tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

「即戦力」への疑問

2009年05月25日 11時13分47秒 | 労働
「即戦力」への疑問
 世界金融危機による予想外の経済、経営の深刻化で、就職戦線も大変厳しい状況にあるようです。「就活」などという言葉が出来て、昔は卒業が近い学生という限られた人たち中での問題だったものが、社会全体に大きく取り上げられるようになっています。

 それはある意味では大変良いことですが、子供から大人まで、広く伝達される情報は、その中身が知って役に立つ良いものであって欲しいと思うのは私だけでしょうか。就職採用問題について言えば、金を払って勉強する時代から、働いて金を貰う時代への人生の180度の大転換について、より本質的な認識を持たせるような情報が必要のように思います。

 そうした中で気になるのが、「即戦力」という言葉が、採用側からもよく出てくることです。
「即戦力」という言葉が流行り始めた頃採用された人たちが、採用の側に回っているからかもしれませんが、現実には、社会人1年生に、「即戦力」などありえないのではないでしょうか。

 特別の事情があっての中途採用なら「求む、即戦力」という事もありましょう。しかし、企業がみんな即戦力を求めたら、即戦力を持つ人間だけが、より高給のヘッドハントでたらい回しにされて、大多数の人間は取り残されてしまいます。それでは産業社会の人材(即戦力者)の数は増えません。

 かつて日本は全く違った方法で成功してきました。素材採用、企業内訓練です。こうした形で、集団就職した人たちの中からも、多くの現代の名工が生まれました。各企業がそれぞれに人を育てれば、10年もたてば、日本中の「即戦力者」の数は格段に増えます。これこそが日本経済社会発展の原動力です。

 かつて、石川島重工がブラジルにイシブラス作って、現地で大規模な採用と訓練を行った時、訓練が終わると転職してしまう人が多く、「石川島職業訓練所」と綽名されたことがありました。その関係者が、「ブラジルの将来のために技能工を育てているのだと思ってやっています」といわれたことを今でも感銘深く記憶しています。

 即戦力、即戦力といっているうちに、日本の人材の絶対量がどんどん減っていく、そんな近視眼の、お手軽採用で、日本の将来を危うくしないよう、日本企業の人事・採用担当者に採用問題と人材育成の本質を確りと考えて欲しいものだとおもっています。