謹賀新年 あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願いします。新年最初から悩ましい作業。PEN-S #1605XXのブラックですが、オーナーさんから「オリジナルですか?」との鑑定依頼がありましたよ。一般的にオリジナルの個体は塗装のコンディションがよろしくないのが普通ですが、あまり使用感のないきれいな状態ですのでリペイントだろうと思いましたが、では、私が塗った個体か? というと気になるところが多くあります。
まず、上下カバーの艶とダイカスト本体の艶に差がある。これはオリジナルでも塗装する材質の違いによって艶に差がありますが程度の問題です。また、彫刻文字の色入れが薄く頼りない。ひょっとしたら、上下カバーのみリペイントをしたものではないか?
左のPEN-Wは私がリペイントをした個体ですが、上下カバーと本体の艶の差は右のPEN-Sより少ないのが分かります。
塗膜にチリの混入がありますが、これは塗装前に塗料を濾していない可能性があります。メーカーの塗装工程では考えずらい・・
塗料のブツも多くあります。これは塗装のガンの調子(塗料の希釈)が適正ではないためです。私の塗装基準では塗り直しとなり世の中に出していません。
シンナーで拭いてみると・・自然乾燥塗料であれば塗料は溶け出しますが、そこまでではありません。焼付塗装であっても塗装直後であればこの程度の色落ちはしますが、塗膜が焼付塗装というよりもう少し塗膜が荒く仕上がるウレタン塗装であればこの程度の色落ちはして当然です。
トップカバーを外してみます。あれ? 困ったな。予想に反してファインダーなどに分解痕跡がないのです。う~む・・
はっきり分かるのが、駒数ガラスの接着です。エポキシ接着剤の黄ばみの具合から、接着されてからかなりの時間が経過しています。ここだけ見るとオリジナルかと思わされます。
じつは少し眠いです。深夜の3時に近くのマンションで火災がありまして、うちの前に消防車が多数止まりましたので寝られませんでした。恐らく紅白を見てタバコを吸いながら寝入って出火が3時前だったのでしょう。新年早々みなさんも火の始末にはご注意くださいね。で、巻き上げダイヤルの留めネジも緩められた形跡がありません。強く締めすぎてダイヤルにクラックが入っています。
スプール軸が固着気味で抜けて来ません。使用された個体であればガタが多く出ている部分ですので、恐らくこの個体はほとんど使用されていないのだと思われます。
シャッターは初期型の仕様ですが全く疲労がありません。使われていませんね。コパルでの生産初期の捺印は▢の中に西暦の下二桁と月が捺印されます。(中期以降は和暦)「1961年4月製」で、本体完成は1961年6月です。普通、シャッターの製造月と本体完成月は同じ月か翼月なので、生産に時間がかかっていたと思われます。それにしても、ちゃんと判読できるように捺印して欲しいものです。
組立はいつもと同じです。シャッターは初期型の仕様ですが摩耗はありません。本体に搭載してストロボテストをしてからシボ革を貼ります。
使用された個体のシャッターリングは手油や汗で腐食をしていますが、この個体は全く劣化がありません。
ファインダーは分解清掃を終えて組み込みました。リンクル塗装にハゲがない完璧な状態も使用されていなかった証拠。
駒数ガラスにはクラックがありますが、塗装がオリジナルと判断してそのままにしてあります。初期型ですので巻き戻し軸部は改良前の仕様です。
初期型のカニ目ネジはネジ孔が貫通していないのがオリジナルです。
トップカバー横のネジがメッキのままです。これは途中で交換されたものではなく、このような仕様を多く見ていますのでオリジナルでしょう。ブラックモデルを作るのに、上下カバーは外注で安く塗らせてネジの塗装を忘れていた、あるいはネジはメッキ仕様としていたのかな?
レンズは満点でしょう。忘れ去られて放置されていた個体にはどうしても思えません。
初期型ですからスプロケットはアルミアルマイト、スプールはグレーです。
なぜか初期の巻き戻しダイヤルとレバーの梨地の強さが違いますね。
いろいろ見てきましたが、どこを見ても再分解でリペイントをされたと確認できる部分がありませんでした。塗装の品質には疑問がありますが、これは正式な製品の品質管理を受けない試作的な製品と考え、オリジナルの個体と判断します。PEN-Sブラックは一般には市販されずに報道関係に配られたものと聞いていますので、手に入ったものの実際には使用することはなく仕舞い込まれていた個体ではないかと思います。本当はこの個体を使用して欲しくはありません。これだけ新品の状態を維持している個体は稀だからです。本来はオリンパスの瑞古洞に入っていても良い個体でしょう。
トミーのリペイント (tomys800.sakura.ne.jp)