田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『マネー・ピット』

2019-08-29 17:13:31 | 映画いろいろ
『マネー・ピット』(86)(1987.8.5.)
 
   
 
 弁護士のウォルター(トム・ハンクス)と恋人のアンナ(シェリー・ロング)は、大邸宅を破格の安値で手に入れる。ところが、次から次にトラブルが発生する。欠陥だらけのマイホームを悪戦苦闘しながら改修するカップルの大騒動を描いたドタバタ・コメディ。「マネー・ピット」とは金食い虫のこと。製作はスティーブン・スピルバーグのアンブリン・プロ、監督は俳優出身のリチャード・ベンジャミン。
 
 今年(86年)の正月映画の中では大コケしたようだが、実は大受けした『トップガン』よりも面白いのでは…などと、ひねくれた期待をしていた。見てみると、なるほど大作ではないし、ベンジャミンの初監督作ということもあってか、いささかギャグが空回りしているところもあるが、セックスに対する潔癖ぶりや、ハートウォームのハッピーエンドに捨て難い魅力があった。
 
 洋の東西を問わず、住宅難は存在するようで、欠陥住宅の改修と一組のカップルの愛の行方を対比的に描くアイデアはなかなか面白い。スピルバーグとしては、『1941』(79)の失敗を例に出すまでもなく、事コメディに関しては、『バック・トゥ・ザ・フューチャー』(85)やこの映画のように、製作に回って、他の監督に撮らせた方がいいと思う。
 
 昨日、同じくアンブリン製作の『世にも不思議なアメージング・ストーリー』を見たばかりなので、プロデューサーとしてのスピルバーグの才能の豊かさを改めて知らされた思いがする。
 
 【今の一言】やられ役コメディアンとしての、若き日のトム・ハンクスの魅力が存分に楽しめる映画。当時、スティーブン・ビショップが歌ったエンディング曲「The Heart Is So Willing」のシングルレコードを見付けるのに苦労した覚えがある。
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『真実』

2019-08-29 11:01:58 | 新作映画を見てみた

 フランスを代表する大女優ファビアンヌ(カトリーヌ・ドヌーブ)が『真実』というタイトルの自伝を出版することに。そこに、アメリカで脚本家として活躍する娘のリュミール(ジュリエット・ビノシュ)と夫のテレビ俳優ハンク(イーサン・ホーク)と娘のシャルロットがやって来る。彼らに、ファビアンヌの現在のパートナー、元夫、執事を加えた、出版祝いを口実に集まった“家族たち”の騒動の様子を、ファビアンヌの新作映画の撮影と並行して描く。
 
 是枝裕和が撮ったフランス映画。自身が「自分の中でも最も明るい方へ振ろうと考えて現場に入った」と語る通り、彼の映画にしては珍しくトーンが明るく、軽やか。いつも通りに“家族”を描いてはいるが、説教も主張も、問題提起もなく、すがすがしい印象を受けた。
 
 ドヌーブが「どこまでが演技でどこからが真実なのか」という女優の性(さが)を見事に体現。それを受けるビノシュもお見事。亡くなった姉のフランソワーズ・ドルレアックとの関係をほうふつとさせるエピソードもある。昔、名女優の杉村春子が「病気の夫を看病して涙した際に『今のは演技か』と言われて悔しかった」と語っていたのを、どこかで読んだか聞いたかしたことを思い出した。
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『エセルとアーネスト ふたりの時間』

2019-08-29 09:01:26 | 新作映画を見てみた

 『スノーマン』『風がふくとき』などの絵本作家レイモンド・ブリッグスが、自身の両親の人生を描いた絵本を、アニメーション映画化。1928年の牛乳配達のアーネスト(声:ジム・ブロードベント)とメードのエセル(声:ブレンダ・ブレシン)の結婚から、1971年の彼らの死までが描かれる。あえて2Dアニメで撮っているところがノスタルジックな効果を上げている。
 
 息子の誕生、戦中戦後の彼らの生活などを淡々と描くことで、ごく普通の人々のありふれた日々の暮らしが浮かび上がる。戦争すら日常の一部として描かれる。劇的な出来事はほとんどない。けれども、実は平凡な日々こそが愛おしい。これは『この世界の片隅に』(16)にも通じるものがあり、何だか小津安二郎の映画を見ているような気分にもさせられる。アーネストが読む新聞やラジオ(やがてテレビに変わる)、エセルとの会話で、世の中の変化を知らせるさりげなさもいい。
 
 例えば、こんなところも心に残る。アーネストはビクター・マクラグレンのファンで、2人が初めて一緒に見た映画は、マクラグレン主演、ジョン・フォード監督の『血涙の志士』(28)。これが、晩年、ボケてアーネストのことが分からなくなったエセルが、息子に「あの人誰? ビクター・マクラグレンかと思った」と語る、おかしくも切ないシーンにつながるのだ。
 
 そして、この2人のように、人間は誰もが老いて死んでいく。身近な人もいつかはいなくなる。だからこそポール・マッカートニーのエンディング曲「IN THE BLINK OF AN EYE」が心に染みる。いい映画を見た、と実感させてくれるような名編といってもいい。
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