雨曇子日記

エイティライフの数々です

まみ(たぬき)

2012-05-28 14:32:52 | エッセー














 江戸東京たてもの園の農家の囲炉裏端を見学して、ふと、父の話を思い出した。


 冬の夜は長い。囲炉裏端の話もとぎれがち。
 その時、土間の方でゴトゴト音がした。みんなが、聞き耳をたてていると、なにか、がさがさ引っ掻くような音もする。
 「ねずみかな?」
 「ねずみより大きいよ。いたちかも知れん。」
 「いや、いたちは、こんなところへこやへん。」
 「それじゃあ、まみ かも知れん。このごろ、ほうぼうへよう出るちゅうで。」
 そんな話をかわしていると、こんどは、メカメカと何か舐めるような音がする。
 それっとみんな、それぞれ得物を持って物音の方へかけつけた。鎌、箒、薪ありのいでたちだ。

 音は、俵や箕、むしろなどいろいろ置いてある一角の、桶の中から聞こえるようだ。

 だれかが、桶をつつくと、パッと飛び出たものがある。
 あっちこっち逃げ回る。
 やはり、まみ だ。桶の中のこぬかを食べていたのだ。

 二つ三つ手ごたえがあったようだが、まみ は、入ってきた縁の下から逃げていってしまった。

 みんな、わっは は は は と大笑いした。

(タヌキは、家の周りをうろうろすることがあるが、めったに家には入らない。キツネは家にあまり近寄らない。夜中など遠いところで、ケンケン、コンコン、キャッ、キャッ、などと鳴いて通ることがある。)


 父は、都会に出てきていたので、私にはこのような暮らしの経験はない。