田中雄二の「映画の王様」

映画のことなら何でも書く

『第三の男』

2018-12-17 18:59:51 | 1950年代小型パンフレット

『第三の男』(49)(2005.2.24.)



 第二次世界大戦直後のウィーンを舞台にした名作サスペンス『第三の男』を再見。光と影を見事に対比させたロバート・クラスカーによるモノクロ映像の極致、アントン・カラスのチターの調べ、下水道で繰り広げられる追っかけのサスペンス、そしてそれぞれの登場人物が背負う悲しみを描き切ったキャロル・リードの演出…。やっぱり名画だ、と改めて感じる。

 続けて『追跡 第三の男』なるメーキング物が放送された。最近はDVDのおまけとして、この手のものが付くことが多い。映画についてあれこれと書く者としては、こうした物を見ることは趣味と実用(ネタ探し)を兼ねるので、とてもありがたい。
 
 今回は、この映画の助監督を務め、後に『007シリーズ』の監督として有名になるガイ・ハミルトンの証言が面白かった。そうかハリー・ライム(オーソン・ウェルズ)の影はハミルトンで、指はリードだったのか!

 また、改めて、スタッフやキャストの思惑とは全く無関係に完成した映画が独り歩きをすることや、人間や映画に対する評価の曖昧さについて考えさせられた。まあ、だからこそ映画や人生は面白いともいえるのだが。このメーキングを見たら、グレアム・グリーンの原作が読みたくなった。


ジョセフ・コットンのプロフィール↓


オーソン・ウェルズのプロフィール↓


『これぞ映画遺産!!次世代に残したい名作映画96』から↓

パンフレット(52・東宝事業課(日比谷映画劇場 No52-20))の主な内容
解説/物語/ジョセフ・コットン、オースン・ウェルズ、ヴァリ/伴奏音楽とアントン・カーラシュ/G.グリーンと第三の男(遠藤慎吾)/“第三の男”の周囲(筈見恒夫)

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『居酒屋』

2018-12-17 18:19:54 | 1950年代小型パンフレット

『居酒屋』(56)(2007.10.11.)

 フランスの文豪エミール・ゾラの原作をルネ・クレマン監督が映画化。舞台は19世紀の半ばのパリの裏町、ジェルヴェーズ(マリア・シェル)は内縁の夫に裏切られ、屋根職人と所帯を持つ。だがその後、彼は事故で足が不自由になり、ジェルヴェーズが洗濯屋の仕事で家計を支えることになる。



 子どもの頃に見た時は、あまりの暗さに途中で見るのをやめたのだが、今回は落語の長屋ものを聴くような趣を感じて面白く見た。この映画の良さや、やるせなさは大人にならないと分からない。シェルはもちろん、夫役のフランソワ・ペリエもいい。今回初めて最後まで見て、この映画のラストシーンが『女優ナナ』につながることが分かった。

マリア・シェルのプロフィール↓

パンフレット(56・外国映画出版社(フォーレン・ピクチャー・ニュース))の主な内容は
解説/マリア・シェル、フランソワ・ペリエ/物語/宿命の女の悲劇 ゾラの名作・クレマンの演出(QQ)/監督ルネ・クレマン/第二帝政時代の労働者階級(小林正)

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【ほぼ週刊映画コラム】『メアリーの総て』『輪違屋糸里 京女たちの幕末』

2018-12-15 17:01:57 | ほぼ週刊映画コラム
エンタメOVOに連載中の
『ほぼ週刊映画コラム』

今週は

少女から大人の女優へ
『メアリーの総て』『輪違屋糸里 京女たちの幕末』



詳細はこちら↓
https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/column/week-movie-c/1173467
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『虹を掴んだ男―サミュエル・ゴールドウィン』(A.スコット バーグ、 吉田利子訳)

2018-12-14 12:35:57 | ブックレビュー
 本書は、アメリカ映画を代表する独立プロデューサーの功罪を描いた一代記。ポーランド系ユダヤ人の貧しい家庭に生まれ、アメリカに渡って手袋のセールスで成功し、当時の新興産業だった映画製作に乗り出したサミュエル・ゴールドフィッシュ。

 彼はゴールドウィンと改名後、『この3人』(36)『孔雀夫人』(36)『デッド・エンド』(37)『ハリケーン』(37)『嵐ヶ丘』(39)『西部の男』(40)『教授と美女』(41)『偽りの花園』(41)『打撃王』(42)『ダニー・ケイの天国と地獄』(45)『我等の生涯の最良の年』(46)『虹を掴む男』(47)『気まぐれ天使』(47)…など、数々の名作を製作した。



 本の帯に「映画は監督のものでも、スターのものでもなく、私(ゴールドウィン)のものだ」とあるように、昔も今も、アメリカではプロデューサーの力は絶大だ。実際、アカデミー賞などで作品賞を受けるのは監督でも俳優でもなくプロデューサーではないか。

 本書を読むと、ウィリアム・ワイラー監督作として認知されている名作の数々が、実は“ゴールドウィンの意向を反映させたもの”だったことが分かり(例えば『嵐ヶ丘』のラスト)、映画における監督の役割とは一体何なのかを考えさせられるところがある。そういえば、ジョン・フォードは、自らの監督としての立場を「交通整理のお巡りさん」に例えていたなあ。

 そんなゴールドウィンが、ジーン・ネグレスコにプロデューサーとしての成功の秘訣を聞かれると、「いいストーリーを見つける。それから使える中で最高の(シナリオ)ライターを押さえる。次に最高の監督をつかまえ、第一級のぴったりした配役を決め、優秀なカメラマンを使う…。成功するにはこれしかない」と真面目な顔で答えたというのだから、愉快ではないか。

 今の日本では、このゴールドウィンについて、ほとんど語られることもないが、例えば、『気まぐれ天使』での淀川長治先生の「サミュエル・ゴールドウィンと云うプロデューサーは、こんな男」など、ゴールドウィン作品の日本公開当時のパンフレットには、彼に関する記述の多さが目を引く。

 先達はちゃんと分かっていたということか。
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『インカ王国の秘宝』

2018-12-13 16:07:40 | 復刻シネマライブラリー

 アメリカの冒険家ハリー・スティール(チャールトン・ヘストン)は野望を抱いてペルーに来た。観光ガイドは仮の姿で、インカ王国に伝わる日輪をかたどった秘宝を探し出すことが本当の目的なのだ。だが、そこに、謎の美女や宝探しのライバルが現れて…。



 1954年にパラマウントが製作した、物欲の権化となって異郷をさまよう主人公が、一獲千金を狙う、宝探しの冒険映画で、後の『インディ・ジョーズ』シリーズにつながるものがある。

 また、50年代半ばに盛んに作られた、アメリカ国外にランナウェイ(逃げ出し)して製作された「ランナウェイ方式」映画の一本であり、ペルーのマチュ・ピチュで初めてロケーション撮影をした映画でもある。

 監督のジェリー・ホッパーは、ヘストンがバッファロー・ビル・コディを演じた西部劇『ミズーリ大平原』(53)でもコンビを組んだ。もともと編集で鳴らした人だけに、本作も、ユーモアを交えながら、歯切れのいいテンポで見せる。

 ルーマニアから亡命してきた謎の美女というめちゃくちゃな設定で、フランス出身のニコール・モーレイがヘストンと絡む。あまり知らない女優だが、なかなか色っぽくて良し。

 ヘストンの多彩なキャリアの中で、南米アマゾン川上流の開拓地を舞台に人喰いアリの大群と農園主の戦いを描いた『黒い絨毯』(54)とこの映画、そして米西部開拓史の端緒となった「ルイス&クラーク探検隊」のルイジアナ探索を描いた『遥かなる地平線』(55)を併せて、「パラマウント、ヘストン探検・冒険三部作」と勝手に呼ぶことにした。

パンフレット(56・新世界芸能社(洋画ウィークリー))の主な内容は
チャールトン・ヘストン、ニコール・モーリー、トマス・ミッチェル、ロバート・ヤング/製作ゴシップ/監督ジェリー・ホッパー/解説/ストーリー/インカ王国とその文化(西侃一郎)/五つの声の歌手イマ・スマック/チャールトン・ヘストン出演映画

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【インタビュー】『シュガー・ラッシュ:オンライン』菜々緒

2018-12-13 15:53:47 | インタビュー

「この映画には宝探しのような面白さがあります」



https://tvfan.kyodo.co.jp/feature-interview/interview/1173023

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『スタア誕生』完全版

2018-12-13 09:26:37 | 1950年代小型パンフレット

『スタア誕生』完全版(54=83)(1993.1.12.)



 この話は、これまでに三度映画化されている。ウィリアム・A・ウェルマン監督のオリジナル(37)は、サイレントからトーキーに移行する際のスター同士の逆転図。この映画は、当時はやっていたミュージカル仕立て。そして、わがリアルタイムのバーブラ・ストライサンド主演の『スター誕生』(76)は、女性の自立のドラマ、という具合に、同じ話を描きながら、作られた時代の雰囲気によって微妙に変化している。ところが、スターの存在、華やかさの裏にある悲劇、人生の変転という縮図はどの時代にも当てはまる。だから繰り返し映画化されるのだろう。

 この3時間にも及ぶ大作は、まさしくジュディ・ガーランドの独壇場であった。その姿は、『オズの魔法使』(39)の少女ドロシー役や、『イースター・パレード』(48)の可憐な印象が強い自分にとっては衝撃的であったが、彼女のミュージカル女優としての存在感の大きさを、今更ながら思い知らされた。

 もう一つ興味深かったのは、この映画のショートカットのガーランドが、驚くほどライザ・ミネリに似ているということだった。もちろん母と娘なのだから似ていても当たり前なのだが、この2人は、自分の中では見た目が似ていない母と娘として認知していただけに、改めて血の絆を感じさせられたのだ。

 そのガーランドは、自殺未遂後、この映画で見事に復活を果たし、アカデミー賞の本命とされたが、『喝采』のグレース・ケリーにさらわれ、再びノイローゼに陥り、後に命を落とす。ガーランドと親しかったサミー・デイビス・Jrは、この件について、著書『ハリウッドをカバンにつめて』の中で不当な結果として、怒りを露わにしている。

 つまり、実生活では、皮肉なことに、映画とは逆に、ガーランドが落ち、落ちぶれて自殺する夫役のジェームズ・メイスンの方が名脇役として生き残ったのだ。だから、時代を経た今、そうした2人の“その後”に思いをはせながらこの映画を見ると、別な意味で切なくなってしまった。

ジュディ・ガーランドのプロフィール↓


ジェームズ・メイスンのプロフィール↓


*四度目の映画化となったレディー・ガガ主演、ブラッドリー・クーパー共演、監督の『アリー/ スター誕生』が間もなく公開される。
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/20514e480032cef0dbcab5bd0d66dd6f

パンフレット(55・東宝事業部(東京宝塚劇場))の主な内容
かいせつ/ものがたり/鑑賞の栞 ジュディ・ガーランドを中心としたスタア誕生の優秀な鮎(清水千代太)/ジョージ・キューカー監督のこと/見事にカムバックしたハリウッドの名花ジユデイ・ガーランド/スタア紹介ジェイムス・メイスン、チャールズ・ビックフォード、ジャック・カースン、ルシイ・マーロウ/ビール誕生

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『秘境』

2018-12-12 06:14:44 | 1950年代小型パンフレット

『秘境』(49)(2013.4.24.渋谷シネマヴェーラ「西部劇特集」)

 舞台はアリゾナの「迷信山」。実話と言い伝えを基に、金鉱をめぐる人間の欲望を、過去と現在を交錯させながら描く。



 時代は現代。バリー・ストーム(ウィリアム・プリンス)は、祖父が発見した金鉱を探す中、殺人事件に巻き込まれる。

 時代変わって、1880年代。バリーの祖父のジェイコブ(グレン・フォード)は、仲間を殺して金鉱を独り占めにするが、町でパン屋を営むピート夫妻(ギグ・ヤング、アイダ・ルピノ)の罠にはまる。ところが地震が発生し、金鉱は埋まってしまう。と、ここは一種の西部劇。

 再び現代。犯人は意外な人物で、結局金鉱のありかは謎のままだが、ラストに「アメリカ市民なら、誰でも発掘の権利がある。位置もほぼ解っているのだし、この話は本当のことなのだから…」という声が入る。つまりはこれは実話なのだということを強調して終わるのだ。

 オランダ人の黄金伝説、宝探し、悪女、三角関係、岩山、地震、ミステリー、アクション…とさまざまな要素が盛り込まれた、寓話ともトール・テール(ほら話)ともつかないストーリーの面白さに、同じく金鉱探しを描いたジョン・ヒューストン監督の『黄金』(48)やJ・リー・トンプソン監督の『マッケンナの黄金』(69)にも通じる空しさも加味されたなかなかの映画だった。

グレン・フォードのプロフィール↓


ギグ・ヤングのプロフィール↓

パンフレット(50・新世界出版社(AMERICAN MOVIE WEEKLY))の主な内容
解説/物語/アメリカの批評/Star Memo(アイダ・ルピノ、グレン・フォード、ギグ・ヤング)

 

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『春の珍事』

2018-12-11 13:42:08 | 1950年代小型パンフレット

『春の珍事』(49)(1979.11.25.)

 大学の先生(レイ・ミランド)が、偶然発明した薬(木材を避ける液体)のおかげで大リーグ、セントルイス(カージナルス?)の“にわかピッチャー”になるというコメディ。



 小学生の頃、漫画『巨人の星』で、この映画に関する挿話を読んで以来、見たかった映画。監督はベテランのロイド・ベーコン。『三十四丁目の奇蹟』(47)『グレン・ミラー物語』(54)でも有名なバレンタイン・デイビスの脚本がうまい。

 主人公を支えるキャッチャー役のポール・ダグラスがいい味を出し、主人公の恋人役のジーン・ピータースがとてもかわいい。この薬を整髪料と間違えて髪につけ、木製のくしでとかそうとしたら…というギャグに大笑いさせられた。

 ところで、『巨人の星』はバットをよけて通る魔球、大リーグボール3号を、この映画の設定になぞらえていたが、老人が謎の薬のおかげで期間限定で若返るという楳図かずおの漫画『アゲイン』も、この『春の珍事』と『くたばれ!ヤンキース』を下敷きにしているのでは…、と思った。

【今の一言】この『春の珍事』の“少年版”とも呼ぶべき『がんばれ!ルーキー』(94)は、右腕のけががもとで剛速球が投げられるようになった12歳の少年ヘンリーが、弱いけれど人気だけはある老舗球団のシカゴ・カブスに入団するという話だった。

パンフレット(アメリカ映画宣伝社(American Picture News))の主な内容
解説/物語/影の歌/この映画の面白さ

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『赤と黒』

2018-12-11 06:12:01 | 1950年代小型パンフレット

『赤と黒』(54)(2010.7.31.北千住シネマブルースタジオ)



 ジェラール・フィリップの没後50周年を記念して公開されたデジタルリマスターの完全版。フィリップの映画を映画館で見るのは今回が初めて。今までは伝説上の遠い存在だったが、見てみると、確かに魅力的な俳優だと納得させられた。

 原作はスタンダール。「赤と黒」とは軍服と僧衣を表すという。このタイトルには、下層者が成り上がるには、軍人か宗教家として出世するか、貴族に取り入るしかない、という不条理や皮肉が込められているのだそうだ。

 その意味では、この映画は一種のピカレスクロマンであり、高貴と粗野という正反対の魅力を併せ持ったフィリップにはもってこいの役だったと思える。主人公ジュリアンの独白や心の声をセリフで表現する手法も面白い。

 共演の女優も、熟女の魅力のダニエル・ダリューと、ナタリー・ポートマンを思わせるエキゾチックな風貌の、若いアントニオ・ルアルディが、対照的な女の魅力を発散する。また、監督のクロード・オータン=ララについても、テレビで晩年の作品を少し見ただけだったので、今回のこの映画で、改めて監督としての力量の大きさを知らされた。

 フランス映画界は、1940年代はジャン・マレー、50年代はフィリップ、60年代はアラン・ドロンが代表選手だという。フィリップはヌーベルバーグの台頭と相前後して世を去ったが、だからこそ伝説になったとも言える。彼に生々しい現代劇は似合わないと思ったが、風貌は若き日のミッキー・ロークに似ているところもあるので、もっと長生きしていたら、ちょっと崩れた感じの役で、また違った魅力を発揮していたかもしれないと思った。

ダニエル・ダリューのプロフィール↓

パンフレット(54・日活本社宣伝部(Nikkatsu Theatre News No.17))の主な内容
原作者スタンダール/解説/貴方と私・赤と黒を中心に(淀川長治)/鑑賞講座(野口久光)/物語/ファンファンの魅力(小森一慧)/ダニエル・ダリユウ、アントネラ・ルアルディ/監督クロード・オータン=ララ

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