29日(金)。今日から3日連続コンサートなので、昨日は腰痛悪化を防ぐため家でベッドに寝転んで読書をして過ごしました
ということで、わが家に来てから今日で3363日目を迎え、小林製薬(大阪市)製の紅麹原料を含むサプリメントが原因とみられる健康被害が相次いでいる問題で、同社が本社を置く大阪市は27日、同社に対し、食品衛生法に基づいて紅麹成分を含む3製品の回収を命じたと発表した というニュースを見て感想を述べるモコタロです
不健康の袋小路に迷い込む前に 紅麹原料の健康食品を摂取するのをやめましょう
昨日、夕食に「サーロインステーキ」を焼きました あとは「舞茸の味噌汁」です(写ってませんが)。たまにはステーキもいいですね
小澤征爾・村上春樹 著「小澤征爾さんと、音楽について話をする」(新潮文庫)を読み終わりました 本書は平成23年(2011年)11月に新潮社より刊行され、平成26年7月に文庫化されるにあたり、新たに「厚木からの長い道のり」を加えたものです
本書は次のように構成されています
始めに ~ 小澤征爾さんと過ごした午後のひととき 村上春樹
第1回「ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番をめぐって」
第2回「カーネギーホールのブラームス」
第3回「1960年代に起こったこと」
第4回「グスタフ・マーラーの音楽をめぐって」
第5回「オペラは楽しい」
第6回「決まった教え方があるわけじゃありません。その場その場で考えながらやっているんです」
あとがきです 小澤征爾
厚木からの長い道のり~小澤征爾が大西順子と共演した「ラプソディ―・イン・ブルー」 村上春樹
なお、各回のインタビューの間には「インターリュード」という短文が挟まれています
第1回の後「レコード・マニアについて」
第2回の後「文章と音楽の関係」
第3回の後「ユージン・オーマンディのタクト」
第4回の後「シカゴ・ブルースから森進一まで」
第5回の後「スイスの小さな町で」
「始めに ~ 小澤征爾さんと過ごした午後のひととき」の中で村上氏が語っている通り、小澤氏は2009年12月に食道がんが発見され切除手術を行ったため、音楽活動が大幅に制限されました 本書に収録されているインタビューは、療養とリハビリテーションが生活の中心となっていた2010年11月から翌11年7月にかけて、東京、ホノルル、スイスなどで、機会を捉えて行われたものです
小澤氏の療養生活がなければ、超多忙な小澤氏のインタビューは実現しなかっただろうし、小澤氏が過去の出来事を詳細に思い出すこともなかっただろうと思われます
本書の内容についてご紹介したいことは山ほどありますが、いちいち紹介していたらキリがない(そんなに 暇ではない)ので、私が興味を引かれた点に絞ってご紹介することにします
第1回「ベートーヴェンのピアノ協奏曲第3番をめぐって」では、最初にブラームスの「ピアノ協奏曲第1番」の演奏の話が出てきます これは1962年4月6日に開かれたグレン・グールドとレナード・バーンスタイン指揮ニューヨーク・フィルの演奏会で、同曲を演奏する前にバーンスタインが聴衆の前に立って、「これは私が本来やりたいスタイルの演奏ではない
ミスター・グールドの意思でこうなった
」という弁明みたいなスピーチをしたという話です
この時、小澤氏はレニー(バーンスタイン)のアシスタント指揮者として、その場に居合わせたそうです
この時、彼は英語がよく聞き取れず、周囲の者に尋ねて大体のことが分かったとのことで、レニーのスピーチについて、小澤氏は「演奏の前にこんなことを言うのはあんまりよろしくないんじゃないかなと、その時僕は思いました。今もそう思っていますけど」と発言しています
この間、二人はそのライブレコードを聴きながら会話をしていますが、第1楽章のグールドの演奏を聴いて、小澤氏は「異様に遅いんだけど、グールドがこう弾いていると、納得性がありますよね。ぜんぜん悪い感じがしない
」と語っています
その時のスピーチと演奏はライブでCD化されています
また、カラヤンとバーンスタインのリハーサルのやり方の違いについて、小澤氏は興味深い発言をしています
「カラヤン先生は他人の言うことなんて聞きません もし自分が求めている音と、オーケストラの出す音とが違っていたら、何があろうとオーケストラの方が悪い。望む音が出てくるまで何度でもやらせる
レニーの場合はね、練習中にみんながおしゃべりをするんです
それは良くないなと僕はずっと思っていました
だからボストンでは、練習中に誰かがおしゃべりすると、すっとそちらを見ていました
すると私語は止みます
でもレニーはそれをしなかった
」
第4回「グスタフ・マーラーの音楽をめぐって」の中では、暗譜について小澤氏が次のように語っています
「(暗譜で指揮をすることは)大事なことじゃないです。暗譜するから偉いとか、暗譜しないから駄目だとか、そんなことはまったくない ただ暗譜してていいことは、演奏者とアイコンタクトがとれることですね。とくにオペラの場合なんか、歌手を見ながら指揮して、目と目で了解がとれる
」
早朝に起きて集中して楽譜を勉強し、それを頭に叩き込んで、本番では暗譜で指揮をするーというのが小澤流の指揮法だと思っていましたが、必ずしもそういうケースばかりではないようです しかし、実際に彼の演奏に接した経験から言うと、オペラを除き暗譜で指揮するケースが多かったと思います
このインタビューは村上氏が小澤氏に質問をする形で進みますが、時に村上氏が主役になることもあります 第2回の後の「インターリュード2 文章と音楽の関係」で、村上氏は次のように語っています
「僕は文章を書く方法というか、書き方みたいなのは誰にも教わらなかったし、とくに勉強もしていません で、何から書き方を学んだかというと、音楽から学んだんです
それで、いちばん何が大事かっていうと、リズムですよね
文章にリズムがないと、そんなもの誰も読まないんです。前に前にと読み手を送っていく内在的な律動感というか・・・。機械のマニュアルブックって、読むのがわりに苦痛ですよね。あれがリズムのない文章のひとつの典型です
リズムのない文章を書く人には、文章家としての資質はあまりないと思う
」
たぶん、これは小説だけに限らないんでしょうね ブログの文章も同じだと思います
「天下の小澤征爾も 若かりし頃はこんなことをしでかしたのか」と思わず笑ってしまったのは、第3回の後の「インターリュード3 ユージン・オーマンディのタクト」です
カラヤンやバーンスタインばかりでなく、フィラデルフィア管弦楽団の常任指揮者ユージン・オーマンディも小澤氏のことを気に入ってくれて、同オケの客演指揮者として何度も招聘してくれたそうです 当時小澤氏はトロント響のシェフをしていましたが、給料が安かったそうで、ギャラの高いフィラデルフィア管に呼ばれるのは有難かったといいます
小澤氏は概要次のように語っています
「オーマンディは親切で、オフィスを自由に使わせてくれた 愛用のタクトを1本譲ってくれたが、オーダーメイドで使いやすかった
当時僕はそんなにお金がないからタクトのオーダーメイドなんてできなかった
彼のオフィスの机の抽斗を開けてみたら、その同じタクトが中にずらっと並んで入っていた。それで、少しくらいなくなってもわからないだろうと思って、黙って3本持ってきちゃった
でもそれがバレちゃったんだよ(笑)。オーマンディの秘書をしている、すごい怖いおばちゃんみたいのがいて、数をかぞえていたのかな、『あんた、とったでしょう?』って後で僕を問いつめるから、『はい、すみません。もっていきました』と謝って(笑)」
これに対して、村上氏は次のように茶化しています
「オーマンディさんはあとでみんなに言い触らして、大笑いしていたんじゃないでしょうか オザワは昔、俺の机の抽斗からタクトを3本盗んだって(笑)」
私の想像では、ユージン・オーマンディは「小澤氏がタクトをくすねた日は月曜日だった」と考えたのではないかと思います
友人O(小澤)Monday・・・おあとがよろしいようで(よろしくない‼ )
誰にも受けないギャグが出たところで、この辺にしておきますが、本書を読むと、いかに小澤征爾という人がピュアな心の持ち主で、世界中の一流の音楽家から愛され、そのためにどれほど陰で努力をしていたか、そして如何に熱心に後進の指導に当たってきたかが分かります クラシック好きにとって、これほど面白い本はありません
強くお薦めします