田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

「2019年7月の映画」転載

2019-08-21 17:43:55 | 映画の森

「KyodoWeekly」7月22日号から「7月の映画」共同通信のニュースサイトに転載
https://www.kyodo.co.jp/national-culture/2019-08-21_2194396/

 

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『キネマの天地』今昔

2019-08-21 10:31:36 | 映画いろいろ

『キネマの天地』(86)(1986.8.6.銀座松竹)

 松竹50周年記念作。盆暮れ恒例の寅さん映画を休み、脚本に井上ひさしと山田太一を迎えた。そして、いかにも山田洋次らしくそつなく撮っているのだが、そこにあからさまな大船調の踏襲を感じさせられ(もちろんそれが狙いではあったのだろうが)、かえって松竹映画の欠点を露わにしてしまった感がある。
 
 確かに、昭和初期の古き良き映画黄金時代に対するノスタルジーは強く感じることはできるのだが、例えばトリュフォーの『アメリカの夜』(73)で描かれたような、映画作りの中で生じるさまざまな喜怒哀楽、その中から生み出された一本の映画への愛着といったものが、あまり伝わってはこない。それ故、日本映画の悪い癖である人情話に終始した印象を受けるのである。
 
 もともとこの映画は、松竹配給でありながら、舞台はそっくり東映にさらわれてしまった『蒲田行進曲』(82)に対抗して、完全な松竹映画として、映画製作の舞台裏を描くというところから始まったものだが、そこには、描かれた時代の相違もさることながら、山田洋次と深作欣二の映画作りに対する考え方の違いが出ているのではないかと思う。
 
 本来、映画製作の現場なんてきれいごとでは済まない雑然としたものであるはずなのに、ノスタルジーと人情だけで描こうとしたところに、あまり毒を持たない山田洋次の弱点が露呈された気がするのだ。
 
 などと公開時は思っていたのだが、30年後は…。
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/da7dffec4b054eee90dfc062c634aa9a
 
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『ラスト・ムービースター』

2019-08-21 09:34:52 | 新作映画を見てみた

   

 クリント・イーストウッドの『運び屋』、ロバート・レッドフォードの俳優引退作『さらば愛しきアウトロー』に続いて、今度はバート・レイノルズの遺作が公開される。彼らは1970年代に全盛を誇った映画スターという点で共通するだけに、彼らの映画を見ながら育った自分としては、やれ引退作だ、遺作だとなると、時の流れを感じて感慨深いものがある。

 この映画でレイノルズが演じているのは、自身をモデルにした映画スター役。友人役で太って白髪になったチェビー・チェイスも出てくる。ストーリーは、かつての大スター、ヴィック・エドワーズに「国際ナッシュビル映画祭」から特別功労賞贈呈の知らせが届く。ところが、行ってみると、映画祭とは名ばかりの、映画マニアによる自主上映的なものだった。憤慨したヴィックは空港に向うが、途中で故郷のノックスビルに立ち寄ることにして…というもの。

 大学時代はフットボールの選手として鳴らしたがけがで断念、スタントマン出身、『コスモポリタン』誌でのヌード披露、華麗なる女性遍歴、というレイノルズの経歴が、そのままエドワーズに移植されている。

 そして、レイノルズの出演作『脱出』(72)『トランザム7000』(77)のワンシーンで、エドワーズレイノルズが共演するなど、まさにセルフパロディの連続。浮き沈みが激しかった映画人生という点でも、どこまでがレイノルズでどこからがエドワーズなのか…という感じになる。

 つまり、アダム・リフキンの演出は、自身の出演作を冒頭に挿入したジョン・ウェインの『ラスト・シューティスト』(76)同様、役と本人を一体化させることに腐心しているのである。

 当然そこには、残酷さと優しさ、悲哀とユーモアが入り混じり、見ていて複雑な心境を抱かされるのだが、オープニングの悲しそうなエドワーズ=レイノルズのアップが、ラストは実にいい笑顔に変わるところがこの映画の真骨頂。

 出演予定だったタランティーノの『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』の撮影前に亡くなったことが惜しまれるが、欲を言えば切りがない。本人が納得して老いた自分をさらけ出し、最後は笑顔で終わることができたのだから、いい遺作になったというべきなのだろう。

バート・レイノルズが亡くなった
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/ae0626a3fd0a980e7387e6a9a88609d8

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