田中雄二の「映画の王様」

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『男はつらいよ 寅次郎の縁談』

2019-08-31 20:24:01 | 男はつらいよ
『男はつらいよ 寅次郎の縁談』(93)(1994.2.16.丸の内松竹)
 
 
 このところのこのシリーズには、随分否定的な意見を述べてきたし、それは決して間違ってはいないとも思うのだが、何と今回は久しぶりにホロリとさせられてしまった。それはゴクミから解放された満男(吉岡秀隆)のドラマが膨らんだこともあるが(今回のマドンナの城山美佳子もなかなかいい感じだった)、今回の主舞台となった四国の離れ小島でのドラマに、その昔の『愛の讃歌』(67)を思わせるような、いい味わいがあったことが最大のポイントであった。
 
 こういう、しっとりとしたいいドラマを見せられると、レギュラー陣の老い(渥美清、倍賞千恵子の顔のしわが増え、声の張りも落ちた。撮影の高羽哲夫がメインから退き、ついに笠智衆の姿が消えた…)という、もはや後戻りできない現実を感じながらも、やはり終局まで見続けねばならないか…などという思いも浮かんできてしまう。
 
 そして、併映の『釣りバカ日誌』の質が落ちてきたこともあり、改めてこのシリーズの偉大さを感じさせられたりもする。これは決して喜ぶべきことではなく、むしろローソクの炎が燃え尽きる寸前の一瞬の輝きだとは知りつつも…。何だかジャイアント馬場の32文キックを久しぶりに見せられたような、妙な気分になった。
 
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『カツベン!』

2019-08-31 12:24:18 | 新作映画を見てみた


 周防正行監督が、映画がサイレント(無声)のモノクロで、まだ活動写真と呼ばれていた大正時代を舞台に、活動弁士と呼ばれる映画説明者に憧れる染谷俊太郎(成田陵)の夢や恋を描く。活動弁士とは何ぞや、という観点から見れば、周防監督お得意のハウツー物の一種と言えなくもない。
 
 俊太郎の他、彼の幼なじみで後に女優になる梅子(黒島結菜)、弁士(永瀬正敏、高良健吾)、映画館主夫婦(竹中直人、渡辺えり)、映写技師(成河)、楽士(徳井優、田口浩正)、ライバル館主のやくざ(小日向文世)、その娘(井上真央)、その子分(音尾琢真)、活動写真好きの刑事(竹野内豊)など、多彩な人物が登場する。竹中の役名は今回も青木富夫だった。

 一方、実在の人物としては、「日本映画の父」と呼ばれる監督の牧野省三(山本耕史)、彼とコンビを組んでスターとなった目玉のまっちゃんこと尾上松之助、阪東妻三郎主演の『雄呂血』(25)を監督する二川文太郎(池松壮亮)らが登場し、『金色夜叉』『不如帰』『国定忠治』『椿姫』『十誡』『ノートルダムのせむし男』などの無声映画を再現するほか、オリジナルの映画も挿入される。
 
 ただ、弁士の語りの部分は口調やテンポをまねれば再現可能だが、笑いを取るべきドタバタのシーンは、サイレントのスラップスティックコメディを意識し過ぎた感があり、山田洋次の『キネマの天地』(86)で斎藤虎次郎の映画を再現した場面と同様の違和感を抱かされた。チャップリンやキートン、ロイドのような体技のまねができない上に、今の映画とはリズムもテンポも全くの別物なのだから、変な話、ただのコントのように映ってしまう。そういえば、ピーター・ボグダノビッチの『ニッケル・オデオン』(76)も成功作とは言い難かった。スラップスティックコメディの再現は難しいのだ。
 
 ラスト近く、窮余の一策で作られたフィルムのつきはぎ映画は『ニュー・シネマ・パラダイス』(88)のラストを思わせ、映画好きの心をくすぐられるところはあった。とは言え、そもそも、なぜ今、活動弁士を主人公にした映画を撮ろうと考えたのだろうか、とは思う。
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