守田です。(20110708 23:30)
7月3日に、たくさんの企画がありましたが、僕は内部被曝問題
の第一人者である矢ケ崎克馬さんなどが出演する講演会に参加
してきました。矢ケ崎さんだけでなく、すべての講演者のお話
が素晴らしく、たくさんのことを学ぶことができました。さら
に二次会にも参加させていただき、直接、矢ケ崎さんに疑問点
などを教えていただくことができました。感激でした。
この日の集会の様子を、毎日新聞の太田裕之記者が非常に的確
に記事にしてくださっています。末尾に貼り付けるので、ぜひ
ご覧ください。短い紙面にかなり内容を盛り込んだ鋭い記事だ
と思います。
この集会に向けて、矢ケ崎さんの書いた『隠された被曝』を
熟読しました。また同時に、被爆者6000人を診て、もっとも早く
から内部被曝を告発していきた肥田舜太郎さんの本や、肥田さん
が執念で翻訳されたアメリカの研究書なども読みこみ、内部被曝
問題について、かなりの見識を深めて来ることができたように
思っています。
それから今、思うのは、この内部被曝問題こそ、放射線のことを
語る時の最も重要なポイントであり、同時に脱原発を考える上で
も欠かせないポイントであるということです。
なぜなら内部被曝は外部被曝と違って、低線量でも人体に深刻な
ダメージを与えるにもかかわらず、これが隠されてきたこと、そ
のため実は現存する放射線科学自身が、かなり歪められたものに
なっており、このもとで核兵器開発が多くの国で容認され、さら
に原子力発電がよりたくさんの国で行われてきたからです。
これは核兵器の開発・製造・使用に深く関わる問題です。とうい
うのは、誰もが知っているように、世界で唯一、原爆を投下した
のはアメリカであり、唯一、投下されたのは、日本であるわけで
すが、アメリカは日本占領後、ただちに、被爆に関する情報を最
高度の軍事機密に指定し、とくに被爆の実態が世界にもれないよ
うにしたのですね。
そのとき一番、重要だったのは、内部被曝問題でした。つまり原
爆爆破時の熱線や、放射線による被爆(放射線については外部被
曝)については、隠しようのないものとして記録されていったの
ですが、その後の死の灰を吸い込んで起こった内部被曝問題を、
米軍はひた隠しにしたのです。
何故か。熱線と放射線による無差別殺人とて、あまりに惨い人道
的罪ですが、さらに放射性降下物によって起こる内部被曝は、戦
闘終結後も、人々を傷つけ、未来世代にまで被害をおよぼすより
非人道的罪なものであって、これが世界に知れ渡ることにより、
世界中からの批判が集まることを恐れたからです。
それだけではありません。実はこの原爆の開発時、アメリカはす
でに深刻な放射能漏れを起こしているのですね。とくに長崎に落
とした原爆にはプルトニウムが使われましたが、これは原子炉で
ウランに中性子をあててプルトニウムを作り、再処理して、手に
入れるしかないもので、このプルトニウム製造過程で、すでに多
くの放射能を漏らしてしまっていたのです。
さらにアメリカは作ったプルトニウム原爆の一つをニューメキシ
コで爆破させているのですが、この核実験でも、たくさんの死の
灰を自国に撒いてしまっている。その意味で実は最初に被曝した
のは、ウラン鉱山の周りの人々、そしてまたアメリカの核兵器工
場や実験場の周りの人々だったのです。
さらにこの核開発技術を戦後にソ連が盗み取ることで、両大国に
よる核開発=核実験競争が始まりました。それはイギリス、フラ
ンス、遅れて中国などを巻き込んだものになっていった。その際
も、本当にたくさんの放射能が大気中に撒かれてしまった。
アメリカは何よりも、こうして撒かれた放射性物質が激しく人々
を傷つけることを隠したかったのです。それでなければ核戦略が
維持できない。広島・長崎の被爆者の内部被曝の問題が明らかに
なると、同時に自国内部からも被曝させられたことに対する非難
の声があがってしまうからです。
しかもこうした内部被曝隠しは、資本主義国だけでなく、社会主
義国でも行われた。アメリカに対抗して核実験を繰り返したソ連、
そして遅れて「核クラブ」入りした中国もまた、核実験で被曝者
がたくさん出ることを明らかにされたくなかった。そのため、い
わば資本主義と社会主義の超大国が、ある意味では一致団結して、
内部被曝問題を隠してしまったのです。
こうした流れのもとで、放射線による人体への影響についての見
識=放射線科学や放射線医学もまとめられてきました。それはもっ
ぱら外部被曝に対する影響によって形作られていて、基本的には
放射線は浴びれば浴びるほど危険であること、反対にいえば、少
量になればなるほど危険が下がるという認識によって支えられて
います。
この枠組みを作ったのは、唯一、大量被曝のデータを持っていた
アメリカでした。もちろん広島・長崎の被ばく者の方々のデータ
です。アメリカはここから内部被曝した方たち、黒い雨に濡れ、
汚染された水や食べ物で被曝していった膨大な数の人々を除外し
た。そして初期に熱線と放射線で亡くなった方たちのみのデータ
を、放射線の人体に対する影響として公表したのです。
しかし実際にはアメリカが公表したこの外部被曝によるデータの
みを放射線の人体への影響とするのはまったくの誤りです。なぜ
なら内部被曝は外部被曝とはメカニズムが違うからです。そもそ
も身体が浴びる放射線の種類も違う。さらに最も核心的なことは、
内部被曝では低線量で長い時間、被曝することになるわけですが、
このとき高線量の外部被曝よりも、細胞に著しいダメ―ジが及ぼ
されることがあるのです。そのため放射線の害は、必ずしも線量
が少なければ少ないだけ低いとは言えないのです。
そうするとどういうことがいえるか。原子力発電が通常の運転で
もわずかながら発生させている微量の放射能漏れからして、実は
人体に悪い影響を与えているということです。これはアメリカで
広範囲に行われた乳がん発生に関する統計学的調査によって明ら
にされています。実に原発から100マイルの地域では、特別な事故
がなくても、乳がんの発生率がそうでない地域よりも有意に高く
なっているのです。
さらに今回の福島原発の事故では本当に深刻なダメージが私たち
にもたらされている。それはスリーマイル島事故の後や、チェル
ノブイリ事故の後の広範囲な調査でもすでに明らかになっている
ことがらです。このためにこそ、放射能は、少しでも漏らしては
いけないものなのです。
この考え方に立つと、核兵器に対する考えも一変していきます。
これまでアメリカや旧ソ連、あるいはロシアは、核兵器は抑止力
なのだ、相手に核を使わせないために所持しているのだと語って
きた。これは使わない限りは安全だということを前提しています。
しかし先にも述べたように、核兵器製造のためには、プルトニウム
の分離=危険な再処理が必要であり、事実、何万発分もそれが行わ
れ、そのたびに、アメリカでも、ソ連でも深刻な放射能漏れが起こ
ってきたのです。その意味で、核兵器は持つだけで、製造するだけ
で大変危険なのです。もちろん核実験は大気中に死の灰をばら撒く
わけで、それ自身が人道的罪です。
繰り返しますが、核武装を推進する国々・・・それは世界の「左右」
の超大国だったわけですが・・・は、放射線のこの恐ろしさを知ら
れたくなかった。核開発そのものが自国民からの批判の対象になる
からです。そのために放射線に関する見解を自分たち自身が編み上
げていった。
こうして出来てきたのが国際放射線防護委員会(ICRP)であり、
その基準です。もちろんこれは、今の日本政府が基準にしているも
のです。そしてここでの考え方が、世界中の科学者の教科書になっ
てしまっている。広島・長崎で内部被曝した被ばく者は、国際的に
おさえこまれてきたのです。
さらに言えば、ここには経済の発展のためには、多少の被曝があっ
ても止むを得ないという考え方が盛り込まれてもいる。リスクより
もメリットが多いのだという考え方ですが、リスクはつねに社会的
弱者の側に押し寄せられ、メリットは強者に集まっていく。その点
で大変、差別的な考え方でもあります。
以上、アウトラインだけを書きましたが、この内部被曝問題を正し
くとらえ返し、放射線の人体への影響についての「常識」を書き変
えていこくことが問われています。内部被曝の危険性が明らかに
なれば、核兵器の製造も、原子力発電も、ともに直ちにやめなけれ
ばならないことが明らかになります。
僕自身、今後、この問題をより深めていくつもりです。
以下、7月3日のシンポジウムの記事をご参照ください。
*****************************
シンポジウム:内部被ばく考える 国の「過小評価」に異議を
研究者らが意見 /京都
毎日新聞2011年7月7日 地方版
◇矢ケ崎さん「晩発性がん発生の危険」
◇高橋さん「日米政府は被害を軽視」
◇山下さん「海産物汚染、監視強化を」
放射性物質が体内に入る内部被ばくの危険について、米国の水
爆実験でマグロ漁船「第五福竜丸」などが被ばくした「ビキニ事
件」(1954年)などを検証しながら考えるシンポジウムが3
日、京都市南区であった。広島・長崎の原爆以来、日米政府が加
害者側に立って内部被ばくを無視し、被害の過小評価が東京電力
福島第1原発事故でも続いている問題の重大さを研究者らが指摘
した。【太田裕之】
原爆症認定集団訴訟で内部被ばくを証言した琉球大名誉教授の
矢ケ崎克馬さん▽原爆と米核実験について機密解除された米側公
文書などを基に研究する広島市立大広島平和研究所講師の高橋博
子さん▽ビキニ事件被災船員の調査を続ける高知県太平洋核実験
被災支援センター事務局長の山下正寿さんらが講演。府内外から
260人が参加した。
矢ケ崎さんはガンマ線による外部被ばくと比較しながら、内部
被ばくを「アルファ線やベータ線でDNAが高い密度で切断され、
間違って再結合する可能性が増大して晩発性がんが発生したり、
不安定なDNAが子孫に伝わる」などと危険性を説明。被爆生存
者の病気発症率は一般国民の数倍であること、内部被ばくは原爆
症認定訴訟の全判決で認められたことを紹介した。
その上で、政府が現在も基本とする国際放射線防護委員会
(ICRP)の基準は内部被ばくを無視し、そもそも核利用の功
利主義で限度値が設定され健康被害の受任を強いていることを指
摘した。
高橋さんも、広島・長崎でもビキニ事件などの核実験でも米日
両政府が放射性降下物と内部被ばくを軽視し、被爆者・被ばく者
が切り捨てられてきた経緯を説明。学校などの屋外活動の制限基
準値が年間被ばく線量20ミリシーベルトに引き上げられたこと
を「感受性の高い子供たちを被害の過小評価のために犠牲にする、
とんでもないこと」、緊急作業時の250ミリシーベルトも「核
実験に従事した兵士の基準に近い」と厳しく批判した。
山下さんはビキニ事件被災船員の86年と89年の健康診断で
は造血機能障害などで計65人全員が健康に障害があったと紹介。
福島原発事故で海に流された汚染水はビキニ事件と同様に海水の
上層と下層の温度差のため拡散せず広範囲に移動する▽魚の計測
では骨・頭・内臓を捨てた切り身だけで行われ、汚染魚が市場に
出る可能性があるなどと指摘した。
聴衆からも多数の質疑があり、高橋さんは将来の被害に備えてス
トロンチウム90が蓄積する乳歯の保管を提案した。山下さんは海
産物の汚染の監視を漁協や生協、消費者が強める必要性を指摘する
と共に、今後は地下水汚染が海に広がる恐れがあると警告。矢ケ崎
さんは「国民が声を上げ、ICRPに従う多くの専門家に対しても
ものを言う必要がある。もう支配体制に従順に生きるのはやめよう」
と呼び掛けた。
http://mainichi.jp/area/kyoto/news/20110707ddlk26040498000c.html
7月3日に、たくさんの企画がありましたが、僕は内部被曝問題
の第一人者である矢ケ崎克馬さんなどが出演する講演会に参加
してきました。矢ケ崎さんだけでなく、すべての講演者のお話
が素晴らしく、たくさんのことを学ぶことができました。さら
に二次会にも参加させていただき、直接、矢ケ崎さんに疑問点
などを教えていただくことができました。感激でした。
この日の集会の様子を、毎日新聞の太田裕之記者が非常に的確
に記事にしてくださっています。末尾に貼り付けるので、ぜひ
ご覧ください。短い紙面にかなり内容を盛り込んだ鋭い記事だ
と思います。
この集会に向けて、矢ケ崎さんの書いた『隠された被曝』を
熟読しました。また同時に、被爆者6000人を診て、もっとも早く
から内部被曝を告発していきた肥田舜太郎さんの本や、肥田さん
が執念で翻訳されたアメリカの研究書なども読みこみ、内部被曝
問題について、かなりの見識を深めて来ることができたように
思っています。
それから今、思うのは、この内部被曝問題こそ、放射線のことを
語る時の最も重要なポイントであり、同時に脱原発を考える上で
も欠かせないポイントであるということです。
なぜなら内部被曝は外部被曝と違って、低線量でも人体に深刻な
ダメージを与えるにもかかわらず、これが隠されてきたこと、そ
のため実は現存する放射線科学自身が、かなり歪められたものに
なっており、このもとで核兵器開発が多くの国で容認され、さら
に原子力発電がよりたくさんの国で行われてきたからです。
これは核兵器の開発・製造・使用に深く関わる問題です。とうい
うのは、誰もが知っているように、世界で唯一、原爆を投下した
のはアメリカであり、唯一、投下されたのは、日本であるわけで
すが、アメリカは日本占領後、ただちに、被爆に関する情報を最
高度の軍事機密に指定し、とくに被爆の実態が世界にもれないよ
うにしたのですね。
そのとき一番、重要だったのは、内部被曝問題でした。つまり原
爆爆破時の熱線や、放射線による被爆(放射線については外部被
曝)については、隠しようのないものとして記録されていったの
ですが、その後の死の灰を吸い込んで起こった内部被曝問題を、
米軍はひた隠しにしたのです。
何故か。熱線と放射線による無差別殺人とて、あまりに惨い人道
的罪ですが、さらに放射性降下物によって起こる内部被曝は、戦
闘終結後も、人々を傷つけ、未来世代にまで被害をおよぼすより
非人道的罪なものであって、これが世界に知れ渡ることにより、
世界中からの批判が集まることを恐れたからです。
それだけではありません。実はこの原爆の開発時、アメリカはす
でに深刻な放射能漏れを起こしているのですね。とくに長崎に落
とした原爆にはプルトニウムが使われましたが、これは原子炉で
ウランに中性子をあててプルトニウムを作り、再処理して、手に
入れるしかないもので、このプルトニウム製造過程で、すでに多
くの放射能を漏らしてしまっていたのです。
さらにアメリカは作ったプルトニウム原爆の一つをニューメキシ
コで爆破させているのですが、この核実験でも、たくさんの死の
灰を自国に撒いてしまっている。その意味で実は最初に被曝した
のは、ウラン鉱山の周りの人々、そしてまたアメリカの核兵器工
場や実験場の周りの人々だったのです。
さらにこの核開発技術を戦後にソ連が盗み取ることで、両大国に
よる核開発=核実験競争が始まりました。それはイギリス、フラ
ンス、遅れて中国などを巻き込んだものになっていった。その際
も、本当にたくさんの放射能が大気中に撒かれてしまった。
アメリカは何よりも、こうして撒かれた放射性物質が激しく人々
を傷つけることを隠したかったのです。それでなければ核戦略が
維持できない。広島・長崎の被爆者の内部被曝の問題が明らかに
なると、同時に自国内部からも被曝させられたことに対する非難
の声があがってしまうからです。
しかもこうした内部被曝隠しは、資本主義国だけでなく、社会主
義国でも行われた。アメリカに対抗して核実験を繰り返したソ連、
そして遅れて「核クラブ」入りした中国もまた、核実験で被曝者
がたくさん出ることを明らかにされたくなかった。そのため、い
わば資本主義と社会主義の超大国が、ある意味では一致団結して、
内部被曝問題を隠してしまったのです。
こうした流れのもとで、放射線による人体への影響についての見
識=放射線科学や放射線医学もまとめられてきました。それはもっ
ぱら外部被曝に対する影響によって形作られていて、基本的には
放射線は浴びれば浴びるほど危険であること、反対にいえば、少
量になればなるほど危険が下がるという認識によって支えられて
います。
この枠組みを作ったのは、唯一、大量被曝のデータを持っていた
アメリカでした。もちろん広島・長崎の被ばく者の方々のデータ
です。アメリカはここから内部被曝した方たち、黒い雨に濡れ、
汚染された水や食べ物で被曝していった膨大な数の人々を除外し
た。そして初期に熱線と放射線で亡くなった方たちのみのデータ
を、放射線の人体に対する影響として公表したのです。
しかし実際にはアメリカが公表したこの外部被曝によるデータの
みを放射線の人体への影響とするのはまったくの誤りです。なぜ
なら内部被曝は外部被曝とはメカニズムが違うからです。そもそ
も身体が浴びる放射線の種類も違う。さらに最も核心的なことは、
内部被曝では低線量で長い時間、被曝することになるわけですが、
このとき高線量の外部被曝よりも、細胞に著しいダメ―ジが及ぼ
されることがあるのです。そのため放射線の害は、必ずしも線量
が少なければ少ないだけ低いとは言えないのです。
そうするとどういうことがいえるか。原子力発電が通常の運転で
もわずかながら発生させている微量の放射能漏れからして、実は
人体に悪い影響を与えているということです。これはアメリカで
広範囲に行われた乳がん発生に関する統計学的調査によって明ら
にされています。実に原発から100マイルの地域では、特別な事故
がなくても、乳がんの発生率がそうでない地域よりも有意に高く
なっているのです。
さらに今回の福島原発の事故では本当に深刻なダメージが私たち
にもたらされている。それはスリーマイル島事故の後や、チェル
ノブイリ事故の後の広範囲な調査でもすでに明らかになっている
ことがらです。このためにこそ、放射能は、少しでも漏らしては
いけないものなのです。
この考え方に立つと、核兵器に対する考えも一変していきます。
これまでアメリカや旧ソ連、あるいはロシアは、核兵器は抑止力
なのだ、相手に核を使わせないために所持しているのだと語って
きた。これは使わない限りは安全だということを前提しています。
しかし先にも述べたように、核兵器製造のためには、プルトニウム
の分離=危険な再処理が必要であり、事実、何万発分もそれが行わ
れ、そのたびに、アメリカでも、ソ連でも深刻な放射能漏れが起こ
ってきたのです。その意味で、核兵器は持つだけで、製造するだけ
で大変危険なのです。もちろん核実験は大気中に死の灰をばら撒く
わけで、それ自身が人道的罪です。
繰り返しますが、核武装を推進する国々・・・それは世界の「左右」
の超大国だったわけですが・・・は、放射線のこの恐ろしさを知ら
れたくなかった。核開発そのものが自国民からの批判の対象になる
からです。そのために放射線に関する見解を自分たち自身が編み上
げていった。
こうして出来てきたのが国際放射線防護委員会(ICRP)であり、
その基準です。もちろんこれは、今の日本政府が基準にしているも
のです。そしてここでの考え方が、世界中の科学者の教科書になっ
てしまっている。広島・長崎で内部被曝した被ばく者は、国際的に
おさえこまれてきたのです。
さらに言えば、ここには経済の発展のためには、多少の被曝があっ
ても止むを得ないという考え方が盛り込まれてもいる。リスクより
もメリットが多いのだという考え方ですが、リスクはつねに社会的
弱者の側に押し寄せられ、メリットは強者に集まっていく。その点
で大変、差別的な考え方でもあります。
以上、アウトラインだけを書きましたが、この内部被曝問題を正し
くとらえ返し、放射線の人体への影響についての「常識」を書き変
えていこくことが問われています。内部被曝の危険性が明らかに
なれば、核兵器の製造も、原子力発電も、ともに直ちにやめなけれ
ばならないことが明らかになります。
僕自身、今後、この問題をより深めていくつもりです。
以下、7月3日のシンポジウムの記事をご参照ください。
*****************************
シンポジウム:内部被ばく考える 国の「過小評価」に異議を
研究者らが意見 /京都
毎日新聞2011年7月7日 地方版
◇矢ケ崎さん「晩発性がん発生の危険」
◇高橋さん「日米政府は被害を軽視」
◇山下さん「海産物汚染、監視強化を」
放射性物質が体内に入る内部被ばくの危険について、米国の水
爆実験でマグロ漁船「第五福竜丸」などが被ばくした「ビキニ事
件」(1954年)などを検証しながら考えるシンポジウムが3
日、京都市南区であった。広島・長崎の原爆以来、日米政府が加
害者側に立って内部被ばくを無視し、被害の過小評価が東京電力
福島第1原発事故でも続いている問題の重大さを研究者らが指摘
した。【太田裕之】
原爆症認定集団訴訟で内部被ばくを証言した琉球大名誉教授の
矢ケ崎克馬さん▽原爆と米核実験について機密解除された米側公
文書などを基に研究する広島市立大広島平和研究所講師の高橋博
子さん▽ビキニ事件被災船員の調査を続ける高知県太平洋核実験
被災支援センター事務局長の山下正寿さんらが講演。府内外から
260人が参加した。
矢ケ崎さんはガンマ線による外部被ばくと比較しながら、内部
被ばくを「アルファ線やベータ線でDNAが高い密度で切断され、
間違って再結合する可能性が増大して晩発性がんが発生したり、
不安定なDNAが子孫に伝わる」などと危険性を説明。被爆生存
者の病気発症率は一般国民の数倍であること、内部被ばくは原爆
症認定訴訟の全判決で認められたことを紹介した。
その上で、政府が現在も基本とする国際放射線防護委員会
(ICRP)の基準は内部被ばくを無視し、そもそも核利用の功
利主義で限度値が設定され健康被害の受任を強いていることを指
摘した。
高橋さんも、広島・長崎でもビキニ事件などの核実験でも米日
両政府が放射性降下物と内部被ばくを軽視し、被爆者・被ばく者
が切り捨てられてきた経緯を説明。学校などの屋外活動の制限基
準値が年間被ばく線量20ミリシーベルトに引き上げられたこと
を「感受性の高い子供たちを被害の過小評価のために犠牲にする、
とんでもないこと」、緊急作業時の250ミリシーベルトも「核
実験に従事した兵士の基準に近い」と厳しく批判した。
山下さんはビキニ事件被災船員の86年と89年の健康診断で
は造血機能障害などで計65人全員が健康に障害があったと紹介。
福島原発事故で海に流された汚染水はビキニ事件と同様に海水の
上層と下層の温度差のため拡散せず広範囲に移動する▽魚の計測
では骨・頭・内臓を捨てた切り身だけで行われ、汚染魚が市場に
出る可能性があるなどと指摘した。
聴衆からも多数の質疑があり、高橋さんは将来の被害に備えてス
トロンチウム90が蓄積する乳歯の保管を提案した。山下さんは海
産物の汚染の監視を漁協や生協、消費者が強める必要性を指摘する
と共に、今後は地下水汚染が海に広がる恐れがあると警告。矢ケ崎
さんは「国民が声を上げ、ICRPに従う多くの専門家に対しても
ものを言う必要がある。もう支配体制に従順に生きるのはやめよう」
と呼び掛けた。
http://mainichi.jp/area/kyoto/news/20110707ddlk26040498000c.html