関東地方は猛暑が続いています。神経を使うカメラの修理も堪えますね。最近、九州からのご依頼が続いていますが、福岡から初期型のPEN-S2.8と非常にきれいなPEN-F兄弟が来ています。まずはPEN-S 2.8 #1281XXから始めます。初期型ですから、ご覧のように、スプロケットはアルミアルマイト地、スプールはグレー。この頃の個体は決まって吊環が真鍮製のため磨耗しています。駒数ガラスがトップカバーより陥没しているとのご指摘あり。
ファインダーは素晴らしく曇っていますね。たぶん、一度も清掃をされていないと思います。シボ革は手垢ごってり。
全て分解して、洗浄してあります。それでは、トップカバーから始めます。吊環部にへこみがありましたので、平滑面に修正をしてあります。駒数ガラスは接着剤の脱落ですね。古い接着剤をすべて清掃をして、傷を研磨修正をした駒数ガラスを接着します。僅かにクラック筋が入りかけですが、今回は再使用とします。
シャッターは、未分解としたら良く動いている方ですが、意地悪なシャッターの切り方をすると・・・止まっちゃいましたね。コパルに頼んでやっと出来上がった#000シャッターの初期型。5枚羽根で贅沢な仕様ですが、ちょっとひ弱なところのあるシャッターです。初期は↓右はスリ割りビスで中期以降はネジロック塗布のナット留め。緩みが発生して設計変更をしたのでしょう。↓左のレリーズレバーも初期と中期以降は形状が異なります。巻き上げ完了時に「カチッ」と音がするでしょ。形状の違いによって、その音が異なるのを知っていますか?
すみません、ちょっと時間が空きましたね。通院していたもので・・で、PEN-Sは簡単にUPと思っていたのですが、次々に画像が・・スローガバナーは洗浄をしてありますが、調子がよろしくありませんね。アンクルとガンギの兼ね合いが良くありません。画像は、調整後。スムーズに復帰していますね。
初期型なので、スプールとスプール軸はスプール内径に拡張バネを仕込んだ設計のもので、三光PENなどと同じタイプです。そのうち、拡張バネの影響で、スプールにクラックが入ります。
シャッターユニットを組み込んであります。調子は良いユニットですよ。
シャッター羽根5枚のうち、1枚に傷がありますが、その他は良好です。この頃はターミナルとの接続は、直接半田付けです。以後は、接片によるネジ留め。
シャッターリングはこの頃としては表面の腐食は少ない方。内側に隠れる部分に腐食あり。すべて磨き上げてあります。彫刻文字は「COPAL」以後は「COPAL-X」となります。
トップカバーの内側。吊環の取り付け。駒数ガラスは、再接着をしてあります。ファインダーは、過去に一度も分解を受けていませんでした。劣化も少なくきれいですね。カバーを接着します。
ひぃ~、まだ終らないね。本体とトップカバー側が完成。レリーズボタンをセットしてドッキングしますが、レリーズボタンの復帰用スプリングの線径が細いのに注意。初期型はレリーズボタンがフェザータッチというぐらい軽くて、他の操作部分とのバランスが良くありません。米谷さんのご趣味なのでしょうか? 以後は、線径を太くして重くなっています。
清掃をしたレンズヘリコイド部。すでにピッチは変更されたタイプです。ヘリコイドグリスを塗布して組立てます。
完成した裏蓋をセットして、これで完成です。駒数カニ目ネジは、ご希望によって新品と交換して組んでありますが、この頃のカニ目ネジは孔が非貫通です。そのため、工場での組立時やSSでの分解時に工具の掛が浅いため、滑らせて傷にし易いので貫通に変更されたのではないかと考えます。その方が加工も楽だし。但し、孔が貫通すると、真鍮の軸が見えてしまうため、製品としての完成度は落ちるので、あえて非貫通としていたのではないかと想像します。いつものように知らないけど・・
PEN-Sが長引いたので、PEN-F #2816XXは手短にと思いますが、しかし、非常に状態の良いFですねぇ。Fの程度はピンからキリで、どうにもならない手遅れの個体もあるかと思うと、意外に、美品という個体も存在します。この個体は、殆ど使われなかったようです。Fの花文字が故意に色を抜かれているようです。
トップカバーを開けてみると・・過去に分解をされた形跡はないようです。
しかし、底カバーを開けてみると、三脚環が一度開けられているようです。
では、すべて分解をして行きます。巻上げレバーのクラッチはコイルスプリングで抑える変更後のタイプです。
ダイカスト本体のみに分解して洗浄してあります。フィルムレールを見ると、殆どフィルムを通した形跡はないように見えますね。しかし、スプロケット内径のクラッチ部はかなり磨耗が進んでいます。スリップの危険も考えられますが、今回は、症状が出ていないことから、再使用としておきます。
スプール軸の潤滑はカラカラの状態。しかし、ホコリの浸入もなく、非常にきれいな内部です。
ブレーキを点検します。←の範囲がブレーキの可動範囲ですが、ピンセットでブレーキリングを動かしてみると・・全く抵抗感はなく動いてしまいます。ブレーキは無いのと一緒です。
ブレーキを分解して見ます。ネオプレン製のOリングは完全に固着してブレーキダンパーとしての機能を果していません。分離が困難なほど柔軟性を失っていますので、ナイフでカットをして分離します。新しいOリングと交換することになります。こんなに状態の良い個体であっても、ゴム部品は全く機能を失ってブレーキの役目を果していません。
殆ど使用されていないと思われるシャッターは良好な状態です。洗浄注油をしておきます。
本体側と前板側が完成。PEN-Fはプリズムに黒点状の腐食が出るものが多いのですが、この頃のものは品質が改良されたようで、以後、PEN-FTまで腐食は殆どなくなっています。
メカは殆ど完成しました。交換したブレーキOリングと、再使用出来なくも無い全反射ミラーでしたが、これほどの個体ですから、完璧とするため新品と交換してあります。今日は疲れたので、完成は明日にします。
上下カバーを取り付けて完成です。Fの花文字とOLYMPUS-PENは色入れをやり直してあります。この個体の製造は1966年5月ですが、同年の10月にはPEN-FTが発売になっていますね。もちろん、発売後もPEN-Fは併売されますが。とにかく、素晴らしい状態を維持している貴重な個体です。PEN-S 2.8の発売は1960年6月で、この個体は1961年1月ですから、最初期ではなく、生産が軌道に乗った頃の個体でしょうか。しかし、半世紀前の製品としては良好な個体と思います。1966年の総合カタログの画像には、PEN-S2.8と3.5が同時に写っています。現在は、3.5の方が相場は高いですが、発売当時の価格は2.8=7.800円、3.5=6.700円となっています。PEN-FVの発売は翌年1967年2月ですから、1966年の総合カタログには掲載されていません。