昭和の恋物語り

小説をメインに、時折よもやま話と旅行報告をしていきます。

[宮本武蔵異聞] 我が名は、ムサシなり!  (四十六)

2024-03-01 08:00:45 | 物語り

(闘い終えて 一)

 闘い終えて。
 佐々木小次郎との闘いにおいて勝利したムサシは、今度こその思いで小倉屋に戻った。
賞賛の声で迎えられるものと信じていたムサシに対し、主の出迎えはなかった。
表から入ろうとするムサシに対し、慌てて手代の一人が小声で「裏手にお回り下さい」と告げた。

 怪訝な面持ちのムサシを待っていたのは、あれこれと世話を焼いてくれた番頭だった。
破顔一笑で近寄るムサシに対し、
「ムサシさま。誠に残念ではございますが、御指南役のお話は流れてしまいました」
と、苦渋の表情を見せつつ告げた。

「話が違うではないか。佐々木小次郎を倒せば、今度こそ間違いなく剣術指南の道が…」
呻くようなムサシの声を、番頭が冷たくさえぎムサシである。
育ての親のごんた同様に、後ろで縛っているだけだった。
長く伸びた折には、小刀でもってざっくりと切り落とすだけだった。

 赤ら顔で太い眉に青い目、そして鷲鼻の先は酒焼けでもって赤くなっている。
どれを取っても番頭とは似つかわぬ顔立ちだ。
「しかし、だからといって…」

 



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