明日に向けて

福島原発事故・・・ゆっくりと、長く、大量に続く放射能漏れの中で、私たちはいかに生きればよいのか。共に考えましょう。

明日に向けて(861)県民をてひどく欺いてきた福島県・・・『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』を読む(下)

2014年05月31日 15時30分00秒 | 明日に向けて(801)~(900)

守田です。(20140531 15:30)

『美味しんぼ』応援記事第8弾です。

今回も岩波新書の一冊として昨年2013年9月に出版された『福島原発事故 県民健康管理調査の闇』を取り上げます。

前回の記事で明らかにしたように、日野記者が暴いた福島県による「県民健康管理調査の闇」の核心は、次の点にありました。
「検討委員会を経て決定された調査目的は、『原発事故に係る県民の不安の解消、長期にわたる県民の健康管理による安全・安心の確保』としており、『不安の解消』を真っ先に挙げている」(同書p18)

つまり福島県は、放射能による実害はないものと初めから断定した上で、「人々の不安を解消する」ことを目的に「県民健康管理調査」を行ってきているということです。
健康被害と思われるものには一切、触れないし、表に出さないという姿勢が初めから貫かれている。このことを秘密裡に打ち合わせするために設けられたのが、本会議の前の「秘密会」であったのです。
この秘密会の開催を、取材中に感づき、突き止め、福島県に証拠をもみ消される前に慎重に取材を進めた日野記者は、2012年10月3日に、毎日新聞紙上での暴露を行いました。
朝刊の一面と社会面に「福島健康調査で秘密会」「県、見解すり合わせ」「本会合シナリオ作る」という見出しが躍りました。日野記者は述べています。

「一面の記事では、検討委員会が発足以前から一年半にわたって秘密裡に『準備会』を開き、『見つかった甲状腺がん患者と被曝の因果関係はない」などの見解をすり合わせていたことや、県事務局が発覚を恐れて検討委員らに口止めしていたことなど報道した。
 そして『秘密会で何が話し合われたのか全てを明らかにすべきだ』との解説を付けた」(同書p64)

それまでの取材の成果を出し切った日野さんは、福島県に実際に「秘密会で話し合われた内容」の公開を求めていき、議事録の存在につきあたりましたが、さらに取材を深めていくと、その議事録までもが改ざんされているのではないかという疑惑が浮かび上がってきました。
しかしそれならば改ざんされ、削除された内容に福島県の本音が見えるはずだと考え、日野さんは追及を深めていきます。そしてついに内容を把握するにいたったのです。以下、福島県によって議事録から削除されていた内容に関する記述です。

「第1回の本会合の議事メモから削除されたのは、放医研が提案した外部被曝線量を推計するインターネット調査についてだ。
文科省の担当者の『ホームページでの線量評価のサイトも作った。県外の人々をいちいち探し出すのは難しいのでそういったものを活用すべきではないか』という発言が削除されている。県側の反対でインターネット調査は中止しており、活用を促す発言は不都合だったのだろう。
 またSPEEDIについて触れた部分も削除されている」(同書p108)

これは放医研が2011年5月に完成させたWeb上で福島県民が外部被曝線量を自ら把握することができる画期的なシステムを、福島県が「県民の不安をあおる」と圧力をかけて使用中止に追い込んだ件についてです。この詳細を県は秘密会の議事録から削除していたのです。
同じくSPEEDIについての議論も削除されたのですが、この点に関して日野記者は、別のところで次のように指摘しています。
「県は国から送られてきたSPEEDIのデータを削除したという失態が事故発生直後にあり、福島県は一貫してSPEEDIに関心が集まるのを嫌がっていた」(同書p73)

さらに日野さんは、福島県がもっとも避けようとしていたのが、低線量内部被曝の危険性に関する調査や議論であったことを指摘して次のように述べています。

「何を削除し、削除しないかをみていくと、WBCによる検査をできるだけ少なくしたいという意図が容易に汲み取れる。
 そして第二回の本会合で最も激しい議論となったのが、尿に含まれる放射性物質の量から内部被曝線量を調べる『尿検査』をめぐるやりとりだ。」(同書p110)
「内部被曝の危険性を指摘し続けてきた琉球大学の矢ヶ崎克馬名誉教授によると、子どもの場合、尿検査であれば約6ベクレル以上を検出できるが、一般的なWBCだと250~300ベクレル以上でなければ検出できないという。その差は実に約50倍にもなる。」
「この尿検査に関する発言が全て、非公開だった本会合の議事録から削除されたのである。」(同書p111)

非常に重要なポイントです。福島県は何よりも低線量内部被曝に関する秘密会議での論議を隠したかったのです。WBCを嫌がり、さらにそれよりもずっと精度の高い尿検査を嫌がり、排除していったことを隠したのです。
反対に言えば、それらの検査を徹底して行えば、被曝実態がより正確に把握され、県民の置かれている危険な状態が明らかになることを福島県は知っていたことになります。だからやらなかった。県民を「逃がさない」ためにです。これを「てひどい欺き」と言わずして何と言うのでしょうか。

ではこんなにひどい「調査」を担ってきた人々の行ってきた子どもたちの甲状腺がん調査は信用できるのでしょうか。もちろんできるはずがない。そこでも隠されているものがあるはずです。
この点で日野さんは、資料の分析から次のようなことをつかみとっています。

「開示された資料に、第二回の秘密会(2011年6月12日)に提出したとみられる「甲状腺調査に関して」と書かれた四ページの文書があった。手書きで『鈴木(真)』と書かれている。
 文書は小児甲状腺がんに関する一般的な説明から始まる。『全甲状腺がんにしめる割合は極めて少ない。年間発生率は人口10万人あたり約0.2名」と書かれている。」
「そして成人の患者と異なる点を説明している。『肺転移が多い。(甲状腺の)全摘、内照射も必要になることがある。しかし、成人に比べ再発は多いものの声明予後に関しては成人に比較して良好。
チェルノブイリでも5000人以上の小児甲状腺がんが手術された。死亡例は約30名(0.6%)と非常に少ない』としており、記載は明確だ。」(同書p127、128)
「『初年度検査の対象はどこまでにするか。スポットで行っても、通常は検査の必要がないことをコメントしないと、結局全県検査になりかねない。小児甲状腺がんの危険性が高いことが県内に知れ、不安を招くか』などの記載がある。」(同書p128)

ここで重要なのは、小児甲状腺がんが、「肺転移が多く、再発しやすいもの」として把握されているにもかかわらず、その発言が削除されていることです。肺転移が多い!実に危険なのです!
「小児甲状腺がんの危険性が高いことが県内に知れ、不安を招くか」などの文言も削除されていました。ここにも子どもたちの甲状腺の調査が、被曝実態の把握のためではなく、偽りの安全論のためにのみなされていることが如実に表れています。

本書はこの後、福島県弁護士会や国連人権理事会からの福島県への批判、一方での原子力規制委員会のあいまいな対応などにも言及したのち、山下俊一氏への直接インタビューをもって閉じられていくのですが、最後に日野さんは次のように自らの主張をまとめています。

「誤解を恐れずに言えば、広島・長崎の原爆、世界各国の核実験、旧ソ連のチェルノブイリ原発事故などにおける、放射線被曝(特に内部被曝)と健康被害の歴史は、国と一部の『専門家』による隠蔽と情報操作の繰り返しだった。
 常に『科学』の名を語り、『権威』を身にまとって、『因果関係はない』『これは精神的なものだ』と言い張り、病に苦しむ1人ひとりの姿を無視する人々がいた。
 そしてわずか二年間ではあるけれど、福島県が実施する県民健康管理調査がたどってきた経過を振り返って、どうだろうか。重なるものはないだろうか。」

その通り!福島県が行っていることは、これまで繰り返された被曝被害の現場で繰り返されてきた隠蔽工作とぴたりと重なるのです。被曝による被害を過小評価することがその狙いです。まさに県民だけでなく、私たちに対する「てひどい欺き」なのです。

日野さんの書は、このことを余すところなく曝露した素晴らしい書です。実は今回、『美味しんぼ』で非常に明確に福島の危険性を語った井戸川元双葉町長は、この書が出たときに感激し、自らたくさん購入して多くの方に配り歩いていたと聞いています。
これまで僕は繰り返しマスメディアの方々に批判的な言葉を送ってきましたが、このような綿密な調査報道は、まさに大新聞の力があってこそできること。日野さんと毎日新聞、そして書物化してくださった岩波書店に感謝するばかりです。
どうかみなさん。ポイント紹介で満足せず、直に本書を手にとり、読んでみて下さい。そうして日野さんの取材活動を追体験し、福島県にとどまらず、今、現にある危険性を「科学」の名のもとにないものと語る多くの人々の「詐欺性」と対決する一助にして欲しいと思います。
とくに一番ひどいのは今回の『美味しんぼ』バッシングに乗り出している政府です。福島県に対するこれだけの調査が明らかになっているのですから、本来、政府が福島県の健康調査の批判的検討を行うべきなのにそんなことはまったくすっとばしてしまっている。

もちろん、福島県を上回る大嘘つきの安倍首相をいただく政府に、そんなこと、まったく期待などできません。嘘に嘘を重ねて、目の前にある放射能や福島原発の危機を隠そうとし、一方でありもしない「危機」を言いたてて「集団的自衛権」だとかを振るおうとしているからです。
私たちの国はいつからこんなにひどい大嘘つきが大手をふるって歩く国になってしまったのでしょうか。・・・実はかなり前からだったのです。大きな違いはそれに気が付き、覚醒した人が今、急速に増えていることです。
その中で『美味しんぼ』の記述が飛び出した。嘘つきの福島県は、5月17日に、とうとう90人にもなってしまった福島の子どもたちの甲状腺がんの実態の発表をも控えていました。
しかも当初は鈴木氏までもが「10万人に0.2人」だと思っていたものが10万人に40人もの割合ででてきてしまった。だからこそ、福島県は「逆切れ」したのではないでしょうか?僕にはそう思えて仕方がありません。

事実としてあることは、福島県が明確に県民をてひどく欺いてきたことであり、なおかつ、それが満天下に知れ渡ってしまっていること、そのことを福島県もまた熟知しているという点です。政府もまったく同じです。
しかし福島県も、政府も、あまりに大きな嘘を系統的につきすぎてきてしまったのでもう戻れないのでしょう。とても一つや二つ、謝って修正できる問題ではない。
福島県であれば、初期にSPEEDIの情報を削除してしまったことだとか、十分な備蓄量のあった安定ヨウ素剤を配らなかったこととか、後から、県民に刑事告発されるべき事実もたくさんあります。おそらくまだまだ酷いことが隠れているでしょう。
だから曝露を恐れつつ居直っている。「逆切れ」を深めている。それが現在の姿なのではないでしょうか。

福島県のこうした姿こそ、福島県民の、いや、私たち全体の最大の脅威です。だから今、私たちは『美味しんぼ』を守るという受け身の姿勢に立っていることはできません。
もっと徹底して隠されたものを暴きたて、真の危機を明らかにし、対処を行う必要があります。そのことでこそ福島の人々、いやこの国のすべての人々、子どもたち、未来を守ることができるのです。
僕も日野さんの大活躍に学び、さらに一層、奮闘することをお誓いします!

*****

なお、鎌仲ひとみさんが次回作に向けて出しているカマレポをまとめた「カノンだよりvol.2」に、日野さんへのインタビューが収録されています。大変分かりやすいです。
僕はカマレポを購読し、メール配信していただいているのでそこで観ました。興味のある方は以下をご参考ください。他の号も素晴らしいです!

カマレポを収録したDVD
「カノンだよりvol.1」
http://shop.kamanaka.com/?pid=64990121
「カノンだよりvol.2」
http://shop.kamanaka.com/?pid=70606525
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カマレポ申し込み
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