むぎわら日記

日記兼用ブログです。
野山や街かどで見つけたもの、読書記録、模型のことなどを載せております。

『イザベラ・バードの日本紀行』イザベラ・バード(講談社学術文庫) 

2024年11月23日 | 読書
イギリスの女性旅行家である著者が明治初期に日本を訪れ、単独で西洋人未踏の地である日本の奥地へ足を踏み入れます。
横浜→江戸→日光→南会津→会津坂下→津川→新潟→米沢→山形→秋田→青森→函館→室蘭→紋別の北日本の旅が前半3/4を占めており、これが圧巻でした。
特に峠越えをする地域の風土や、アイヌとの暮しなど、文献が乏しいド田舎の庶民の暮しの様子が歯に衣を着せぬ描写で書かれています。明治初期の日本の田舎(6~7月)では、男は、ほどんど素っ裸で暮していたことや、畳にはノミがたくさんいて、そのままでは眠られず携帯用折り畳みベットと蚊帳を持ち歩いていたことなども、予想以上に衛生状態が悪いことがわかりました。宿屋ではプライバシーが皆無で、障子に穴を開けて常時除かれていたことや野次馬が多く警官が来て追い払ってくれたことなども面白いです。
逆に、治安がよく、西洋人の女一人が旅をしていても、襲われたり騙されたりすることがないことや、祭りなどの大勢の人が集まる場でも、驚くほど警官の数が少ないことなどがあげられていました。
日本の近代化が急速に進んだのも治安の良さが大きく貢献しているのでしょう。
北海道ではアイヌとともに生活し、彼らの生活をよく観察して、記録に残しており、貴重な資料になっているはずです。
また、スケッチによる挿絵も精密で、写真よりわかりやすく感じました。
北海道の噴火湾から室蘭・紋別の絶景をほめたたえていたので、北海道に行ったら、よってみたい場所に加わりました。
後ろ1/4は、東京より神戸・大阪・京都・奈良・伊勢神宮などを巡っていますが、置く日本の記録より希少価値が低く感じます。それでも、10年くらい前までは攘夷だと刀を持って殺気だった侍が闊歩していた土地が、安全に旅をできる土地に変わったのには驚かされます。
当時の日本の財政状況や、政治のあり方などが総括的に書かれており、なりふり構わず西洋化に進んでいく様子が垣間見れました。

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『初恋』中原みすず(新潮文庫)

2024年11月20日 | 読書
初恋は、いつですか? よくある質問ですが、ちゃんと答えられる人はどれくらいいるでしょう。そのとき、ハッキリとした自覚があったのか無かったのか淡すぎてわからないくらいの色合いだったのかもしれません。
また、青春時代は、いつからいつまでという区切りが明確にあるわけでもなく、過去の体験も意識できず、未来もぼんやりして見えていない現代だけを見ながらなんとなく生きている状態と考えることもできます。
そして、1968年12月10日の府中三億円強奪事件(時効が成立し未解決)も、淡い泡沫となって消えていく現在でした。初恋と同じように。
この小説の作者はプロフィール非公開であり、小説の主人公と作家の名前は同じです。そして、府中三億円事件の実行犯であるらしいのです。あるらしいと言うのは、彼女が事件を起こす意志があったかどうかさだかではないと言っているからです。
この小説を読んで、なるほど、これでは事件が迷宮入りになるわけだと納得できました。この事件からは、三億円を強奪してやろうという意志が感じられないというか、お金に対する執着がまったくありません。
ただ、計画的に実行しただけであり、三億円を強奪できればそれで終りだったのです。
そんなことより、大学受験や、(意識していないにしても)初恋の方が大切でした。
映画化もされたそうですが、主演の女優が作者を言葉を交わしており、彼女が真犯人だと確信したと語っているそうです。

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『世界の一流は「雑談」で何を話しているのか』ピョートル・フェリクス・グジバチ(クロスメディア・パブリッシング)

2024年11月17日 | 読書
著者は、Googleで人材開発・組織改革・リーダーシップマネジメントに従事していた経験があり、現在は起業して、複数の会社の取締役等についています。
名前からわかる通り、ポーランド人で、ヨーロッパ、アメリカ、そして日本で、多くのビジネスマンと交流があります。そんな視点から、日本の人たちへのメッセージとなります。
この本で言う「一流」とは、世界的な一流企業で働く人と、その周辺にいる人をさしています。
この手のビジネス啓発系の本の例に漏れず、竜頭蛇尾の内容でしたので、前半部分がおもしろく、後半はつけたしの印象でした。
彼は、「日本人は雑談が苦手だという人が多いが、日本の方が雑談が簡単だ」と言います。
それは、日本語の雑談は定番フレーズが多いからだと、つまり、「今日は暑いですね」「やっと涼しくなってきましたね」など当たり障りのないことから始まるというのです。
これを悪いとは言いませんが、時間がもったいない。目的が明確でない雑談だというのです。
ヨーロッパでは、目的をハッキリさせて、雑談の前準備もキチンとしているというのです。入社面接に行く前にその会社の概要を調べているようなものですね。
相手の考え方や方向性を聴くことが雑談の主目的であり、それによって信頼関係と築いていくというのです。
私も雑談に苦手意識を持っていて、どちらかというと、この本に書いてあるような順序で話をしたいタイプですが、日本で仕事をする限り、そういう訳にはいかないと思うのです。しかしながら、日本人が書いた雑談のHow-To本とは違う視点で書かれているので一読の価値はあると思います。国内で仕事をしていてもヨーロッパの客人と話さなければならない機会もあるわけですから。

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『去年の冬、きみと別れ』中村文則(幻冬舎文庫)

2024年11月13日 | 読書
芥川賞作家である中村文則が書いたミステリー小説。
わたしは。ミステリー小説をあまり好まないので、純文学的な側面から、読んだ感想になります。
はじめは、フリーライターの主人公が、猟奇殺人(二人の女性を焼き殺す)で死刑判決を受けた男の本を書くために調査をしていく過程が書かれています。
殺人者としての写真家、その真実の一端を知る人形作家、そしてライターの主人公と、彼の依頼人である編集者と、表現者が登場します。そして、芥川龍之介の『地獄変』に登場する絵師のように撮影しようとした写真家が殺人犯として投獄されたのです。
主人公のライターは、取材をつづけ、関係者に会うたびに、「あなたは、この事件についての本は書けない、なぜなら、彼らの胸中にたどりつけないから」と言うようなことを言われ続けます。
そして、物語半ばで、本を書くことを諦めることになります。
カポーティは『冷血』を書いた後、小説が書けなくなった……主人公は、カポーティのようにはなれなかったのです。
殺人を行うのも、創造して創作物にするのも、ものすごいエネルギーがいるようです。
最後の最後に、お洒落なオチがついているのも、この本の魅力です。

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『これからの「正義」の話をしよう』マイケル・サンデル (ハヤカワ・ノンフィクション文庫)

2024年11月09日 | 読書
ハーバード大学で政治哲学の教授を務める著者が、「正義」についての講義を元に語る内容となっています。古今の哲学者が考えてきた正義について解説し、それに対する反論と反論に対する回答を記しながら、より深く正義の内部に迫っていく過程は、迫力がありました。
ベンサムの最大多数の最大幸福(功利主義)からはじまり、リバタリアニズム(自由至上主義)の思想から、本当の平等とは? 自由とはという考察に入っていきます。
個人の資質の不平等性をどう解決するのか、誰が何に値するのか? 所属するコミュニティ・人種、歴史への責任、国家への忠誠など、多種多様な問題が提起され、さらに同性愛・妊娠中絶、政治と宗教など、アメリカ合衆国の社会(全世界ともとれる)の複雑性を感じることができました。
さて、これらの問題は、答えが出るはずもない複雑さを孕んでいますが、政治は、これらを調整し、万人が納得できる道徳・正義の体制を作ろうとしなければなりません。
それは不可能と認めながらも、様々な考え方をぶつけ合い、よりよい社会を作っていくのが政治であると著者は言います。
正義に対して、ここまで深く考えたことがなかったので、楽しんで読むことができました。

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『医学生』南木佳士(文春文庫)

2024年11月06日 | 読書
 第100回芥川賞作家の南木佳士は、私にとって、秋が深まってくると読みたくなる作家で、毎年、このころに読んでしまいます。
 あとがきに、純文学と大衆文学の区別は明らかに存在すると考えているとあり、これは純文学ではなく、大衆文学として書いたとあります。純文学作家が書いた大衆文学風の作品(例えば、宮本輝のような)が、好みなので、自分にとってとても読みやすく共感しやすい小説でした。
 著者が通っていた秋田大学医学部の実習班の四名の学生が主人公となり、医学部生が成長しながら医師になっていく姿が描かれて行きます。ドラマチックな展開はなく、こういうのあるある風なエピソードの連続ですが、本人たちにとっては、それは人生の転機となる大きな出来事なのでしょう。青春期に進む方角が1度変っただけで、壮年期には大きな差になるから当然と言えば当然です。
 そんな出来事が淡々とつづられながら、医学部のカリキュラムに沿って、人生が流れていく間隔が、著者の体験からつづられていきます。
 そして、卒業後15年、それぞれの道を歩んだ4人の暮らしを描いてラストを迎えます。
 作者は大衆文学だと言っていますが、エンターテインメントのようなオーバーな演出や表現が皆無なので、リアルな青春像が身に染みてきました。

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『ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来』ユヴァル・ノア・ハラリ (河出文庫)

2024年11月01日 | 読書
 前作『サピエンス全史』では、我々ホモサピエンスが、知能も体力も上回る他の人類を凌駕し、生き残り栄えてきたかを明らかにしました。この本では、さらにその未来・可能性を考察する内容となっています。
 未来の可能性を考えていくことは、容易ではなく、半分以上を過去のおさらい、つまりサピエンス全史の内容の説明になっています。すなわち、ホモサピエンスの大きな革命である「認知革命」「農業革命」「産業革命」です。その中で特に重要なのは「認知革命」ですが、それにより、お互いに顔も知らない大勢の人間が協力し合うことができるようになりました。さらに「農業革命」により人口の爆発的な増加、「産業革命」による多様な価値観が創造されてきました。その辺までは、すでに『サピエンス全史』で読んでいた内容なのでたいくつでしたが、「人間至上主義」の登場から面白くなりました。
 人間至上主義は科学と提携を基礎とすることにより、理性と情動、研究所と美術館、工場とマーケットの微妙なバランスを保つことができているのです。
 しかし、現在、それが「データ至上主義」の登場により脅かされています。すべてのものがアルゴリズムで動いている(個人の感情や意志までも)というのです。個人の遺伝子配列、検索履歴、行動履歴などのデータを収集することにより、自分より自分のことをよく知るアルゴリズムが形成させることが可能になってきています。
 そして、すべてのモノのインターネットが完成すれば、人間至上主義は意味がなくなり、人間は、その構築者からチップとなり、さらにデータでしかなくなってしまうというのです。
 また、一部のエリートは、自分自身をアップデートすることにより、超人類・ホモデウスに進化し、無用階級と化したサピエンスを支配するようになるかもというのが、一つの可能性として提示されていました。
 冒頭に、人類は、飢饉、戦争、感染症を克服して、新しい段階に入ったとなっていますが、本書が出版されてからすぐに、コロナウイルスの感染拡大やロシアのウクライナ侵攻が起こり、文庫版では、これらは完璧に人災であり、人間の愚かさの表れだと嘆いています。しかしながら、新しい危機に対して結束して、解決に迎える兆しも相変わらず見えており、逆説的ながら未来への希望もつづいているのです。
 カーツワイルが書いた『シンギュラリティは近い』をややマイルドにし、別の可能性を示唆したところが面白いと思うので、興味がある人は一読の価値ありです。

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『日ソ戦争』麻田雅文(中公新書)

2024年10月29日 | 読書
 まずは、本の題名と帯の文句(第2次世界大戦、最期の全面戦争)にやられました。第二次世界大戦末期のソ連対日参戦については、戦争の勝敗に関係なくソ連の野心によって起こされ、満州はひとたまりもなく蹂躙された局地戦というイメージだったのですが、「日ソ戦争」「全面戦争」として見ることもできると目から鱗が落ちた気分でした。
 太平洋戦争前の日本陸軍の仮想敵国は、中国・ソ連であり、本来予想されていた戦争であったはずです。そして起こりえるなら、日ソ両軍の全面戦争になる可能性も秘めていました。
 太平洋戦争が劣勢になるにつれ、日本はソ連との戦争をまったく望んでおらず、それどころか連合国との戦争の仲介すら期待していたのです。それをスターリンは、時間稼ぎに利用し、終戦間際に宣戦布告、終戦後まで戦いを継続していくのでした。
 戦後、多くの日本人が軍・民問わずシベリアへ連行され、関東軍の文書は焼却され、ソ連側の記録は鉄のカーテンの中という状況で、断片的な証言が一人歩きをしている現状でした。冷戦終結後、ロシアからの資料が少しずつ手に入るようになり、米国保有の資料も研究が進み、日ソ戦争の全貌が客観的にみられるようになってきました。
 この本を読んで、今まで通説とされてきた事柄が覆るような大きな事実は、それほどないイメージですが、ソ連側の死傷者が意外に多く、前線の日本軍はかなり善戦していたということが新しく認識できました。
 しかし、大きな国家戦略の過ち(ソ連に対する楽観的過ぎる対応)を戦闘で覆すのは無理であったということになります。
 また、アメリカ軍・中国国民軍・中国共産党の利害も複雑に絡んでいますので、多大な援助をして千島列島を取られてしまったアメリカや、同じく協力したにも関わらず満州の利益は共産党に持っていかれた中国国民軍など、現在までつづく極東の秩序が作られた戦争だったのです。

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『活版印刷三日月堂 小さな折り紙 』ほしおさなえ(ポプラ文庫)

2024年10月26日 | 読書
ほしおさなえの「活版印刷三日月堂」シリーズは、本編4冊+過去編+未来編の6冊出ています。本編4冊は、すでに読んでいます。そして、この本は未来編となります。
本編4冊で登場した人たちのその後のエピソードが書かれていて、相変わらずほっこりさせられました。
このシリーズのよいところは、活版印刷を通してモノづくりの楽しさを思い出させてくれることです。モノづくりと言っても、本やカードなどにかぎらず、イベントなども含まれます。
どちらかというと、小さな、ローカルなものづくりですが、そう言ったものの積み重ねが大きな世界につながっているのだと感じました。
そういう世界が好きな人ははまると思います。

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『19階日本横丁』堀田善衛(朝日新聞社)

2024年10月22日 | 読書
スタジオジブリの宮崎駿が、もっとも尊敬する作家と言っていたと聞いて、メルカリで安価に手に入ったので読んでみました。
とある白夜の国の首都(国名は明かされていませんが、計画経済、社会主義、超大国ということでソ連のモスクワでしょう)のホテルに世界各国から、日本の協業製品の見本市開催のために集まった商社マンたちの群像劇です。
舞台が変わらないので退屈化と思いきや、朝日新聞で連載されていたこともあり、細かい話題がところどころにちりばめられていて、飽きることがない構成となっていました。
特にアジア方面担当者の語る「北ベトナムの主要輸出産業である農業は戦争による壊滅→新たな輸出産業は屑鉄となった(戦争による撃破された武器や砲弾の破片等)→日本や米国の製鉄所が買い入れてそれがまた武器として再生される」という循環は、資本主義経済の矛盾をはらみ、今、ウクライナにもダブルところがあります。
ラーメンからミサイルまで扱う総合商社は日本だけのシステムですが、洋上を航行するタンカーや貨物船も商社なしでは動けない現状もよく理解できました。
話は本から逸れますが、投資の神様ウォーレン・バフェットがコロナ危機の最中に日本の五大商社の株を買いまくっていたということからも、日本の総合商社の世界に与える影響をうかがい知れます。




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