昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

水たまりの中の青空 ~第二部~ (三百十七)

2023-02-07 08:00:30 | 物語り

 同性の目はきつい。すすけた娘が魔法にかかったように、輝くばかりの女性に変身したことに、激しい敵意をみせている。
自尊心の強い女たちの視線が、はげしく勝子に突き刺さっている。
「小夜子さん。痛いのよ、視線が。皆さんの視線が、あたしに『場違いだ!』って言ってるの」
「大丈夫、勝子さん。
殿方を見なさい。皆さんあなたに見とれてるわよ。
ほら、直視はしないけれども、チラリチラリと勝子さんを見ているじゃない。
女王様然としなさいって。ほかの女たちの嫉妬の視線なんか無視して、はねかえしなさい。
大丈夫、自信をもって」
 ついこの間の小夜子が、いまの勝子だった。
とつじょ現れた他所者に対し、排除のしせいをとる女性たち。
男たちが諸手をあげて歓迎の姿勢をみせると、それはなお激しくなった。
しかし女王さま然と振舞いつづけることで、しだいにその矛はおさめられた。

“女の価値はね、男にどれだけ貢がせられるかよ!”
 胸をはって店内をかっぽする小夜子を、まだ二十歳そこそこの小娘であるにもかかわらず、もうだれも鼻を鳴らす者はいない。
「でもあたしは……。小夜子さんは立派な奥さまだけど、あたしはやまい持ちの貧乏人だから……」
「なに言ってるの! 自分で自分をおとしめてどうするの。
もっと毅然とした態度をとって。男なんて、女が卑下した態度をとると、とたんに横着になるものよ。
毅然としていると、それなりの態度で接してくるものなの。
そりゃね、外見だけを立派にするだけじゃだめよ。自分というものを、しっかりと磨き上げることが大事なの。
勝子さん。しっかりと、自分を磨きあげるのよ」
「自分を磨きあげるって、何をすればいいの? どうするの?」

「そうね、それが難しいのよね。先生がたのお話を聞いても、明確に答えてくださることはないわね。
あたくしはね、まず、本を読んだわ。いろんな作家せんせいの小説やら詩を読んだわ。
それから、文化人といわれる人たちのお話を聞いたわね。
そうして、知識をどんどん吸収して。女のくせに生意気だ! って、嫌味をいわれたこともいっぱいあったけど。
そうして、アーシアに会ったのよ。彼女は、運命の人だったわ。
アーシアに会ったことで、あたしの人生が一変したもの。
アーシアのおかげで、自分というものにプライドを持てるようになったの。
勝子さんにとって、あたしがその運命の人になれたら嬉しいのだけれど」
「運命の人? そうよ、小夜子さんは大事な人だわ。
あたしの目を覚まさせてくれた、運命の人よ。でも、プライドって何?」



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