ご近所のおばあさんが亡くなられました。90近いお歳でした。
年配のおばあさんたちの、昔の話を聞くのはだいたい祠の掃除のとき。
今は60くらいになる子どもさんたちを育ててる頃の話は
ほんの50年前ほどなのことなのに、とても遠いものに感じる。
「息子にジャンパーを買ってやるために、炭を作ってな。
それを駅まで持ってって売ってこうてやった」
駅までは10キロ近くあって、そして当時は徒歩だった。
リヤカーを引いて、山道。
病気になるとリヤカーに乗せて引いていく。
夜中でも雪の中でも。
リヤカーを引いていくお母さん、
乗っていた子どもはどんな気持ちだったのだろう。
おばあさんは見かけるといつも直角くらいに曲がった腰を杖で支えながら
畑のあたりにいた。
雑草を手で抜いていたと思う。
お野菜をいただいたことがあって、それはちょっと硬い葉野菜だった。
おばあさんは大事そうに、これやっからな、少し茹でて塩漬けしときゃ食えるで
ってたくさんくれた。
きっとたべれるものは、捨てるところなど何もなく、大事に、手をかけて
みんなの食卓に並べたんだろう。
それくらい必死だったことがうかがえる。
たった50年しか経っていないのに。
わたしはこのおばあさんみたいな真剣な生き方はできない。
こんなふうに自分の命を吹き込むように子どもを育てていない。
でもおばあさんに出会って思うことは忘れないでいたい。
今はそれくらいしかできない。
おばあさんが息子さんに買ってあげたジャンパーは、
どんな価値があるだろう。計り知れないくらいの価値。