キカクブ日誌

熊本県八代市坂本町にある JR肥薩線「さかもと駅」2015年5月の写真です。

「デス・ゾーン 栗城史多のエベレスト劇場」 河野啓著

2020年11月30日 | ☆読書
「デスゾーン」


 2018年にエベレストで滑落死したひとりの登山家の軌跡を追ったノンフィクション。友人の書評と言うか読後感想をネットで読んで興味を惹かれ、その場で Amazon の Kindle(電子書籍)で購入した。今年の10月に出版された本で、開高健ノンフィクション賞を受賞したらしい。
 栗城史多というこの登山家のことは私は全く知らなかったのだが、滑落死のニュースが飛び込んできた2018年の5月、ネット上でかなり話題が出ていたので色々記事を読んだ記憶がある。かなり毀誉褒貶の激しい人だった。
 エベレストに8回挑戦しており、いずれもスポンサー企業あるいはクラウドファンディングで費用を集めての登山だ。そしてヒマラヤ登頂をネットで生中継(自撮りだったり)するといういわゆる「劇場型」登山が話題をよんだ。しかしその一方で、エベレストにチャレンジするほどの実力はないのではないか、彼の言っている「無酸素」あるいは「単独登頂」ということは嘘なんじゃないかなどという批判も早くから出ていたたようだ。自己啓発系のヒーローとしてもてはやされる一方で、ネット上などでは批判が繰り広げられ「炎上」も度々起こっていたらしい。私はその一連のことを彼が亡くなった時点からさかのぼって知っていくのだけれど、結局本人が亡くなってしまえば全ては闇の中となり明確な答えも得られずそれ切り忘れていた。

 この本の作者は栗城さんがまだ無名の頃、北海道のローカル番組で2年間密着取材していたTVディレクターで、10年以上前に取材は終わり彼とも関係が切れていたが、彼の死によりまた1から取材を始め、関係者一人ひとりに話を聞きこの本を書いたらしい。

 一気に読んだ。
 登山も、この登山家のこともよく知らないがとても引き込まれた。生前の彼をメディアで見たことがなかったので顔も知らないし、まるで小説を読んでいるような感覚があった。

 丹念に取材がなされているとは言っても、「半分だけ」の印象もある。親しい人ほど取材にはこたえていないからだ。作者の想像の部分も多い。さすがテレビ番組を作っていた人だとも感じた。小説のようだと感じたのもそのあたりのことが関係してるだろうと思う。半分の材料(それでも相当な仕事量だと思う)でこれだけのものをかいてしまうのだから。

 彼に関わった人たちはいろいろな「なぜ?」を抱えていたと想像する。直接知らなくても、講演会やメディアを通して彼を応援していた人、批判していた人も多いだろうし。この本でその人たちの「なぜ」が少し溶けるだろうなと思った。


2 コメント

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Unknown (兵藤恵昭)
2020-12-03 10:28:04
「半分だけ」が印象的です。ノンフィクションの難しさは見えない部分をどう見るか?ですね。その意味でフィクションに近い。
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兵藤恵昭さま (YOKO)
2020-12-03 12:59:54
コメントありがとうございます。
お読みになったのですね。
ほんとうに「半分だけ」で書かれた内容でも説得力があり、さらにドラマチックで小説のようでした。作者の文章力(構成力)でしょうね。その意味で非常に面白い作品でした。
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