田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『山月記』(中島敦)『枯葉の中の青い炎』(辻原登)

2020-08-24 23:36:48 | ブックレビュー

 テレビで、人間が虎になるという変身譚、中島敦の『山月記』の朗読をやっていた。高校時代の現国の教師が変わり者で、この小説の漢文調のリズムを感じるためと称して、暗唱することを課題とした。確かに声に出して読むと、気持ちのいい文章だった。おかげで、今でも途中まではそらんずることができる。

 「隴西の李徴は博学才穎、天宝の末年、若くして名を虎榜に連ね、ついで江南尉に補せられたが、性、狷介、自ら恃むところ頗る厚く、賤吏に甘んずるを潔しとしなかった」

 さて、その中島敦が登場する面白い小説がある。辻原登の『枯葉の中の青い炎』だ。

 この小説は、かつて、プロ野球チーム、トンボ・ユニオンズに在籍したミクロネシア出身の相沢進のその後を伝える実際の新聞記事(2003年)を発端に、1955年のビクトル・スタルヒンが3百勝を懸けた試合、1941年のミクロネシアでの相沢と作家・中島敦との邂逅、相沢が使う南洋の秘術…と、話が時空を超えてどんどんと飛躍していく。そして、史実とほら話を融合させ、野球小説と南洋文学を合体させたような、不思議な味わいを持った小説になった。これはある意味、中島の 『山月記』にも通じるトールテールの一種だ。

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『激流』

2020-08-24 08:19:36 | 映画いろいろ

『激流』(94)(1995.3.20.UIP試写室)

 元リバー・ガイドのゲイル(メリル・ストリープ)は、息子(ジョセフ・マゼロ)の誕生祝に、夫(デビッド・ストラザーン)と息子と共に故郷で川下りをしていた。そんな中、逃亡中の強盗犯(ケビン・ベーコン、ジョン・C・ライリー)が現れ、息子を人質に取って、ゲイルにガイドを強要する。

 この映画、最近流行の家族の絆回復劇に、隠し味でスリルの辛味を効かせてみた、といった感じだが、父権の失墜、強い女性、という今日的な側面を除けば、過去の西部劇やロードムービーからの戴き的なところも目に付き、サスペンスとしては、ウィリアム・ワイラーの『必死の逃亡者』(55)のアウトドア版の趣きで、主役が父親から母親に代わった、といったところだ。

 ただ、こんなふうに何日もかけた川下りが可能なロケーションを持つ広大な国アメリカならではの映画と言うこともできるだろう。

 そして、初めて本格的なアクションに挑んだというストリープはさて置き、屈折した犯人像を、先に公開された『告発』(95)とは違った形のうまさで演じたベーコンが何とも光った。そろそろ彼に名優という称号を与えてもいいかもしれないが、この映画の場合は、そのために、彼が悪人に見えずに困ってしまう、という反作用を生んでいた。

 ところで、事件を解決するのは、またしても銃であった。そうなると、この家族の絆の回復をうたったはずの映画の弱点や、引いては、銃社会、自衛の国としてのアメリカの弱点が浮き彫りになってくるところがある。

 どうせなら、ストラザーン扮するダメな夫の知恵で片が付くようなエンディングにした方が、家族の絆の回復というテーマが明確になり、すっきりと見終われた気がするのだが、それでは甘いのだろうか。 

 そういえば、この映画は、95年のゴールデンウイーク映画の一本だった。

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『映画の森』「追悼企画」大林宣彦映画の私的ベスト5

2020-08-24 06:29:01 | 映画の森

 共同通信社が発行する週刊誌『Kyoudo Weekly』(共同ウイークリー)8月24日号、『映画の森』と題したコラムページで「大林宣彦映画の私的ベスト5」を紹介。

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