江戸東京たてもの園の農家の囲炉裏端を見学して、ふと、父の話を思い出した。
冬の夜は長い。囲炉裏端の話もとぎれがち。
その時、土間の方でゴトゴト音がした。みんなが、聞き耳をたてていると、なにか、がさがさ引っ掻くような音もする。
「ねずみかな?」
「ねずみより大きいよ。いたちかも知れん。」
「いや、いたちは、こんなところへこやへん。」
「それじゃあ、まみ かも知れん。このごろ、ほうぼうへよう出るちゅうで。」
そんな話をかわしていると、こんどは、メカメカと何か舐めるような音がする。
それっとみんな、それぞれ得物を持って物音の方へかけつけた。鎌、箒、薪ありのいでたちだ。
音は、俵や箕、むしろなどいろいろ置いてある一角の、桶の中から聞こえるようだ。
だれかが、桶をつつくと、パッと飛び出たものがある。
あっちこっち逃げ回る。
やはり、まみ だ。桶の中のこぬかを食べていたのだ。
二つ三つ手ごたえがあったようだが、まみ は、入ってきた縁の下から逃げていってしまった。
みんな、わっは は は は と大笑いした。
(タヌキは、家の周りをうろうろすることがあるが、めったに家には入らない。キツネは家にあまり近寄らない。夜中など遠いところで、ケンケン、コンコン、キャッ、キャッ、などと鳴いて通ることがある。)
父は、都会に出てきていたので、私にはこのような暮らしの経験はない。