「あなたは、不思議な人ね。なぜ、こんなことまで話してしまうのかしら・・・」
神野 彩音(あやね)は、島田 昭(あきら)の瞳を覗きみるような視線を向けたので、昭は気持ちが引けた。
実はその日は、昭にとっては、女性との初めてのデートであったのだ。
2人の出会いは2日前であった。
街の銭湯の出口で、女が雨宿りをしていた。
突然の雷雨で、稲光と続く落雷の耳をつんざくような響きに女が悲鳴を上げる。
「怖い!雷は大嫌い」女が思わず昭の腕にすがりつく。
沈黙したままの昭は傘越しに、女の様子を探るように見た。
「ごめんなさい」女はすがりついた腕を引きながら苦笑した。
昭は、水玉模様のミニスカートの女の白い足に視線を落とした。
彩音は、男の露わな視線に警戒心を覚えた。
だが、相手の男は元彼の清水健介を思い出させたのだ。
「私の未練なのね」彩音は心の底では、自分を裏切った健介を許したいと思っていた。
でも、健介は新しい女と新しい生活を送っていて日々、遠ざかるばかりだった。
「あなたに、明日も会えるかしら?」彩音は初対面の男に誘いをかける。
昭は我が耳を疑う思いがした。
女からの生まれて初めの誘いであったのだ。
「いいですよ」昭は言葉が上ずる思いがする。
25歳の昭に春が訪れたのである。
出会ったのは、東京・御徒町の銭湯の軒下であり、初めてのテートは上野駅に近い音楽喫茶であった。
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