竹中直人「映画館を出たら街が荒野に見えるはず」「この映画は『許されざる者』を超えている」
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『ハード・ウェイ』(91)(1991.5.31.スカラ座)
ハリウッドの人気スター、ニック・ラング(マイケル・J・フォックス)は、次回作で刑事役を演じる役作りのため、ニューヨーク市警の熱血刑事モス(ジェームズ・ウッズ)と行動を共にしようとするが…。ジョン・バダム監督のアクションコメディ。
『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズ終了時、「マイケルはノンフューチャー」と随分陰口をたたかれたらしい。それ故、彼も『カジュアリティーズ』(89)というシリアスドラマに挑んだのだろうが、この映画を見ると「やっぱりマイケルにはコメディが似合う」という思いが強まってしまうし、別に無理をしてイメージを変える必要はないじゃないか、こういう役が嫌味なくできるのも立派な才能じゃないかと、つい応援したくなってしまう。
何より、この映画の企画自体がマイケルの存在なくしては考えられないものだし、ここまで開き直ってセルフパロディをしてしまう根性もたいしたものだと思うのだ。確かに、最近のスタローンやシュワルツェネッガーといった、イメージが固定された者たちの抵抗の姿を見ていると、イメージ打破は早いに越したことはないのだろうが、逆に、ジャック・ニコルソンやダスティン・ホフマン、あるいはロバート・デ・ニーロといったシリアス型の俳優ばかりを見続ける堅苦しさを思えば、マイケルような、肩の凝らない嫌味のなさは貴重な個性だと言ってもいだろう。
それは、この映画で対照的に描かれた“演技派”のウッズの姿が証明している、と書いてきて、マイケルあるいは監督のバダムは、ひょっしたら、見る側のそうした思いを逆手に取ってこの映画を作ったのではないかと思った。もしそうなら、彼らはたいしたしたたか者だ。そして、この見事なまでの厚顔さがあるうちは、マイケルが健在であることは間違いない。
さて、この映画ほどではないにせよ、シリアス系の俳優たちは演じる役のプロや経験者の下で実際に修業したということが、さも偉いことのように報じられることが多い。この映画のウッズも本物の刑事の下で修業したらしい(映画の役柄とは逆というのがおかしいが)。だが、考えてみれば、それは俳優側の勝手であって、その道のプロたちにとっては甚だ迷惑な話。この映画は、そうした本音も描いているのである。
【今の一言】そんなマイケルが、この後バーキンソン病に侵されるとは…。