「なあに、あの言い草は。失礼な男ね」
「雨宿りなら、軒先と相場が決まってるでしょ」
「そうよ。なんで、店の中に入るの?」
「見てよ、ソファ。それに、床も。水浸しじゃない?」 . . . 本文を読む
女城主である小夜子を先頭に、キラキラ輝き始めた女侍たち。
「映画スターかと思えるほどの美人が居るって話だ」
とくすぶっていた噂が、ある事をきっかけに、一気に広まった。
どしゃ降りとなったある日の午後だ。 . . . 本文を読む
「百貨店に楯突いた男」として、富士商会の名と共に御手洗武蔵の名が全国に知れ渡った。
賞賛の声もありはしたが、売名行為と受け取られた面が多々あった。
出かけた先々でのコソコソ話が、武蔵の勘に触ることも多かった。 . . . 本文を読む
しかしながらこの計画も、結局は頓挫してしまった。
組合ができはしたものの、単なる親睦団体的存在にすり替わってしまった。
百貨店側とタッグを組んだ小売業者側の脅しに、簡単に腰砕けになってしまった。
交渉相手を武蔵とせずに山勘とした小売業者側の、作戦勝ちだった。
. . . 本文を読む
“自分が組合長?”
満更でもない山勘だが、傀儡にされるのでは? という危惧もある。
その反面、この若造を抑え付けられるという自負もある。
「そりゃねえ、あんたよりは年はくってるよ。
創業も、何てったって明治時代にまでさかのぼる。 . . . 本文を読む
(五)
百貨店に対抗する為の組合作りに奔走し始めた武蔵だったが、その反応は鈍いものだった。
「その趣旨や良し」
と賛同するのだが、設立の段になると二の足を踏み始めた。
富士商会の独壇場になるのではないか、との危惧が消え去らないでいた。
日の本商会との商い戦に勝利して以来、物言えぬ状態になってしまっていた。
「富士商会の奴、調子に乗りやがって」
「みんな、殿さまの家来になっちまったよ」
「 . . . 本文を読む
五平と竹田の二人は別室に入り、仕入先に対する値引き交渉の段取りに入った。血を流す覚悟をしたとはいえ、傷は小さいに越したことはない。即金支払いとの条件で、二ヶ月間のみの限定値引きを持ちかけることにした。 . . . 本文を読む
目をギラギラさせて、ひと言も漏らすまいと、皆が聞き込む。
気を抜けば、武蔵が圧倒されそうになる。
「これらの取引については、ニコニコ現金払いだ。
現金引換えだ。手形類は、一切認めない。 . . . 本文を読む
五平も初めの内こそ苦言を呈したが、武蔵の腹の内を聞かされてからは
「困ったもんです、道楽ですかねえ」と、受け流した。
“使い方が悪いのさ、餌が足りないんだよ”
“将来(さき)の楽しみを見せてやらないからさ”
“何より、適材適所ってやつだよ”
. . . 本文を読む