田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『ミッドナイト・ラン』

2019-08-01 14:50:26 | 映画いろいろ
『ミッドナイト・ラン』(88)(1988.12.21.丸の内ルーブル)

   

 警察を退職し、賞金稼ぎになったジャック(ロバート・デ・ニーロ)は、マフィアの金を横領した会計士のマデューカス(チャールズ・グローディン)を、ニューヨークからロサンゼルスに連れ戻す仕事を引き受ける。やがて、組織とFBIの両方から追い回される羽目になった2人の間には奇妙な友情が芽生え始める。
 
 とにかくテンポがよく、伏線の張り方のうまさが目立つ映画である。そして、西部劇からのアメリカ映画の伝統ともいうべきロードムービーとして、あるいは男同士の友情物語として面白く見られる。そこには『手錠のまゝの脱獄』(58)『明日に向って撃て!』(69)といった過去の映画の影も感じさせるが、ジャックの別れた妻子の存在を除けば、ニューシネマ群が描いたような暗さや屈折をほとんど感じさせず、終始コメディタッチで押しておいて、最後にホロリとさせるあたりは憎いほどうまい。
 
 これは、もちろん監督のマーティン・ブレストと脚本のジョージ・ギャロの力もあるが、デ・ニーロがこれまでの何かを背負った重苦しいイメージから一転し、こういう役もできる意外性を証明したところが大きい。また、それを盛り上げる見事なコンビネーションを示して、これまでの映画歴の中で最高の演技をしたグローディン、憎めない敵役を演じたヤフエット・コトー、『ビバリーヒルズ・コップ』(84)に続くジョン・アシュトンの好演も見られた。
 
 さて、この映画でデ・ニーロとアシュトンが演じた賞金稼ぎ、いわゆるバウンティハンターの姿を見ながら、スティーブ・マックィーンの遺作となった『ハンター』(80)のことを思い出した。彼が健在だったなら、こんな役もやれたかもしれない…などと思い、ちょっと寂しい気分にさせられた。それにしても、このブレストという監督は、『ビバリーヒルズ・コップ』もそうだったが、よっぽど警察を茶化すのがお好きらしい。
 
【今の一言】と、大いに期待したマーティン・ブレストは、この後アル・パチーノ主演の『センチ・オブ・ウーマン/夢の香り』(92)という佳作を撮ったが、ブラッド・ピット主演の『ジョー・ブラックをよろしく』(98)とジェニファー・ロペス主演の『ジーリ』(03・未公開)がラジー賞を騒がせるなどして不調に陥り、最近は全く映画を撮っていない。残念…。思えば、デ・ニーロの多作出演やコミカルな演技は、このあたりから始まったのだった。
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『ワンス・アポン・ア・タイム・イン・ハリウッド』

2019-08-01 09:28:33 | 新作映画を見てみた
   
 
 
 もし、1969年のロサンゼルス(ハリウッド)に、落ち目の西部劇スターのリック・ダルトン(レオナルド・ディカプリオ)と彼のスタントマンを務めるクリフ・ブース(ブラッド・ピット)がいたら…。そして、リックの家の隣にロマン・ポランスキーとシャロン・テート(マーゴット・ロビー)夫妻が住んでいたら…という一種のおとぎ話、パラレルワールド話を、クエンティン・タランティーノが虚実入り乱れさせながら描く。
 
 この時代から活躍していたアル・パチーノ、ブルース・ダーンのほか、タランティーノ一家のカート・ラッセル、マイケル・マドセンらも顔を見せる。
 
 物語の骨子は、スティーブ・マックィーンとバド・エキンズ、あるいはバート・レイノルズとハル・ニーダムのような、スターとスタントマンとの友情や信頼関係(スター同士のディカとブラピがそれを演じる面白さ)に、カルト集団のマンソン・ファミリーによるシャロンの惨殺事件の顛末を絡めたもの。
 
 そこに、テレビに映る「FBI」「マニックス」などのドラマ、カーラジオから流れる「ミセス・ロビンソン」「サークル・ゲーム」「夢のカリフォルニア」といったヒット曲をはじめ、映画狂で知られるタランティーノが、自らの少年時代への追憶を込めて描いているため、マニアックな小ネタが満載されている。
 
 例えば、リックが『大脱走』(63)でマックィーンが演じたヒルツ役の候補になっていた? 「グリーン・ホーネット」のカトー役のブルース・リーとクリフが対決した? サム・ワナメイカーがリックに演技指導をする? クリント・イーストウッドやリー・バン・クリーフに続くハリウッド産のマカロニ・ウエスタンのスター、リック・ダルトンが誕生?…。これらはタランティーノ流のお遊びであり、大笑いさせられる。
 
 一方、これは虚実がはっきりしないが、シャロンが、出演作『サイレンサー破壊部隊』(68)を映画館でうれしそうに見たり、リーからアクションを習ったり、夫のために『テス』の本を買う姿も映る。彼女のその後の運命を知っているから、こちらは見ていてちょっと切なくなった。
 
 そんなこんなの、まるでおもちゃ箱をひっくり返したような、にぎやかなこの映画は、ある意味タランティーノ自身の夢や妄想を映像化したものなのだろう。そして彼がこの映画を作った最大の目的がラストに示されるのだが、それはここでは書けない。ただ、ハリウッドへの偏愛を感じさせる処理に、不思議な感動が湧いたことだけは確かだ。彼の映画の中では一番素直なものだと感じた。
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