いよいよ本当に押し詰まって来ましたね。大掃除や帰省で多忙の方も多いと思います。私も御用納めのつもりでしたが、ご常連さんからカメラと時計が来ていますので、時計の方を進めることにします。鉄道用の懐中時計が2つですが、まず、このクォーツ時計は、スイス連邦鉄道で使用されていると思われるモデルです。何故か、他の時計屋さんでは電池交換をしてもらえないのだそうです。最近、この文字盤のデザインは良く見ますね。単純なユニバーサルデザインとして秀逸だと思います。SBB CFF FFSとプリントされていますが、スイスの公用語(ドイツ語、フランス語、イタリア語)の頭文字らしいです。ケースにも少し腐食が始まっていますね。
意外に使用されているムーブメントはETA 450 101と0石の安価なものです。ETAといえば、スイスのスウォッチグループの工場が火災のニュースが入って来ましたね。ユニットの供給に影響が出るかもしれませんね。一度ユニットをケースから取り出して、ケースの清掃をしておきます。古い電池は395ですので、スイスで生産されて依頼、電池交換を受けていないのかもしれません。
サイズは、19セイコーより一回り小さいですね。裏蓋は圧入式ですが、締めようとして気が付きました。本体側とのクリアランスがきつくて、簡単に嵌ってくれません。しかも、腕時計のサイズよりは大きいため、圧入工具のコマに適合するサイズが無いのです。アダプターを介して何とか締めましたが、工具の用意が無いショップでは蓋を締めることが困難ですので、それが断られる理由だったりして・・
セイコーの鉄道時計19セイコーですが、以前に手前の個体を手掛けましたが、19セイコーは永く作られましたので、製造時期によって改良による部品の変更が多く、仮に適合しないテンプとアンクルを付けてあった個体です。オーナーさんが部品取り用のジャンクを調達されて戻って来たのでした。しかし、ちょっと古そうですよ。
残念ながら、テンプ周辺はすべて古い仕様の個体でした。折角調達して頂きましたが使用することが出来ません。となれば、3個のジャンクを集めて作動する個体を作るしか方法はないですね。しかし、どの個体もすでに分解を受けており、単体でO/Hをすれば作動するというものはありません。また、ここでも部品規格の違いで、必ずしも良いところを使うわけにも行かないという難しい選択です。地板としては古めなのですが、この個体を基本に作ることにします。この個体の4番車のホゾが曲がっています。この部分に小窓の秒針が付きますので、分解組立時に秒針を抜き挿しする時に曲げたのか、それとも不用意に置いて曲げてしまったのか? これでは動きませんので良品と交換します。
適合する部品を組み合わせて何とか組み上げました。テンプは使えるものはこの1個だけ。ガンギ車とアンクルは微妙に合いませんね。
文字盤側。左の個体の方が設計は新しいようですが、部品の関係で使えません。
歩度調整中。寄せ集め部品ですから調整は難しいところです。ゼンマイを巻上げると、リューズの回転に周期的な重さがあって、角穴車と丸穴車の磨耗ですので、別の個体から交換してあります。まぁ、なんとか使えるかなぁ・・・
機械をケースに収めて針を付けます。しかし、機械が変わったため針の取り付け穴が適合しません。特に長針は何度かポンス台で穴を小さくする修正を受けています。今回もポンス台で穴を小さくする修正をした後、ヤスリで微調整をしています。スモールセコンドの場合は、短針が秒針と接触をする可能性があるため、殆どの個体は針を大きく曲げて接触を回避させていますので、きれいな針は少ないです。
針同士が接触をしないことを確認して、文字盤の清掃後、風防を締めて完成です。この時計は、ご依頼者のお父様が国鉄時代にお使いになられていた時計とのことですが、裏蓋の昭28にしては中身の機械が新しい気がしますので、定期のメンテナンス時に、機械を交換されているものかも知れません。どちらにしても19セイコーは設計変更の他に個体差による部品精度の差が大きくて、熟知するのには奥が深いモデルだと思います。
今年も当ブログにお付き合いを頂きましてありがとうございました。皆様、良いお年をお迎えください。