守田です。(20110716 18:30)
再び原子力政策の行き詰まりを論じます。
前回までで、原子力政策はプルトニウムの増殖を核心にしていながら、高速
増殖炉建設があまりに危険で、技術的完成の展望がないために大きな暗礁に
乗り上げ、原発先進国の撤退が始まっていることを述べました。今回は、引
き続き、高速増殖炉の構造的な危険性について、書いてみたいと思います。
毒性が高く、管理が困難なプルトニウム
核暴走の危険性、ナトリウムを使っていることの危険性に、さらに追加して
指摘しなければならない危険性は、燃料のプルトニウム自身が、非常に毒性
の強い物質であることです。プルトニウムはアルファー線という放射線を出
して崩壊していきます。
崩壊とは、不安定な状態にある原子核(放射性同位体)が、放射線を出しな
がら、違う物質に変化していくことで、壊変ともいわれます。単位あたりの
放射性原子の半分が放射線を出して崩壊するまでの時間を半減期と呼びます。
半減期に達しても、まだ放射能(放射線を出す能力)は半分あるわけです。
ちなみに放射線には、この他に、ベーター線、ガンマー線、X線、中性子など
がありますが、このアルファー線は、ヘリウム原子と同じ構造をもつ、大き
な粒子の放射線です。そのため薄い紙一枚でも防げるほどに浸透性が低く、
距離もあまり飛びません。粒子が大きいと、他の物質の原子とぶつかりやす
いからです。
そのかわり、エネルギー量が高く、他の物質に与える影響が大きい。そのた
め一度人体に入ると、付着した細胞組織周辺に甚大な破壊を及ぼし、たちま
ちのうちにガンを引き起こします。しかもプルトニウムは、さきほど述べた、
放射線を出す能力が、半分になるまでの期間=半減期が、2万4千年と長いの
です。私たちの生物的寿命を考えるとほとんど永遠といってもいい長さです。
また体内残留時間も長いため、一度吸引すると生涯にわたって被曝が続き、
しかもその被爆者の死後も、また大気中に戻り、次の人の体内に入る可能性
すらあります。それが2万4千年たって、やっと半分にしかならないのです。
万が一の原子炉の暴走による核爆発によっても、外側からのナトリウム火災
やそれに伴う水素爆発によっても、高速増殖炉は、その炉心にある大変な量
のプルトニウムを大気中にまき散らすことになります。もちろん、核分裂生
成物である死の灰(放射性物質)もそれと一緒にばらまかれます。そうなっ
た場合、人類がこれまで経験した、どのような災害をも大きく上回る悲劇が
生み出されることになります。
なお2009年6月26日に放映されたNHKニュースで、内部被曝したプルトニウ
ムが、今も細胞を傷つける放射線を出していることの撮影に、世界で初めて
成功したことが報じられました。以下の映像をご覧ください。4分42秒です。
http://www.youtube.com/watch?v=ACHWd1MD5EI
これは長崎大学の研究グループが行ったもので、細胞の中から黒い2本の線
(放射線)が出ていることが、はっきり捉えられています。被ばくから60年
以上たってから、骨や腎臓の中で、放射線が出ていることが確認されたので
す。プルトニウム被曝の恐ろしさを示す画像だと思います。
プルトニウムについては、そうした危険性ばかりでなく、原爆の格好の材料
であるという問題もつきまといます。そのため高速増殖炉が増えると、核兵
器拡散の可能性が高まるとともに、核物質の超管理社会が進み、警察国家化
が進むことにも直結します。アメリカが高速増殖炉計画から撤退した原因は、
技術的困難性に加えて、この側面からだともいわれています。超管理社会は、
民主主義をうたったアメリカ憲法の精神に反するというのです。
高速増殖炉はプルトニウムを増殖しない!
さて、これほどの危険性を犯してまで、ただひたすらプルトニウムを増殖さ
せようというのが高速増殖炉ですが、実は、高速増殖炉では非常にゆっくり
としたスピードでしかプルトニウムが増殖せず、それどころか再処理行程の
開発いかんによっては、全く増殖しない可能性もあることが分かっています。
というのは、高速増殖炉におけるプルトニウム増殖の仕組みは既にみてきた
とおりなのですが、実際に、プルトニウムを増殖して再利用するためには、
今度は高速増殖炉の使用済み燃料の再処理と、そこから取り出したプルトニ
ウムの燃料加工行程が必要になります。増殖という観点からは、そこでどれ
だけのプルトニウムが回収できするか、あるいは無駄を出すかも重大問題な
のですが、これまでの各国の経験からいえば、この行程において、結局増殖
を下回るロスをしてしまう公算が高いのです。
しかもロスするどころか、この高速増殖炉からの使用済み燃料の再処理技術
もまた、全く未確立です。いや、そもそも通常の原発の、使用済み燃料の再
処理とて、とても確立したとはいえず、これもまたそのあまりの危険性と、
コストの面から、世界の原発保有国が、一斉に撤退しているのが現状です。
高速増殖炉から使用済み燃料が発生すると、通常の使用済み燃料の、二倍の
熱と四倍の放射能を帯びるといわれており、ただでさえ非常に危険な、通常
原発の使用済み燃料の処理を大きく上回るリスクが生じます。
なおかつ、非常に甘い見積もりを立て続けてきた原発推進側の試算でも、こ
の新たな技術が確立したとしても、高速増殖炉から新たなプルトニウムを作
るには非常に時間がかかることが、明らかにされています。増殖にあたって
は、通常、もうひとつ同じ高速増殖炉を動かすに必要な燃料が出来るまでの
時間(倍増時間)を計算し、それを目安としますが、1993年にNHKで放映
された番組における電力会社サイドの見解では、実に90年という計算が出て
いるのです。増殖率が90年で2倍とは、銀行の複利計算と同様に考えると年
率0.0078です。ようするにこれほど危険を冒しても、ほとんど増殖しないに
等しいのです。
繰り返しのべてきたように、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどの
各国は、まさにそのために、魔法の竈の夢から覚め、高速増殖炉建設から撤
退を開始したのですが、それは核燃料サイクルからの撤退であり、従って原
子力エネルギーの夢からの覚醒であるといえます。
これらからいえることは、通常の原発以上に、高速増殖炉は危険であると同
時に、全くの無駄、何らの展望もない、無用の長物であるということです。
次世代に残されるのは、膨大な放射能や、それを管理するコスト、そして絶
望的な事故の危険性ばかりであり、だからそれは、未来世代への暴力であっ
て倫理的に言って、到底、許してはならないものです。
また高速増殖炉計画を断念すれば、すでに原子力政策が展望を失っているこ
とも明白になります。計画を断念すれば、原発の使用済み燃料から死の灰と
プルトニウムを分ける、危険な「再処理」の行程も不必要になり、乏しいウ
ラン鉱石に頼った原子力エネルギーは、早晩、終焉していきます。
もちろん、高速増殖炉に限らず、原発が稼動している限り、福島原発で現に
事故が起こり、未だ収束の道が見えないことからも明らかなように、いつな
んどきさらなる破局的な災害がおきるとも限りません。だからそれらもでる
だけ早く、ストップさせていくことが必要です。そのための一つの認識とし
て、核燃料サイクル=原子力政策が、完全に行き詰っていることを、広めて
いきたいものです。
続く
再び原子力政策の行き詰まりを論じます。
前回までで、原子力政策はプルトニウムの増殖を核心にしていながら、高速
増殖炉建設があまりに危険で、技術的完成の展望がないために大きな暗礁に
乗り上げ、原発先進国の撤退が始まっていることを述べました。今回は、引
き続き、高速増殖炉の構造的な危険性について、書いてみたいと思います。
毒性が高く、管理が困難なプルトニウム
核暴走の危険性、ナトリウムを使っていることの危険性に、さらに追加して
指摘しなければならない危険性は、燃料のプルトニウム自身が、非常に毒性
の強い物質であることです。プルトニウムはアルファー線という放射線を出
して崩壊していきます。
崩壊とは、不安定な状態にある原子核(放射性同位体)が、放射線を出しな
がら、違う物質に変化していくことで、壊変ともいわれます。単位あたりの
放射性原子の半分が放射線を出して崩壊するまでの時間を半減期と呼びます。
半減期に達しても、まだ放射能(放射線を出す能力)は半分あるわけです。
ちなみに放射線には、この他に、ベーター線、ガンマー線、X線、中性子など
がありますが、このアルファー線は、ヘリウム原子と同じ構造をもつ、大き
な粒子の放射線です。そのため薄い紙一枚でも防げるほどに浸透性が低く、
距離もあまり飛びません。粒子が大きいと、他の物質の原子とぶつかりやす
いからです。
そのかわり、エネルギー量が高く、他の物質に与える影響が大きい。そのた
め一度人体に入ると、付着した細胞組織周辺に甚大な破壊を及ぼし、たちま
ちのうちにガンを引き起こします。しかもプルトニウムは、さきほど述べた、
放射線を出す能力が、半分になるまでの期間=半減期が、2万4千年と長いの
です。私たちの生物的寿命を考えるとほとんど永遠といってもいい長さです。
また体内残留時間も長いため、一度吸引すると生涯にわたって被曝が続き、
しかもその被爆者の死後も、また大気中に戻り、次の人の体内に入る可能性
すらあります。それが2万4千年たって、やっと半分にしかならないのです。
万が一の原子炉の暴走による核爆発によっても、外側からのナトリウム火災
やそれに伴う水素爆発によっても、高速増殖炉は、その炉心にある大変な量
のプルトニウムを大気中にまき散らすことになります。もちろん、核分裂生
成物である死の灰(放射性物質)もそれと一緒にばらまかれます。そうなっ
た場合、人類がこれまで経験した、どのような災害をも大きく上回る悲劇が
生み出されることになります。
なお2009年6月26日に放映されたNHKニュースで、内部被曝したプルトニウ
ムが、今も細胞を傷つける放射線を出していることの撮影に、世界で初めて
成功したことが報じられました。以下の映像をご覧ください。4分42秒です。
http://www.youtube.com/watch?v=ACHWd1MD5EI
これは長崎大学の研究グループが行ったもので、細胞の中から黒い2本の線
(放射線)が出ていることが、はっきり捉えられています。被ばくから60年
以上たってから、骨や腎臓の中で、放射線が出ていることが確認されたので
す。プルトニウム被曝の恐ろしさを示す画像だと思います。
プルトニウムについては、そうした危険性ばかりでなく、原爆の格好の材料
であるという問題もつきまといます。そのため高速増殖炉が増えると、核兵
器拡散の可能性が高まるとともに、核物質の超管理社会が進み、警察国家化
が進むことにも直結します。アメリカが高速増殖炉計画から撤退した原因は、
技術的困難性に加えて、この側面からだともいわれています。超管理社会は、
民主主義をうたったアメリカ憲法の精神に反するというのです。
高速増殖炉はプルトニウムを増殖しない!
さて、これほどの危険性を犯してまで、ただひたすらプルトニウムを増殖さ
せようというのが高速増殖炉ですが、実は、高速増殖炉では非常にゆっくり
としたスピードでしかプルトニウムが増殖せず、それどころか再処理行程の
開発いかんによっては、全く増殖しない可能性もあることが分かっています。
というのは、高速増殖炉におけるプルトニウム増殖の仕組みは既にみてきた
とおりなのですが、実際に、プルトニウムを増殖して再利用するためには、
今度は高速増殖炉の使用済み燃料の再処理と、そこから取り出したプルトニ
ウムの燃料加工行程が必要になります。増殖という観点からは、そこでどれ
だけのプルトニウムが回収できするか、あるいは無駄を出すかも重大問題な
のですが、これまでの各国の経験からいえば、この行程において、結局増殖
を下回るロスをしてしまう公算が高いのです。
しかもロスするどころか、この高速増殖炉からの使用済み燃料の再処理技術
もまた、全く未確立です。いや、そもそも通常の原発の、使用済み燃料の再
処理とて、とても確立したとはいえず、これもまたそのあまりの危険性と、
コストの面から、世界の原発保有国が、一斉に撤退しているのが現状です。
高速増殖炉から使用済み燃料が発生すると、通常の使用済み燃料の、二倍の
熱と四倍の放射能を帯びるといわれており、ただでさえ非常に危険な、通常
原発の使用済み燃料の処理を大きく上回るリスクが生じます。
なおかつ、非常に甘い見積もりを立て続けてきた原発推進側の試算でも、こ
の新たな技術が確立したとしても、高速増殖炉から新たなプルトニウムを作
るには非常に時間がかかることが、明らかにされています。増殖にあたって
は、通常、もうひとつ同じ高速増殖炉を動かすに必要な燃料が出来るまでの
時間(倍増時間)を計算し、それを目安としますが、1993年にNHKで放映
された番組における電力会社サイドの見解では、実に90年という計算が出て
いるのです。増殖率が90年で2倍とは、銀行の複利計算と同様に考えると年
率0.0078です。ようするにこれほど危険を冒しても、ほとんど増殖しないに
等しいのです。
繰り返しのべてきたように、アメリカ、ドイツ、フランス、イギリスなどの
各国は、まさにそのために、魔法の竈の夢から覚め、高速増殖炉建設から撤
退を開始したのですが、それは核燃料サイクルからの撤退であり、従って原
子力エネルギーの夢からの覚醒であるといえます。
これらからいえることは、通常の原発以上に、高速増殖炉は危険であると同
時に、全くの無駄、何らの展望もない、無用の長物であるということです。
次世代に残されるのは、膨大な放射能や、それを管理するコスト、そして絶
望的な事故の危険性ばかりであり、だからそれは、未来世代への暴力であっ
て倫理的に言って、到底、許してはならないものです。
また高速増殖炉計画を断念すれば、すでに原子力政策が展望を失っているこ
とも明白になります。計画を断念すれば、原発の使用済み燃料から死の灰と
プルトニウムを分ける、危険な「再処理」の行程も不必要になり、乏しいウ
ラン鉱石に頼った原子力エネルギーは、早晩、終焉していきます。
もちろん、高速増殖炉に限らず、原発が稼動している限り、福島原発で現に
事故が起こり、未だ収束の道が見えないことからも明らかなように、いつな
んどきさらなる破局的な災害がおきるとも限りません。だからそれらもでる
だけ早く、ストップさせていくことが必要です。そのための一つの認識とし
て、核燃料サイクル=原子力政策が、完全に行き詰っていることを、広めて
いきたいものです。
続く