芥川賞作家というと、面白くないという印象が強いのですが、この本のように谷崎賞、川端賞と立て続けに受賞となると話は変わってくるようです。
文学賞と作品のおもしろさとはまた別物ですが、この本は良かったです。
一瞥して思ったのは、1文がやたら長いということでした。1ページ近く改行もなく、現在の読みやすく書かれた小説にくらべ読みにくそうな印象がありました。しかし、読んでみると、スーッと頭に入ってきてセンテンスが長いと言うことを感じさせません。これが文学賞総なめの文章なのでしょう。
さて、内容の方ですが、雪沼という架空の地方都市の周辺に住む人々の生活の様子を丹念に書いた短編が並んでいます。リリシズムやノスタルジーも確かにありますが、それよりも人を描いているところに共感がもてました。何気ないその辺にいそうなおじさん、おばさんたちが、なんと言うこと無い生活を営んでいる様子が書かれているのですが、なぜかその人物を好きになってしまう自分がいました。たぶん、人の中にある体温の素のような部分を少しだけ覗かせる書き方が良いのだと思います。
文学の文学たるを見直させられました。
ひさびさに後を追いたくなる作家さんです。