参政党、県知事選に意欲 参院選2万票 政界に波紋 既存政党 動き注視
新興政党「参政党」の存在に県内政界で波紋が広がっている。10日に投開票された参院選沖縄選挙区で参政党公認の新人候補が2万2585票を獲得。比例代表の県内での得票率は4・65%で全国1位だった。沖縄選挙区では「オール沖縄」勢力の支援を受けた現職の伊波洋一氏(70)=無所属=が新人で自民公認の古謝玄太氏(38)に勝利したものの、その差はわずか2888票。古謝氏側に多い保守支持層から票を得たとの見方が強く、選挙結果も大きく左右したとみられる。参政党幹部は県知事選に向け候補者擁立に意欲を示しており、既存政党や政治勢力は動きを注視する。(政経部・又吉俊充)
「どう見てもウチが勝てた選挙だ。諸派、特に参政党が取り過ぎたな…」。自民・古謝選対幹部は選管最終の開票状況を確認後、結果の分析を始めた。
参政党の登場で、自民側が「割を食った」と見るのは政策の保守色が強いからだ。共同通信社の出口調査でも、比例投票で自民支持層から参政党に投票する動きが一部で見られた。
参政党は「投票したい政党がないから、自分たちでゼロからつくる」をキャッチフレーズに2020年結党。沖縄支部は今年5月に設立されたばかり。「外国人労働者の増加を抑制し、外国人参政権を認めない」「国内法を改正し、人命・国土・自由を護るための『先手』対応ができる国家へ」-。参政党のホームページを見ると保守色の濃い政策が並ぶ。オール沖縄勢力の幹部は「県知事選に向けて参政党が候補者を擁立するなら好都合。票を吸われるのは自民側の方だ」と分析する。
一方で、参政党は三つの重点政策の中に「食と環境、健康保全」を掲げ、農薬や化学薬品などを使わない農業と漁業の推進をアピール。ワクチン接種推進など政府のコロナ政策にも疑問を投げかけ、支持拡大を図る。自民支持層よりも限定的ではあったが、出口調査では無党派や左派の政党支持層からも参政党に投票する動きもあった。
インターネットを通じて支持を広げているのも特徴だ。比例代表で初当選した神谷宗幣氏がメインキャスターを務めるユーチューブチャンネルは30万人超、参政党の公式チャンネルも20万人超の登録者数を有する。
参政党の中心人物でもある神谷氏は選挙期間中、県内での演説で「参政党が国政政党になれたら、県知事を変えたい」と強調。安全保障上の観点から「沖縄は日本の特別な場所だ」と述べるなど、秋の県知事選の候補者擁立に向け意欲を示した。
党関係者は県知事選への対応について「検討中」とするが、同日の統一地方選に向けても複数の候補者擁立を進めているという。党は7月中にも各選挙の方針を固め、8月に発表したい考えだ。
振興と基地 争点硬直化
「関心薄い層」から支持か
ジャーナリスト津田氏指摘
参政党は初めて挑んだ今回の参院選で議席を獲得し、得票率2%以上の政党要件も満たした。結党からわずか2年。SNSを中心に注目を集めて全国的に支持をじわりと広げている。
インターネット放送「ポリタスTV」を配信するジャーナリストの津田大介氏は参政党について、2019年に注目を集めた時の「れいわ新選組」と似ていると説明する。
「参政党に投票した層はこれまで政治や選挙に関心が薄かった層が多いと指摘されている。沖縄選挙区では自民党的経済振興と辺野古新基地建設反対に象徴される対立が硬直化しており、既存の争点にリアリティーを感じられない有権者が一定程度いるのではないか」と分析。
その上で、新型コロナウイルス関連など参政党のいくつかの主張は十分な科学的知見が伴わず看過できるものではないとし、メディアに対して「参政党に限らず各政党の公約や主張を精査・分析し、有権者に届ける使命がある」と指摘した。
(政経部・又吉俊充)
(写図説明)参政党の街宣活動に、立ち止まって聞き入る市民ら=8日午後7時過ぎ、那覇市泉崎・県民広場(竹尾智勇撮影)
沖縄県知事選 三つ巴の戦いか 下地幹郎前衆院議員が出馬表明
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9月11日の沖縄県知事選まで2カ月を切った。現職で2期目を狙う玉城デニー氏(62)と前回のリベンジを果たしたい前宜野湾市長の佐喜真淳氏(57)が出馬表明し、4年前と同様に、保革一騎打ちとなるとみられていたが、13日になって前衆議院議員の下地幹郎氏(60)が立候補を正式表明。今後、第三極としてどれだけ存在感を示すことができるか注目される。(沖縄支局・豊田 剛)
「辺野古移設」で違い鮮明
自民、保守分裂に苦悩
オール沖縄は静観の構え
下地氏は参院選の最中は米国の首都ワシントンにいた。その滞在先で自身の動画投稿サイト「ユーチューブ」を使って知事選に出馬すると表明した。
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米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古沖への移設については反対の立場を表明。「辺野古問題に決着をつける」と強調、「自民党もオール沖縄もリアルな議論をしていない。本当の意味で基地問題を解決する役割をさせてほしい」。
具体的方策として、「埋め立て工事を止め、軟弱地盤の工事には着手させない」と訴えた。普天間飛行場の代替地については、鹿児島県の馬毛島で訓練を実施することで「3~4年以内に騒音と危険の負担を終わらせる」と話した。既に埋め立てられた場所は、「オスプレイの駐機を行う格納庫を造る」と提案した。
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ホワイトハウス前で出馬表明した理由については、「日本政府とだけ協議しては駄目で、ホワイトハウスとも協議しなければ沖縄の問題は解決しない」と述べた。
下地氏は1996年の衆院選に自民党から出馬して初当選。衆院議員を6期務め、国民新党時代には郵政改革相に就任した。2014年の同県知事選に出馬したが落選。その後、維新に移って再び衆院議員になるが、同氏の事務職員が統合型リゾート(IR)参入を目指す中国企業関係者から現金を受け取った際、政治資金収支報告書に記載しなかったことが発覚し、除名処分となった。
昨年秋の衆院選では一部の経済界に推され自民復党を画策したが、認められず、保守分裂の選挙となり、落選した。その後、すぐに街頭演説をしたり、「次期衆議院議員」という肩書きが入った名刺を配ったりするなど、次の衆院選への出馬をにおわせた。ただ、衆院解散がなければ、次の国政選挙は3年後となるため、知事選に出馬することによって影響力を保持しようとの狙いがあるとみられる。
衆院選で下地氏を支援した企業関係者は出馬について、「聞いていなかった」と驚きを隠せない。関係者によると、衆院選の時のような保守合同を求めるという大義がない分、知事選に出馬しても支援企業は少なくなる公算が大きい。
下地氏が出馬表明したことの受け止めはさまざまだ。
知事選の前哨戦となる参院選沖縄選挙区では、自民公認候補の古謝玄太氏がわずか2888票差で落選した。選挙イヤーの今年、市長選に4連勝し、衆院選で1議席増やすなど、天王山の知事選に向けていい流れできていただけに痛い敗北だった。これに輪をかけて打撃を与えかねないのが下地氏の出馬表明だ。さらに、参院選で初議席を獲得した参政党も知事選の候補者擁立を検討しているとされる。
自民党県連の関係者は「衆院選で保守分裂した結果、共産党候補の当選を許した。票が割れて勝てるはずがない」と頭を抱える。ただ、別の自民党員は、下地氏は辺野古移設反対を公約に掲げていていることから、「オール沖縄の票を奪うことになれば」と期待を込めて話した。
自民が擁立する佐喜真氏はまだ知事選の政策発表をしていない。参院選に出馬した古謝氏が辺野古移設の容認を公約に明記しているのに倣い、佐喜真氏も移設容認を掲げて選挙戦に臨む見通しだ。
一方、オール沖縄陣営は、下地氏の動きを静観する構え。玉城氏は下地氏の出馬についてコメントを発していない。
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