戦前は稲垣浩の『無法松の一生』(43)、戦後は大映で溝口健二(『雨月物語』(53)『山椒大夫』(54)『近松物語』(54)など)や、市川崑(『炎上』(58)『鍵』(59)『ぼんち』(60)『おとうと』(60)など)と組み、多彩なプログラムピクチャーやシリーズものも手掛け、五社協定のために本来は組めなかったはずの黒澤明(『羅生門』(50)『用心棒』(61))や小津安二郎(『浮草』(59))とも仕事ができた人。ある意味、幸福なカメラマンだったと言えるだろう。
『無法松の一生』のオーバーラップ、『羅生門』の太陽、『雨月物語』の濃霧、『炎上』の金箔、『おとうと』の銀残しなど、宮川が日本映画の撮影史上に残した足跡は計り知れないものがあると、改めて感じさせられた。
中でも、小津安二郎唯一の大映作品である『浮草』についての大林宣彦の証言が面白かった。
この映画は、中村鴈治郎、杉村春子、京マチ子、若尾文子、川口浩、笠智衆、脇に三井弘次、田中春男、潮万太郎と、小津映画の常連と大映の俳優たちが絡む面白さや、歌舞伎の重鎮、鴈治郎が旅役者を演じる皮肉に加えて、宮川の赤を際立たせるカメラワークや、通常の小津映画には見られないカメラアングルが新鮮な、異色作だと思っていた。
ところが、大林によると、宮川は自分が出過ぎて小津の世界を壊したのではないか、と盛んに気にしていたらしいのだ。なるほど、この映画の魅力は違和感にあったのか…。