守田です。(20110726 23:30)
7月19日に原子力資料情報室で、後藤政志さんがシビアアクシデント解説
のその1として、「圧力容器破損後の溶融デブリの挙動」と題した講演を
行ってくださいました。再びノートテークしてみなさんと内容をシェア
したいと思います。
溶融デブリとは、燃料棒が熱で溶けてメルトダウンしたときの塊のことで
す。後藤さんは格納容器の設計師として、このデブリが発生した時にどの
ような挙動をみせるのかの研究にも携わってきており、今回、実際に起き
たと思われることを詳しく解説してくれています。
実際にどうデブリが動いたと推論されるかについては、格納容器の構造上
の問題を孕むので、文字だけで伝えることには限界があります。ぜひ適宜
映像を見て把握して欲しいと思いますが、考えられるのは、圧力容器を破
ったデブリが、格納容器の下のコンクリートの上に落ち、そのまま横に流
れて格納容器の鉄板に接触してその外に出てしまっているか、あるいは、
コンクリートの下に潜り込み、そこで鉄板に接触して外に出てしまってい
るかだということです。
ただしこれは福島第一原発1号機から3号機が採用しているマーク1型、ない
しその改良型で起こることで、この場合、圧力容器の外に出たデブリに水
をかけると水蒸気爆発が起こる可能性があるものの、今回はそれは免れて
いると思われます。
これに対して福島第一原発6号機や、柏崎1,2,3号などのマークⅡ型ないし
その改良型の場合、原子炉圧力容器の真下にサブレッション・プールがある
構造になっているため、溶融デブリはプールの中に直接落下してそこで水蒸
気爆発を起こす可能性が高くあります。
後藤さんが強調しているのは、いずれにせよ溶融デブリのコントロールなど
設計的にできないこと、つまり炉心溶融が起こったら、もう確実な対処はで
きないのであり、あくまでも原子力プラントの安全性は、炉心溶融を絶対に
起さないことを前提にしなければならないということです。
これに対して「シビアアクシデント」対策とは、炉心溶融が起こった場合の
対策のことであり、そこでは確実な手段はとてもではないけれどとりようが
ない。そのためシビアアクシデント対策をしたから運転を認めよというのは
あまりの暴論だと言うことです。
今回の解説はその1とされていますので、今後の後藤さんの説明もフォロー
して、この問題をより深く押さえていきたいと思います。
以下、後藤さんの発言のノートテークを貼り付けます。今回もあくまでも
「守田がかく聞いた」というものであることに留意をお願いします。
********************************
シビアアクシデント解説(その1)
圧力容器破損後の溶融デブリの挙動
後藤政志さん談 2011年7月19日
http://www.ustream.tv/recorded/16103618
後藤です。
この間、シビアアクシデントという話が良く出てきた。原子力プラントの
設計条件を著しく越えて、例えば炉心融解するような事態をシビアアクシ
デントと言うが、それをシリーズで解説して行こうと思う。
一番最初だが、炉心が溶融するところはさんざん今まででてきている。水
位が下がって炉心がむき出しになってくると、炉心が溶けて燃料が溶けて
下に落ちて来る。圧力容器の下に落ちる。これがメルトダウンと言われて
きたことだ。
メルトダウンがおきた後、メルトスルーという言葉もある。圧力容器の底
が抜けて、溶融デブリが下に落ちて来る。このデブリというのは、略して
言っているが、炉心が溶け、核燃料が溶け、周囲の構造物が溶けて、塊に
なり、水で冷却できないと下に落ちていくだけのもので、それを溶融デブ
リと呼んでいる。
それがどういう挙動するかということが、格納容器にとっては特に重要だ。
圧力容器が壊れた後の挙動で、それが格納容器の中に落ちてどうなるのか。
それを少し詳しく、格納容器の型式との関係で説明したい。これは普通で
はここまで細かい解説はないと思うが、私自身が格納容器を担当していた
ので、マークⅠとマークⅡではどう違うかを説明したい。
過酷事故時の現象を確認したい。シビアアクシデントが起こり、炉心が溶
けていくと下に落ちて溜まる。それをデブリという。圧力容器は直径が5.5
mぐらい。高さが20mぐらいある。事故が起こってデブリが下部に溜まっ
たとき、冷却ができないと、デブリは下を抜けて格納容器へと落ちて来る。
溶融デブリは燃料が溶けているから3000度以上ある。普通の金属は1500度
ぐらいから溶けていくので、水で冷却しない限りはどんどん溶かしていく。
過酷事故は炉心の溶解が始まった後からのことで、そのときに格納容器で
なんとか止めることが設計上の核心だが、炉心が溶融してしまうと、だい
たい格納容器の設計条件も越えてしまう。格納容器はPCVという。プラ
イマリー・コンテイメント・ベッセル(Primary Containment Vessel)とい
う英語名で、プライマリー=主要な格納のための容器という名がついてい
る。放射能をここで閉じ込めるという意味をなしている。
これは沸騰水型だけの場合に言う。これに対して原子力建屋はセカンダリ
ー・コンテイメント・ビルディングという。二次格納建物という名だ。実
際に事故のときに放射能を止めるのは格納容器とされていて、建屋は圧力
に対してもたない。事故でない時に、建物の中が負圧にしてあるので、放
射能が外に漏れることはないという意味しか持たない。格納容器はそうい
うレベルではなくて、設計上は少なくとも3気圧か4気圧ぐらいまで耐えら
れるようになっている。
それでシビアアクシデントがどう起きたかというと、圧力容器が損傷して
デブリが下に落ちる。これがコンクリートと反応することをコアコンクリ
ート反応という。もう一つはPCVシェルアタックということが起きる。
これはマークⅠ型の特徴だ。マークⅠ型は、フラスコのような格納容器の
下部にドーナツのリングのように、圧力抑制室が取り巻いていて、そこに
向けてベント管という管がつながっているが、この管がフラスコ部分から
外側に突き出している接合部分から、デブリが漏れだすことだ。今日はこ
の、格納容器に落ちたデブリの挙動について詳しく説明したい。
シビアアクシデントをどうやって収束させるかという一般論から言うと、
炉心溶融がはじまって、圧力容器の底が抜けて、格納容器の圧力と温度が
上昇する。どうしようもなくなると格納容器ベントをして、冷却系統を復
活させるか、格納容器を満水にするとか、間欠ベントを行うことになる。
他にも過酷事故対策がいろいろとなされている。今回は電源車を外から持
ってきたり、放水車やポンプ車を持ってきて海水を注入したりした。こう
いうようなものを、プラントがだめな場合に、外から持ってくることが、
過酷事故対策だ。だから過酷事故対策は強力なものではなくて、プラント
そのものがダメなときにほっておけないので、何かの対策を講じるという
ことで、今回のように電源車を持ってきても、車がつかなかったり、つい
ても接続できなかったりということがあった。
プラントに組み込んでいいても、こうしたトラブルはありうるが、外から
非常用に持ってきたものが、稼働しない可能性はもの凄く高い。なので過
酷事故で電源車を持ってきて、接続できないというようなことは当たり前
に起こるのであって、むしろそうしたことに頼ろうとするのが間違ってい
る。訓練が足りなかったというのもその通りだが、訓練をしていればでき
たという問題ではない。だから過酷事故対策は、出来上がったプラントに
中を変えずに、外から何とかしようというパッチワーク的シナリオだ。そ
れを忘れてはいけない。
過酷事故対策として、格納容器ベントというものがあった。格納容器の圧
力があがったときに、格納容器のガス抜きをする。炉心が損傷を起した段
階では放射能が出てしまう。それで究極の選択として行う。ベントしない
で格納容器が爆発したら最悪だが、ベントをすると放射能を出してしまう。
そのときにフィルターがついていればいいという話がある。ヨーロッパの
考え方で、大きなフィルターで濾して出すという考えで、フランス・ドイ
ツ・スウェーデンでは実際につけており、国によっては義務化している。
それに対して日本はまったく顧みなかった。私も技術的にそれがあること
は知っていたが、それを採用しようと言うことにはならなかった。採用し
ようと言おうものなら、なぜ採用する必要があるのか。日本では過酷事故
は起きないという雰囲気だった。しかもこのフィルターは非常に高い。ま
た大きいので目立つとも言われていた。私は技術者としてそれは非常にお
かしいと思っていた。
さて、炉心が溶けて、圧力容器が破損すると、デブリが発生し、それがペ
デスタル=「圧力容器の下の基礎」の中に落ちる。デブリがドライウェル
の中に流出し、それが格納容器のシェルに接触して、格納容器シェルを破
損させてしまうか、あるいは、ペデスタルを破損させるか、RPV(圧力
容器)のスカートを破損させ、圧力容器本体が落下し、ベネべローズに過
大な荷重がかかり、格納容器シェルが破損する。このように考えられる。
デブリが落ちたときの挙動を考えると、マークⅠ型の場合、ペデスタルの
中にサンプという汚染水をためるピットがある。ここからドレン管が横に
走っている。これらは格納容器の床の面にある。
炉心が溶けて、圧力容器のスカートがあり、真下のペデスタルの中に落下
する。格納容器の床にあたるところだ。こういう状態になって、それでも
冷却ができないと、ペデスタルの開口部から炉心溶融デブリがドライウェ
ル内に流出する。そうするとペデステルに穴があいているために、デブリ
はコンクリートの上を横に流れて、格納容器シェルの鉄板に直接触れてし
まう。そうするとあっという間に鉄板が溶けてしまい、外に出てしまう。
今回も、早期に圧力容器がメルトダウンしてこういう状態になったとする
と格納容器が損傷している可能性がある。マークⅠ型の場合はこれが懸念
されている。マークⅠの改良型でも、似たことが起こりうる。
この場合、冷却水は圧力容器の下に落ちたデブリにかけられることになる
が、その場合、デブリは3000度もあるので、水蒸気爆発を起こすことがあ
りうる。今回の場合は、幸いにしてそれが起こらなかった。
これに対してマークⅡ型(第一福島6号、第二福島1号、柏崎1号)、マーク
Ⅱ改良型(第二福島3号、柏崎2号、3号)がある。
マークⅡ型は、ペデスタルがあって、ダイヤフラムフロアというコンクリ
ートの床があり、これでドライウェルとウェットウェル=サブレッション・
プールが仕切られている。
配管破断等が起こって水蒸気が出ると垂直なベント管を介してプールに噴
く。これによって圧力を吸収するようになっている。この場合、溶融デブ
リはどのように挙動するか。デブリが圧力容器を破ると、そのまま下に落
ちていくが、さらにそれを破ると真下にサブレッションプールがある。こ
こで水蒸気爆発が起こる。
マークⅠの場合は、格納容器のすぐ下に水が無い。サぶれションプールは
フラスコの周りをドーナツのように取り巻いている。ところがマークⅡの
場合は、すぐ下にサブレッションプールがあるので、水蒸気爆発の危険性
はこちらの方が高い。水蒸気爆発は、ほとんどコントロールは不可能。溶
融物が水と接触した時に起こる可能性があり、確実に防ぐ方法はない。
マークⅠの場合、脅威なのはデブリが格納容器の下を破っていくか、横に
移動して、ベント管あたりから鉄板を溶かして格納容器シェルの外に出て
しまうことであり、マークⅡの場合は、下に落ちて、水蒸気爆発を起こす
か、ぺデスタルそのものを溶かしてしまい、圧力容器自身が重みで傾いて
すべての配管などを壊してしまうことにある。
これはけして設計で考えるべきことではなくて、万が一、シビアアクシデ
ントで、炉心溶融した結果としてそうしたことが起こりうるというシナリ
オだ。もちろん壊れ方は千差万別で、代表的なものを言っているに過ぎな
いが、大切なことは炉心が溶融すると、いずれにしても最終的には、圧力
容器の破損、あるいは格納容器の破損まで行ってしまう。
格納容器はもともとも設計条件では、かなりの圧力と温度がかかってもそ
れに耐えて放射能を閉じ込めて事故が収束するはず。それが炉心溶融にな
ったとたんにかなりの確率で格納容器破損にいたる。これが過酷事故なの
だ。だから私は過酷事故対策なるものは、格納容器を確実に破損から防ぐ
のでなければ意味がないと思っている。
そういう意味で設計上、どうするかといえば、炉心が溶融していてコント
ロールしようというのはどだい無理な話で、そもそもが炉心溶融を止めな
いと原子力の事故は防げない。それ以降はもう負けてしまったけれども、
なんとか少しでも被害の拡大を緩和しようとするものにすぎない。
だから原子力プラントの設計は、炉心溶融を起さないようにされなければ
ならない。例えばベントにしても、そもそもベントしなければならない、
中の蒸気を出さなければならないという状況がもうダメなのだ。あくまで
も炉心溶融を起さないように手立てをしなければならないのだ。
今回、津波によって非常用のディーゼルが損傷して、炉心溶融を起してし
まったと説明されている。一つのモードとしてあるかもしれないが、それ
だけなのかというと非常に疑問が残る。他の要因が考えられる。格納容器
の破損が早期に起こったことは、津波の影響だと言うのは極めて疑わしい。
あるいは今回の事故に限らなくても、地震の影響は当然、考えなければな
らないところで、もし地震によって何らかの損傷を起した場合は、津波の
影響がなくても、炉心溶融から過酷事故のシナリオはいくらでもある。な
ので私は心配しているわけだ。
地震の問題はまた機会を改めて話をしたいが、ようは炉心溶融が起こった
後について、デブリの挙動の研究はいろいろされてきたけれども、所詮は
それを押し込めようとするのは無理がある。
ちなみにPCVシェルアタックについては、その前に堰をつけることも検
討されていた。しかしそれでシビアアクシデントを防ごうというのは無理
がある。やはり炉心溶融を起してしまっては無理がある。格納容器がベン
トしてしまってもおしまい。これらをすべて踏み込んだ格好の、安全設計
をするのが、今回の事故から学んだ教訓になる。これを本気でやらない限
り、原子力プラントが安心して運転するということにはならない。
今日は過酷事故にいたる炉心溶融の後の挙動、とくに炉心溶融してメルト
ダウンした後に溶融物が格納容器内に落ちて来る挙動について、マークⅠ
型とマークⅡ型の違いを主に説明した。マークⅠ型は冷却のために格納
容器内に後から水を注水する必要がある。マークⅡ型は、サブレッション
・プールに直接落ちて水蒸気爆発をする可能性が高い。
今日の話はここまでにしたい。
7月19日に原子力資料情報室で、後藤政志さんがシビアアクシデント解説
のその1として、「圧力容器破損後の溶融デブリの挙動」と題した講演を
行ってくださいました。再びノートテークしてみなさんと内容をシェア
したいと思います。
溶融デブリとは、燃料棒が熱で溶けてメルトダウンしたときの塊のことで
す。後藤さんは格納容器の設計師として、このデブリが発生した時にどの
ような挙動をみせるのかの研究にも携わってきており、今回、実際に起き
たと思われることを詳しく解説してくれています。
実際にどうデブリが動いたと推論されるかについては、格納容器の構造上
の問題を孕むので、文字だけで伝えることには限界があります。ぜひ適宜
映像を見て把握して欲しいと思いますが、考えられるのは、圧力容器を破
ったデブリが、格納容器の下のコンクリートの上に落ち、そのまま横に流
れて格納容器の鉄板に接触してその外に出てしまっているか、あるいは、
コンクリートの下に潜り込み、そこで鉄板に接触して外に出てしまってい
るかだということです。
ただしこれは福島第一原発1号機から3号機が採用しているマーク1型、ない
しその改良型で起こることで、この場合、圧力容器の外に出たデブリに水
をかけると水蒸気爆発が起こる可能性があるものの、今回はそれは免れて
いると思われます。
これに対して福島第一原発6号機や、柏崎1,2,3号などのマークⅡ型ないし
その改良型の場合、原子炉圧力容器の真下にサブレッション・プールがある
構造になっているため、溶融デブリはプールの中に直接落下してそこで水蒸
気爆発を起こす可能性が高くあります。
後藤さんが強調しているのは、いずれにせよ溶融デブリのコントロールなど
設計的にできないこと、つまり炉心溶融が起こったら、もう確実な対処はで
きないのであり、あくまでも原子力プラントの安全性は、炉心溶融を絶対に
起さないことを前提にしなければならないということです。
これに対して「シビアアクシデント」対策とは、炉心溶融が起こった場合の
対策のことであり、そこでは確実な手段はとてもではないけれどとりようが
ない。そのためシビアアクシデント対策をしたから運転を認めよというのは
あまりの暴論だと言うことです。
今回の解説はその1とされていますので、今後の後藤さんの説明もフォロー
して、この問題をより深く押さえていきたいと思います。
以下、後藤さんの発言のノートテークを貼り付けます。今回もあくまでも
「守田がかく聞いた」というものであることに留意をお願いします。
********************************
シビアアクシデント解説(その1)
圧力容器破損後の溶融デブリの挙動
後藤政志さん談 2011年7月19日
http://www.ustream.tv/recorded/16103618
後藤です。
この間、シビアアクシデントという話が良く出てきた。原子力プラントの
設計条件を著しく越えて、例えば炉心融解するような事態をシビアアクシ
デントと言うが、それをシリーズで解説して行こうと思う。
一番最初だが、炉心が溶融するところはさんざん今まででてきている。水
位が下がって炉心がむき出しになってくると、炉心が溶けて燃料が溶けて
下に落ちて来る。圧力容器の下に落ちる。これがメルトダウンと言われて
きたことだ。
メルトダウンがおきた後、メルトスルーという言葉もある。圧力容器の底
が抜けて、溶融デブリが下に落ちて来る。このデブリというのは、略して
言っているが、炉心が溶け、核燃料が溶け、周囲の構造物が溶けて、塊に
なり、水で冷却できないと下に落ちていくだけのもので、それを溶融デブ
リと呼んでいる。
それがどういう挙動するかということが、格納容器にとっては特に重要だ。
圧力容器が壊れた後の挙動で、それが格納容器の中に落ちてどうなるのか。
それを少し詳しく、格納容器の型式との関係で説明したい。これは普通で
はここまで細かい解説はないと思うが、私自身が格納容器を担当していた
ので、マークⅠとマークⅡではどう違うかを説明したい。
過酷事故時の現象を確認したい。シビアアクシデントが起こり、炉心が溶
けていくと下に落ちて溜まる。それをデブリという。圧力容器は直径が5.5
mぐらい。高さが20mぐらいある。事故が起こってデブリが下部に溜まっ
たとき、冷却ができないと、デブリは下を抜けて格納容器へと落ちて来る。
溶融デブリは燃料が溶けているから3000度以上ある。普通の金属は1500度
ぐらいから溶けていくので、水で冷却しない限りはどんどん溶かしていく。
過酷事故は炉心の溶解が始まった後からのことで、そのときに格納容器で
なんとか止めることが設計上の核心だが、炉心が溶融してしまうと、だい
たい格納容器の設計条件も越えてしまう。格納容器はPCVという。プラ
イマリー・コンテイメント・ベッセル(Primary Containment Vessel)とい
う英語名で、プライマリー=主要な格納のための容器という名がついてい
る。放射能をここで閉じ込めるという意味をなしている。
これは沸騰水型だけの場合に言う。これに対して原子力建屋はセカンダリ
ー・コンテイメント・ビルディングという。二次格納建物という名だ。実
際に事故のときに放射能を止めるのは格納容器とされていて、建屋は圧力
に対してもたない。事故でない時に、建物の中が負圧にしてあるので、放
射能が外に漏れることはないという意味しか持たない。格納容器はそうい
うレベルではなくて、設計上は少なくとも3気圧か4気圧ぐらいまで耐えら
れるようになっている。
それでシビアアクシデントがどう起きたかというと、圧力容器が損傷して
デブリが下に落ちる。これがコンクリートと反応することをコアコンクリ
ート反応という。もう一つはPCVシェルアタックということが起きる。
これはマークⅠ型の特徴だ。マークⅠ型は、フラスコのような格納容器の
下部にドーナツのリングのように、圧力抑制室が取り巻いていて、そこに
向けてベント管という管がつながっているが、この管がフラスコ部分から
外側に突き出している接合部分から、デブリが漏れだすことだ。今日はこ
の、格納容器に落ちたデブリの挙動について詳しく説明したい。
シビアアクシデントをどうやって収束させるかという一般論から言うと、
炉心溶融がはじまって、圧力容器の底が抜けて、格納容器の圧力と温度が
上昇する。どうしようもなくなると格納容器ベントをして、冷却系統を復
活させるか、格納容器を満水にするとか、間欠ベントを行うことになる。
他にも過酷事故対策がいろいろとなされている。今回は電源車を外から持
ってきたり、放水車やポンプ車を持ってきて海水を注入したりした。こう
いうようなものを、プラントがだめな場合に、外から持ってくることが、
過酷事故対策だ。だから過酷事故対策は強力なものではなくて、プラント
そのものがダメなときにほっておけないので、何かの対策を講じるという
ことで、今回のように電源車を持ってきても、車がつかなかったり、つい
ても接続できなかったりということがあった。
プラントに組み込んでいいても、こうしたトラブルはありうるが、外から
非常用に持ってきたものが、稼働しない可能性はもの凄く高い。なので過
酷事故で電源車を持ってきて、接続できないというようなことは当たり前
に起こるのであって、むしろそうしたことに頼ろうとするのが間違ってい
る。訓練が足りなかったというのもその通りだが、訓練をしていればでき
たという問題ではない。だから過酷事故対策は、出来上がったプラントに
中を変えずに、外から何とかしようというパッチワーク的シナリオだ。そ
れを忘れてはいけない。
過酷事故対策として、格納容器ベントというものがあった。格納容器の圧
力があがったときに、格納容器のガス抜きをする。炉心が損傷を起した段
階では放射能が出てしまう。それで究極の選択として行う。ベントしない
で格納容器が爆発したら最悪だが、ベントをすると放射能を出してしまう。
そのときにフィルターがついていればいいという話がある。ヨーロッパの
考え方で、大きなフィルターで濾して出すという考えで、フランス・ドイ
ツ・スウェーデンでは実際につけており、国によっては義務化している。
それに対して日本はまったく顧みなかった。私も技術的にそれがあること
は知っていたが、それを採用しようと言うことにはならなかった。採用し
ようと言おうものなら、なぜ採用する必要があるのか。日本では過酷事故
は起きないという雰囲気だった。しかもこのフィルターは非常に高い。ま
た大きいので目立つとも言われていた。私は技術者としてそれは非常にお
かしいと思っていた。
さて、炉心が溶けて、圧力容器が破損すると、デブリが発生し、それがペ
デスタル=「圧力容器の下の基礎」の中に落ちる。デブリがドライウェル
の中に流出し、それが格納容器のシェルに接触して、格納容器シェルを破
損させてしまうか、あるいは、ペデスタルを破損させるか、RPV(圧力
容器)のスカートを破損させ、圧力容器本体が落下し、ベネべローズに過
大な荷重がかかり、格納容器シェルが破損する。このように考えられる。
デブリが落ちたときの挙動を考えると、マークⅠ型の場合、ペデスタルの
中にサンプという汚染水をためるピットがある。ここからドレン管が横に
走っている。これらは格納容器の床の面にある。
炉心が溶けて、圧力容器のスカートがあり、真下のペデスタルの中に落下
する。格納容器の床にあたるところだ。こういう状態になって、それでも
冷却ができないと、ペデスタルの開口部から炉心溶融デブリがドライウェ
ル内に流出する。そうするとペデステルに穴があいているために、デブリ
はコンクリートの上を横に流れて、格納容器シェルの鉄板に直接触れてし
まう。そうするとあっという間に鉄板が溶けてしまい、外に出てしまう。
今回も、早期に圧力容器がメルトダウンしてこういう状態になったとする
と格納容器が損傷している可能性がある。マークⅠ型の場合はこれが懸念
されている。マークⅠの改良型でも、似たことが起こりうる。
この場合、冷却水は圧力容器の下に落ちたデブリにかけられることになる
が、その場合、デブリは3000度もあるので、水蒸気爆発を起こすことがあ
りうる。今回の場合は、幸いにしてそれが起こらなかった。
これに対してマークⅡ型(第一福島6号、第二福島1号、柏崎1号)、マーク
Ⅱ改良型(第二福島3号、柏崎2号、3号)がある。
マークⅡ型は、ペデスタルがあって、ダイヤフラムフロアというコンクリ
ートの床があり、これでドライウェルとウェットウェル=サブレッション・
プールが仕切られている。
配管破断等が起こって水蒸気が出ると垂直なベント管を介してプールに噴
く。これによって圧力を吸収するようになっている。この場合、溶融デブ
リはどのように挙動するか。デブリが圧力容器を破ると、そのまま下に落
ちていくが、さらにそれを破ると真下にサブレッションプールがある。こ
こで水蒸気爆発が起こる。
マークⅠの場合は、格納容器のすぐ下に水が無い。サぶれションプールは
フラスコの周りをドーナツのように取り巻いている。ところがマークⅡの
場合は、すぐ下にサブレッションプールがあるので、水蒸気爆発の危険性
はこちらの方が高い。水蒸気爆発は、ほとんどコントロールは不可能。溶
融物が水と接触した時に起こる可能性があり、確実に防ぐ方法はない。
マークⅠの場合、脅威なのはデブリが格納容器の下を破っていくか、横に
移動して、ベント管あたりから鉄板を溶かして格納容器シェルの外に出て
しまうことであり、マークⅡの場合は、下に落ちて、水蒸気爆発を起こす
か、ぺデスタルそのものを溶かしてしまい、圧力容器自身が重みで傾いて
すべての配管などを壊してしまうことにある。
これはけして設計で考えるべきことではなくて、万が一、シビアアクシデ
ントで、炉心溶融した結果としてそうしたことが起こりうるというシナリ
オだ。もちろん壊れ方は千差万別で、代表的なものを言っているに過ぎな
いが、大切なことは炉心が溶融すると、いずれにしても最終的には、圧力
容器の破損、あるいは格納容器の破損まで行ってしまう。
格納容器はもともとも設計条件では、かなりの圧力と温度がかかってもそ
れに耐えて放射能を閉じ込めて事故が収束するはず。それが炉心溶融にな
ったとたんにかなりの確率で格納容器破損にいたる。これが過酷事故なの
だ。だから私は過酷事故対策なるものは、格納容器を確実に破損から防ぐ
のでなければ意味がないと思っている。
そういう意味で設計上、どうするかといえば、炉心が溶融していてコント
ロールしようというのはどだい無理な話で、そもそもが炉心溶融を止めな
いと原子力の事故は防げない。それ以降はもう負けてしまったけれども、
なんとか少しでも被害の拡大を緩和しようとするものにすぎない。
だから原子力プラントの設計は、炉心溶融を起さないようにされなければ
ならない。例えばベントにしても、そもそもベントしなければならない、
中の蒸気を出さなければならないという状況がもうダメなのだ。あくまで
も炉心溶融を起さないように手立てをしなければならないのだ。
今回、津波によって非常用のディーゼルが損傷して、炉心溶融を起してし
まったと説明されている。一つのモードとしてあるかもしれないが、それ
だけなのかというと非常に疑問が残る。他の要因が考えられる。格納容器
の破損が早期に起こったことは、津波の影響だと言うのは極めて疑わしい。
あるいは今回の事故に限らなくても、地震の影響は当然、考えなければな
らないところで、もし地震によって何らかの損傷を起した場合は、津波の
影響がなくても、炉心溶融から過酷事故のシナリオはいくらでもある。な
ので私は心配しているわけだ。
地震の問題はまた機会を改めて話をしたいが、ようは炉心溶融が起こった
後について、デブリの挙動の研究はいろいろされてきたけれども、所詮は
それを押し込めようとするのは無理がある。
ちなみにPCVシェルアタックについては、その前に堰をつけることも検
討されていた。しかしそれでシビアアクシデントを防ごうというのは無理
がある。やはり炉心溶融を起してしまっては無理がある。格納容器がベン
トしてしまってもおしまい。これらをすべて踏み込んだ格好の、安全設計
をするのが、今回の事故から学んだ教訓になる。これを本気でやらない限
り、原子力プラントが安心して運転するということにはならない。
今日は過酷事故にいたる炉心溶融の後の挙動、とくに炉心溶融してメルト
ダウンした後に溶融物が格納容器内に落ちて来る挙動について、マークⅠ
型とマークⅡ型の違いを主に説明した。マークⅠ型は冷却のために格納
容器内に後から水を注水する必要がある。マークⅡ型は、サブレッション
・プールに直接落ちて水蒸気爆発をする可能性が高い。
今日の話はここまでにしたい。