佐野昭は35 歳になっていた。
息子の誕生を期待していたのに、結果として3女の父親となる。
妻は4人姉妹の末娘であり、女系の血筋であったのだ。
佐野家も途絶えるかと思うのだが、残したいほどの血筋でもない。
昭が勤務する出版社の社長小倉隆治は52歳の若さで心筋梗塞で亡くなる。
酒を飲まないし、タバコの煙を忌み嫌う人であった。
健康に気をつかい、スイミングクラブにも定期的に行っていたのだが、皮肉な結果となる。
葬儀は家族葬で執り行われ、「偲ぶ会」が昭が勤務する出版社の近くの銀座のホテルで開かれた。
昭は自ら挨拶をして回り、多くの人と名刺交換をする。
その流儀が、言わば彼の習性でもあった。
つまり、人脈を増やして、情報源を広げる意図なのだ。
その中に、亡き小倉社長の読売新聞時代の同僚であった峯田直人が居た。
競馬談議となる。
「小倉君には、競馬情報で儲けさせてもらったけど、損もさせられた」と日本酒を飲む峯田は高笑いをする。
「私も同じです」昭も笑い日本酒をあおる。
明日は競馬の春の天皇賞であった。
峯田は京都淀の京都競馬まで行くと言う。
昭は小倉社長と何度か行っていた。
1回目は「社員旅行」の名目だったのだ。
当然、競馬とは無縁の女性社員も旅行に同行する。
京都競馬場は京阪電鉄淀駅下車徒歩2分と近い。
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