tnlabo’s blog   「付加価値」概念を基本に経済、経営、労働、環境等についての論評

人間が住む地球環境を、より豊かでより快適なものにするために付加価値をどう創りどう使うか。

トランプのアメリカそして日本

2016年11月10日 13時29分30秒 | 国際関係
トランプのアメリカそして日本
 トランプ氏が大統領選に勝って一夜明けました。世の中は、新しい事実にどう対応しているのでしょうか。
 アメリカではクリントン支持だったカリフォルニア州などで、反トランプのデモなどがあり、一部が暴徒化したといった報道もありますが、何かアメリカも途上国並みといった感じを与えるのではないでしょうか。

 一方株式市場は日米とも暴騰、日本での昨日の900円の暴落は何だったのかといったところです。政治にも敏感なドル相場は、昨日のドル急落からドル高円安に反転、先行き不明瞭の中で何かのシナリオで動いているのでしょうか。

 トランプ大統領のアメリカについての意見もいろいろありますが、矢張り基本的には「アメリカは出しゃばり過ぎをやめよう」という、いわば本卦還りが基本的にありそうな気がします。

 歴史的に見れば、アメリカが建国途上で、自国の発展に一生懸命だったころにモンロー主義が生まれたのは当然でしょう。広い国土と豊富な資源を持ったアメリカは、ヨーロッパから孤立して、自国建設にだけ邁進するのがベストだったのでしょう。

 しかしその後経済力が付くにつれて、外にも目を向けるようになり、第二次大戦後は世界一の経済力で覇権国として君臨することになりました。
 しかしニクソンショックでその翳りが見え始め、実業から金融への舵取りもサブプライム・リーマンショックで挫折、TPPのISDS条項を活用しても十分な経常赤字ファイナンスも期待できないとなれば、再び自国中心、自国の繁栄重視に帰るのも必然かもしれません。

 トランプ氏のビジネスの目で見れば、「アメリカは随分余計な無駄をやっている」「どうでもいいことをやめれば、十分豊かな国に戻りうる」と考えても不思議ではありません。

 いまだに経済、政治、軍事の各面で巨大な力を持つアメリカは、ハードパワーでなく「ソフトパワー」で低コストで世界の良好なバランス回復に貢献しつつ、経済力を自国の建設に使うことのメリットを生かす方が得策と考えても当然でしょう。

 中国、ロシアがトランプ氏に親近感を感じるのも、この所の何か緊張感が強まる国際情勢の中で、アメリカがソフトパワー重視に転換すれば、過剰な被害者意識を持たなくてもよくなるという、何となくの安堵感があるからではないでしょうか。

 些か希望的な見方が強すぎるかもしれませんが、アメリカが自らの力で、世界を思うように動かそう(世界の警察官)と考えるか、他国のことは、他国にお任せしましょう(日本についても)と考えるかで、世界は変わるかもしれません。

 どの国も自国の経済建設が最も大事です。破壊を伴う戦争はしたくないが現実でしょう。そのための資源獲得競争はあり得ます、同時に省資源の技術開発も盛んです。ソフトパワーの世界では、国際機関も徐々に力を増すでしょう。

 アメリカが変わるのかどうか、変わるとすればどう変わるか、それによって、世界がどう変わるか、まだまだ先は長いのでしょうが、さしあたってトランプ大統領の8年、世界がより良く変わるように期待したいものです。
 日本もその中で従来の固定観念を変えなければならないのではないでしょうか。

トランプ大統領のアメリカ

2016年11月09日 17時41分43秒 | 国際関係
トランプ大統領のアメリカ
 大方の予想を裏切って、アメリカはトランプ氏を大統領に選びました。
 正直言って、ほとんどの人が予想しなかった結果ではないでしょうか。私も「まさかそんな結果が現実に・・・」という感じです。

 こうした情報の先読みに最も敏感なマネーマーケットのプレイヤーたちもトランプ大統領という選択は頭になかったのでしょう。昨日の市場は、円安、ダウ平均は、大幅ではありませんが(この辺に一抹の危惧はあったのでしょうか?)順調に値上がりでした。
 
 しかし考えてみれば、私たちが情報を得ているのは、ほとんどマスコミからです。テレビでアメリカ問題の専門家の意見を見ても、最終的にはクリントン氏という事でした。 

 最近、本当のことは、専門家にも、なかなか解りにくくなっているようです。イギリスのEU離脱の国民投票の時も、まさに予想を裏切るどんでん返しでしたが、こうした世論の読み違いが起こりやすい世の中になっているようです。

 こうした報道に携わるマスコミ人、解説をする評論家たちは、いわばエスタブリッシュメントの中の人間でしょう。そして、従来のエスタブリッシュ支配が、いつの間にか足元で崩れてきていて、それが未だ良く理解されていないからではないでしょうか。

 アメリカで言えば、「個人の力で頑張れる国」「頑張ればアメリカンドリームも実現できる国」というのが現実であり、誇りだったのでしょう。

 しかし現実は、国際競争力は落ち、その弱体化をカバーしようとして主導したマネー資本主義は異常な格差社会を作り出し、どん底から這い上がれない所謂「プア―ホワイト」、夢の実現にアメリカを目指した多くの移民(不法を含む)も多くは「アメリカンドリーム」からは遠くなってしまったアメリカを実感することになったのではないでしょうか。

 アメリカの製造業が世界を制覇していた時期は現場のブルーカラーでも豊かな暮らしができたのでしょう。デトロイトの没落に象徴されるようなアメリカ製造業の衰退は、エリート支配のマネー資本主義とともに、アメリカの中間層を没落させ、深刻な格差社会を作り出したようです。

 エスタブリッシュ内の人々の気付かない内に、アメリカ社会の中には、絶望感と被害者意識が広範に蓄積されていったようです。
 この被害者意識を掬い取ったのがトランプ氏の戦略だってのではないでしょうか。

 多くのアメリカ人が、ラストベルト(錆びついた工業地帯)では、「日本の自動車が我々の職場を奪った」というトランプ氏に共鳴し、南部では「不法移民が我々の雇用の場を奪うから壁を作る」といった発言に感激するのは、やり場のない被害者意識のせめてもの表出で、それが投票行動で具体化するといった構図が見えるように思われます。

 アメリカ社会は明らかに変わってきているようです。アメリカンマジックはもう通用しない、アメリカはすでに普通の国になっていまっているのです。覇権国を標榜しても足元が崩れてきているのではないでしょうか。

 「大国の興亡」を地で行くシーンをわれわれは見ているのでしょう。
 1971年のニクソンショックはその序章でした。今回の選挙結果は第1幕の始まりでしょうか。世界はこれから徐々に変わらざるを得ないでしょう。

 
 トランプ氏の勝利宣言の演説は、ビックリするほどまともなものでした。おそらく、これが大統領になってからのトランプ氏の態度を示すものなのでしょう。
 しかし、トランプ大統領になって、さて、いかなる国造りをするのでしょうか。

円レートの推移と企業収益の動向

2016年11月07日 21時05分07秒 | 経営
円レートの推移と企業収益の動向
 アメリカの大統領選挙も明日8日に迫りました。アメリカは半日遅れですから、日本時間では明後日にかけてですが、泥仕合の挙句に、FBIの良く解らない行動などがあって、最後までごたごたです。

 そのたびに円レートは動き、日経平均は下がったりまた上げたり、大方の見方はクリントン候補が勝つだろうという事に落ち着いたようですが、イギリスの国民投票の例もあり、何が起きるかわかりません。

 クリントン候補が当選したほうが、アメリカも、世界経済は安定するという意見が一般的ですが、トランプ候補が勝つと、強いアメリカでドル高になり、円安になって、日本株は上がるなどという解説があったりで選挙結果が出るまでは、まだ混乱でしょうか。

 確かにこのところの日本経済は、円レート次第といった様相が明らかです。今後の為替の推移はわからないにしても、いわゆる黒田バズーカ以来の円安と企業収益の関連について、見ておくのも役に立つかと思い、財務省の「法人企業統計年報」から収益関連の数字を拾ってみました。

 年度    円レート 営業利益率 経常利益率
2011年度    80円    2.8%   3.7%
2012年度    80円    2.9%   4.1%
2013年度    98円    4.1%   5.5%
2014年度   106円    4.2%   5.9%
2015年度   121円    4.3%   5.9%

 数字は「製造業・全規模」で、円レートのみ年平均(世界経済のネタ帳)です。利益率はともに「対売上高」の比率です。

 営業利益は売上高から製造原価(売上総原価)と管理販売費を引いた営業活動の利益で、経常利益は、それに受け取り金利・配当、為替差益などの金融関連の収益を加え、同じく金融関係の費用を差引いたものという事になります。

 ところで、2013年4月に黒田バズーカ1発目、2014年10月に2発目、これで円レートは80円から120円になりました。
 これは輸出の競争力強化、輸入品の値上がりなどで、特に製造業にはプラス効果が大きく、営業利益を3%弱から4%超に引き上げています。

 さらに顕著なのは金融関連の収益の向上による「経常利益」の改善で、こちらは3.7%から5.9%に、2ポイント以上改善しています。
 異次元金融緩和で、支払金利は減少、企業は収益が向上で増配、当然、受取配当は増え、さらに為替差益が入るといった効果でしょう。
 
 上の表では、円レートは同じ80円の2011年と2012年ですが、月別の動きを見ますと2013年の3月(12年度末)には、投機資本が先読みしたのか95円まで円安になっていますからその効果でしょう。

 こんな具合で、2015年までは景気も順調、株も高水準を謳歌したようですが、2016年になると、円レートは100円近くまで円高になってきます。今度は当然、逆の効果が出てくることになります。

 このブログでは、為替レート(円レート)の適切な水準での安定が経済の安定成長には必須、と繰り返し述べていますが、現実は、イギリスのEU離脱問題やアメリカの大統領選挙のドロ試合が為替レートを乱高下させるような「金融資本主義全盛」の世界経済です。
 日本経済の安定成長は容易ではないようです。

CNF(セルローズ ナノ ファイバー)に期待

2016年11月04日 17時23分11秒 | 科学技術
CNF(セルローズ ナノ ファイバー)に期待
 ご専門の方には旧聞に属するのかもしれませんが、日本では製紙企業を中心にCNF(セルローズ ナノ ファイバー)の実用化が、世界に先駆けて進められているようです。

 木質の繊維をナノレベルまで分解することを可能にした東大の磯貝教授らの技術をベースに、それを素材として活用して、まさにマジックのように、多様な可能性が広がり始めているようです。

 CNF(セルローズ ナノ ファイバー)は、ガラスのように透明で、弾力性もあり、強度は鉄の5倍、重さは鉄の5分の1といわれます、これだけでも驚きですが、添加剤にすれば、消臭機能や粘度の向上が可能になり、日用品であれば紙おむつ、ソフトクリームの形を保つなどといったことから始まり、ゴム製品やプラスチックの性能向上、薄膜ガラスの代替などなど多様な開発が進み、すでにすでに実証生産設備が稼働、製品の供給も始まっているようです。

 まだ価格は炭素繊維より高い状態のようですが、量産効果や技術開発で、価格も急速に下がるでしょう。
 いずれにしても植物由来ですから、環境問題の解決には、まさにうってつけで、自動車の軽量化などに本格的に活用されるようになれば、活用の可能性は無限に広がっていくのではないでしょうか。

 もともと日本初の技術が核心になっており、実用化のついても日本が世界に先駆けている状態のようです。

 偶々今日は地球温暖化問題に対するパリ協定の発効の日で、この協定に後ろ向きの日本に対してはマスコミも強く批判的です。

 こうした問題に前向きに対応していくためにも、大きな可能性を一つ提供しているのがCNF(セルローズ ナノ ファイバー)ではないでしょうか。
 世界に先駆けた日本企業の一層の活動を期待したいものです。

あらためて日銀の物価観を考えてみる

2016年11月02日 14時49分08秒 | 経済
あらためて日銀の物価観を考えてみる
 2パーセントインフレを2018年4月までに実現するという目標で、異次元金融緩和を続けてきた日銀が、正式にこの目標の先延ばしに言及しました。
 奇を衒うマスコミは、「異次元金融緩和の事実上の敗北」などと書いたりしていますが、もう少し本格的な考察をすべきだなどと思ってしまいます。

 白川日銀の最後の頃には 多少の政策変更が感じられましたが、 黒田日銀になって、日銀の物価観は大きく変わりました。そしてこれが、日本経済の大転換を齎したことは、矢張り決定的に重要です。

 それまでの日銀は「物価の番人」という立場を極端に重視し、プラザ合意後の異常な円高で、デフレ傾向が明らかな中でも、「物価は上がらない方がいい」とかたくなに考えていたフシがありました。

 黒田日銀は、浜田宏一氏などの主張のように、「アメリカ並みの超金融緩和を行い、たとえ物価が上がっても円レートを正常な水準に戻す」ことを目的としたようです。
 そして現実に打ち出されたのは、国債買い入れを中心に異次元金融緩和、ゼロ金利政策、物価上昇目標2%などでした。

 当時は、日本に円高を強いたアメリカが「円安誘導は怪しからん」という可能性も危惧、「やっていることはアメリカと同じ(物価誘導目標も)」と言えることが重要だったように思われます。

 結果は大成功で、二度の金融緩和政策(2発の黒田バズーカと言われた)で$1=¥80は$1=¥120になり、日本経済は「失われた20年」を脱出しました。
 安倍さんはこれを、アベノミクスの大成功と喧伝したのはご記憶の通りです。

 アメリカとは経済の環境もあり方(国民意識)も大きく違う日本で、アメリカと同じ2%インフレ目標を掲げたことも、当然アメリカを意識してのことでしょう。

 私は、2%インフレ目標というのは、金融緩和の口実といった意味も大きかったと思っています。アメリカも2%と言っているのだから、日本も2%になるまで金融緩和は続ける、という事で、円高への逆戻りを阻止するといった主張が可能になるわけです。

 その意味では、昨今のように 「異次元金融緩和」を続けても円高方向に振れる可能性が出てきたという状態では、現実問題として、2%インフレターゲットに固執する意味は次第に薄らいできたのではないでしょうか。

 一方、国債の35%近くを日銀が保有するという状態は将来の金融正常化への道をますます難しいものにする懸念が高まっています。
 健全な日本経済の成長維持のための過度の円高阻止については、先読みをされ、効果の薄れたる金融政策ではなく、 よりまともな対応策が必要という事でしょう。

 「有事のドル」から「さしあたって円」という投機筋の通貨選択の変化の背景には、アメリカの万年赤字と日本の万年黒字があることは明らかです。
 そして日本の万年黒字の背景には「極端な消費不振」、そしてその背後には、進行する格差社会化と現政権に政策に対する 金融政策のできることには限りがあることをアベノミクスが理解しなければ、日銀の苦悩は続くばかりでしょう。

人件費支払能力の基準:付加価値の配分との関係(支払能力シリーズ4)

2016年11月01日 12時28分10秒 | 経営
人件費支払能力の基準:付加価値の配分との関係(支払能力シリーズ4)
 前回までに、人件費支払能力の基本的な基準は「生産性」であることを述べてきました。そして前回は「生産性は名目値か実質値か」を検討しました。今回は生産性の源である「付加価値」の配分との関係を見ていきましょう。

 日本経済全体で、賃金を何%上げられるかを考える場合、就業者1人当たりのGDPの伸び率、つまり国民経済生産性が基本的な基準になると述べましたが、GDPというのは日本経済の1年間に作り出した付加価値ですから、すべての源は「 付加価値」という事になります。

 日本経済でも個々の企業でも、年々より大きな付加価値を生産して、その分配としての人件費、と利益(厳密には資本費)を年々より大きくするというのが「成長」です。
 成長経済がなくては、賃金も利益も増えません。

 という事で、付加価値(GDP)の増加に比例して人件費も利益も増やせば、それは均衡成長(balanced growth)ということになります。
 ただしその場合には、前年の付加価値の分配が適切なものだったという事が前提になります。

 定義によれば、「付加価値=人件費+資本費」ですから、通常、この分配問題が議論するときには「 労働分配率」(人件費/付加価値×100)を使います。
 労働側は良く「労働分配率が下がっているからもっと上げるべきだ」と主張し、経営側は「労働分配率を上げ過ぎると利益が減って不況になる」などと応戦します。

 ここでは「労働分配率を上げるために『生産性の上昇以上』に賃金を上げるべき」という主張と「生産性の上昇以上に賃金を上げると労働分配率が上昇し、資本分配(利益)が下がり不況になる」という主張が対立することになり、労使関係における伝統的な大問題である「適正労働分配率」という問題が出てきます。

 日本のGDPの中で、労働分配率はどのくらいか、長期の推移を見ますと、日本経済が順調だった1980円台には66~68%台でしたが、「失われた20年」の底1998年度には74.3%まで上昇、「いざなぎ越え」の2007年には69.5%まで下がりましたが、リーマンショックで74.1%に上昇、その後に日銀の政策変更による円安のお蔭もあって2014年度には69.2%に下がっています。(内閣府「国民経済計算」より)

 このように労働分配率は景気によって変動するのですが、それでは「望ましい」「適正労働分配率」は何%なのでしょうか。
 勿論、具体的な数字を算出することは不可能でしょう。皆様のお宅のリビングルームの温度のように、季節やご家族の服装、体調などによってその時期、その時間に適切な温度に調節するしかないのでしょう。

 しかし、どういう場合にどう調整したらよいかという考え方はあると思います。いわば、果てしない労働分配率論争を整理するための基本理念、分析に有用な道具といったものは、いろいろな形で出されています。
 そんな点も折に触れて皆様とともに見ていけたらと思います。
(この「支払能力シリーズ」は、連続ではなく、とびとびのものになると思いますが、シリーズの何番と記して、継続していきたいと思っています。)