むぎわら日記

日記兼用ブログです。
野山や街かどで見つけたもの、読書記録、模型のことなどを載せております。

クリスマス・ショートショートでカウントダウン(12/23)「プレゼントを探す男」

2016年12月23日 | 創作 文芸/イラスト・漫画

 緑と赤と金色のクリスマスデコで華やぐ町。十二月も半ばを過ぎるとサンタとトナカイのコスチュームも目立ち始めた。
 今日も会社帰りにゲームソフト屋をはしごしている。子供が欲しがっていた人気ソフトを手に入れるためだ。動き出したのが遅かったのか、どこの店でも売り切れだった。次第に通勤コースから外れて、今日は会社の事務所から自宅と反対方向の店まで足を伸ばしていた。
 世の中の親は、みんな、こんなに苦労しているのだろうか。要領が良い親は、発売日前から予約していたに違いない。
 妻の言葉が頭をよぎる。
「少しは子供のことも気にかけてください」
 仕事が忙しいと言っていたのは本当だ。しかし、その穴埋めをクリスマスに、子供が一番欲しがっているものをプレゼントすることで補おうと考えていたのが甘かったのだ。
 子供の頃のことを思い出す。クリスマスの朝に枕元に置いてあったピット星人の人形だ。クリスマスプレゼントに仮面ライダーの人形をねだったのだが、それが悪役のピット星人。子供心にショックだったが、丸い頭に丸い目に硬質な顔面と共通点は確かにある。大人の観察力はそんなものだと笑い話にしていたものだ。
 今、思い返すと、親父は仮面ライダーの人形を探し回ったのではないだろうか。人気の仮面ライダーはすべて売り切れ。替わりにやむを得ず一番似ている怪獣の人形を買ったのではないか。
 そんな気がした。
 ここのオモチャ屋でも売り切れだった。
 角に小さな中古ソフト屋の看板を見つけた。新製品なので中古はないだろうと思ったがだめ元で入ってみた。
 店員は細い目をさらに細くして、「今、入ったばかりですよ。運が良いですね」と言って、両手でソフトを差し出した。
 値段は定価より高いが、これ以上、探しても見つかりそうにない。
 代金を払って、外へ出て星空を見上げる。
 いつか、ラジオで聞いた「プレゼントとは、その品物の価値より、それにかけた時間……その人のことを思った時間の方に意味があるのです」という言葉を思い出していた。
 何時間、かけたかな。
 俺にしてみれば上出来のプレゼントじゃないか。

 家に着くと子供は大いに喜び、飛び上がりながらはしゃいだ。
 そして、「お父さん、いつもありがとう。ママといっしょに選んだプレゼント」と、子供が包みを差し出してくれた。
「おおっ、これは良い財布だな。どこで探したんだ?」
「ママといっしょにアマゾンで選んだの。一番人気のプレゼントなんだって」

 ま、それでも、とてもうれしいんだけどね。

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クリスマス・ショートショートでカウントダウン(12/22)「幸せのホワイトクリスマス」

2016年12月22日 | 創作 文芸/イラスト・漫画

 キャンパスに立っている冬枯れのイチョウの下で、大学生の田村宮子は僕に言った。
「今年はホワイトクリスマスになるのかしら」
 駅前のイルミネーションが輝くツリーの下で、OLの宮子は僕に言った。
「今夜は雪になるかしら」
 ホテルでウエディングドレスを試着しながら、宮子は僕に言った。
「ホワイトクリスマスになったら最高なのに」
 アパートの窓から空を眺めながら、赤ん坊を抱いた妻は僕に言った。
「今年はホワイトクリスマスかしら」
 息子に勉強しろと怒鳴った後、妻が僕に言った。
「ねえ、あなた、クリスマスには雪が降るかしら」
  夫婦二人ではもてあますクリスマスケーキを前に妻は僕に言った。
「雪は降りそうにないわね」

 そんなにホワイトクリスマスはいいものなのだろうか。

 そう思って、僕は調べてみたことがある。
 気象庁によると東京でホワイトクリスマスになったのは、観測が始まってから五○年間ないそうだ。一九一九年(大正八年)に雪が降ったらしいという記録があるらしい。一番近いところでは、一九六○年に雪が舞ったらしいということが解った。

 そんなことで、妻の期待もむなしくクリスマスが去っていくことが繰り返されていた。

 しかし、それもいつのころからか変わった。
 部屋の明かりを消しキャンドルだけが点る部屋。
 マンションの窓からは都会の夜景が輝いて見える。
 シャンパンの栓をとばし、グラスに注ぐ。
 小さな音を立てて乾杯。
「今年も来たわね。ホワイトクリスマス」
 妻の白髪がキャンドルの明かりに映える。
「そうだな……」
 僕はいささかはにかみながら自分の白髪頭をなでた。

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クリスマス・ショートショートでカウントダウン(12/21)「マッチ」

2016年12月21日 | 創作 文芸/イラスト・漫画

 祥一はコンビニのレジのカウンターから、窓に飾られたクリスマスリースをぼんやり見ながらつぶやいた。
「マッチ売りの少女はなぜ、マッチを売っていたのだろう」

「クリスマスだからじゃないっすか」
 左耳に銀の輪っかを光らせながらもう一人の店員である木村が気のない返事をする。

「クリスマスだとなぜ?」
「ケーキを食う時、ローソクに火をつけるっしょ」
 クリスマスにローソクを立てたケーキを食べるのは日本くらいなものだ。
 アンデスセンの国デンマークでは、エーブルスキワという球形のパンケーキを食べる。
 たこ焼きを一回り大きくしたようなパンケーキにローソクは立たない。
 まあ、そんなことはどうでも良いと祥一は思った。
 ケーキの上にローソクを立てることがなくても、キャンドルで飾り付けることくらいはするだろう。
「なぜ、マッチは売れなかったのだろう」
「みんな、用意がよかったんすよ。チャッカマンとか持っていて」
 木村には、どうでも良いことなのだろう。そっけない返事だ。
「暇だな」
「クリスマスイヴっすからね。みんな女とデートっすよ。こっちはバイトなのに、いい気なものっす」
 ケーキの予約の受け取りが大方片が付くと、それまでの喧騒が嘘のように客足が遠のいた。
 レジの隅に積まれたクリスマスケーキの箱もあと三つしか残っていない。

 店の自動扉が開き、熊耳が付いた帽子をかぶった坊やの手を引いた女性が入ってきた。
 女性は店内を見渡すと小箱を取ってレジに向かってきた。
「これを」
 カウンターに置かれたのはマッチ箱とケーキの予約券だった。
 この店にマッチなんて置いてあったんだ。
 バイトを始めて半年になるが初めて気が付いた。
 ケーキといっしょにチャッカマンを買い求める客はいたが、マッチは初めてだった。
「ありがとうございます。合計で二千八百八円になります」
 祥一は、熊耳帽子を見下ろしながら、初めてマッチを擦ったときのことを思い出した。ちょうどこの坊やくらいの歳だったと思う。
 クリスマスイヴ、ケーキに立てられたローソクに火をつける役を言いつけられたのだ。
 ケーキ食べたさに震える手でマッチを擦った。
 火が付いた瞬間、心臓が高鳴りマッチ棒を投げ捨てない自分の勇気に驚いた。
 ほんの一瞬で、人は成長するものだ。
 この熊耳坊やにも、今夜、試練が待っているのだろうか。
 クリスマスケーキが入ったビニル袋を下げた女性に手を引かれる坊やの背中に、小さな声でつぶやいた。
「がんばれよ」
「がんばるっす」
 木村が虫歯だらけの歯を見せてガッツポーズをとっていた。

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クリスマス・ショートショートでカウントダウン(12/20)「サンタのノック」

2016年12月20日 | 創作 文芸/イラスト・漫画

彼は、幼いころからサンタクロースの存在を信じていなかった。
学校の友達が言うように、クリスマスの朝の枕元にプレゼント包が置かれていることは無かったからだ。

見ず知らずの子供におもちゃを配る年寄りなどいるはずがない。
サンタが入ってこれるような煙突がある家など見たこともない。
トナカイに引かれたソリで、どうやって海を渡って日本までやってくるのだ。
子供が眠っている間に親がプレゼントを置いていくだけだ。
そんなことを孤児院の仲間たちと語り合ったものだった。

そんな彼が大人になった今、軽ワゴン車にランドセルを十個積み込んでいる。
彼はハッチバックを閉め、運転席に向かう。
エンジンキーを回す。
排気ガスが吐き出される音がする。
孤児院の方向へハンドルを切った。

彼は少し前の出来事を思い出した。
木枯らしが初めて吹いた日、孤児院の前を軽ワゴン車で通った時だった。
心に幼いころの思い出がよぎった時、心のドアをノックされたような気がした。
扉の向こうには、赤い服をまとった白いひげのおじいさんが立っていた。
「遅れてきたね」
白いひげのおじいさんは、軽く会釈をして握手を求めた。
「ほんとうはずっと待っていたのです」
彼は、おじいさんを扉の中へ招き入れた。

軽ワゴンの助手席には、無造作に置かれた封筒が一つ。

お世辞にも達筆とは言えないマジックで書かれた文字。
あて先は「孤児院の子供たちへ」
送り主は「伊達直人」

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またノミネートされちまっただよw

2015年08月24日 | 創作 文芸/イラスト・漫画

さて、ハリウッド進出の野望をいだいて投稿した第2作がまたまたノミネートされました。

世間の不条理に翻弄される青年を描いた実存主義文学です。

というのは嘘で、

こんなゲームあったな~。

プレステ発売時にw

というような内容です。

お暇な方は、こちらへどうぞ。

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たまには書く方で

2015年04月28日 | 創作 文芸/イラスト・漫画

読書も好きなのですが、たまには読み方から書く方にまわるのもよいでしょうということで、この春からショートショートや短編小説を書いて投稿などして遊んでおります。

このたび、某文学賞の優秀作品にノミネートされましたのでお知らせします。

ひまで死にそうな方は、5分程度の暇つぶしになるでしょう。

テーマは、大都会に暮らす若者の虚無と苦悩の日々と、田舎の友人達との友情、そして、狂った現代社会と文明への警鐘です。

まあ、一言で言ってしまえば「妹萌え」です。

では、こちらからどうぞ

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