亡くなった作家のピート・ハミルはアイリッシュ系でブルックリン育ちの苦労人。日本では、山田洋次監督の『幸福の黄色いハンカチ』(77)の原作となったコラム「Going Home」を書いたことでも有名だ。
ドーンの名曲「幸せの黄色いリボン」も、てっきりハミルのコラムが基になったものだと思っていたら、実は無関係で、ハミルが「自分のコラムを無断で使った」として、訴訟を起こしたこともあったそうだ。
「Going Home」は短編集の『ニューヨーク・スケッチブック』に「黄色いハンカチ」として収められたが、その姉妹編とも言える『東京スケッチブック』には、ニューヨークの下町の映画館で見た『七人の侍』(54)の志村喬に憧れたアメリカ人青年が日本にやってくるが…という「八人目のサムライ」なる好短編が載っていた。
ハミルは、異色西部劇『ドク・ホリディ』(71)や、ロバート・デュバル主演の渋い刑事物の『バッジ373』(73)といった映画の脚本も書いている。
また、ジョン・フランケンハイマー監督の『フレンチ・コネクション2』(75)では、フランスへ渡ったジーン・ハックマン扮するポパイ刑事が、地元の刑事(ベルナール・フレッソン)に、ニューヨーク・ヤンキースのホワイティ・フォードやミッキー・マントルについて語るシーンがあった。
ポパイが「自分は刑事になる前はヤンキースのマイナーにいたが、マントルの打撃を見て野球を諦めた」と語っても、野球もヤンキースも知らないフレッソンには全く通じない、というカルチャーギャップを生かした面白いシーンだった。
川本三郎のインタビューに対してハミルが「ここは自分が書いた」と告白している。「本当は(ブルックリン・)ドジャースにしたかったが、(超有名な)ヤンキースも知らないフランス人が相手だから仕方なかった」と。さすがに生粋のブルックリン子だけのことはある、と感じさせるいい逸話だ。
『フレンチ・コネクション2』
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