11/15(日) 12:39配信
BUSINESS INSIDER JAPAN
2020年11月11日、性暴力の根絶を目指して花を手に集まるフラワーデモが、32都道府県、41都市で開催された。
【全画像をみる】杉田氏「女性は嘘をつく」発言で「中傷始まった」。抗議無視する自民党へフラワーデモ参加者の怒りと涙
約200人が集まった東京駅前では、自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が「女性はいくらでも嘘をつける」と発言した問題、その謝罪・撤回、及び杉田氏の議員辞職を求める署名を自民党が受け取り拒否していることへの怒りが口々に語られた。
過去のセカンドレイプを思い出して苦しむ性暴力被害者たち。子どもの性被害問題に取り組む女性は、杉田氏の発言以降、酷いバッシングを受けるようになったという。
司法は変わり始めた、一方政治は
11日に東京駅前で開催されたフラワーデモ。約200名が集まり、杉田氏の発言や自民党の対応について、憤りの声が噴出した。
「フラワーデモ」は2019年、性暴力事件に対し、立て続けに出た4件の無罪判決をきっかけに始まった。
11日、東京駅前で開催されたフラワーデモの冒頭では、愛知県で当時19歳だった実の娘への性的暴行で準強制性交等罪に問われていた男性(父親)の判決確定について、デモ呼びかけ人の松尾亜紀子さん(エトセトラブックス代表)が伝えた。フラワーデモのきっかけの1つとなった裁判だ。
この裁判では上告審で、最高裁が父親の上告を棄却。無罪とした1審・名古屋地裁岡崎支部判決を破棄し、求刑通り懲役10年を言い渡した名古屋高裁判決が確定したことを松尾さんが話すと、参加者からは拍手が起きた。
松尾さんは被害女性を労い、改めて連帯の気持ちを示すと共に、「フラワーデモが世論を少しでも動かせたのだとしたら嬉しい」と語った。
これ以外にも当日、参加者から最も多く語られたのは、自民党の杉田水脈(みお)衆院議員が性暴力被害者への支援をめぐり、「女性はいくらでも嘘をつける」とセカンドレイプ発言をした問題と、その謝罪・撤回、及び杉田氏の議員辞職を求めフラワーデモ主催者らが立ち上げた署名約13万6000筆(当時)を自民党が受け取り拒否(10月13日)。
この件の自民党側窓口である野田聖子幹事長代行に、フラワーデモに来て直接、被害者らの声を聞いてほしいという要望も拒否されたことへの怒りと失望だ。
被害者の声聞かない対策は「机上の空論」
杉田氏の発言を知り「強い憤りを感じ、いても立ってもいられず駆けつけた」と話すのは、6歳からこれまで10数件にのぼる性暴力被害を受けてきたという女性だ。
社会人になってから被害にあった後は仕事もできなくなり、経済的にも困窮。「この3年半だけで、もらえると想定していた給与や治療にかかった金額の合計は、すでに1000万円を超える」という。
これまでの被害が刑事事件として扱われたことは一度もなく、強制わいせつ被害を警察に届け出た際には、被害届を出させてもらえず帰らされたそうだ。女性は言う。
「これほどの被害を受け、生活も損なって、嘘をついて何になると言うのでしょうか。何のためにそんなことをする人がいると言うのでしょうか。自民党はなぜ署名を受け取らないのでしょうか。国民の声を聞かない政治家というのは一体何なんでしょうか。13万8300人(11日時点での署名賛同者数)、とても無視できる数ではないと思います。
野田聖子議員は性暴力被害対策に力を入れている議員だと聞いていますが、なぜこの場に来て声を聞いてくれないんでしょうか。被害者が勇気を出して声を上げているこの場で実態を聞くことが、政策を考える上で何よりの力になるのではないでしょうか。それを聞かずしてどんな対策をしようと、机上の空論で全く意味のないものだと思います」
性被害訴えるのは命がけ、軽く考えないで
性暴力被害が原因で自死した女性と自身の分、いつも2本の花を手にデモに参加しているというのは、三重県でフラワーデモを主催する女性だ。
幼少期に受けた性被害で、長い間トラウマに苦しんできたという。周囲にセカンドレイプ発言をされた際には、血圧が下がり、全身に蕁麻疹ができ、死を感じるような経験をしたこともあるそうだ。
フラワーデモの呼びかけ人で作家の北原みのりさんによると、自民党が署名の受け取りを拒否した後、フラワーデモメンバーと野田氏は面談する予定で日程を調整していた。
しかし、杉田氏の発言に強いダメージを受け、体調を崩している被害者は少なくない。
フラワーデモメンバーは、これ以上被害者に行動を促すのではなく、野田氏自らデモの現場に足を運んで被害者の声を聞くよう訴えたという。しかし、野田氏からはそれもできないと連絡があったそうだ。
フラワーデモ三重を主催する女性は言う。
「性被害もセカンドレイプも命に関わることですが、議員面談やロビイングなど、交渉に行くというのも簡単なことではありません。自分の性被害を訴えることは、命を削るような、まさに命がけの活動です。軽々しく考えて欲しくないと思います」
杉田氏の発言きっかけにバッシング始まった
2人でマイクの前に立ったのは、子どもに性加害した教員に対し、教員免許の再交付をやめるよう求める署名を集めた「全国学校ハラスメント被害者連絡会」のメンバーだ。
2019年、フラワーデモで出会ったことをきっかけに、共に活動を始めたという。2人とも性暴力の被害者で、子育てをする母親だ。9月には約5万4000人分の署名を文部科学省に提出し、記者会見を開いた。今回の杉田氏の発言は、思わぬ形で彼女たちに返ってきたという。
「杉田議員の『女性はいくらでも嘘をつける』という言葉が社会やネットに浸透して、私たちの活動へのバッシングとして向かってきました。『どうせフラワーデモで出会った人たちなんだから、嘘ばかり言ってるんじゃないか』『この人たち信用できない』。今、そんな酷い中傷を受けています。国会議員の発言にはものすごい力がある。一般の人たちの憎悪を煽ることができるんです。驚きました。本当に怖いと思いました。
署名を受け取ってすらもらえないことにも、非常に怒っています。杉田議員の発言への人々の怒りを自民党が拒否したのを子どもたちが知り、がっかりしています。大人として、子どもに正しい行動を見せてほしいです」
嘘なんてついてない……問題は「声を聞かない社会」
杉田氏の発言は、これまでも度々問題視されてきた。詳しくは「なぜ杉田水脈議員は過激発言を繰り返し“出世”したのか──女性が女性を叩く構図は誰が作ったか」を参照してほしい。
中でも「LGBTのカップルのために税金を使うことに賛同が得られるものでしょうか。彼ら彼女らは子供を作らない、つまり『生産性』がないのです」という差別発言は記憶に新しい。
「私は性的マイノリティと呼ばれる存在です。過去、ある人物に『生産性がない』と蔑視された私は、今回また同じ人物に蔑視されました」
そう語り始めたのは、新潟県のフラワーデモ主催者だ。
小学生の頃、親戚から性的嫌がらせを繰り返し受け、自身の親を含めた大人たちに助けを求めたが、「仲良くしたいだけ」「好きな子にはいじわるしちゃうんだよ」など、誰も真剣に向き合ってくれなかったという。
それどころか「そんなことで騒ぐんじゃない」「あなたが大人になりなさい」と注意されたそうだ。SOSを否定されたことで、無力で非力な自分が悪いと自身を責め続けてきたと振り返る。
「でも、もう黙りません。私は嘘をついていません。語れなかったのでもありません。受け止めるどころか口を塞ごうとする大人たちに、社会に、この声を聞く力がなかったんです。そして今、私だけでなく多くの人の声を受け止めることを拒否している存在がいます。沈黙が、拒否が、誰かの命を奪っているのだと気づいていないのでしょうか。これはデモの主催者としての意思表明です。私はあなたの声を聞きます。あなたを信じます。全ての性の性暴力被害者を一人にしません」
他にも多くの性暴力被害者がマイクを握り、過去の性被害でPTSDや鬱に苦しみ、自殺未遂をしたこと。今も被害を思い出し、泣いて吐いて、リストカットしてしまうこともあるなど、性暴力が与える影響の深刻さを打ち明け、「この苦しみの嘘をつける人はいない」「どうか性被害を打ち明けられたら、受け止めてあげてほしい。あなたは悪くないと伝えてあげてほしい」などと訴えた。
「女性だから」「感情的になっている」は本当か?
自民党の野田聖子幹事長代行はフラワーデモの2日前、11月9日に評論家の荻上チキさんがパーソナリティを務めるラジオ番組「荻上チキ・ Session」に出演。署名を受け取らなかった理由について、その要望内容に「議員辞職」が含まれているからだと述べている。
「議員という資格はとても重い。党としてできることは除名までです。できないことを受け取るのは、かえって失礼だと。(杉田議員は)下村博文政調会長から厳しく叱責を受けて謝罪をし、ブログでケリもつけた。私はそれで終わったと思ってるんです」(野田氏)
杉田氏の再教育を望むとも言った上で、杉田氏が「女性であること」が抗議の理由の1つになっていないか、感情的になっているのではないかと、フラワーデモメンバーや署名賛同者をたしなめるように語った。
「気持ちは分かりますけれども、感情的なことでやってはいけないと思います。『やっぱり女性だから』ということではなく。これまでもさまざまな加害者になった男性議員がいたけれども、同じようなムーブメントがあったかと言うと、私自身が調べる限りはないんですね。そこのフェアネスを非常に懸念しています。
署名も受け取ってないしデモにも行かないけれど、現実的な法改正(性犯罪をめぐる刑法の見直し)ができるように取り組んでいる。表向きに批判されることがあっても、国会議員としてきちっとやっているという自負はあります」(野田氏)
菅首相は「フェミニスト」
しかし、前出の北原さんは野田氏の発言を受け、「男性議員に対しては抗議行動や辞職を求める運動はなかった、と言い切ってしまっている。それなのに女性議員を叩くのはフェアじゃないと。しかし、これまでの性差別加害者に対する怒りのムーヴメントはむしろ、男性議員に対してしっかり行われてきています」と自身のブログで指摘している。
北原さんが例にあげたのは、2003年の自民党・太田誠一氏行政改革推進本部長(当時)の「集団レイプする人は、まだ元気があるからいい」、そして2007年の自民党・柳澤伯夫厚生労働大臣(当時)の「女性は産む機械」発言だ。
前者は女性団体が太田議員の辞職を求める抗議声明を出し、後者も女性団体から抗議の声や辞任を求める声が上がっているという。
番組中、菅義偉首相を「フェミニスト」とも評した野田氏。
そうであるならなおさら、政府は、自民党は、凍えるような夜、冷たい風に吹かれながら語られた性被害者らの声を受け止めてほしいと切に願う。
政治家の発言が市民の憎悪を焚き付けている現状、そして性被害の実態が埋もれてきたのは、被害者の「感情」を軽視してきたからこそだ。
この事実に向き合わずして、どうして現実に即した法改正が出来るだろうか。
(文・写真、竹下郁子)