘店は同72億9100万円で、対前年比7.3%増。調布店は同188億5100万円で、同8.3%増。浦和店は同284億4000万円で、同10%増。3店とも前年よりは伸びてはいるが、札幌店(35.5%増)、仙台店(15%増)、福岡店(23.5%増)に比べると、明らかに見劣りする数値だ。



 池袋店は2023年2月期の対前年比が28.7%増だったが、24年2月期は21.5%増と伸びは鈍化している。錦糸町店も同25.4%増から同19.7%増と、同じ傾向だ。売上高に対するインバウンド取扱シェアも渋谷店が32.1%と3割以上を占めるのに対し、池袋店はわずか6.4%と大きく水を開けられている。福岡はアジアからの訪日外国人が圧倒的に多いが、福岡店のインバウンド取扱高シェアは8%と意外に低い。やはり都内近郊や主要都市にパルコがあっても、訪日外国人を含め若者は「行くなら渋谷パルコ」派が圧倒的に多いという証左ではないか。



 福岡店は2024年2月期の売上高は243億7100万円で、対前年比は23.5%増と、地方店では札幌(売上高135億2200万円、対前年比35.5%増)、仙台(同199億600万円、同15%増)、広島(同132億2500万円、同10.9%増)を引き離している。再開発プロジェクトの天神ビッグバンにより、競合店の天神コア、天神ビブレ、イムズが解体されたため、残存者利益を享受している面もある。ただ、福岡店とて本館が入居する旧岩田屋本館ビルは建設から90年近くを経過し老朽化が激しい。周囲の西鉄福岡駅ビル、新天町と一体で再開発が計画され、26年にも解体が始まるとの観測だ。工事が始まると、数年は休業しなければならない。

 熊本店は23年4月、パルコ運営のHAB@(ハブアット)にリニューアルした。熊本では17年に都市型SCのココサ、19年にバスターミナル直結のサクラマチ熊本が開業。JR九州も熊本駅にアミュプラザ熊本の建設を進める中、パルコは19年2月28日、入居ビルの建て替えを理由に熊本店を20年2月末で閉館すると発表した。その後、HAB@は先行する3店に有力テナントを奪われてしまい、外食、サービスを主体とした3フロアへの縮小を余儀なくされた。そのため、パルコから出向する店長はおかず、社員が東京本社からリモートで店内をチェックするなど、定期出張だけに止めて運営コストを削減している。

 都市型SCはテナントの歩率家賃で稼ぐのだから、デベロッパーの収益はテナントの数とその売上げに比例する。HAB@のようにテナント数が少なければ、運営のコストダウンを図らなければならない。それでも、パルコが地方店を次々と閉店しているのは、地域によっては規模を縮小しても採算が合わないとの経営判断ではないか。その意味で熊本のHAB@は例外だが、地方店を存続させる目的では試金石になる。

 今後のパルコを見ると、大都市と地方で格差がつく可能性は高い。渋谷パルコは今後も新ブランド、新業態の孵化器として都市型SCの頂点に君臨していくだろう。都心部、主要都市の店舗も足元商圏が広いことから有力テナントさえ集められれば、集客力を発揮できると思われる。だが、地方店はそうはいかない。足元の人口減少が続いているし、ショッピングならネット通販で事足りる。単なるSCという位置付けならパルコより後に開業した店舗の方がテナントリーシングでも優位だ。

 パルコ側が地域に即した対応をすると言っても、老朽化した店舗は再開発しなければならない。仮にオーナーなどがビルの建て替えを行なったにしても、従来のような地下1階、地上8階というフロア構成のままで再入居するのは難しいだろう。マーケットの実情、競合店の状況、テナントの意向などを鑑みながら判断せざるを得ないだろう。

 ただ、SCに出店するテナントの中には、すでに顧客の加齢に合わせて店名(業態名)を変えたり、MDをエージアップして存続させているところもある。スイートテイストのヤング&ヤングアダルト業態が10年もたつと、顧客はミセスになっていくからそのミセス客を離さずにしっかり繋ぎ止めるテナントもある。デベロッパーとしては契約上の問題もあるだろうが、テナントに引き続き居てほしいのなら、柔軟な対応も必要になるのではないか。果たしてパルコがそれをできるかである。

 さらにメーンの客層である若者がどう判断するか。渋谷にあって、自由でカオスな店作りで、見るだけで楽しい。だから、いつの間にかお金を使ってしまう。それが渋谷パルコだと思う。とすれば、他のパルコが単にテナントを集めただけなら、他のSCとの違いが見えなくなる。ましてネット空間には世界中のブランド、アイテム、そしてあらゆるコンテンツが溢れている。買いものし、サービスを享受するだけならそれで十分だ。今年は改めてSCにおける実店舗のあり方、SCそのものの自由度が問われるのかもしれない。地方では特に。

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